銀河英雄伝説の戦闘 | |
---|---|
帝国領侵攻作戦 | |
基本情報 | |
時期 : 宇宙暦796年/帝国暦487年 8月22日~10月中旬 | |
地点 : 銀河帝国・イゼルローン回廊付近の辺境部 | |
結果 : 銀河帝国軍の勝利 | |
詳細情報 | |
交戦勢力 | |
ゴールデンバウム朝銀河帝国軍 | 自由惑星同盟軍 |
総指揮官 | |
宇宙艦隊副司令長官 ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥 |
遠征軍総司令官 宇宙艦隊司令長官 ラザール・ロボス元帥 |
動員兵力 | |
ローエングラム直属艦隊 キルヒアイス艦隊 ロイエンタール艦隊 ミッターマイヤー艦隊 ケンプ艦隊 メックリンガー艦隊 黒色槍騎兵艦隊 ルッツ艦隊 ワーレン艦隊 艦艇総数10万隻以上 |
艦隊戦力 第3艦隊(ルフェーブル中将) 第5艦隊(ビュコック中将) 第7艦隊(ホーウッド中将) 第8艦隊(アップルトン中将) 第9艦隊(アル・サレム中将) 第10艦隊(ウランフ中将) 第12艦隊(ボロディン中将) 第13艦隊(ヤン中将) 陸戦部隊 装甲機動歩兵 大気圏内空中戦隊 水陸両用戦隊 水上部隊 レインジャー部隊 その他各種独立部隊 国内治安部隊重武装要員 他、非戦闘要員・補給部隊等 総艦艇数20万隻以上 兵員3022万7400名 |
損害 | |
黒色槍騎兵艦隊のほとんど その他僅少 |
第5、第13艦隊の損害甚大 その他艦隊の壊滅的損害 兵員2000万以上 |
帝国領侵攻作戦 | |
---|---|
同盟軍補給部隊の壊滅 - アムリッツァ前哨戦 (第3艦隊 - 第5艦隊 - 第7艦隊 - 第8艦隊 - 第9艦隊 - 第10艦隊 - 第12艦隊 - 第13艦隊) - アムリッツァ会戦 |
前の戦闘 | 次の戦闘 |
---|---|
第七次イゼルローン要塞攻防戦 | リップシュタット戦役 救国軍事会議のクーデター |
概要
宇宙暦796年/帝国暦487年、自由惑星同盟軍が「帝国辺境人民の『解放』」を目的に行ったゴールデンバウム朝銀河帝国本土への全面侵攻。自由惑星同盟による最初で最後の帝国本土への侵入であった。
この空前絶後の大規模作戦はけっきょく自由惑星同盟の完敗に終わった。自由惑星同盟軍は機動戦力の8割近くと全兵員の4割を失って弱体化し、のちの同盟滅亡の原因の一つとなった。
経緯
宇宙暦796年/帝国暦487年5月、第七次イゼルローン要塞攻防戦において、ヤン・ウェンリー少将率いる自由惑星同盟軍第13艦隊は味方の損害なしに難攻不落のイゼルローン要塞を奪取し、同盟軍をして帝国領に侵入せしめるを可能とした。
これを受け、同盟軍アンドリュー・フォーク准将は帝国本土への「大攻勢」を発案、時の最高評議会議長ロイヤル・サンフォードに直接持ち込んだ。社会システムの停滞や汚職の発覚により支持率を大きく下げていたサンフォード内閣は、統一選挙が近いこともあって、ヨブ・トリューニヒト国防委員長、ジョアン・レベロ財務委員長、ホワン・ルイ人的資源委員長の反対を押し切り提案を可決。国防委員会ならびに統合作戦本部に対し、帝国本土への侵攻と「解放」の実行を命じる。
本部長や諸提督は作戦に消極的だったものの、統合作戦本部は政府の指示に従い計画を進めた。その規模は正規艦隊8個艦隊、総兵力20万隻3000万人。必要経費は2000億ディナールにのぼり、国家予算の5.4%、軍事予算の1割を越える空前のものとなる。遠征総司令官には宇宙艦隊司令長官ラザール・ロボス元帥が任じられ、総司令部はイゼルローン要塞に置かれた。
フェザーン自治領を経由して同盟軍出兵の情報を得た銀河帝国軍は、宇宙艦隊副司令長官ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥を迎撃の総司令官に任命。来るべき同盟軍の大艦隊への備えを進めることになる。
自由惑星同盟軍の作戦
作戦目的は「大軍をもって帝国領土の奥深く進攻」し、「帝国人どもの心胆を寒からしめる」こと、作戦内容は「高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する」というのが立案者フォーク准将によって説明されたこの作戦の要諦である。
曰く、「戦いには機というものがあり」、いまこそ帝国に対し「大攻勢」にでる機会である。イゼルローン要塞を失って「狼狽してなすところを知らない」帝国軍に向けて「同盟軍の空前の大艦隊が長蛇の列をなし、自由と正義の旗をかかげてすす」めば、「勝利以外のなにもの」も存在し得ないという。具体的には、先鋒に第10艦隊、第二陣に第13艦隊といった序列が決定された。
この作戦案に対し、第13艦隊司令官ヤン・ウェンリー中将は陣列の長大化による側面攻撃と分断の危険性を論じたが、その場合「敵は、前後から挟撃され、惨敗することうたがい」ない、というのがフォーク准将の返答であった。
なお、この項目の鍵括弧付斜線部分はフォーク准将自身による説明から引用している。
自由惑星同盟軍遠征司令部の編成
同盟軍の投入戦力
作戦経過
作戦前半
宇宙暦796年8月22日、イゼルローン要塞に遠征総司令部が設置され、8個艦隊の遠征部隊が順次帝国領へと侵入する。これに先立ってローエングラム元帥率いる帝国軍はイゼルローン回廊周辺の辺境星域から大々的な物資・兵備の引き上げを行っており、総督や辺境伯といった統治者も逃亡していたため、同盟軍の進攻はなんらの障害も受けぬままに進んだ。
はじめの一ヶ月の間で同盟軍は500光年を進み、約30の有人恒星系を含む200の恒星系と5000万の民間人を「解放」した。しかし帝国軍の物資引き上げにより帝国辺境の民間人は困窮しており、「解放軍」である同盟軍はその生活を保証するために3000万の兵員向けとは別に無数の物資を提供せざるを得なかった。また、迎撃側の帝国軍は無傷のまままったく姿を見せず、同盟軍兵士の興奮は不安に取って代わられつつあった。
これらの帝国軍の戦略、すなわち総力を上げた焦土作戦の結果、同盟軍前線から総司令部への補給線には極めて過大な負担が生じた。宣撫班の要求の合計は5000万人の180日分の食料と200種の食用植物種子、40の人造蛋白製造プラント、60の水耕プラントにも達し、同盟軍の輸送能力を圧迫するどころか要求を満たすだけの物資自体がイゼルローン要塞には無かった。不足分は当然新たに同盟領内から調達する必要があり、更に国家財政を圧迫することになるため、同盟内部では撤兵論が飛躍的に勢力を増した。しかし結局、帝国軍に一撃どころか一戦すら交えていないという現状が最高評議会主戦派に撤退をためらわせることになる。
アムリッツァ会戦の開始
もともとの兵員に5000万の飢えた民間人が追加されたことで、各艦隊の食糧供給は完全に破綻した。遠征総司令部は補給までの「現地調達」すら命じ、食糧供給の停止から第7艦隊の占領地では民間人の暴動が発生。もはや同盟軍各提督は限界を感じつつあり、第13艦隊司令官ヤン・ウェンリー中将や第10艦隊司令官ウランフ中将、第5艦隊司令官ビュコック中将といった面々は互いに連絡を取り合い撤退の準備を開始した。
そんな中、帝国軍は10万トン級輸送艦100隻と26隻の護衛艦でイゼルローン要塞を進発した同盟軍の輸送部隊を全滅させ、一挙に反撃に転じる。10月10日16時7分、リューゲンに駐留する同盟軍先鋒第10艦隊をビッテンフェルト中将の黒色槍騎兵艦隊が襲撃。つづいて第二陣第13艦隊がケンプ中将指揮下の帝国艦隊と戦闘を開始。「アムリッツァ会戦」と総称される帝国軍総反攻が開始された。
同盟軍の各艦隊はほぼ同時に帝国軍の襲撃を受け、同盟軍第3艦隊とワーレン艦隊、第5艦隊とロイエンタール艦隊、第7艦隊とキルヒアイス艦隊、第8艦隊とメックリンガー艦隊、第9艦隊とミッターマイヤー艦隊、第12艦隊とルッツ艦隊が交戦する。この結果、同盟軍第9艦隊は司令官重傷、第10艦隊は戦力の7割を失いウランフ中将も戦死。第12艦隊は抵抗の末に司令官ボロディン中将の自殺によって降伏するなど、全方面で敗走するに至った。ヤン中将の第13艦隊のみがケンプ艦隊を相手に優勢を維持しつつ後退に成功したが、撤退中に第7艦隊を敗走させたキルヒアイス艦隊に捕捉される。
こうした状況下で、イゼルローン要塞の遠征総司令部は10月14日を期してアムリッツァ恒星系に集結するよう全軍に命令を下す。
アムリッツァ恒星系での戦闘
第5艦隊、第8艦隊、第13艦隊を中核としてアムリッツァ恒星系に集結した同盟軍主力は、迎撃総司令官ローエングラム元帥の下に全戦力の七割を集結させた帝国軍と決戦に突入する。もはや帝国軍に数で劣る同盟軍は後背に4000万個の核融合機雷を敷設して後顧の憂いを絶ち、勝勢に乗る帝国軍を迎撃する準備を整えていた。
総司令部が遠く統一指揮がとりえない状況下にもかかわらず同盟軍は善戦し、苦心して戦線を維持する。しかし、黒色槍騎兵艦隊の突進によって第8艦隊が壊滅。第13艦隊が絶妙なタイミングで反撃の砲火を浴びせて黒色槍騎兵艦隊を撃破したことで全軍の崩壊こそ免れたが、キルヒアイス中将の指揮で後背に回りこんでいた残りの帝国軍艦隊が同盟軍の想定にない新兵器「指向性ゼッフル粒子」によって機雷原を突破するともはや抵抗しえず、同盟軍全軍は雪崩をうって潰走を始めた。
10万隻にのぼる帝国軍艦隊は同盟軍を追撃、殲滅した。帝国軍は窮鼠と化して抵抗する一部同盟軍部隊に煩わされつつ第13艦隊を殆ど包囲下に置いたが、大幅に戦力を低下させた黒色槍騎兵艦隊という間隙を同盟軍のヤン中将は見逃さず、そこを衝いて一挙に突破、撤退に成功する。第13艦隊以下の同盟軍残存戦力はそのままイゼルローン回廊へと後退し、これをもって帝国領侵攻作戦は自由惑星同盟の大敗によって幕を閉じた。
結果
銀河帝国
この勝利とその直後の第38代皇帝フリードリヒ4世の崩御、第39代エルウィン・ヨーゼフ2世の即位により、銀河帝国軍のみならず政治的にも大きな動揺と変化が生じることになった。
政治面では、国務尚書・首席閣僚として宰相を代行していたリヒテンラーデ侯爵クラウスが公爵位に進み、正式に宰相に任じられる。軍事面では、宇宙艦隊司令長官グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー元帥が勇退。副司令長官伯爵ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥が侯爵に進んで宇宙艦隊司令長官の席を占めることとなり、副司令長官にはジークフリード・キルヒアイス上級大将(中将から特進)、総参謀長にパウル・フォン・オーベルシュタイン中将が充てられた。
この変化に対し、それぞれフリードリヒ4世の血を引く自らの子を帝位継承候補に立てていた公爵オットー・フォン・ブラウンシュヴァイク、侯爵ウィルヘルム・フォン・リッテンハイム3世の両者と多くの貴族は反発。帝室の藩屏たる門閥貴族として一挙団結してリヒテンラーデ=ローエングラム枢軸に対抗する動きを見せるようになり、リップシュタット戦役が勃発することになる。
自由惑星同盟
これらの大敗北の結果、自由惑星同盟軍は動員8個艦隊のうち6個艦隊を司令部ごと失い、残る2個艦隊も壊滅的な打撃を受けた。その損害兵員は2000万人以上、自由惑星同盟軍の全兵員の4割、全市民の0.16%に及ぶものであり、すでに危機に瀕していた同盟の公共システムは完全に破綻をきたすことになった。
政治面では、サンフォード内閣が倒壊し、サンフォード議長をはじめとする最高評議会の閣僚は総辞職。出兵に反対したトリューニヒト国防委員長が暫定的に最高評議会議長を代行することとなった。また、破滅的とさえいえる大損害を受けた艦隊の再建と2000万の戦死者への各種補償にかかる費用は膨大な金額にのぼり、同盟の財政を致命的に悪化させた。
軍事面では、遠征総司令官ロボス元帥が統合作戦本部長シトレ元帥もろとも辞任・退役。総参謀長グリーンヒル大将は国防委員会査閲部長に左遷。その他、後方主任参謀キャゼルヌ少将が第14補給基地司令に左遷、作戦参謀フォーク准将はアムリッツァ前哨戦直前に起こしたヒステリーの発作により療養・予備役編入と、同盟軍の高級幹部はその大部分を欠く状態となった。その補充として、統合作戦本部長には第1艦隊司令官クブルスリー中将、宇宙艦隊司令長官には第5艦隊司令官ビュコック中将がそれぞれ大将に昇進して任じられた。同盟軍はすでに戦闘でウランフ中将やボロディン中将(ともに戦死後元帥特進)など艦隊司令官6名を失っており、新進気鋭の少壮軍人を取り揃えた帝国軍に対する優秀な指揮官の不足は後々まで響くことになった。
残り少なくなった機動戦力も改編され、対帝国の要となるイゼルローン要塞には第13艦隊に第10艦隊などの残存部隊を編入した要塞駐留艦隊(公称ヤン艦隊)を設置。司令官ヤン・ウェンリー大将(中将から昇進)は要塞司令官を兼任することとなる。また、第5、第9艦隊などの生き残りのうちヤン艦隊入りしなかった艦艇は地域的な警備と治安のため再編され独立部隊を編成したものと思われる。いっぽうで司令官職が空いた第1艦隊にはアスターテ会戦まで第2艦隊司令官だったパエッタ中将が転任。これにより、正規艦隊は第1艦隊とルグランジュ中将の第11艦隊のみとなり、イゼルローン要塞駐留艦隊(ヤン艦隊)と併せた3個艦隊のみが戦略的な機動戦力となる。この数はアスターテ会戦以前のわずか4分の1に過ぎず、財政難の同盟は2年後の帝国軍の全面侵攻に至るまでついに往時の勢力を取り戻すことがかなわなかったのだった。
石黒監督版OVAでの追加設定
石黒監督版OVAでは作戦全体にわたって幾らかの設定が詳細化され、アムリッツァ会戦における同盟軍各艦隊の動向を中心に、第7艦隊占領地域での暴動の詳細描写などが加えられた。
この他、OVA映像内では描写されていないものとして、第1、第2、第4、第7、第8辺境星域分艦隊から旗艦が各艦隊(それぞれ第10、第3、第7、第12、第8艦隊)に増派されたという設定がある。この中で生還したのは第1辺境星域分艦隊旗艦<メムノーン>ただ一隻。
関連動画
関連商品
関連項目
- 9
- 0pt