大阪都構想とは、大阪府において掲げられている、行政改革の構想である。
大阪維新の会が中心となって進められ、2015年5月17日に大阪市民による住民投票にて反対多数となり廃案となった。
2017年6月27日に再び法定協議会が設置され、2020年11月1日に二度目の住民投票が行われたが再度否決された。
概要
その名の通り、かつて東京が「東京府」と「東京市」から「東京都」に移行し、「東京市」を東京23区に再編したように、「大阪市」を「特別区」を移行させ、行政の改革を行うというものである。
目的
大阪都構想の背景には、広域行政と地域行政のすみ分けという考え方がある。
現在の大阪府・市の体制では、政令市であり260万人の人口を擁する大阪市が広域行政と地域行政の双方を担っているが、広域行政について、広域自治体の大阪府との事務分配が不十分であり、府と市の間での権限争い、府と市の双方で投資が行われる二重投資の問題が生じている(府と市の権限争いについて、橋下徹は「府市百年戦争」と呼んでいる)。
他方で、大阪市は基礎的自治体でもあり、市下に24の区を設置して住民サービスを行っているが、各区には公選の区長が設けられておらず、強い権限が与えられていない。このため、新たに地域に生じた問題などについては、大阪市長が最終責任者として決裁をすることになるが、巨大な大阪市全域について、1人の市長だけで地域の実情に応じた判断を行うのは困難となっている(広すぎる大阪市)。
大阪都構想は、上記のような現状認識をもとに、大阪市を特別区に再編することで、「広域行政は大阪府、地域行政は特別区」という新たな枠組みを設けよう、ということを目的として提唱されている。
大阪都構想の推進派によると、このような広域行政の一本化によって、府と市の二重行政(府市合わせ)の解消がなされるとされている。
ちなみに、「大阪都」というネーミングについて、「都」という名称は事実上の首都である東京以外に用いるのは適当ではないとの指摘がなされているが、上記のような都構想のアイデアでは、「府」から「都」へと名称を変更することそれ自体は重要なものではない。
行政範囲の再編成
現在、大阪市内においては、例えば法人税は府と市のそれぞれに別々に納めなくてはならないというように、事実上財源が分割されてしまっており、さらにはその分割された財源を使って府と市が似たようなサービスを提供してしまう(例:府は府営浄水場を管理しているが、市は市で大阪市水道局を持っている)という、非常に効率の悪い行政体制がいくつも存在している。
これに対して東京都では、区内の税収は全て都税として都が徴収し、ライフライン・交通・消防の管理は全て都が一括して管理している。その代わり、それぞれの区にその他の住民サービスなどが一任され、区ごとに独自のサービス・行政が展開されるという、効率的な行政体制が実現されている。
このように、二重行政を解消することで、財源の一本化や、行政の効率化が可能になるとされている。
また、大阪を都市圏という観点で見た場合、大阪市中心部に勤務する者の多数が大阪市外から通勤をしているというように、広域行政を「大阪市」という範囲に限定して行う必要はない。しかしながら、地下鉄やバスのような交通網の整備が大阪市によって行われているように、広域行政のかなりの部分が大阪市によって担われているのが現状であり、大阪市によって行われている現在の広域行政は、大阪市のみを念頭におく視野の狭いものになってしまっているとの指摘がある(狭すぎる大阪市)。
これについて、大阪都構想の推進派は、より広い範囲である大阪府が広域行政を一元的に担うことで、大阪都市圏という実情に即した行政運営が可能になると主張している。
このような構想は、地方分権を進める上での重要な第一歩としての意味合いもあり、現在の東京一点集中を是正しようという目的もあるほか、将来的には広域行政の統合を進めることで道州制へと発展する可能性を持っているということができる。
最終的には、国の権限を地方に移譲して、「香港のような経済特区」にすることで、東京や国よりも自由に経済政策を実施できる場所を大阪に作ろうという構想もあるようである。
特別区の役割・区割り
一方で、上記のように、都構想では地域行政は新たに設置される特別区によって行われる。
ここで、都構想では、新たに設置される特別区は人口30万人以上の中核市規模として、公選制の区長を置くとされている。
中核市というのは、地方の県庁所在地程度の規模の都市(宇都宮市、金沢市、鹿児島市など)に認められている制度である。そもそも、都道府県と市区町村の権限分配は地方自治法によって定められているのだが、中核市というのは、政令指定都市に次ぐ権限があたえられており、従来大阪市によって行われてきた住民サービスはそのまま特別区によって行われることが予定されている。
このように、現在の大阪市よりも小規模であるが、ある程度の規模を持ち、自立した組織と財政を持った特別区を作り、そこに公選制の区長を置くことにより、より住民のニーズに応じた行政サービスが提供できるとされている。
なお、現在、大阪市には24の区が設置されており、各区の人口は6万人から20万人(平均すると約11万)であるが、これは他の政令指定都市内に設置された区と比較しても、少ない方といえる。
都構想の推進派は、このような小さい区が多数設置されていることにより、住民サービスに関する施設(プール・体育館など)が乱立してしまい、現在の財政難がもたらされていると指摘し、都構想による区の再編により、ムダな施設の統廃合が可能になると主張している(正確には、各区が自律的な予算を持つことになるので、各区の判断でどの施設やサービスがムダであるかを決めることになる。)。
なお、2018年2月22日の第8回・第2次法定協議会にて、此花区・港区・西淀川区・淀川区・東淀川区を「第一区」、北区・都島区・福島区・東成区・旭区・城東区・鶴見区を「第二区」、中央区・西区・大正区・浪速区・住之江区・住吉区・西成区を「第三区」、天王寺区・生野区・阿倍野区・東住吉区・平野区を「第四区」にする区割り案を前提に議論を進めることが決定している(区の番号は北から順番につけたもの)。
メリット・デメリット
上述のように、広域行政が大阪府によって一元的に行われることによる、二重行政の解消・大阪都市圏を見据えた適切な広域行政運営が可能になることがメリットとなる。
また、地域行政が大阪市から特別区によって行われることにより、地域の実情に応じた住民サービスが提供されるとともに、ムダな施設の統廃合が進むと期待されている。
一方で、現在大阪市役所で一元的に管理されていた行政サービスが、各特別区によって行われることになるので、事務コストが増大することが予想される(主に、庁舎とITシステムの新設・維持コストが増大すると試算されている)。なお、市議会が解散され区議会へと移行することによるが、議員数は現状のまま据え置かれることが予定されている。
このようなコストの増大について、橋下徹ら都構想推進派は、二重行政の解消、ムダな施設の統廃合により十分に回収可能であると主張している。
また、いままで一体だった大阪市役所が各区役所に移行されることから、区役所によって財政の違いが出て、行政サービスの面で変化するのではないか懸念する人もいる。
この問題については、格差を是正する仕組みとして、東京都でも実施されている財政調整制度が設けられることとなっているが、反対派は適切な調整ができるか不透明な点が残ると主張している。
時系列
2012年
政令指定都市を特別区に移行するための手続きを定める法律として、2012年9月5日に大都市地域における特別区の設置に関する法律が成立し、公布されている。
この法律によると、大阪市を廃止して特別区を設置するのには、①大阪府と大阪市に特別区設置協議会(法定協)を設置して、特別区設置協定書(いわゆる都構想の設計書)を作成する、②大阪府と大阪市の議会でそれぞれ協定書の承認を得る、③大阪市で住民投票をして、過半数の賛成を得る必要があるとされている。
2013年
2013年2月、大阪市と大阪府に法定協が設置され、2015年1月13日に協定書が作成され、同年3月13日に大阪府議会と大阪市会で協定書が承認された。
2015年
2015年5月17日に行われた大阪市民による住民投票では、賛成69万4844票、反対70万5585票となり、反対多数によって否決され廃案となった。賛成と反対の得票数が拮抗しており、ざっくり言うと賛成・反対・棄権の三者がそれぞれ3分の1ずつ綺麗に割れるという結果に終わった。住民投票により民意を示したと言うよりは、民意も迷っているという迷走ぶりが浮き彫りになった結果であるということが出来るものであった。
このように協定書は廃案となったが、2015年11月の大阪府知事・市長ダブル選挙で、大阪維新の会の松井一郎・吉村洋文が圧勝したことを受けて、再度議論が浮上。
2017年
2017年5月、6月に大阪市議会と府議会により第2次法定協議会の設置が決定され、同年6月27日の第1回協議会が開かれた。
2019年
2019年6月に開かれた法定協議会では、2020年秋から冬ころに住民投票を実施することを目標とした工程表が示された。9月ごろから特別区の名称など具体的協議に入る予定。[1]
一方で公明党が密約を破った事により松井一郎知事(当時)が激怒、4月7日に府知事選と市長選を行う。結果は自民党大阪府連の失策により大勝はしたが、市議会の方は過半数超えは出来なかった。しかしこの結果に動揺したのか、公明党は後に都構想賛成という立場になる。
2020年
2020年11月1日に住民投票が実施。投票率は前回より下回って62.35%。賛成67万5829票(49.37%)、反対69万2996票(50.63%)にて再度否決となった。なお出口調査では「大阪市がなくなるから」「サービスが低下するから」との反対理由が大勢を占めたという。 [2]
この結果を受け、吉村洋文知事は今後都構想に挑戦することはないと宣言。松井一郎市長は(かねてから発言していた)任期満了での退陣と引退を改めて表明した。 [3]
関連生放送
関連項目 |
関連リンク |
脚注
- *大阪都構想の法定協が再開 来年秋~冬に住民投票 (2019.6.21 20:44 産経WEST)
- *無党派層6割が反対 住民投票、男女で賛否割れる―大阪都構想 (時事ドットコム 2020年11月01日22時15分)
- *【大阪都構想】 なぜ松井・吉村は負けたのか (Yahooニュース 11/2(月) 21:58)
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