パドック(Paddock)とは、家畜のための放牧地のこと。転じて競馬の下見所のことになり、更に転じて競技の際の準備ないしその場所のことをさすようにもなった。
- 家畜用の小さな放牧場・運動場。本記事で解説。
- 競馬場での下見所。本記事で解説。
- サーキットでの、車やバイクレースなどに於ける出場車両の整備場所および関係車両の駐車場所。本記事で解説。
- ドッグショーやキャットショーなどショーの控え室またはスペース。
1の概要
牛や馬は、毎日運動させないと具合が悪くなってしまう。そのため、牧場には広い草原が存在し、そこで運動させたり、草を食べさせたりしている。
草食動物の多くは群れで行動するので、ひとつのパドックに複数頭を放つことも多いが、種牡馬の場合は縄張り意識が強いため、喧嘩しないように1頭1場のパドックとする場合が多い[1]。
なお、事情を知らないとただの草原に見えるが、臆病な草食動物が暮らす場所であり、生えている草は家畜の食料である。事故や感染症を防ぐため、無断での侵入は一切厳禁である。
2の概要
競馬場に行くと、本コースとは別に、コース入りする前の馬を下見出来る場所がある。それがパドックである。
一周せいぜい100mという小さな周回路で、馬たちが常足でくるくると回っている。
競馬場に来るのが初めてという人は、入り口からすぐにあることもあってここがコースと勘違いする人もいる。そういう場合は優しく「ちげーよ」と教えてあげよう。
このスペースの目的は、競馬に出る前の出走馬を展示し、馬券を買う人に対して予想する参考にしてもらうことである。なので、見ている馬券師の目はマジである。カップルでやってきて、彼氏に甘えながら彼女が「きゃ~あの馬可愛い!」などと騒ぐのはうらやましい迷惑になるのでやめよう。
なんとなれば、馬券師が予想で一番重要視しているのがこのパドックなのである。
事前予想で、如何に素晴らしい戦績を残していたって、凄いタイムを出していたって。このパドックで「あたし、疲れたよ。もうゴールしてもいいよね…」と燃え尽きている馬とか「俺はやるぜ!見てろよ!!やるんだからな!!◎×△むきゃ~!!!!!」とぶんぶん首振っている馬なんかは切らなきゃならんのである。
ところが中には「ちょ~だり~んですけど~」とやる気なさげな馬や「あの牝馬、良い尻してんなぁ」などとアレをおっ立てている奴が激走したりしやがるので、騙されないようにしなければならんのである。
他にも、足の運びや、毛艶、発汗、太目か痩せ過ぎで無いか、厩務員の顔など、馬券師によっては見なければならないと考えているところは違い、多岐に渡る。
中央競馬場のパドックは広く、馬が何度も何度も前に来てくれないので、必然的に一頭一頭に注ぐ視線は厳しくなる。ちなみにこれが地方競馬だと、何度でも前にやってきてくれるので超楽。地方から中央に遠征したファンは見終わっていないのに終わってしまう周回に呆然とするのがデフォ。
最後の一周は騎手が騎乗するので、そこからの気合のりや騎手の様子なども見る人は見る。ただし、騎手が乗るということはすぐに本馬場入場が始まるということであり、騎手の騎乗を見てからスタンドの反対側に移って返し馬を見るのはまず無理である。また、GIなどの大レースでは、そこまで見ていると行列が長くなり過ぎて馬券が買えなくなることもあるので、スマートフォンなどでの購入がおすすめ。
パドックは、ファンが馬に最も近づける場所でもある。「人間の造り出した最高の芸術品」サラブレッド。しかも、競争前でギリギリまで仕上げた素晴らしい馬体を間近で鑑賞出来るのである。これがGI馬となれば神々しいまでの美しさに腰が抜ける事請け合い。息を潜めとりあえず馬券の事は忘れてその美しさを堪能すべきであろう。
ちなみに、ウインズに初めて行った時、パドックを画面で見ていたら、映る馬映る馬が皆胴長だった。おかしいなぁと思ったら…ワイド画面だった。カメラがワイド対応していない時代の話。あれは酷かった。
パドックのある場所
ほとんどの競馬場で、本馬場に対しスタンドを挟んで反対側にある(例外は笠松競馬場)。
観客にとっては、パドックを見に行くのに観客席を離れなければいけないため不便だが、多くの競馬場では本馬場でのレースが終わるとすぐに次のレースのパドック周回が始まるため、同じ側にあると不都合が多いのである。実際、笠松競馬場ではレースが終わってから次のパドック周回まで十分時間を空けなければならず、そのためか1日10レースほどしか開催できない。
一方で、スタンドのすべての階にパドックを見るためのベランダが設置されているため、慣れるとレースが終わってすぐパドックを見、戻るついでに馬券を買ってスタンドへ、というルーティンができあがってくる。
反対側にあるのはほぼ共通だが、反対側のどこにあるかは競馬場によって異なる。スタンドの真ん中にある場合もあれば端にある場合もあるので、事前にフロアマップなどで確認しておこう。
パドックにあるもの
周回路
馬たちが周回するトラック。本馬場の路面は芝かダートだが、パドックは多くの場合ポリウレタンで舗装されている。馬は大小便を垂れ流しにするため、掃除しやすくするのが主な目的。
形状は多くの場合オーバル形。陸上トラックと同じく円弧と直線を組み合わせたものがほとんどだが、東京競馬場のように、本来直線である部分に少し膨らみを持たせている場合もある。
トラックの内側は多くの場合空けてあるが、騎手がここで騎乗する場合がある。また、GIのときは馬主などの関係者が待機する場所となることもある。
柵
パドックと観客席を分ける柵。柵自体はどこにでもあるが、競馬場のパドックはここに(競馬場の許可を得た上で)横断幕を掲げることができる[2]。
掲げることのできる横断幕は、大きさや素材、柵に留める方法などに細かい規定がある。事前によく調べた上で持ち込むようにしたい。
なお、中央競馬においては2021年からCOVID-19による過密対策のため横断幕の受付を休止しており、2024年現在も復活していない。そのため、横断幕は地方競馬限定となる。
この柵の付近に警備員が立ち、「フラッシュ撮影禁止」「お静かに」などの看板を掲げていることがある。
電光掲示板
中央競馬では「トータリゼータオッズボード」、大井競馬では「パドックビジョン」などという。
最近は全面LED表示になっている場合が多いため、状況によっては動画が流されることもある。例えば、その競馬場で開催がなく、馬券売り場として営業している場合は他場のレースを流すなど。
パドックの段取り
ここでは中央競馬の段取りについて解説するが、地方競馬でも大枠は同じである。
- 装鞍所から厩務員に引かれ、(原則として)馬番順に出走馬がパドックに入場する
- しばらくパドックを周回する
- 発走時刻になると係員から「とま~れ~」の号令がかかり、出走馬が停止する
- ジョッキールームに待機していた騎手が入場。一列に並び、一礼して騎乗馬に向かう
- 騎手が騎乗している間に誘導馬が準備開始
- 誘導馬の騎手から「前へ」と号令がかかり、(あれば)地下馬道を通って本馬場に向かう
パドックで見るべきところ
一般的に観察すべきとされるところを列挙する。ただし、あくまで目安であり、そのような特徴があったからといって勝つ/負けるとは限らない。
例えば、一般的に馬っ気を出している場合は消しとされるが、1997年ジャパンカップのピルサドスキーや、ゼンノエルシドの新馬戦のような例外が知られている。
ダノンザキッドは、2021年皐月賞では明らかな異常発汗があり、15着惨敗しているが、同年マイルチャンピオンシップでも同様だったにもかかわらず、3着に好走している。
ウシュバテソーロのようにパドックでしっかり集中しているが故に、首の高さが極端に下がっているパターンもある。
- 歩様
- まっすぐ歩いているか、後脚の踏み込みが深いかどうか、途中で立ち止まったりしないか
- 首
- 高すぎたり低すぎたりしないか、激しく上下させていないか
- 発汗の程度
- 肉付き(トモ・肩・背)
- 太りすぎ、痩せすぎではないか、筋肉がついているか
- 馬体重
- 20kgを上回る増減がある場合は注意とされる
- 毛艶
- 馬っ気/フケ(それぞれ牡馬/牝馬の発情のこと)
- 厩務員の様子
- 疲れていないか、2人で引いていないか(そうならざるを得ないほど馬が暴れていないか)
禁止事項
馬、特にサラブレッドは極めてデリケートな生き物である。馬にとっては観衆の視線に慣らし、気持ちを落ち着けさせる場所でもある。したがって、馬を驚かせたり、興奮させたりするような行為は禁止である。
これは、パドックのみならず競馬場全体で同様である。場合によってはつまみ出される。
特徴的なパドック
3の概要
レースを行うサーキットにおいて、マシンを整備するピットをはさみ、コースとは反対側に設けられたスペース。
マシンを運んでくるトランスポーターや、関係者が休憩・ミーティングスペースとして使うモーターホームなどの車両を駐車する場所。マシンをそこで下ろし、ピットのシャッターを開けて内部に機材を展開。コースでの走行を行う際は反対側のシャッターを開ければコースに出られる様になっている。
大規模のサーキットではコースの内側に設けられており、車両が出入りするための立体交差道路で外部とは繋がっている。小規模なサーキットでは、あえてコース外側にパドックが設けられていることも多い。ピット施設が簡易なサーキットでは、パドックがマシンの整備場を兼ねている場合もある。
レースの規模やイベントの種類にもよるが、基本的にレース関係者以外は立入禁止であり、一般客が入るにはパドックパスと呼ばれる特別な入場券を別途購入する必要がある。
関連動画
関連項目
脚注
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- なし
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