鶯
身 の
を
さ
か
初 さ
宝 音 ま
井 か に
其 な
角
獄門島(ごくもんとう)とは、横溝正史の推理小説。およびそれを原作としたテレビドラマ・映画。
過去に2度映画化、5度ドラマ化されているが、本項では原作、および1977年の映画版(市川崑監督)、最新の映像化である2016年版のドラマ版について記述する。
あらすじ
昭和21年9月。金田一耕助は、出征中の戦友である鬼頭千万太の訃報を伝えるため、千万太の故郷である瀬戸内海の孤島・獄門島に向かっていた。
封建的な獄門島で絶大な権力を持つ網元の鬼頭家は、本鬼頭(ほんきとう)と分鬼頭(わけきとう)とに分かれて対立していた。金田一が本鬼頭本家の跡取りである千万太の訃報を伝えるいっぽう、本鬼頭分家の跡取りである鬼頭一(ひとし)は生還の報が入っていた。精神を病んで座敷牢に幽閉された本鬼頭当主の与三松、一の妹で分家筋だが与三松に代わって本鬼頭を切り盛りしている鬼頭早苗、そして美しくもどこか狂的な、千万太の三人の妹たちに出会った金田一は、千万太の最期の言葉を思い出す。
「おれがかえってやらないと、三人の妹たちが殺される……」
その数日後、千万太の正式な戦死の報が届き通夜が営まれた夜、末の妹である花子が何者かによって殺害され、寺の庭にある梅の古木に逆さ吊りにされているのが発見された……。
概要
1946年から1948年にかけて雑誌「宝石」に連載された、金田一耕助シリーズの第2作にあたる長編。1949年に岩谷書店から刊行された。第2回探偵作家クラブ賞候補作(受賞作は坂口安吾『不連続殺人事件』)。1971年に出た角川文庫版が現在も容易に入手可能なほか、創元推理文庫の『日本探偵小説全集9 横溝正史集』や、出版芸術社の『横溝正史自選集2 獄門島』でも読める。
横溝正史の代表作というだけでなく、日本のミステリ史上に燦然と輝く名作中の名作であり、一般的な知名度では映画が大ヒットした『八つ墓村』『犬神家の一族』に一歩譲るものの、作品としては現在に至るまでその2作をはるかに凌ぐ非常に高い評価を受けている。「週刊文春」の行ったオールタイムベスト投票『東西ミステリーベスト100』では1985年版・2012年版とも第1位。その他、各種オールタイムベストランキング企画でも1位の常連であり、まさに日本ミステリー界のレジェンド作品。
舞台・事件のおどろおどろしさとドロドロした人間関係、見立て殺人や物理トリックという古典的ミステリの雰囲気たっぷりの物語、序盤から真相の手がかりがフェアに提示されつつも読者の眼を巧みにくらます語りの妙、国産ミステリ史上最も有名な台詞のひとつである「あの台詞」、そして極めて意外な犯人と戦慄する他ない事件の背景、あまりにも無惨な結末と、発表から既に70年を経た現在も色褪せることない傑作である。金田一耕助シリーズは後期に行くほど人間関係が複雑化し物語も長大化していくが、シリーズ初期の本作は分量の面でも文庫本で350ページとすっきりした長さにまとまっており、読みやすいのも魅力。
孤島を舞台にする趣向はアガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』、見立て殺人の趣向はS・S・ヴァン=ダイン『僧正殺人事件』、「あの台詞」(と事件全体の××)はエラリー・クイーン『Yの悲劇』を参考にしており、海外の本格ミステリのトリックや趣向、構造を日本流に換骨奪胎することを得意とした横溝正史の作品の中でも、その完成度の高さは随一である。また本作の犯人像は横溝の妻のアイデアによるとか。
また、金田一耕助シリーズの中でも「終戦直後」という時代背景が非常に色濃く出ている作品であり、横溝作品は後の社会派推理小説ブームの中で「お化け屋敷」とか「見世物小屋」とか言われたが、今見ると当時の時代的なリアリズムに立脚した作品としても見ることができる。
なお、本作中で極めて重要な意味を持つ「あの台詞」には放送禁止用語が含まれるため、映像化では別の言葉に改変されるかカットされることが多い。改変せずそのまま映像化したのがはっきりしているのは1977年の映画版と2016年のドラマ版(1949年の映画版は情報が少なく不明)。
登場人物
- 金田一耕助(きんだいち こうすけ)
- 探偵。戦友の訃報を伝え、その遺言を果たすために獄門島を訪れるが……。
- 鬼頭千万太(きとう ちまた)
- 金田一のニューギニアでの戦友。与三松の息子で本鬼頭の跡取り。復員船でマラリアにより病死する。今際の際、金田一が「本陣殺人事件」を解決した探偵であると知っていたことを明かし、妹たちのことを金田一に託した。
- 鬼頭嘉右衛門(きとう かえもん)
- 本鬼頭の先代当主。故人。島の住民からは「太閤さん」と呼ばれた島の重鎮でありお大尽であった。
- 鬼頭与三松(きとう よさまつ)
- 本鬼頭現当主。千万太の父。精神を患い発狂状態にあり、座敷牢に入れられている。
- 鬼頭月代・雪枝・花子(きとう つきよ・ゆきえ・はなこ)
- 千万太の腹違いの妹三姉妹。3人とも精神的にかなり幼くエキセントリックな性格をしている。
- お小夜(おさよ)
- 与三松の妾で、三姉妹の母。歌舞伎の女役者だった。故人。
- 鬼頭一(きとう ひとし)
- 本鬼頭分家の跡取り。出征中だが、生還の一報が伝えられる。
- 鬼頭早苗(きとう さなえ)
- 本作のヒロイン。一の妹。現在の本鬼頭を取り仕切っているしっかり者。
金田一耕助が愛した数少ない女性で、もし孫が本当にいたとしたら「バッチャン」の候補のひとり。 - 勝野(かつの)
- 嘉右衛門の妾。「お勝」と呼ばれている。
- 竹蔵(たけぞう)
- 本鬼頭から潮つくりを任されている漁師。
- 鬼頭儀兵衛(きとう ぎへえ)
- 分鬼頭当主。
- 鬼頭志保(きとう しほ)
- 儀兵衛の妻。本鬼頭を忌み嫌い、鵜飼章三を使って本鬼頭を潰そうと企んでいる。
- 鵜飼章三(うかい しょうぞう)
- 分鬼頭に居候している色白の美青年。志保の指示で三姉妹を籠絡しようとしている。
- 了然(りょうねん)
- 金田一が世話になる千光寺の和尚。
- 荒木真喜平(あらき まきへい)
- 獄門島の村長。
- 村瀬幸庵(むらせ こうあん)
- 飲んだくれの村医者。
- 清水巡査(しみず)
- 駐在所の警官。花子殺害時に金田一を怪しんで牢屋に入れてしまうが……。
- 清公(せいこう)
- 島の床屋。事情通。
- 磯川常次郎(いそかわ つねじろう)
- 岡山県警警部。「本陣殺人事件」に続いて登場。
映画版(1977年)
1977年8月公開。『犬神家の一族』『悪魔の手毬唄』に続く市川崑監督・石坂浩二主演による、いわゆる「石坂金田一」の第3作。配給は東宝。ロケ地は瀬戸内海の六島。
公開直前に古谷一行主演でテレビドラマ化されており、そちらが原作通りの真相であるのに対し、本作ではドラマ版との差別化でか、事件全体の構図や「あの台詞」はそのままだが、原作とは異なる人物が犯人になっている。劇場公開時も「原作・ドラマと犯人が異なる」ことを売りにしていたらしい。また、原作では磯川警部が登場するが、こっちでは等々力警部になっており、金田一とは初対面。
犯人の変更のためか石坂金田一の前2作に比べて評価・人気ともやや劣り、また現在の目から見ると思わず笑ってしまうチープな演出もあるが(釣鐘のアレとか)、「あの台詞」をそのまま残した貴重な映像化のひとつであり、原作と異なる犯人も含めミステリファンにも見所のある映画だろう。
2020年現在はAmazon Prime Video、Netflix、U-NEXTなどで配信中。
スタッフ
キャスト
- 金田一耕助:石坂浩二
- 鬼頭千万太:武田洋和
- 鬼頭嘉右衛門:東野英治郎
- 鬼頭与三松:内藤武敏
- 鬼頭月代:浅野ゆう子
- 鬼頭雪枝:中村七枝子
- 鬼頭花子:一ノ瀬康子
- お小夜:草笛光子
- 鬼頭早苗:大原麗子
- 勝野:司葉子
- 竹蔵:小林昭二
- 鬼頭儀兵衛:大滝秀治
- 鬼頭巴:太地喜和子
- 鵜飼章三:ピーター
- 了然:佐分利信
- 了沢:池田秀一
- 荒木村長:稲葉義男
- 幸庵:松村達雄
- 清水巡査:上條恒彦
- 床屋の清十郎:三木のり平
- 等々力警部:加藤武
テレビドラマ(2016年)
2016年11月19日、『スーパープレミアム「獄門島」』としてNHK BSプレミアムで放送。夜8時から2時間半の単発ドラマ(厳密には2時間22分)。
主演は長谷川博己。また了然和尚を奥田瑛二が演じたが、この2人は2ヶ月前にフジテレビの法月綸太郎原作の単発ドラマ『一の悲劇』で名探偵・法月綸太郎とその父・法月警視を演じていた。なお、こっちは原作通りに磯川警部が登場する。
BS放送だったからか、あるいは「放送禁止用語はあくまで自主規制に過ぎない」ということでか、テレビドラマでは初めて「あの台詞」がそのまま使用され、かなり原作に忠実な映像化であった。その一方、終盤で狂的な笑いをあげながら犯人を精神的に追いつめる金田一の造形は「ドン引きした」「違和感しかない」という声から「これはこれであり」「むしろ納得できる」という声までかなり賛否が分かれた。
ラストでは『悪魔が来りて笛を吹く』の映像化予告と取れる場面があったが、長谷川博己主演では実現せず、2018年に吉岡秀隆主演で同じくBSプレミアムで放映された。
2020年12月現在はNHKオンデマンドで配信中。またDVDも出ている。
スタッフ
キャスト
- 金田一耕助:長谷川博己
- 鬼頭千万太:石田法嗣
- 鬼頭嘉右衛門:瑳川哲朗
- 鬼頭与三松:山崎銀之丞
- 鬼頭月代:堀田真由
- 鬼頭雪枝:秋月成美
- 鬼頭花子:吉田まどか
- お小夜:中西美帆
- 鬼頭一:萩原宏樹
- 鬼頭早苗:仲里依紗
- 竹蔵:谷田歩
- 鬼頭儀兵衛:古田新太
- お志保:山田真歩
- 鵜飼章三:柳俊太郎
- 了然:奥田瑛二
- 了沢:岡山天音
- 荒木村長:菅原大吉
- 幸庵:綾田俊樹
- 清水巡査:山中崇
- 磯川警部:小市慢太郎
関連動画
関連項目
- 小説作品一覧
- 映画の一覧
- テレビ番組の一覧
- ミステリー
- 横溝正史
- 市川崑 - 1977年版監督
- 片岡千恵蔵 / 石坂浩二 / 古谷一行 / 片岡鶴太郎 / 上川隆也 / 長谷川博己 - 歴代映像化の金田一耕助
- 東西ミステリーベスト100
親記事
子記事
- なし
兄弟記事
- 0
- 0pt