サクラチヨノオーとは (サクラチヨノオーとは) [単語記事]

サクラチヨノオー(Sakura Chiyono O)とは、1985年生まれの日本の競走馬・種牡馬である。
父の無念を晴らす、そのためだけに生まれたかのような馬生を送った馬。
馬名は冠名のサクラ+当時最強の横綱千代の富士+王。

主な勝ち鞍
 1987年:朝日杯3歳ステークス(GI)
1988年:東京優駿(GI)、弥生賞(GII)

この記事では実在の競走馬について記述しています。
この馬を元にした『ウマ娘プリティーダービー』に登場するキャラクターについては
「サクラチヨノオー(ウマ娘)」を参照してください。

影の薄い3歳チャンプ

(馬齢表記は旧馬齢表記。)

父はスーパーカーと呼ばれた英才マルゼンスキー、母は谷岡牧場の誇る最高の牝馬サクラセダン、母父*セダンという血統。全兄にサクラトウコウ、半弟にサクラホクトオー、全妹にサクラプレジデントの母セダンフォーエバーがいる。
兄サクラトウコウの大活躍を受けて配合され、生まれたのが彼であった。

1987年、函館の新馬戦でデビュー。サクラ軍団の主戦でありながら仲違いして主戦を外されていた小島太が彼の騎乗からサクラ軍団に復帰、血統や調教などの要素が勘案された結果、新馬戦ながらなんと1.0倍という圧倒的支持を受け、それに応えるがごとく直線だけで3馬身半ちぎって圧勝。
その後は中山開催まで自重し、芙蓉特別も軽く勝利。将来に備え府中を経験するべく向かったいちょう特別で不良馬場で逃げたマイネルロジックに敗れ2着とするも、この年は大雪に見舞われ日程変更続出。有力馬にも負傷回避が相次ぎ6頭立てとなった朝日杯を快勝。親子制覇を達成し、週中に北海道に帰り父の最期を看取った小島太にGⅠをプレゼントした。
しかし、なんとか凌いで勝つようなレースぶりからそれなりに強いがこれ以上の上積みは感じられないなど散々な言われようで当時の評価は低く、テンポイント以来と謳われたとんでもない末脚で阪神三歳Sを圧勝した金髪ディクタス眼の天才肌・サッカーボーイに最優秀三歳牡馬のタイトルを奪われたのであった。

頼りない横綱

4歳の緒戦は共同通信杯4歳ステークスからだったのだが、ミュゲロワイヤルに先手を奪われるとそのまま逃げ切られ、自身は後ろから突っ込んできた馬にも次々抜かれて4着と連対すら外す完敗。やはり大物ではないのだろうかと、彼の資質を疑う声が更に大きくなっていった。
ちなみにここを逃げ切ったミュゲロワイヤルは3連勝を飾りクラシックロードの新星かと思われたが、このあと脚を壊して引退した。脚の脆い*リアルシャダイ産駒の悲しさである。

皐月賞に向け、弥生賞に挑むがここには東上してきた関西希望の星サッカーボーイがおり、人気はサッカーボーイに奪われた。
しかし、ハナを切ってスローに持ち込むと後方で伸び切れずもがくサッカーボーイを置き去りに逃げ切り勝利。1番人気間違いなし！……と思われたのだが、この年のクラシックは中山競馬場改装の影響で府中開催となり、超スローに落として逃げ切った弥生賞はともかく他の府中実績があんまり特筆するほどでもなく、スプリングステークスを勝った5戦4勝のモガミナインに共同通信杯で負けていたという要素も加わりまたも2番人気となった。

レースではいつものように先行していくが逃げた馬が競り合いながら特攻したためペースが早くなり、キレがないことを過剰に気にしてしまったか早めに仕掛けて粘りこみを図ったのだが、早仕掛け故にバテたところをヤエノムテキとディクターランドの強襲に遭い、3着に敗れてしまう。

余談になるが、皐月賞馬となったヤエノムテキが前走で負けてしまった相手、それがクラシック登録がなくクラシック出走が出来ない、父マルゼンスキーのような運命を辿ったスーパースター・オグリキャップということが後々彼を苛むのだがそれはまた別の話だし彼の項で特記もしなくていい気はするので特記しない。
ラッキールーラやプレストウコウ、ハードバージに比べりゃ色々とマシだろう。多分。

「東」の正横綱

そして迎えた日本ダービー。東上しながら蹄のトラブルで皐月賞をパスしダービー一本に絞ったが、NHK杯で4着に敗れたサッカーボーイが1番人気となったものの基本的には混戦。2番人気ヤエノムテキも6倍台、3番人気のチヨノオーは……ちょっと離された9倍台のオッズとなっていた。
府中向きではないという評価なのか、或いはキレに欠けるズブさが嫌われていたのか。それはともかく、彼は負けられない理由を背負わされていたのである。

ルールに阻まれクラシックから締め出され、ゲートインすら出来なかった父マルゼンスキーの無念は勿論、ダービー前の5月12日に前年の有馬記念で致命傷を負い加療中だった、こちらは怪我でダービーに出られなかったサクラスターオーが力尽きる。彼の分の弔い合戦だと当時陣営が燃えに燃えていた。彼はあずかり知らないことではあろうが。
そうして始まったレースで、レコード連発していた兄のようなキレはないが持続性はある、要するにズブいステイヤー気質ということを活かすため、逃げ馬のすぐ後ろで強気に先行。
直線に入ると坂上で逃げ馬を交わし先頭に立つが、内で彼をマークしていたメジロラモーヌの弟、シンボリルドルフ以来となるダービー2勝目を狙う岡部幸雄騎乗のメジロアルダンが、残り200m過ぎで狙いすましたかのように鋭く抜け出しを図り、さらに後ろからは末脚にすべてをかけたダービー初制覇を狙う柴田政人騎乗のコクサイトリプルが迫っていた。皐月賞のようにまた後続に飲み込まれるのか…？

否、断じて否。この日の彼と小島は違った。小島太渾身の追いに応えたチヨノオーは、そのまま突き抜けるかに見えたメジロアルダンを再び差し返し、コクサイトリプルの追い込みも退けてゴールに飛び込む。こうして、彼の激走はダービー史上でも屈指の叩き合い・差し返し劇として語り継がれることとなったのである。
こういう言い方も陳腐になるが、父の無念やスターオーの思いがバテそうな彼を押し込んだかのような激走であった。タイムも素晴らしく、2分26秒3という走破時計はアイネスフウジンに更新されるまでダービーレコードであった。2年後に1秒更新されるなんて誰も思わんから……
そして、日本一下手くそな騎手こと鞍上小島太は、初めてダービーを勝ったサクラショウリからきっかり10年後にダービー2勝目を挙げた。このダービーで激しく競り合った岡部幸雄が結局ルドルフの1勝で終わり、柴田政人が引退間際にウイニングチケットでようやく一つ取れただけと考えると、小島太の不思議な何かを感じなくもない。

しかし、彼の輝きはこのレースの後失われる。マルゼンスキー譲りの脚の弱さ故か不治の病である屈腱炎を患い丸一年休養。復帰したものの二戦して惨敗。屈腱炎が再発し引退となった。
種牡馬としては初年度にナリタブライアンが制圧した皐月賞の2着馬サクラスーパーオーを出すなど決して悪くはないスタートを切ったのだが、兄のトウコウに比べるとキレの無さが目立ち、脚も脆いところが継承されてしまったが故か或いはサンデーサイレンスやブライアンズタイム、トニービンの時代に彼は時代遅れだったのか成功は出来ず2001年に種牡馬引退。
功労馬として余生を過ごし、2012年の年始に亡くなった。27歳であった。

オグリキャップやスーパークリーク、サッカーボーイのように世間の耳目を集めるようなとてつもない勝ちっぷりは見せられなかったが、ここぞでみせた凄まじいド根性は彼らの放った輝きにも決して負けていない…はずである。

血統表

マルゼンスキー 1974 鹿毛	Nijinsky II 1961 鹿毛	Northern Dancer	Nearctic
			Lady Angela
		Fla ming Page	Bull Lea
			Our Page
	*シル 1970 鹿毛	Buckpasser	Tom Fool
			Busanda
		Quill	Princequillo
			Quick Touch
サクラセダン 1972 鹿毛 FNo.16-a	*セダン 1955 鹿毛	Prince Bio	Prince Rose
			Bio logie
		Sta ffa	Orsenigo
			Signa
	*スワンズウッドグローヴ 1960 黒鹿毛	Grey Sovereign	Nasrullah
			Kong
		Fa khry	Mah moud
			Fille de Salut
競走馬の4代血統表

クロス：Prince Rose 5×4(9.38％)　Menow 5×5(6.25％) Nearco 5×5(6.25％)

父は言わずとしれたスーパーカー。クラシック出走は当時の規定に阻まれ叶わなかったが、チヨノオーの他にホリスキーとレオダーバンが菊花賞を勝っている。無念は少しは晴れたであろうか。しかし現役時代のレースぶりから間違いなく勝ち負けの皐月賞には縁がなかった。
母は26戦6勝。グレード制施行前の中山牝馬ステークスを勝利しているなど競走馬としても活躍。繁殖としては前述の通りの実績を誇る名牝。現在も牝系は健在。
母父*セダンはフランス生まれイタリア調教の馬。デルビーイタリアーノ・プリンチペアメデオ賞・イタリア大賞・ミラノ大賞典を全部勝った初の馬となった名馬。古馬になった後もジョッキークラブ大賞を勝つなど一流であった。
イタリアで種牡馬入りし、後に日本輸入。アイフル・スリージャイアンツの天皇賞馬二騎、ダービー馬コーネルランサーなどを輩出し大いに活躍した。