俺たちのフェラーリとは、F1世界選手権の参戦チームであるスクーデリア・フェラーリ(以下、フェラーリ)が、何か失敗をするたびにそれを揶揄して言われるフレーズである。
特に2人のドライバーをきちんと管理できていない、レース戦略の失敗で不必要にポジションを落とすことが多いなど、場当たり的な失敗に対して使われることが多い。
概要
1950年に始まったF1の歴史の中で、初年度から途切れることなく全シーズンに参戦しているチームはフェラーリただ一つである。市販車部門はF1の参戦資金を調達するために発足したものであり、フェラーリとF1の歴史は表裏一体と言っても過言ではない。
それゆえ、熱狂的なファンを指す「ティフォシ」を筆頭に全世界に多くのファンが居り、日本でもかつてホンダエンジンを搭載しF1を席巻したマクラーレン、ウィリアムズと並んで最もファンの多いチームのひとつである。
そんな日本のフェラーリファンの、愛するチームの失態を嘆いた愛憎入り混じる複雑な感情を表す言葉が「俺たちのフェラーリ」である。
80年代後半〜90年代前半の暗黒時代
1987年に日本でもF1世界選手権のテレビ中継が始まると、自然と最古参のチームであり競合チームでもあるフェラーリも人気チームのひとつとなった。当時のフェラーリはセミオートマチックギアや、F92A(1992年)のダブルフロアデッキに代表される、革新的かつ独創的なマシン設計が特徴だった。一方、速さはあるものの信頼性に難があり、チャンピオン獲得にまでは至らないシーズンを送っていた。
エンツォ・フェラーリの死後にはお家騒動が勃発し、91年にはマシン開発の失敗から舌禍を繰り返したアラン・プロストが、シーズン終了を待たずに解雇されるなど、チームの運営面での混乱も目立ち低迷期に入ってしまう。かつての常勝チームながら勝利から遠ざかり、時折光る速さや「フェラーリ・マジック」と呼ばれた素早いピット作業で名門の片鱗は見せるものの、マシントラブルや不運に見舞われ、1995年まではシーズン1勝がやっとという暗黒時代が続いた。
ミハエル・シューマッハを擁した黄金時代
フェラーリもただ手をこまねいてこの状況を見過ごしていたわけではなく、新たに親会社となったフィアット出身のルカ・ディ・モンテゼモロがチームの改革に着手した。それまでのフェラーリはイタリア人中心の組閣を続けていたが、93年には他カテゴリーで実績を残したプジョーのジャン・トッドをマネージャーに招聘。さらに96年には、同年にベネトンから移籍したミハエル・シューマッハと共に、エンジニアのロス・ブラウン、デザイナーのロリー・バーンを獲得。シューマッハを中心とした強固な体制を築き上げた。
ここからチームは上昇気流に乗りはじめ、シューマッハ体制2年目の97年からは実に8年連続で5勝以上を挙げるなど、常勝軍団へと返り咲きを果たした。特に20世紀末~21世紀初頭のフェラーリは絶対王者として君臨し、シューマッハのミスのない圧倒的な速さとロス・ブラウンのレース戦略能力により、たとえコース上で先行を許してもピットアウトするとライバルの鼻先を押さえる光景がしばしば見られた。特にフェラーリ贔屓ではないF1ファンからは憎たらしいとまで思われる圧倒的な強さを誇っていた。1999年にはコンストラクターズチャンピオンを獲得、さらに2000年から2004年まで同タイトルに加えて5年連続でシューマッハがドライバーズチャンピオンに輝き、暗黒時代はすっかり過去のものになった。
2005年はタイヤ交換の禁止、フロントウィングの高さを規制する新レギュレーションに対応できず、ミシュラン勢が棄権したアメリカGPの1勝のみと失敗したが、06年〜08年には再びタイトル争いに加わり、2007年はキミ・ライコネンがドライバーズチャンピオンに輝いている。
2010年代以降の「俺たち」
2006年のシューマッハ引退(1度目)に合わせてブラウンが離脱し、翌年末にはチーム代表がトッドからステファノ・ドメニカリに交代。再びイタリア人を中心とするチーム体制へとシフトしていった。それでも往年の勢いのまま常勝チームであったフェラーリだが、2009年にはエネルギー回生システムの「KERS」をいち早く導入するも、機構を搭載したF60が非常に扱いづらいマシンとなり、大きく戦闘力を落としてしまう。以降はレッドブルの躍進や、パワーユニットの時代になってからはメルセデスの後塵を拝し続けており、2022年シーズン終了時点で実に15年もの間タイトルから遠ざかっている。
上に挙げた戦闘力に加え、2010年代後半からはピット作業でのロスなど作戦面での失敗が響き、ドライバーがポジションを落とす場面が目立つように。さらには無線を通じてレースエンジニアがドライバーに対し作戦の変更を丸投げする、ドライバーから作戦の提案があったにもかかわらず聞き落とすといった、黄金期のフェラーリを知る者からは信じられないような失態がしばしば国際映像に捉えられた。このほか、2人のドライバーを無駄に争わせないようにコントロールできないが故の失点も多く、特に2019年ブラジルGP、2020年シュタイアーマルクGPではセバスチャン・ベッテルとシャルル・ルクレールの同士討ちによって共にノーポイントでレースを終えている。
こうした醜態に対し、いつしか日本のモータースポーツファンは、チーム力の低下に起因して勝利から遠ざかった(暗黒時代へ返り咲いた)フェラーリを嘆いて「俺たちのフェラーリ」とつぶやくようになったのである。
語源
正確にどの時点が発祥かは不明だが、2000年代後半のシューマッハ離脱以降にモータースポーツ板で「俺たちのフェラーリが帰ってきた!」と度々言われ始めたのが起源とされる。同じく2ちゃんねる用語で、度々炎上を繰り返していた埼玉西武ライオンズの投手陣を揶揄した「俺達」との類似性も指摘されているが、大きく関係はない。
アペニンおろし
なんでも実況Jでの実況スレで生まれた、阪神タイガースの球団歌「阪神タイガースの歌(六甲おろし)」をベースにした替え歌。どちらもネタに事欠かないチームである共通点から誕生したものと思われる。ちなみに「アペニン」とは、イタリアを縦断するアペニン山脈のこと。
アペニン颪に 颯爽と
マラネッロ[1]駆ける 日輪の
ティフォシの罵倒 麗しく[2]
輝く我が名ぞ スクーデリア・フェラーリ
ボックス[3] ボックス ボックス ボックス
スクーデリア・フェラーリ
ファック[4] ファック ファック ファック
PU[5]溌剌 起つや今
出力既に 敵を衝く
ビノット[6]の意気 高らかに
無敵の我等ぞ スクーデリア・フェラーリ
ボックス ボックス ボックス ボックス
スクーデリア・フェラーリ
ファック ファック ファック ファック
マシン開発 幾千度び
鍛えてこゝに フィオラノ
モンツァ[7]に燃ゆる 栄冠は
輝く我等ぞ スクーデリア・フェラーリ
ボックス ボックス ボックス ボックス
ステイ ステイ ステイアウト[8]
ファック ファック ファック ファック
関連動画
関連項目
脚注
- *フェラーリが本社を置くイタリア・エミリア=ロマーニャ州の地名。
- *各スポーツ界で比較した中でも、なかなか厄介なファンが多いことで知られる。
- *レース中の無線指示における用語で、「ピットイン」のことを指す。いわゆる「俺たち」はピット関連でのやらかしも非常に多い。
- *当然のことながら罵倒を表すワード(Fワード)。実際のF1でもドライバーが無線上で発していることが多いが、もちろん放送が出来ないため、ある程度のディレイを持たせてピー音で処理したものが流されている。
- *2014年からF1に導入された「パワーユニット」の略。ターボエンジン・MGU-H(熱エネルギー回生ユニット)・MGU-E(運動エネルギー回生ユニット)の3つで構成される。
- *フェラーリでテクニカルディレクター(技術部門の最高責任者)やチーム代表を歴任した、マッティア・ビノットのこと。技術者としては有能ながら、頼りなさそうな風貌と微妙な戦略で無能扱いされることが多い。成績不振の責任を取り、2022年シーズン限りで辞任した。
- *イタリアにあるモンツァ・サーキットのこと。ここで開催されるイタリアグランプリがフェラーリのホームレースとなる。
- *「ピットインせずにコース上へ留まる」ことを指示する無線用語。2022年のモナコGPでは、ルクレールに”BOX”指示からの”ステイアウト”指示(その間にピットレーンへ侵入)が出て、直後ルクレールが怒りからFワードを発するという歌詞さながらの展開が発生した。
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