蚕豆かいこ
ところでどんな魚を飼えばいいの?
意外にも「あの魚が飼いたいから水槽を置く!」というひとは少ない。だいたい「なにか熱帯魚が飼いたい」から水槽を置き、それからなにを飼うか悩むパターンのほうがよく見受けられる。
実際に熱帯魚ショップに行けばいろいろな魚があなたを待っている。気に入ったものがいたら、店員に「この魚って飼うのむずかしいですか?」「どれくらいまで育ちますか?」と訊いてみよう。快く応じてくれるお店なら今後もよい関係が築けるはずである。
こんなところだろうか。ひとつずつ説明していこう。
いろんな種類を混泳させた賑やかなコミュニティタンク
複数の種類の魚をおなじ水槽で飼うことを混泳という。好きな魚が一本の水槽に揃っているというのは見ていて楽しいので、意識せずともいつのまにかそうなっている場合も多い。
ただし注意点もある。複数の種類がいるということは、組み合わせに気をつけないと思わぬトラブルを招く可能性があるのだ。極端な話、アロワナの水槽に金魚を混泳させようとしたら一瞬で弱肉強食の世界を目撃することになる。アニメ「ちびまる子ちゃん」でネオンテトラがザリガニに食われる話があったが、つまりああいうことになってしまうのである。日本で流通している熱帯魚はかるく1000種はおり、すべての相性をこの記事で網羅するわけにもいかないので、購入のさいに「うちの水槽には○○がいるんですけど、これを一緒にしても大丈夫ですか?」と店員に訊いたほうがいいだろう。
また、魚も人間とおなじく生き物である。ベターとされている組み合わせでも、たまたまその個体の気性がやたら荒かったとかで、予期せぬ結果になることはある。理想論ではあるが、もし折り合いがつかず一方がいじめられてしまうようなら、その魚のためにもう1本、水槽を用意してやる心構えは必要だろう。
この四つが重要になる。だから、上層にハチェット、中層に小型カラシン、低層にコリドラスという組み合わせだと、お互い干渉せず、ハチェットと小型カラシン用に浮上性のエサ、コリドラス用に沈下性のエサを与えるようにすれば、食いっぱぐれるものも出ずにすむ、というわけである。
これは大型魚も同様で、上層にガーパイクやアロワナ、中層にダトニオ、低層に大型ナマズやポリプテルスもしくは淡水エイという組み合わせは愛好家宅でよく見ることができる。大型魚の場合は魚の成長によってパワーバランスが変わることもある。以前までは平和であっても、おとなしくしていた魚がなにかのきっかけで暴れはじめることもあるので日々観察してあげたい。
お気に入りの1匹を大切に育てる単独飼い
まんまである。シクラソマの仲間は堂々とした体躯と、きらびやかかつ野性味あふれる色彩をあわせ持つが、たいてい異常に気が荒く、縄張りを強烈に主張するので、単独飼いする愛好家が多い。それだけの価値はある魚である。
肺魚も、見た目がのほほんとしているわりには、目の前にいる生物はとりあえず噛むという性質があり、しかも攻撃力が尋常ではない(ディスカスを折りたたむようにして食べたという話もある)ので、基本的には単独飼育となる。
ファハカやムブといった大型の淡水フグも、顎と気の強さから単独飼育がベターとなるだろう。
そういった事情がなくても、1匹だけで飼えば喧嘩で傷つくことはないので、魚はきれいに育つ。エサを横取りされることもない。
魚と人間が1対1で向き合うことになるので、犬や猫のような愛着が抱けたりすることもあるかも?
逆に1匹飼いが向かない魚は、ネオンテトラのように群れるものを除けば、ダトニオが挙げられる。
現地を再現した水槽
水槽では、たとえばアフリカの河川に棲むポリプテルスと東南アジアに生息するアジアアロワナというふうに、自然界では絶対に出会わない魚どうしの混泳を楽しむことができる。それがひとつの魅力であるが、自然界をそのまま切り取ったような水槽が作りたいというひともいるだろう。
方法はいたってシンプル。魚の生産地を揃え、現地のようにレイアウトするのである。
たとえば、大胆に流木を配置した大型の水槽にアルタムエンゼルを泳がせる。水もマジックリーフで色を着けてブラックウォーターにする。さらに照明を太陽光に近いメタルハライドランプにすれば、故郷であるアマゾンの沈水林を模した流木の隙間をアルタムがくぐるたび、木漏れ日のような陰影に魚影がまぎれ、一見すると派手な縞模様が敵から身を隠すためにいかに役立っているかを実感することができる。
たとえば、マレー半島を原産とする“ラスボラ”・ヘテロモルファやボララス・マクラートゥスを群泳させ、ミクロソリウムやクリプトコリネ・コルダータなど水草の産地にもこだわってみる。趣味の世界なのでこだわりは正義である。
複数種を混泳させるさいの注意点はコミュニティタンクと同様である。
初心者が飼ってはいけない魚
逆に初心者におすすめできない魚なら挙げるのは簡単である。これまで数え切れないアクアリストが涙を呑んだ実体験が蓄積されているからである。
- アロワナ
大型熱帯魚の代表格。アジアアロワナは安価なグリーンでも数万、ブランド物の紅や金となると新車が買えるくらいの値がつけられていたりするのでまさか初心者は手を出さないだろうが、シルバーアロワナなら幼魚が数千円以下で販売されていて、安易に購入してしまいかねないという意味で危険である。シルバーは最大で1メートルにも育ち、飼いきるには150cm以上の水槽が必要になる。 - ピラルク
地球上で最大の淡水魚。こんなもんを販売するショップにも責任があるような気がしなくもない。非常に成長が早く、飼育下でも全長2メートル近くにもなり、おまけに石頭で、大型個体に体当たりされれば命の危険さえある。水槽というより池が必要。水族館なみの超大型水槽を特注して飼っている愛好家もいるが、一般家庭ではまず飼育はできないと考えるべき。20cmくらいの幼魚が販売されていることがあり、すでにフォルムがめちゃくちゃかっこいいうえにけっこう安いので、つい手を伸ばしたくなるが、買ってはならない。相手は最大最強の王である。 - レッドテールキャット
ナマズの仲間。七福神の布袋さんみたいな顔とお腹をしていて非常に愛嬌があり、名前のとおり赤く染まった尾ビレがチャームポイント。ちいさな幼魚はとんでもなく愛くるしいが、とんでもなく巨大化し、そしてとんでもなく凶暴であることを認識しておかなければならない。全長1メートルを超え、しかも口に入るものならたいていの魚を食う。ポリプテルスのように細長い魚なら自分とおなじ全長のものでも食ってしまうことがある。しかも大食漢。成長も早い。最低でも120cmの水槽が必要だろう。 - アリゲーターガー
たまにニュースで「国内の池にワニのような魚が出没!?」などと騒がれる魚。北米~中米原産なので熱帯魚ではないが便宜上、熱帯魚と呼ばれている。とにかくでかくなる。しかも尋常でなく成長が早く、指ほどの幼魚が1年で60cm以上に、なんてこともある。愛好家いわく、「昨日より大きくなっているのが見てわかるレベル」らしい。最大で2メートルに達し、飼育下でもこのサイズに育つ。体が硬くUターンが苦手なので、見た目よりさらに巨大な飼育設備が必要。おまけに北米出身なので日本国内の河川や湖沼で越冬できる。つまり、もてあまして放流などしてしまった場合、ほかの熱帯魚のように凍死せずに、ブラックバスやブルーギルよろしく居ついてしまう可能性がある。そうして放されたアリゲーターガーがスクスクと育ってお茶の間を騒がせているというわけだ。サイズと見た目があまりに凶悪なのと、捨てる飼育者が後を絶たないことから、ついには本種をふくむガーパイク全種が特定外来種に指定され、国内での流通はいっさい禁止されることとなってしまった。施行は2018年4月から。駆け込みで購入などしないように。 - クララ
名前の可愛さに騙されてはいけない。とくにアルビノ個体の幼魚は純白のスレンダーな体でちまちま泳ぐので愛くるしいことこの上ないが、全長60cmにまで育つこのナマズは水槽に自分以外の生物が存在することを決して許しはしない。死ぬまでいじめ続けるだろう。一方で、水質悪化に非常に強く、香港のドブでも生息できるほどしぶといので、1匹だけを飼いつづけるだけならいいパートナーとなりうる。 - ギムナルクス
細長い体に背びれを波打たせ、前進も後退も思いのままという幽霊のような雰囲気の魚。ジムナーカスともいう。アルカイック・スマイルとでもいうべき微笑みを浮かべた顔とは裏腹に、性質はこの上なく凶暴。視力がほぼなく、微弱な電気を周囲に流してレーダー代わりとしているのだが(感電する強さではない)、それゆえに水槽内にいる生物は手当たり次第に攻撃する。顎の力も非常に強く、ガラスの水温計も噛み砕く。水槽のどこに手を入れても瞬時に察知して噛みにくるほどなので、水槽は完全に占拠されてしまう。また、ふつうの肉食魚はお腹いっぱいだと水槽内にエサの小魚がいても襲わないことが多いが、ギムナルクスの場合は必ずしも食べるためではなく、ただの遊びで殺すことがままあるとされている。しかも全長150cmにまで成長し、水槽が狭いと、暴れて破壊してしまうことさえある。
惚れ込んだ好事家のみが飼育を許される魚といえよう。 - スッポンモドキ
魚ではないが、魚とおなじくアクアリウムで飼えるため取り上げておく。
カメの一種で、その名のとおりスッポンのような豚鼻をしており、ウミガメのように手足がオール状となっていて泳ぎが非常にうまい。てのひらより小さな小亀が熱帯魚ショップでも売られていることがあり、ちまちま泳ぎ回るその可愛らしさに悩殺され、衝動買いしたアクアリストは数知れない。
TVアニメ「けいおん!!」で主人公たちの属する軽音部が部室で飼育していた「トンちゃん」といえばわかるかたも多いかもしれない。もしかしたら彼女たちに影響されてスッポンモドキを買い求めた人もいたりして?
しかし、本種は最大で甲長60cm以上にも成長することを忘れてはいけない。しかも、マタマタのように動かない種ならともかく、スッポンモドキはとにかく泳ぐ。起きているあいだは常に泳ぐのである。フルアダルトが遊泳するその威容はまさに泳ぐ中華鍋。最終的には幅150cm、奥行き80cm以上の水槽が必要となる。おまけに、水を異常に汚す。カメを飼ったことがある人ならわかってもらえると思うが、カメの水の汚し方は魚の比ではない。だいたい2倍の大きさのナマズとおなじくらい汚すものと思っていい。カメは肺呼吸なので汚濁の影響を受けにくいが、同居させられている魚はたまったものではない。毎日全量を水換えしてもいいくらいである。フィルターは換水を1週間に1度に伸ばす程度のものと考えよう。
はっきり言って、初心者どころではなく、「人間が飼ってはいけない動物」の一種である。現地では厳重に保護されており、日本以外の国では流通ルートに乗ることさえ稀。欧米の爬虫類マニアが日本におけるスッポンモドキの扱いを見たら、白目むいて泡ふいて卒倒するレベルである。
考えてみてほしい。ウミガメを飼おうと思うだろうか? ほとんどの人は「そんなもの飼えるわけないじゃん」と答える。しかしスッポンモドキとなると、「かわいー♡」とほいほい買ってしまう。海水か淡水かが違うだけで、スッポンモドキは実質、ウミガメを飼うようなものなのである。繰り返すがこの動物は絶対に買ってはいけない。不幸になることはあってもだれも幸せにはならないからである。
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