ワンダーパヒューム(Wonder Perfume)とは、1992年生まれの日本の競走馬。鹿毛の牝馬。
90年代後半の「悲劇のGⅠ馬」の連鎖の中で、静かにひっそりと消えた桜花賞馬。
父*フォティテン、母ラブリースター、母父トウショウボーイという血統。
父はNureyev産駒のアメリカ産フランス調教馬で、実績は2歳G3を1勝、2歳G1で3着2回という程度。日本で種牡馬入りし、種付け数は年50頭~60頭ぐらいだったがワンダーパヒュームをはじめ中央重賞馬5頭を出し、このクラスの種牡馬としてはそこそこ成功した。ワンダーパヒュームは4年目の産駒。
母はいわゆる抽籤馬(現在でいうJRA育成馬)で、デビューから2年間で29戦という過酷なローテを走り、1982年のエリザベス女王杯で人気薄から3着に突っ込み、1983年の金鯱賞と北九州記念の重賞2勝を牡馬相手に挙げたなかなかの女傑。ワンダーパヒュームは第5仔。
母父はテンポイント・グリーングラスと「TTG」と呼ばれた三強時代を作った「天馬」にして、種牡馬としても三冠馬ミスターシービーや華麗なる令嬢ダイイチルビーなどを輩出、格安の種付け料で安定して走る産駒を出して多くの牧場を救った「お助けボーイ」。
4歳下の全弟に、1999年のスプリングSを勝ったワンダーファングがいる。
1992年3月7日、母と同じ浦河町の信岡牧場(後の主な生産馬にダンツフレーム)で誕生。オーナーはワンダーアキュートなど「ワンダー」の冠名を用いる山本信行。
所属も母と同じく栗東・領家政蔵厩舎。気性が荒く、担当の藤井美津子厩務員は初日に蹴飛ばされたという。
※この記事では時代に合わせ、馬齢表記を数え年(現表記+1歳)で記述する。
デビューは4歳になってからで、1995年1月8日、京都・ダート1200mの新馬戦だった。四位洋文を鞍上に5.7倍の2番人気だったワンダーパヒューム。このとき1.7倍の断然人気に支持されていたのは誰あろう、この年の年度代表馬となるマヤノトップガン(武豊)だった。好スタートから先行するマヤノトップガンに対し、後方に構えたワンダーパヒュームは直線大外から猛烈な末脚を発揮。上がり3Fを2位に1秒3差をつける36秒0の脚でブッ差してデビュー勝ちを飾る(マヤノトップガンは5着)。
しかし続く京都・ダート1400mの寒梅賞(400万下)は直線不利を受けて3着。桜花賞を目指して芝に切り替えてトライアルのアネモネステークス(OP)に向かい、逃げたヤングエブロスにクビ差届かなかったものの上がり最速35秒4の末脚で2着に突っ込み、桜花賞の優先出走権をゲットした。
迎えた桜花賞(GⅠ)。阪神大震災の影響で急遽京都開催となったこの年の桜花賞の話題は、1頭の地方馬に独占されていた。中央・地方交流元年のこの年、地方馬も地方所属のままで中央の重賞に出られるようになった。そんな年にデビュー10連勝で中央に殴り込み、トライアルの4歳牝馬特別(西)(GⅡ)を圧勝してきたのが笠松のライデンリーダーである。前年にはあのオグリキャップの妹・オグリローマンが笠松から中央に移籍して桜花賞を勝っており、あのオグリキャップを出した笠松から、今後は交流元年にいきなりクラシックホースが出るぞ!と大きく盛り上がっていた。
当日のオッズはライデンリーダーが1.7倍の一本被り。他にともに新種牡馬*サンデーサイレンスの産駒で母ダイナアクトレスのプライムステージ、エアダブリンの妹ダンスパートナーといった良血馬が人気を集める中、ワンダーパヒュームはというと、21.3倍の7番人気だった。人気薄ではあるものの、本番にほとんど繋がらないアネモネS組の1勝馬、大外8枠18番ということを考えれば穴人気しているという感じのオッズは、追い切りの良さと新馬戦とアネモネSで見せた末脚が評価されてのことだろう。
そんなワンダーパヒュームの鞍上は、四位に先約があったため、母の重賞2勝時に鞍上を務めた田原成貴に乗り替わっていた。陣営はこの大舞台に最高の仕上げで彼女を送り出し、田原もかなり自信があるというコメントをしていたが、ライデンリーダー一色のマスコミにはあまり取り上げてもらえず悔しかったという。
ともあれ迎えたレース本番。雨で稍重の馬場の中、大外枠のワンダーパヒュームは枠なりに中団の外につけた。ライデンリーダーは地方馬にやすやすと勝たれてなるものかと徹底マークを受けて馬群の中。3コーナー過ぎから進出を開始したワンダーパヒュームと田原成貴は、前に遮るもののない大外で直線を向くと自慢の末脚を一閃。一気に前を呑み込んで突き抜ける。内からはプライムステージが食い下がり、さらに後方からダンスパートナーが猛烈な末脚で追い込んできたが、2頭を最後はクビ差振り切って栄光のゴール板を駆け抜けた。
外を通って、外を通ってワンダーパヒューム!
外からワンダー!ワンダー!ワンダー! 内からウエスタン!
先頭はここでワンダーパヒュームに変わった!
さらに一番外からダンスパートナー!ダンスパートナー!内からプライムステージ!
ワンダーパヒューム!プライムステージ!ダンスパートナー!!
ライデンリーダーは4着に敗れました!トライアルのあの豪脚、ライデンリーダーは4着に敗れ去りました!
勝ち時計は1分34秒4、田原成貴ワンダーパヒュームであります!
領家師は嬉しいGⅠ初制覇。重賞勝利も母ラブリースター以来12年ぶりのことだった。藤井美津子厩務員は女性厩務員初のクラシック勝利、ノースフライトの石倉幹子厩務員に次ぐ史上2人目のGⅠ馬を担当した女性厩務員となった。
田原は勝利騎手インタビューで「僕がミスなく乗れたら絶対に勝てるという手応えがあった」と語り、マスコミに伝わっていなかった自信を結果で証明してみせたのだった。
桜の女王に輝いたワンダーパヒュームだったが、続く優駿牝馬(GⅠ)ではフロック視と距離不安からまた7番人気(14.5倍)。しかし最後方から徐々に押し上げていき、直線では馬群を突き破って内から抜け出しを図り、ダンスパートナーには置いていかれたものの3着。低評価に対して桜花賞馬の意地を見せた。
しかしこの春がワンダーパヒュームの仕上がりのピークであり、以降の彼女は下降線を辿る。秋の始動戦ローズステークス(GⅡ)を4着に敗れると、エリザベス女王杯(GⅠ)ではスローの前残りの展開での後方待機が仇となり16着撃沈。当時は2000m戦だった年末の阪神牝馬特別(GⅡ)も10着に沈む。
オークス3着とはいえ、やはり2000m以上は距離が長いということで、明けて5歳初戦、彼女は桜花賞と同じ京都のマイル戦、京都牝馬特別(GⅢ)から始動。単勝6.5倍ながら2番人気に支持された。
だが、パドックを見た解説の大川慶次郎が「状態が良くない」と発言。そのコメントは、最悪の形で的中してしまう。
第3コーナー、中団後方にいた彼女は、中継のカメラにも映ることなくひっそりとレースから脱落、競走中止。派手に転倒することなく、田原騎手は彼女を止めて安全に下馬した。
レース後、3コーナーで馬装を外されて佇むワンダーパヒュームの姿がカメラに抜かれているが、明らかに左前脚の向きがおかしくなっているのが見て取れた。
左前脚複雑骨折。予後不良。
彼女の死は、翌日の新聞にてひっそりと報じられた。
1995年宝塚記念で、愛した淀に散ったライスシャワー。
1997年ドバイワールドカップで中東の星になったホクトベガ。
1998年天皇賞(秋)でスピードの向こう側へ消えたサイレンススズカ。
90年代後半、4年続いたGⅠ馬のレース中の予後不良の中で、ワンダーパヒュームの死が語られることは少ない。桜花賞の1勝のみの地味な戦績、最期となったレースも地味な牝馬限定GⅢで、中継のカメラの外での静かな競走中止。目に見えない香りのようにひっそりと、桜の女王は消えていった。
彼女の死の3年後、4歳下の全弟ワンダーファングはスプリングSを勝って皐月賞に臨んだが、ゲート内で暴れてしまい無念の発走除外。その後、障害競走に転向した彼もまた、三木ホースランドパークジャンプステークスにて故障発生、予後不良となっている。
ワンダーパヒュームの担当であった藤井美津子厩務員はオークスのあとで産休に入り、彼女の担当厩務員は夫が引き継いだ。ワンダーパヒュームの死後、娘を出産した藤井厩務員は領家厩舎に復帰、ママさん厩務員としてその後も領家厩舎の馬たちを手掛けた。
藤井厩務員の娘は、「香」という名前をつけられたそうである。
*フォティテン 1984 黒鹿毛 |
Nureyev 1977 鹿毛 |
Northern Dancer | Nearctic |
Natalma | |||
Special | Forli | ||
Thong | |||
Dry Fly 1977 鹿毛 |
Mill Reef | Never Bend | |
Milan Mill | |||
Gay Missile | Sir Gaylord | ||
Missy Baba | |||
ラブリースター 1979 鹿毛 FNo.10-a |
トウショウボーイ 1973 鹿毛 |
*テスコボーイ | Princely Gift |
Suncourt | |||
*ソシアルバターフライ | Your Host | ||
Wisteria | |||
グツドサファイア 1971 鹿毛 |
*ロムルス | Ribot | |
Arietta | |||
クラツクリュウ | *ヒンドスタン | ||
*フレーミングフアイア |
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最終更新:2024/11/05(火) 08:00
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