MVS(Multi Video System)とは、SNKが発売したアーケードゲーム基板である。
家庭用ゲーム機と互換性を持つプラットフォームNEOGEO(ネオジオ)を有し、家庭用と区別してアーケード用NEOGEOと呼ばれることもある。
概要
SNK(エス・エヌ・ケイ/旧SNK)とアルファ電子工業(ADK)が開発し、SNKにより1990年に販売開始。
ソフトの供給が終了する2004年までの実に14年間、『THE KING OF FIGHTERS』などSNK作品や他社作品のゲーム基板として最前線で活躍した。
マザーボードであるMVSにカセットタイプのROMを差し込むことによって起動する、所謂マルチプラットフォームであることが最大の特徴である。カセット方式のアーケード基板自体はデータイーストの「デコカセットシステム(1980年)」で既に確立されているが、本機は大容量かつ、マザーの機種によってはカセットを最大6つまで同時に搭載することが可能である。デモ画面時にスタートボタンを押すことでゲームを切り替えることができ、一つの筐体で複数のゲームが遊べるという従来のアーケードゲームには無い斬新なスタイルをとった。
また同時期に内蔵基板がほぼ同等である家庭用ゲーム機「NEOGEO」を販売した。業務用のMVSに対して家庭用にはAES(Advanced Entertainment System)という名称もあるが、専ら単にNEOGEOと呼ばれている。同機種はMVSとの完全移植を実現、固定ユーザーの獲得に成功した。
家庭用と連動する専用筐体(後述)も用意された。この筐体はAESのメモリーカードを挿入してスコアを反映させることができたり、AESのコントローラーを挿せる端子があったりと、その後さまざまなメーカーが試みた業務用と家庭用の連動システムの先駆けだった。初期タイプは非常にサイズが小さく場所を選ばない上に、MVSさえあればROMが安価であったため新作の導入も容易であった。加えて初期には販売ではなくレンタルを行うなどのSNKの販売戦略が功を奏し爆発的に普及した結果、ゲームセンターだけでなくレンタルビデオ店や大型量販店のゲームコーナー、駄菓子屋などの小型店舗にも設置された。
海外でもその取り回しのきき易さから普及率が非常に高く、ユーロ圏や南米、中国、その他途上国などに広くファン層を開拓し、国内以上に現役で稼働している店舗が多い。
長期間にわたって採用され続けた傑作基板であるが、晩年は回路が解析しつくされコピーROMの出回りにより販売形態が崩壊。旧SNK倒産後、後継会社のSNKプレイモア(現:SNK)が販売を手掛けた頃は、前述の通り、後期型機種のマザーや最新ROMには互換性を限定させるなどの措置を取ったり、一部の国内向け作品は一枚基板MV-0として販売するなどコピー対策を行っていた時期もあった。しかしそれもさしたる効果はなく僅かな期間で、最終作「サムライスピリッツ零SPECIAL」のROMに至っては諦めたのかこれまで同様ROMカセット方式となっている。
生産終了後も海外では無許可のオリジナルROM、コピーROMが販売されている。また、「レイジ・オブ・ザ・ドラゴンズ」を発売したエヴォガ・エンターテイメントが、MVSのROMと互換性を持つ次世代機「クリスタルシステム」の構想とそのサンプルをHPに掲載していた事もあったが、同社が2004年に倒産したためお蔵入りとなっている。
残念ながら、現在ではMVS基板が稼働している筐体もほぼSEGAのアストロシティやバーサスシティなどになっており、MVSを本来の筐体で見る事は少ない。とはいえ、MVSそのものはレトロゲームに強いゲームセンターで現役稼動している店舗もまだまだあり、発売から長い年月たった今でもゲーマーから愛され続ける基板となっている。
機種
- 初期型「MV-1」「MV-2」「MV-4」「MV-6」
- 販売当初より存在したタイプで、1~6の数は、ROMを挿せる数を指している。
カセットの挿入方法は1のみ横挿しで、他3機種はファミコンのような縦挿しタイプ。
所謂複数のソフトを同時に遊べるタイプはこの初期型であり、後期型は全て1本挿しタイプである。
この初期型は、後述のSNK製の専用筐体での使用を前提としている基板であるため、大きさにはそれぞれ極端に差がある。複数挿しができるというメリットゆえに、30年近く経った現在でも一部のゲームセンターでは「MV-4」の稼働率が高いことでも知られるが、それはSEGA製など他社の筐体内部に入るサイズの限界が「MV-4」であるためで、反対に「MV-6」などは旧SNKの倒産やネオジオランドの閉鎖に伴って、早々と姿を消しているのが現状である。
後の機種ではオミットされた機能も存在する。またSNKプレイモア製のROMの一部が起動できない。 - 中期型「MV-1F」「MV-1FZ」
- 「MV-1」を小型化したもの。「MV-1FZ」ではかなり縮小され、表面の露出した基板部分がほぼなくなっている。このモデル以降は、他社の筐体でも利用できるよう1本挿しのみが発売されている。
いずれも横挿し。 - 後期型「MV-1A」「MV-1B」「MV-1C」
- いずれも1本挿しタイプで、SNKプレイモアが販売したコピーガード搭載のROMを含め、すべてのソフトで遊ぶことができる。各種の特徴はAが横挿し、Bがその小型版、Cが縦挿しであること。
- 末期基板「MV-0」
- 後期型同様にコピーガードROMの一環としてSNKプレイモアが販売した、マザーとROMを一体化したシンプルな一枚基板。専用のセキュリティチップが搭載されている。「SNK VS. CAPCOM SVC CHAOS」「メタルスラッグ5」「THE KING OF FIGHTERS 2003」の3作品は、この基板によってリリースされている(但し海外でのみ後期出荷分が従来のROMカセットとして発売された)。
- 後継機「ハイパーネオジオ64」
- 3D作品をリリースする為に急遽開発されたMVSの後継機だが、本来は3Dゲーム専用基板ではなく2Dゲームをより高品質に表現する為に開発されたMVSの正統進化と呼べる基板になる筈だったとされる。本基板がMVSほど普及せずヒット作にも恵まれなかったことから、MVSより先に販売を終了している。当初は座席セット等の高価な専用筐体とセットで発売され、基板には前期型と後期型が存在するが、前期型はこの専用筐体以外では音源が未対応であった。MVS同様ROMカセット方式である。
専用筐体
上記のMVS基板の内蔵を前提として、旧SNKが販売していたアーケード筐体を以下に記す。
MVS基板の接続規格は、一般的なJAMMA規格とは厳密には異なるMVS独自の規格のコネクタを介して接続されている。この為他社の基板を起動すると対応しない物もあるなど互換性に難がある為、MVSとは対照的にマニアックなゲームセンターであってもほとんど稼働していない。また生産・サポートもMVSより先に終了している。
※ちなみに、これらの筐体以前にもSNKは「CANDY」というアーケード筐体を数機種販売しており、MVS筐体販売以降も後継機「Neo CANDY」を販売していた。
- 「MV19SC」「MV25TA」「MV25UP」
- 1990年発売。MVSの登場初期から存在するモデル。初のSNK製MVS専用アーケード筐体である。
真っ白で角ばった形状のシンプルなデザインが特徴。19/25という数字は、モニタのサイズを表している。「MV19SC」「MV25UP」がインチアップライト型で、「MV25TA」はテーブル型筐体であった。
また「MV19SC」は「MV-4」を搭載し、「MV25UP/TA」は「MV-6」を搭載していた。対戦台の概念が浸透していない頃の為、いずれも二人用のコンパネが用意されている。
その他筐体画面の上部には、搭載しているROMカートリッジに対応したインストカードを設置する電飾スペースが存在した。
国外では「MV19SC」を大型化し「MV-6」を搭載した、アメリカ仕様なる物も販売された。
MVS登場初期の『超ド級ゲームネオ・ジオ』というキャッチコピーを忠実に表した筐体であり、4本、6本と搭載できるROMの数も多いのが特徴だが、大型ゆえ後述の小型筐体と比べると普及率は低かった。
ヘッドホンジャックや、ネオジオ用メモリーカードの差込口など、後の筐体にオミットされた機能がある。 - 「SCB-U4」「SC14-2」「SC19-4」「SC25-4」
- 爆発的に普及した小型筐体の前期型モデル。所謂駄菓子屋とか子供向けゲームコーナーにあったやつがコレである。
立ってプレイするタイプの筐体なのが共通の特徴。数字はモニタサイズと搭載基板を指す。
「SC14/19/25」は、両側にドでかいNEOGEOのロゴがついた青いフードの中に、インストカード電飾とモニタとスピーカーがあり、トリコロールカラーのボタンが並んだコンパネを持つ。ネオジオミニの元となった筐体がこのモデルである。
「SCB-U4」は「SC14」よりも初期のモデルで、フードはなく初期型「MV19」を立ち筐体にしたような外観だが、あまり普及しなかったようで1種類しかない。コンパネの高さの評判がよくなかったとする話もある。モニタサイズは19インチだった。 - 「MVS-U1/U2/U4」
- MV-19等の初期型よりもダウンサイズを図りつつ、モニタのサイズを拡大した、標準的なアップライト筐体。
数字は「MV-1」「MV-2」「MV-4」など各搭載機種を表している。モニタサイズは全機共通の33インチだが、「U2」「U4」のみ更にダウンサイズし29インチを搭載した物が存在する。
真っ白な筐体にブルーのラインが入ったボディ、そしてトリコロールカラーのボタンが並んだ鮮やかなコンパネを持つ。当時のMVS・ネオジオのゲーム筐体といえばコレを思い浮かべる人も多いだろう。
旧SNKの直営店ネオジオランドで最も稼働していたのがこの筐体で、「THE KING OF FIGHTERS '95」の背景のネオジオランド内にある筐体や、アニメ「バトルファイターズ餓狼伝説」の劇中で、テリー・ボガードが遊んでいた筐体もこのモデルある。 - 「Neo19」
- 1994年発売。小型筐体「SC」シリーズの後継機。格闘ゲームが盛況を極めた頃に発売されたモデル。
見た目は流線形の青いフードに、やや薄い色味の配色だが、「SC」シリーズを踏襲している。モニタサイズは19インチのみ発売で、内部には「MV-4」を搭載。
またコンパネのボタン配置は家庭用ネオジオのコントローラーを踏襲した横並びの配置に変更された。
その他、内部は衝撃緩和剤や絶縁素材を採用し、メンテナンス性も向上、鍵も増加するなど改良されている。 - 「Neo25」「Neo29」
- 1994年発売。標準アップライト筐体「MVS-U」シリーズの後継機。格闘ゲームが盛況を極めた頃に発売されたモデル。
モニタサイズは25、29インチ。内部には「MV-4」を搭載。
「Neo19」同様メンテナンス性などが改良されている。
「MVS-U」シリーズと比べ、モニタの角度が上がり見やすくなった。スピーカーもインストカード電飾と一体化した大型のものに変更されている。 - 「Super Neo29」「Neo50」「Neo50Ⅱ」
- 1995年発売。おそらく最後に販売されたMVS規格の専用筐体。
これらのモデルには搭載基板が特に明記されておらず、後期型MVS「MV-1A」などを搭載していたものと思われる。
「Super Neo29」は「Neo29」の改良型で、対戦台としての使用を意識した結果、コンパネには一人用のタイプが登場。またインストカード電飾のスペースを、反対にいる対戦相手の顔を表示できるサブモニターに任意で変更することのできる機能がある。なにそれ…
当時のカタログによれば標準価格48万円とのこと。
「Neo50」「Neo50Ⅱ」は座席とモニターの分かれた、公園遊具ばりの大型筐体であったが、ほとんど普及しなかった。それもそのはず、標準価格100万円(OP価格80万円)である…。
なお、後にハイパーネオジオ64が発売されると、これらの対応機種であるマイナーチェンジ版「Super Neo29 typeⅡ」や、「Neo50Ⅲ」も発売されるが、HN64と抱き合わせでしか発売されなかった為、必然的に標準価格が70万~80万と超高額になってしまい、店側から敬遠されるという憂き目にあうのであった…
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関連項目
- エス・エヌ・ケイ / SNK
- NEOGEO
- ハイパーネオジオ64 - 後継機種
- ATOMISWAVE - SNKがMVSの後に採用した基板
- アケアカNEOGEO - MVSの忠実移植をコンセプトとするコンテンツ配信サービス
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