エイシンフラッシュ(英:Eishin Flash、香:栄進閃耀)とは、2007年生まれの日本の競走馬である。 →競走馬の一覧
馬主は「エイシン」の冠名で有名な平井豊光。調教師は藤原英昭。
主な勝鞍
2010年:東京優駿(GI)、京成杯(GIII)
2012年:天皇賞(秋)(GI)
2013年:毎日王冠(GII)
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この記事では実在の競走馬について記述しています。 この馬を元にした『ウマ娘 プリティーダービー』に登場するキャラクターについては 「エイシンフラッシュ(ウマ娘)」を参照してください。 |
概要
父:King's Best
母:*ムーンレディ(母父:*プラティニ)
父のKing's Bestは英2000ギニー馬。姉に凱旋門賞馬のアーバンシーがおり、欧州競馬史上屈指の大種牡馬ガリレオ、2009年の欧州年度代表馬であるシーザスターズの叔父にあたるという良血種牡馬。母はドイツ出身で独セントレジャーなど4勝。母父のプラティニは、1993年のジャパンカップに来日しており、4着に入っている。父母ともドイツ牝系の出で、本馬は母が受胎中に輸入され日本で誕生した持込馬である。日本の競走馬としては異色のドイツ色の強い血統構成である(詳細は後述)。
2歳~3歳(2009年~2010年)
エイシンフラッシュは2戦目で勝ち上がると2歳の暮れに条件戦を勝ち、年明けには断然人気に応えて京成杯(GIII)を勝った。直行で皐月賞(GI)に駒を進めたが、11番人気と低人気であった。しかし、3着にまで食い込み実力の片鱗は覗かせていた。
皐月賞で優先出走権を得たので、そのまま日本ダービー(GI)へと進めた。しかしダービーでは、青葉賞を4馬身差で圧勝したペルーサを始め、皐月賞馬のヴィクトワールピサ、エアグルーヴの仔でプリンシパルS圧勝のルーラーシップ、皐月賞2着で重馬場適正があるとされたヒルノダムールなど、他の脇役たちも成績が良く、「史上最高レベルのメンバー」と評されたレースであった。そのため、エイシンフラッシュは7番人気と今回も低人気であった。
しかし、有力候補のペルーサが出遅れて後方待機になってしまい、またペースもかなりのスローペース。前が止まらず他の人気馬がなかなか伸びてこない中で、エイシンフラッシュはしっかりと折り合い、直線では上がり3ハロン32秒7という尋常ではない末脚で馬群を突き抜け、見事優勝した。
このダービーの前日に、同じ藤原厩舎のタスカータソルテがレース中の故障で予後不良となっていた。くしくもエイシンフラッシュの枠は1枠1番で、タスカータソルテがダービーに出た時も1枠1番とまったく同じでであった。藤原師も「タスカータが後押ししてくれたのかな」と語っている。また、同厩の同期ザタイキも毎日杯で故障、予後不良となっており、藤原厩舎にとってはこの日本ダービーは二頭の弔い合戦の意味合いもあった。
秋は神戸新聞杯(GII)から始動し、ローズキングダムの2着。そこから菊花賞へ向かう予定であったが、筋肉痛を発症して回避することに。続く古馬との戦いではダービーで鎬を削ったローズキングダムが繰り上がりとはいえジャパンカップ(GI)を、ヴィクトワールピサが有馬記念(GI)を制する中、エイシンフラッシュは8着・7着と見せ場を作ることなく破れた。
4歳(2011年)
大阪杯(当時GII)から始動。この頃になると年明けから春先までに行われる主要な重賞をローズキングダム、トゥザグローリー、ルーラーシップといった同世代の馬達が次々に制し、かつ世代代表であったヴィクトワールピサがドバイワールドカップを勝ったことで最強世代との呼び声が広まりつつあった。しかし、その世代のダービー馬でありながら秋の成績の所為か3番人気。結果も人気どおりヒルノダムールの3着に終わった。
天皇賞(春)(GI)では道中先頭が何度も替わる乱戦の中、きっちり折り合ってレースを進めるもまたしてもヒルノダムールの2着に敗れた。
宝塚記念(GI)では同世代には先着したものの、アーネストリー(6歳)のレコード決着の前に3着に敗れた。
秋はステップレースを使わず天皇賞(秋)(GI)に直行。シルポートの暴走劇につき合ってしまった結果、直線で脱落しトーセンジョーダン(5歳)の6着に終わった。
ジャパンカップ(GI)ではブエナビスタ(5歳)が見事に復活する中、4歳世代は上がり馬のトレイルブレイザーが辛うじて4着に入ったものの、クラシック組はエイシンフラッシュの8着が最先着という惨状であった。
ジャパンカップの惨敗、そして古馬王道GIの勝ち鞍が他世代の有力馬がいない天皇賞(春)のみという結果から最強世代の呼び名は消え失せ、GII大将世代と呼ばれる羽目に・・・。
そして、有馬記念(GI)。逃げ馬じゃないのに逃げる羽目になったアーネストリーが作り出した超スローペースの中好位でレースを進めてゆく。同じ超スローペースのダービーを制したエイシンフラッシュにとっては絶好の展開であったが、大外をまくってきた三冠馬オルフェーヴルの2着に敗れ、1年間未勝利に終わる。
5歳(2012年)
年明けからドバイワールドカップ(ドバイG1)への挑戦を表明。しかし、トランセンド・スマートファルコンが選出される中、招待状が届かない。やはり昨年未勝利という成績では無理かという空気が広がる中、ケンタッキーダービー馬アニマルキングダムが故障回避したため期限ギリギリで選出された。
そして迎えた本番では6着と日本馬の定位置最先着を果たしたものの、まさかの出遅れとなったスマートファルコン、道中失速し最下位に沈んだトランセンドの2頭にばかり注目が集まり、ほぼ空気扱いであった。
帰国後、海外遠征明けは宝塚記念(GI)に出走、ドバイから期間が空いたためか終始折り合いを欠き、4角ではオルフェーヴルと馬体を合わす場面も見られたが、勢いは雲泥の差で直線に向いてからも全くスピードが乗らず、3歳馬マウントシャスタにすら追いつけない始末で6着と良いところなく終わってしまう。
秋競馬は毎日王冠(GII)から始動。それまでの実績が評価され2番人気に推されるが、宝塚記念と同様に終いも伸びず、3歳馬カレンブラックヒルに置いていかれ9着と不本意なレースが二戦続く。
迎えた天皇賞(秋)(GI)。天皇・皇后両陛下が来場され、7年ぶりの天覧競馬という栄誉あるレースとなった。エイシンフラッシュは前二戦の惨敗が響いたのと有力馬が多く揃ったため5番人気と評価を落とす。この年のレースぶりを見ると、むしろよくここまで人気を集めたという気もする。
レースはシルポートが超ハイペースの大逃げを打つ展開になり、それをカレンブラックヒル、フェノーメノの人気三歳馬が先行し追う展開となる。とはいえ先行勢数頭以外は淡々としたレースで、エイシンフラッシュも中団の最内でしっかり折り合う。シルポートが大きなリードを取ったまま迎えた4角、コーナー出口で多くの馬が外へ流れたことで最内を通っていたエイシンフラッシュの前に進路がぽっかりと空く。ここで鞍上のミルコ・デムーロ騎手が絶妙なタイミングで追い出し、有馬記念でオルフェーヴルに追いすがった時のような鋭い末脚を発揮。一杯になったシルポートを一瞬でかわすと、外から同じように伸びてきたフェノーメノ、ルーラーシップを抑え、ダービー以来2年半ぶりに栄光のゴール板を駆け抜けた。
鞍上のデムーロ騎手は歓喜のウイニングラン。直線に戻り、メインスタンドにご来場されていた両陛下に向かうと下馬。係のお姉さんが驚いて飛んできたが、デムーロ騎手がヘルメットを脱ぎ、ひざまずいて最敬礼を行うと、会場は割れんばかりの大歓声に包まれ、エイシンフラッシュとデムーロ騎手を祝福した。
※本来は検量前に馬場で故意に下馬することは違反行為(この規則に従い、7年前の天覧競馬を制した松永幹夫騎手はヘヴンリーロマンスから下馬しなかった)となるが、「天皇、皇后両陛下の前で不正があるわけない」とJRAが空気を読んで今回は不問にされている。 ミルコは「幹夫さんの真似だけじゃなく、オリジナルなことがしたかった」とのこと。
豪力で叩き斬るのではなく
巧技をもって肉を裂く
その閃光にも似たひと振りが
未だお前の手に宿るのなら
さあ敵兵の群れを断て民衆の望みを背負い
彼は合戦の平野を駆ける
呼吸は静か抜刀は速やか
くすみひとつない鋼が走る
丁寧に研がれた刃がきらめく相手陣深くまで突撃は続く
そう待っていたのはその姿だ
喝采に自身の心も満ちていく
降り注ぐ祝福と賛辞に
剣士は黙して最敬礼を捧ぐ
続くジャパンカップ(GI)ではクリストフ・ルメールを鞍上に迎えるが、見せ場のない9着に終わる。鞍上がデムーロに戻った有馬記念(GI)では同年の二冠馬ゴールドシップ、秋天、JC連続3着のルーラーシップに次ぐ3番人気に支持されるが、レース当日デムーロが尿管結石を発症したため急遽三浦皇成に乗り替わることに。レース本番では上位人気2頭が揃って大きく出遅れるという予想通りの波乱を感じさせる展開の中、中団内ラチ沿いで我慢。そして、最後の直線では自慢の切れ味を活かして一気に先頭に躍り出る。三浦悲願のG1初制覇か!?と思わせたが、最後まで伸び切れず大外から突っ込んできたゴールドシップらに交わされて4着に終わった。
有馬記念後は天皇賞(秋)の勝利を手土産に引退・種牡馬入りするものと思われていた。しかし、父であるKing's Bestが日本に輸入されたことで、このままで良い牝馬が集められないと判断されたのか。もう1年現役を続行することになった。
6歳(2013年)
大阪杯(GII)から始動するが、その少し前にオーナーである平井豊光氏が死去し、次男である平井克彦氏が引き継ぐことになった。レースはオルフェーヴルの3着に敗れたが、次戦に天皇賞(春)(GI)ではなく同じ馬主であったエイシンプレストンが制した香港GIクイーンエリザベス2世カップを選択。鞍上にミルコ・デムーロを迎えたこの1戦では、大外枠の不利が響きまたしても3着に終わった。
宝塚記念には向かわず休養し、秋は福永祐一を迎えて前年同様毎日王冠(GII)から始動。休み明けが嫌われたか4番人気にとどまる。レースは少頭数だったこともありいつになく前から競馬するが、これが1000m60秒8という府中開幕週とは思えないペースにハマり、直線で馬の間を突き抜け勝利。またも1年ぶりの勝利を手にする。天皇賞(秋)(GI)は3番人気で乗り込むが、前年と異なり途中やや外を回されたロスが響いたか、前走負かしたジャスタウェイに6馬身置き去りにされ3着に敗れる。ジャパンカップ(GI)は押し出されるように逃げる展開になってしまい、超スローには落としたがやっぱり直線で沈没し10着に惨敗。有馬記念(GI)は捻挫で回避し、そのまま引退となった。
スローで脚が溜まる展開になれば異次元の末脚を見せるが、そうならないとさっぱり伸びてくれない、なんとも難しい馬だった。おまけに漆黒のたくましい馬体はパドックでも一際目立っており、買っていいのか悪いのか最後まで馬券師を悩ませたそうな。ちなみに先述の好馬体に加えルックスも非常に端正で、現役時から一貫して女性ファンが多いのだとか。
引退後
社台SSで種牡馬として繋養。日本ではあまり見かけない血統(父親が輸入されてるけど)で、勿論SSもなければ、ノーザンダンサーも5代前に一本入るだけという交配のしやすさが売り。欧州色が濃い割には実績から日本の瞬発力重視の競馬にもある程度対応できる。おまけに種付け料も150万円と安い。まあこんな条件が重なって、毎年200頭近い牝馬を集める人気の種牡馬となっていた。産駒は2017年にデビューしたが、しばらく重賞馬が出なかったこともあり、2020年の種付け数は約50頭と1/4にまで落ち込んでしまった。その後、2022年にオニャンコポンが京成杯を勝利し、産駒の中央重賞初勝利を挙げた。更に、秋に入って2017年産まれの産駒であるヴェラアズールが京都大賞典とジャパンカップを連勝し産駒初のGI競走勝ち馬となった。
血統表
*キングズベスト 1997 鹿毛 |
Kingmambo 1990 鹿毛 |
Mr. Prospector | Raise a Native |
Gold Digger | |||
Miesque | Nureyev | ||
Pasadoble | |||
Allegretta 1978 栗毛 |
Lombard | Agio | |
Promised | |||
Anatevka | Espresso | ||
Almyra | |||
*ムーンレディ 1997 青毛 FNo.8-a |
Platini 1989 栗毛 |
Surumu | Literat |
Surama | |||
Prairie Darling | Stanford | ||
Prairie Belle | |||
Midnight Fever 1991 鹿毛 |
Sure Blade | Kris | |
Double Lock | |||
Majoritat | Konigsstuhl | ||
Monacchia | |||
競走馬の4代血統表 |
概要で述べた「ドイツ血統の特徴」とは、「2400m路線の競走成績を基準とした優秀な繁殖牝馬の選別によって牝系を育て、配合する種牡馬はできるだけ自身の影響力を出さないように、かつ近親交配になりにくいものを配合する」というもので、「ドイツ式系統繁殖」とも言われる。世界の馬産の中心である米・英・愛やその影響を強く受けた日本で「優秀な種牡馬を軸とした繁殖」が行われているのとは正反対と言っていいやり方である。
これはドイツの競馬界の生産規模や賞金水準が必ずしも高くはないが、さりとて欧州全体で見ると決して低くもないことに起因する。米英のような競馬最先進国では多数の競走馬の需要があることから、1世代で多数の子を残せる優秀な種牡馬の種付料を高額にし、結果高い額でその子供を売るという市場原理と、1頭でその国の血統トレンドを塗り替えるようなスーパー種牡馬を基軸とした品種改良が上手に働く。他方で、賞金水準の高くないドイツの競馬界では、無理をして英米の高額種牡馬の子を購入してもその購入費を競走賞金で回収できないし、またそもそも国内の競走馬需要が極端に多くないので海外から高額種牡馬を輸入しても繁殖牝馬の数が揃わず経済的にもペイしない。他方で、繁殖牝馬は1年に1頭の子供しか産めないとはいえ、競走馬の需要自体が極端に多くも少なくもない場合は、選別された優秀な牝系から生まれた仔だけで、品種改良を進めるに充分な数をまかなうことができる。また、こうした牝系の優秀さを安定して保つためには、種牡馬は必ずしも「自らの影響力でその国の血統を一新する」ほどに優秀すぎる必要はなく、むしろマイナスに働く。
この方法はややもすると、血統が袋小路に入って活力を失ったり全体の能力が頭打ちになったりするのだが、ドイツの馬産界は種牡馬と繁殖牝馬双方の選別を厳密に行うことと、国外から新しい血を導入することを必要最小限にすることでそれを避け、結果として突出した超一流馬こそ出せないものの、全体の底上げを持続的に続けて欧州競馬における一流馬を出し続けてきた。
このように独自に育まれてきたドイツ血統は、他のどの国に輸出されても血の偏りに悩まずにその国の主流血統と配合でき、かつ蓄えられてきた強いスタミナの血がスピードに偏りがちな主流血統と高い親和性を生むことから、ドイツ国外の有力な生産者が積極的にこれを輸入している。日本の社台グループもそうした生産者であり、本馬の母ムーンレディをはじめ、ドイツ牝系に連なる多数の繁殖牝馬と自らが保有する種牡馬を配合して生まれた仔が日本でも競走・繁殖において好成績を残しており、牡馬ではマンハッタンカフェ、牝馬では早田牧場から引き取ったビワハイジがその筆頭格といえる。エイシンフラッシュはこれらの馬と比べても、はるかにドイツ色が強い血統構成となっている。
なお、この系統繁殖によって生まれたドイツ生産馬には、「登録馬名の頭文字を必ず母親と同じにする」というルールがあり、これによって血統表を見ればすぐにドイツ産馬とわかるようになっている。エイシンフラッシュを例にすれば
- 父の母Allegretta←母Anatevka←母Almyra←母Alameda……
- 母の父Platini←母Prailie Darling←母Prailie Belle←母Prailie Beauty……
- 母ムーンレディ Moon Lady←母Midnight Fever←母Majoritat←母Monaccia←母Monacensia……
と続いている。血統表を見る際の参考にしてほしい。
主な産駒
- コスモイグナーツ (2015年産 牡 母 ナパ 母父 スペシャルウィーク)
- タマモメイトウ (2016年産 牡 母 チャームアンサー 母父 メジロライアン)
- ヴェラアズール (2017年産 牡 母 ヴェラブランカ 母父 *クロフネ)
- カリオストロ (2017年産 牝 母 アルピナブルー 母父 フジキセキ)
- テーオーソクラテス (2017年産 牡 母 テーオーヴィーナス 母父 ディープインパクト)
- ルクシオン (2018年産 牝 母 ヘヴンリーヴォイス 母父 アグネスタキオン)
- オニャンコポン (2019年産 牡 母 シャリオドール 母父 ヴィクトワールピサ)
関連動画
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