久米(海防艦)

久米(海防艦)とは、大東亜戦争中に大日本帝國海軍が建造・運用した日振型海防艦4番艦である。1944年9月25日竣工。ヒ船団の護衛に従事したが、2回目の往路である1945年1月28日に黄海上で米潜水艦スペードフィッシュの雷撃を受けて沈没。

概要

艦名の由来は沖縄本島西方約110kmに位置する島尻郡の島から。

護衛艦艇の不足と輸送船団の被害増大を受け、海防艦の大量生産を迫られた帝國海軍は御蔵型を更に簡略化した日振型を新たに設計。各部構造の単純化、効率化を図るため建造を日立造船桜島工場に一本化するなど様々な措置を取り、工数を前級御蔵型の約5万7000から3万まで削減する事に成功。建造期間も約4.4ヶ月にまで短縮出来た。同時期に設計・建造された鵜来型との相違は用兵側の要望で単艦式大型掃海具を装備している点である。しかし掃海具の搭載は対潜能力の低下を招いてしまったため、4番艦の久米から掃海具を撤去して爆雷投射機1基、25mm単装機銃、8cm迫撃砲を追加。

日振型はマル急計画で建造された前期型の日振、大東、昭南、改マル五計画で建造された後期型の久米、生名、四阪、崎戸、目斗、波太の二種類に大別される。久米は多くの資料で日振型に分類されているが、日振型が持つはずの掃海具を持たない事から鵜来型に分類される事もあり、また海軍省が定めた艦艇類別等級では何故か御蔵型に含まれるなど、艦型がハッキリとしない。

要目は排水量940トン、全長78.8m、全幅9.1m、最大速力19.5ノット、出力4200馬力。兵装は45口径12cm単装高角砲E型改一1門、九六式25mm三連装機銃2基、同単装機銃、爆雷投射機2基、爆雷投下軌条2条、14口径8cm迫撃砲、爆雷120個。電測装備は九三式水中聴音機、九三式水中探信儀、13号対空電探。

艦歴

1942年に策定された改マル五計画において、第5252号艦の仮称で建造が決定。

1944年5月26日に日立造船桜島造船所で起工、8月15日に進水式を迎え、8月25日に達第279号により久米と命名、艤装員長に二瓶甲少佐が着任し、9月11日に艤装員事務所を日立造船内に設置して事務を開始、そして9月25日に竣工を果たした。艤装員事務所を撤去するとともに二瓶少佐が艦長に就任、士官9名、特務准士官7名、下士官55名、水兵104名の計175名が乗艦。同時に内令第1113号を以って佐世保鎮守府に編入され、海防艦の訓練を担う呉鎮守府部隊呉防備戦隊に部署する。

竣工後は大阪を出発して呉に回航。基礎力錬成のための慣熟訓練を行う。

10月28日19時12分、呉防備戦隊は久米と第56号海防艦で特別掃討隊を編成し、レイテ沖海戦から帰投する艦隊が呉に入る際、東口予定航路付近の対潜掃討を命じる。翌日、奄美大島に仮泊中の小沢艦隊に燃料を輸送しに行った1TL型戦時標準船たかね丸が敵潜の雷撃を受けて航行不能になり、急遽第56号が救援に向かった。11月1日に第1海上護衛隊へ編入。

訓練を終えた久米は11月2日に呉を出発して、翌3日15時に本籍地の佐世保へと回航。海上護衛総司令部第1海上護衛隊に部署する。続いて11月4日から佐世保工廠で船体と機関の整備を実施。整備完了後、11月7日23時に佐世保を出港、翌8日に門司へ入港し商船改造空母神鷹と合流、11月9日に神鷹を護衛して門司を発ち、佐伯基地より飛来した九七式艦攻の収容作業を見届けた後、当日中に門司へ引き返した。

11月13日、ヒ81船団の集結地となっている伊万里湾に移動。この船団は満州からルソン島へ進出する精鋭第23師団や海上挺進隊第20連隊を乗せた陸軍特種船4隻(あきつ丸、摩耶山丸、吉備津丸、神州丸)と、シンガポールに向かう海軍の大型高速タンカー5隻(みりい丸、橋立丸、東亜丸、音羽山丸、ありた丸)、特設運送艦聖川丸からなる10隻で編制された大規模なもので、それに比例して護衛兵力も対潜哨戒用の九七式艦攻14機を乗せた神鷹、海防艦5隻(久米、択捉、大東、昭南、対馬)、駆逐艦樫と強力な布陣を敷いていた。船団の指揮を執るのは択捉に座乗する第8護衛船団司令部と佐藤勉少将である。

ところが、アメリカ軍は暗号解析によりヒ81船団の動向を把握し、道中に3隻編制のウルフパックを刺客として送り込む。更にスパイが潜んでいるとの噂が船団中に広がるなど既に先行きが怪しくなりつつあった…。

血染めのヒ81船団護衛

11月14日午前6時、多くの懸念を孕みながらヒ81船団は伊万里を出発。之字運動をしながら危険な海を渡る。本来は対馬海峡を横断して済州島を回り込み、次の寄港地である澎湖諸島の馬公を目指す予定であったが、英語の無線が多数傍受された事から米潜水艦が待ち伏せていると判断、対馬海峡の途上で反転して同日夜に五島列島最北端の宇久島で仮泊。危険な夜の航海を避けるため一晩を明かした。

翌15日午前6時20分に宇久島を出発して五島列島西方を南下。上空には神鷹から発進した九七式艦攻2機が旋回して海面に目を光らせ、久米は船団の右舷外側に占位して内側の船団を守る。午前11時53分、神鷹が全艦船に向けて対潜警報を発令、しかし決死の努力むなしく、3分後の午前11時56分に済州島東方110kmの地点で米潜クイーンフィッシュから雷撃を受け、久米の左舷側にいた陸軍特種船あきつ丸の左舷後部に2本の魚雷が命中。輸送中の弾薬や自衛用の爆雷に誘爆して大爆発を引き起こし、僅か3分で転覆・裏返しとなった末に沈没、第23師団や海上挺進隊の便乗者2576名中2039名、船砲隊140名と船員67名の計2246名が戦死する大惨事を招いた。生存者310名を救助した後、九七式艦攻と護衛艦艇が爆雷の威嚇投射を行い、その間にヒ81船団は朝鮮半島方面へ急行、半島南部に位置する巨文島で仮泊する。

11月16日正午、巨文島を出発し、16時頃に朝鮮南西端の珍島近海で仮泊。緊迫の航海が続く。

11月17日午前8時にヒ81船団は珍島を出発。午後12時15分、1機のB-29が船団上空に出現したため、神鷹の対空射撃と九七式艦攻を以って追い払ったが、船団の正確な位置情報を通報されてしまい、後の悲劇へと繋がってしまう事となる。日中は九七式艦攻の哨戒もあってか敵潜の襲撃は無かった。しかし日没を迎える18時になると艦攻を収容せざるを得なくなり、入れ替わるように恐怖の夜が幕を開ける。そして潜んでいた敵潜の群れが一斉に牙を剥いた。

18時30分、済州島西方約120kmで、米潜ピクーダから雷撃を受けて摩耶山丸の右舷中央部機関室と機関室後部に被雷、10分以内に転覆した。第23師団司令部や歩兵第72連隊の便乗者4387名中3269名、船砲隊194名と船員56名の計3546名、軍馬204頭が戦死する第二の惨劇が引き起こされた。しかし悲劇はまだ終わらない。23時3分、済州島西南西約200kmの地点で米潜スペードフィッシュがヒ81船団を雷撃し、対潜哨戒の要神鷹に4本の魚雷が命中、航空用ガソリンタンクに誘爆して火山の噴火のような爆発を繰り返す。

翌18日午前0時3分、次にスペードフィッシュは神州丸を狙って艦尾発射管から4本の魚雷を発射したものの辛くも回避に成功。雷跡に気付いた樫とみりい丸が浮上中のスペードフィッシュを砲撃、すぐさま樫が追跡に移って爆雷17発を投下するが、午前0時28分に接触を失い、事の顛末を旗艦択捉に報告した。ヒ81船団は速力を上げて西方へ退避していく。

炎の塊と化して沈みつつある神鷹は現場海域に取り残され、被雷から30分後に沈没。午前2時20分、ヒ81船団の後方を追いかけていたミ27船団の旗艦第134号海防艦が、神鷹の捜索を第61号海防艦に命令(ミ27船団は神鷹被雷の瞬間を遠巻きに目撃していた)。それから40分後の午前3時、久米が神鷹の遭難海域に現れて救助活動を開始する。しかし潜水艦警報発令によって退却を強いられ19名しか収容出来なかった。午前5時、久米に次いで樫が神鷹の遭難海域へ到着して42名を救助、午前7時15分に捜索を打ち切った。神鷹乗組員1160名中1100名が戦死。助かったのは僅か60名ほどであった。

11月18日16時に船団は上海東方の舟山列島に到着、対潜掃討や救助で到着が遅れている護衛艦艇を待つ。11月21日午前8時、足並みを揃えたヒ81船団は舟山列島を出発した。

11月23日午前0時30分、南日水道で仮泊した際に第9号、第61号海防艦が護衛に加わり、ここで船団の再編制を実施。馬公経由でシンガポールを目指すグループと、高雄経由でルソン島に向かうグループの二手に分かれ、久米は前者のシンガポール行き船団の護衛を担当する。11月25日午前7時に水道を出発。可能な限り潜水艦が活動しにくい浅瀬を通った。正午頃、ルソン行きの聖川丸、神州丸、吉備津丸が離脱し、久米が護衛するグループは同日18時30分に無事馬公へ到着した。

11月27日午前6時、久米、択捉、第9号、第61号海防艦、駆逐艦樫が護衛するシンガポール行きヒ81船団(音羽山丸、東亜丸、ありた丸、橋立丸)が馬公を出発。これまでの悪夢が嘘だったかのように敵潜の襲撃は無く、被害皆無のまま、12月4日に目的地であるシンガポールへの入港を果たした。

停泊中の12月10日、第1海上護衛隊が第1海上護衛艦隊に改称。久米の所属も第1海上護衛艦隊となった。

怪魚狙うヒ82船団

12月12日16時、音羽山丸、御室山丸、ありた丸、ぱれんばん丸、橋立丸からなるヒ82船団を護衛してシンガポールを出港。護衛兵力は久米、択捉、昭南、第9号、第19号海防艦の5隻であった。12月17日から19日にかけてインドシナのカムラン湾で仮泊した際に駆逐艦潮が護衛に加入。

しかし帰り道は危険に満ちていた。12月21日朝、インドシナ沿岸を北上中、米潜フラッシャーに発見されて追跡を受ける。フラッシャーが護衛の薄いところを探しながら雷撃の機会を窺う中、第19号海防艦がシンガポールに向けて航行中の日栄丸を護衛するべく離脱。護衛兵力が減じてしまう。

12月22日午前5時、久米を含む全ての護衛艦艇が一時的に船団から離れてしまう事態が発生、その隙を突くかのように午前5時50分、フラッシャーが4本の魚雷を発射し、まず音羽山丸の船尾と中央部にそれぞれ魚雷が命中、瞬く間に積み荷の1万7000トンもの航空用ガソリンに誘爆、数百メートルの火柱を上げながら左舷へ倒れ込むように沈没した。1分後には2TL型戦時標準船タンカーありた丸の左舷油槽に魚雷が命中。音羽山丸同様ガソリンに誘爆して猛火に包まれる(午前6時22分沈没)。

午前6時30分頃、続いてフラッシャーは特設運送船御室山丸に向けて魚雷4本を発射。うち1本が船尾機関室に命中、黒煙を噴き出しながら沈没していった。日本側は機雷原に入り込んだ事が原因と考えて反撃は行わなかった。こうしてヒ82船団の生き残りはぱれんばん丸と橋立丸のみとなってしまう。

12月23日に海南島楡林へ寄港。現地で第32号海防艦が護衛に加入するも、楡林出港後、パラワン島ボンベイショールに座礁した米潜ダーターの残骸調査のため離脱、結局4隻で護衛を続行する事になった。

12月24日午前9時、台湾南東部の要港高雄に到着。橋立丸の積み荷である航空機用ガソリン1万7000トンは台湾の守備隊へ回し、空荷となった橋立丸は再度シンガポールを目指すべくヒ82船団より離脱、代わりに第9号海防艦が加わった。船団の輸送船は航空機用ガソリン8000トン、錫2000トン、生ゴム1000トンを積んだぱれんばん丸のみとなる。翌25日、久米、択捉、昭南、第9号、ぱれんばん丸の5隻は高雄を出発し、台湾海峡側を通って北東部の基隆に寄港。ここで海防艦笠戸を新たに加えて再度出港する。

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1945年1月1日午前9時、上海南東の舟山列島を出発、1月3日に舟山北北東の泗礁山泊地に到着・仮泊し、翌4日午前8時30分に出発、危険な東シナ海を一気に突破して1月8日18時4分に六連へ無事帰投する。久米は地獄からの生還を果たしたのであった。

1月9日15時に佐世保へと入港、10日から23日まで機関の修理を行う。入渠中に久米は第103戦隊に異動。休む間もなく次の護衛任務を言い渡され、1月24日、昭南とともに佐世保を出港し、翌日門司に回航。ここには護衛対象のヒ91船団が待機していた。

1月26日午前8時、駆逐艦野風、神風、海防艦昭南、第25号、第53号とともに、ヒ91船団を護衛して門司を出港。前回同様台湾経由でシンガポールを目指す。船団は大陸接岸航路を取るべく黄海を西進していく。

最期

1月27日夜、小黒山西方200kmの黄海上で米潜水艦ポンポンがヒ91船団を捕捉し、僚艦のスペードフィッシュに通報。2隻で追跡を開始する。まずポンポンが2回に渡って船団へ近づこうとしたが、護衛艦艇2隻に阻まれて足止めを喰らう。

翌28日午前2時、船団後方でポンポンが足止めされている間に、スペードフィッシュがヒ91船団へ迫り、32分後、特設運送艦讃岐丸を狙って3本の魚雷を発射。3本全ての魚雷が命中した讃岐丸は為す術なく沈没させられた。スペードフィッシュは更なる戦果拡大を狙って今度は久米に狙いを定めた。

讃岐丸被雷から3分後の午前2時35分、久米の機関室中央に魚雷が命中して火災発生。スペードフィッシュが潜航した海面に向けて東城丸が機銃弾15発と爆雷2個を投じて敵潜を追い払う。久米艦内では乗組員が決死の応急措置を行うも実を結ばず、午前5時30分に総員退艦命令が下り、そして午前7時50分にとうとう力尽きて沈没してしまった。駆逐艦神風が久米と讃岐丸の生存者を救助し、鎮海まで送り届けてくれた。生き残った二瓶艦長は内地帰還したのち海防艦生野の艤装員長に就任している。

1945年3月10日除籍。

関連項目

• 大東亜戦争
• 軍用艦艇の一覧