セフィロト 単語

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セフィロト

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セフィロト、あるいはヘブライ語式発音でスフィロートとは、ユダヤ教神秘義(カバラ)で使用される概念である。

概要

スフィロートספירות)とは、ヘブライ語フィラספירה)の複数形である。

ユダヤ教神秘義においては、この「スフィラ(セフィラ)」とは神な10種の(解釈によっては11種の)属性を示し、神から流出する神性がこれらのスフィラを通して顕現することにより万物が創造されたとみなす(この場合の「神」とはユダヤ教唯一神であり造物とされている「YHVH」をさす)。

これら複数のスフィラを、その関わり合いも含めて体系として総称したものがスフィロートということになる。

神の被造物(すなわちこの世のすべて)はスフィラを介して創造されたとされていることから、逆にスフィラに対応させて解釈することも可とみなされ、カバラにおいては人体や人間の意識など様々なものがスフィラに当てはめて解釈される。

また、神から出でた神性が被造物として顕現するための筋でもあることから、逆に神性へと何らかの形でアクセスする、すなわち神へと近づくヒントであるとも見なされた。

神秘的でめいた中二心をくすぐる概念であるため、魔術占いなどのオカルトや、ファンタジーなどの創作分野においてもよく取り入れられる。

なお、ユダヤ教根本典「タナハ(キリスト教でも旧約聖書として取り入れられている)」においては、少なくとも字義通りに読む限りではこういったスフィロートに関する記載はないようで、あくまで神秘義が発展する中で登場した概念のようだ。

ちなみに、神秘義を離れた一般的なヘブライ語単語としては、スフィラספירה)とは「(カウントされた)数、計数すること、集計法」などを意味している。

スフィラ

上位のものから順に、

  1. כתר テル」 ヘブライ語単語としての字義通りの意味:「冠」
  2. חכמה ホフマ(コクマ)」 ヘブライ語単語としての字義通りの意味:「叡智
  3. בינה ビナ(ビナー)」 ヘブライ語単語としての字義通りの意味:「知性」
  4. חסד ヘセド(ケセド)」 ヘブライ語単語としての字義通りの意味:「恩寵」
  5. גבורה グヴアゲブラー)」 ヘブライ語単語としての字義通りの意味:「勇猛」
  6. תפארת ティフエレトティフェレト)」 ヘブライ語単語としての字義通りの意味:「荘厳」
  7. נצח ネツァフ(ネツァク)」 ヘブライ語単語としての字義通りの意味:「永遠」
  8. הוד ホド」 ヘブライ語単語としての字義通りの意味:「威
  9. יסוד イェソド」 ヘブライ語単語としての字義通りの意味:「根
  10. מלכות マルフトマルクト)」 ヘブライ語単語としての字義通りの意味:「王権」

となっている。(太字が現代ヘブライ語での発音。()内が日本でよく知られた表記。後述の「発音・カタカナ表記」の項を参照。)

それぞれのスフィラの名称がいつこのように定まったのかははっきりしていないが、少なくとも16世紀の書物ではこれらの名前で記載されているとのこと。

これら以外に「דעת ダアト」(ヘブライ語単語としての字義通りの意味:「知識」)というスフィラが加えられることもある。「形成の書」にある「スフィロートは10である、9でも11でもない」という記載を重視してか、ダアトが入る場合にはケテルが省かれることもある。もしくは、他の10のスフィラは省かれることなくすべてそのままに、「特殊なスフィラ」としてダアトが加えられることもある。

命の木

スフィロートはこれらのスフィラ状(柱状)に配置して図案化されることが多い。

この状構造は、しばしばタナハ(旧約聖書)の「創世記」に登場する、エデンの園に生えている「命の木(生命の)」と関連付けられる。また、それよりは稀ながら、同じくエデンの園に生えている「善悪の知識の木(知恵の)」と関連付けられることもある。

ここから逆に、スフィラ集合であるスフィロートとは関係に、単にこの「命の木」のことを直接して「セフィロトの」と言う言葉が使われることもある。

起源・発展・変容

起源 - 「形成の書」

スフィロートという言葉が神秘義的な用法で確認されるのは、遡れる中では「形成の書ספר יצירה セフェル・イェツィラー)」という書物が最古の例だとされている。この書物は現在カバラにおいても根本経典のように扱われている。

ただし最古と言っても、この書籍は著者・成立年代を含めて全くの不明とされている。アダムアブラハムと言った、ユダヤ教伝説上の人物自身が作者だという説まである。もう少し現実的に、ミシュナ(1世紀~3世紀ごろにユダヤ宗教学者達によって編纂されたタナハの註解書)と文法的特徴が似通っている事から、それらと同時代の学者によって著されたのではないかという説もある。さらにドライな見方として、中世に入ってからの作だとも言われる。少なくとも10世紀に書かれた他の文書においてこの「形成の書」への言及があるとのことで、それより以前に成立した書ではあるようだ。

この「形成の書」はその成立だけでなく内容も曖昧模糊としており容易には理解しがたい。尚且つ、バージョン違いがいくつも存在しており、それぞれで内容も長さも少しずつ異なる。そのため内容の紹介困難だが、「神は10のスフィラ、22のヘブライ文字、これらを合わせた計32の経路を通して創造を成した」等と言った内容が記載されている。「スフィロートは10である、9ではない、11でもない」と10という数を強調するような記載も認められる。

少なくとも、この書の最もシンプルバージョン(後からの付け加えがないバージョン、と受け取ることもできる)では各々のスフィラの名称や「命の木」との関連付けと言った、今日スフィロートについてよく知られた内容は全く含まれていない。この書はその後のユダヤ教に大きなを与え、以後ユダヤ教神秘義は徐々に拡大し1113世紀頃にはカバラという言葉も生まれるのだが、その発展の過程においてそういった枝葉が生してきたのかもしれない。

発展 - 「光輝の書」

時代が下って13世紀、スペインにおいて現代でも高名なカバラ書籍「の書ספר הזהר セフェル・ハ・ゾハル)」が出版される(ゾハルזהרという単語には表記揺れがあり一文字足してזוהרともされるようだが、原著の表に印刷されている表記は「ספר הזהר」である。なおヘブライ語は右から左に読む)。

この書は、その中に記載されているによれば、2世紀のユダヤ教学者が記載したものである。実際に2世紀当時使用されていた言語であるアラム語で書かれてもいる。しかし近代の文献学的な検討によるとアラム語文法の誤りやイスラエル地理への誤解などが認められるため、実際には13世紀当時のスペイン語話者(おそらく出版してこの書を販売していた人物)が自らのカバ研究を記したものと推定されている。

この「の書」においては、「אין סוף エイン・ソフアイン・ソフ)」と呼ばれる用語も使われている。「אין エイン」は「ない」、「סוף ソフ」は「終わり」を意味するため、この組み合わせは「無限」といった意味となる。その「エイン・ソフ」から神性が流出していくこと、流出経路としての各スフィラそしてスフィロート、「命の木」との関連付け、等と言った、今日スフィロートに付随してよく知られた内容が含まれていた。この「神からの流出によってすべてが成る」という発想にはネオプラトニズムからの摘される。

各々の内容はそれ以前のカバラ関連書籍にすでに認められるものも多く、この本が初出のものばかりというわけでもなかったようだ。しかしこの書籍は評判を呼んで多くの読者を得て、ユダヤ教徒だけでなくキリスト教徒の間にまで普及するに至ったので、少なくともそれらの内容が一般に広く知られたことについてはこの本の功績が大きい。

この書籍がそこまで広まった理由としては、内容自体が優れていたことや、2世紀のユダヤ教学者が記した(単なる売り文句であった可性も高いようだが)というネームバリューがあったことがしていたと思われる。

しかしさらに言えば、この本が出版されたのが丁度グリモワール魔術書)が流行した時代であったことも関連していたかもしれない。グリモワールには、旧約聖書(すなわちユダヤ教典タナハ)に登場するソロモン王に言及したものが多かった。これらに触れていた者であればユダヤ教の神秘学であるカバラに興味を持つ者も多かっただろう。この「の書」とほぼ同時代には「天使ラジエルの書ספר רזיאל セフェル・ラジエル)」も世に流布している。これはカバラをその基礎に置きつつ、その内容は全に魔術を扱ったグリモワールである。

こうして、カバラは徐々にユダヤ教の神秘義的解釈と言った本流とは別に、もっと俗流のオカルト魔術といった方向性も持ち始める。

変容 - 「高等魔術の教理と祭儀」

時が過ぎて近代に入り、1855年にはフランスエリファスレヴィ(本名をヘブライ語に訳したペンネームであって実際にはユダヤ人ではない)によりグリモワール高等魔術の教理と祭儀(Dogme et Rituel de la Haute Magie)」が出版される。この本の特徴としては、スフィロートにタロットを組み合わせた点にある。スフィロートの図案化において10のスフィラ同士は22の経路で結ばれる(上記の「形成の書」における記載「22のヘブライ文字」を念頭に置いたものと思われる)のだが、これをタロットの大アルカナと関連付けたのである。

この本は好調に売れ、重版され、続編まで出た(人気作、かつ時代が新しいこともあり現在でも豊富に流通している。和訳が現代の日本でも較的容易に入手できる。)。このにより、それまでは単なる占い具の域を出なかったタロットは以後は魔術具としても認識されていくことになる。逆に言うと、スフィロートやカバラが占いに接近するきっかけとなったとも言えるかもしれない。

さらに、その数十年後の19世紀末に結成された魔術結社「黄金の夜明け団」や、そこから独立して20世紀初頭に活動した有名な魔術師アレイスター=クロウリーが「高等魔術の教理と祭儀」を大いに参考としたうえで、スフィロートやゲマリアと言ったカバラの手法をタロット魔術と関連付けて多いに流布した。

ユダヤ教布教に熱心な宗教ではないこともあって、その内部の神秘義的解釈などは一般的には知る由もない。こうして現在では、本流であるはずのユダヤ教神秘義としてのカバラやスフィロートよりも、オカルト占い魔術としてのカバラやスフィロートの方が一般的となっている。

発音・カタカナ表記

現代の日本で一般的な表記はこの記事名のように「セフィロト」であると思われる。

ただし現在ヘブライ語話者による「ספירות」の発音を日本人が聞いた場合、(カタカナで表すと)「スフィロート」または「スフィロット」と聞こえるようである。また、日本ユダヤ学会ヘブライ語カナ表記委員会のウェブサイトexitでは、「音韻論に準拠したミニマルな表記」として「スフィロート」という表記が記載されている。

ただし、スフィロートは上記のように、ヘブライ語を使っていた古代イスラエルの時代というよりも、その後の時代に発展した部分が大きい概念である。であるならば、ヘブライ語での正確な発音にこだわることの意味はあまりないかもしれない。仏教で喩えるなら、「仏教用語の発音は、すべてサンスクリット語パーリ語といった古いインド言語の発音に忠実にするべきである」とする者はあまり居ないだろう。

さらに、そもそも典が記載された当時のヘブライ語発音の詳細は不詳であり、現在ヘブライ語の発音と異なっていた可性も大いに考えられる。

カ行とハ行

本記事内では、スフィロート/スフィラ以外のヘブライ語の単語(各スフィラや書籍の名称など)のカタカナ表記も、現代ヘブライ語の発音関係のウェブサイトや音を参照しつつ、実際の発音に近いと思われるカタカナ表記を試みた。日本で一般的に知られた表記と大きく異なる場合、「グヴア(ゲブラー)」といったように、後ろの丸括弧中に、よく知られた方の表記も併記した。

חכמה ホフマ(コクマ)」、「חסד ヘセド(セド)」、「נצח ネツァ(ネツァ)」、「מלכות マルト(マルト)」のように、よく知られた表記で「カ行」で表記されているところを「ハ行」としたものが多い。これは、これらの単語の中でのヘブライ文字ח ヘート」や「כ カフ」の発音が、「軟口蓋摩擦音(音記号x)」や「咽頭摩擦音(音記号ħ)」、「口蓋垂摩擦音(音記号χ)」であるため。

これらxやħやχは、日本語のカ行の発音である「軟口蓋破裂音(音記号k)」と類似した発音ではある。しかし破裂音kは「喉を一旦閉じてから開いたときに出す音」であるのに対し、摩擦音x・ħ・χは「喉を狭めてから息を送り出して出す音」であり、日本人にはむしろ日本語のハ行の発音「門摩擦音(発音記号h)」に近い音として聞こえる。ただしヘブライ文字の発音にも話者の属性(祖先がどこに住んでいたか等)や使用される単語などでバリエーションがあり、特に「כ」はkで発音されることも多い。

セフィロトが登場する作品など

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