ハエ(蠅、蝿)とは、ハエ目ハエ亜目ハエ下目に属する昆虫の総称である。空を飛ぶ体長1cmほどの昆虫。
曖昧さ回避
概要
ハエは双翅目・短角亜目・環縫短角群の昆虫であり、この漢字を大まかに訳すと「翅が見た目上2枚しかなく、触覚が短い、サナギ羽化時に殻の頭頂部が環状に割れて出てくる昆虫の仲間」という意味である。
昆虫の翅はもともと4枚(2対)ある生き物であるが、ハエ目はそのうち後の翅2枚(1対)が平均棍と呼ばれる棒状の器官へと変化して小さく目立たなくなっている。これが「双翅」目と呼ばれる由縁である。翅の枚数が減ったら飛ぶのに不利じゃないのか、羽は少ないより多いほうが安定するんじゃないのか…といった考えは通用せず。平均棍はバランス調整に役立つ感覚器官に特化していると言われ、事実ハエ目の多くは空中ホバリング・後退・飛行しながら180°の方向転換など、下手な4枚翅昆虫よりずっと高度な飛翔技術を有する。
ハエ目の仲間として、カ(蚊)・アブ(虻)・ガガンボなどが挙げられる。総じて「害虫」扱いが多い種族かも知れない。
ハエは害虫か益虫か
害虫としてのハエ
ハエの成虫は、実はその多くが生きるだけなら花の蜜・果汁・アブラムシのおこぼれ等から得られる糖分摂取のみでも十分に事足りるエネルギーを得ることができる。 しかし、生殖のため、卵・精子の材料とするためのタンパク質だけは別ルートで摂取しなければいけない。ガガンボやムシヒキアブの仲間などは他昆虫に口を突き刺して吸う体液にそれを求め、蚊や虻はさらに大型である哺乳類の血液にそれを求め、ハエの多くは屍肉・糞便・腐植物などにそれを求めた、というだけの話である。
だが、この「エネルギー補給/生殖材料収集」2つの目的を持って食べ物の間を往復するハエの習性こそが、ハエを衛生害虫たらしめている。糖分/タンパク源を得るために人間の食料と汚物の両方で摂食を行う結果、汚物の中に紛れている様々なウイルス・細菌・線虫・寄生虫を人間の食料に媒介。 疫病の運び主として昔からネズミと並び猛威を振るったのである。 食物経由でなくとも、例えば吸血性を持つものは動物の血から血へと直接病原体を運ぶ。
また病気をもたらさないまでも、大きな羽音で人や食べ物に付きまとい、種によってはタンパク源摂取をヒトの涙や唾液から好んで行うものがおり、結果、ヒトの目や口周りにたかるといったハタ迷惑な行動に出る(TVのアフリカ特集やら南方・熱帯地域の人々への取材でよく人の顔をハエがうろついているのはこのせいである。彼らの身体や生活環境の衛生状態とは必ずしも一致しない)。 これらの行動のため、不快害虫としての評価もゴキブリに負けず劣らずである。
さらに、農業害虫としても一部が知られている。ハナバエ科・ミバエ科というハエの仲間は、特定作物に産み付けられた幼虫が、文字通り果実や根・茎などを内部からグズグズに溶解させながら食害する。中身からやられてしまうので外側からは防除対策できず、当然被害に遭えば商品価値はゼロ。収穫が全滅することも珍しくない恐ろしい昆虫であった。
益虫としてのハエ
しかし、これだけの悪名がありながら、人類に多大なる貢献もしているのが、ハエという昆虫である。
農業害虫として恐れられる種がいると書いたばかりであるが、ヤドリバエ科の多くは農家にとっては逆に救世主である(他の農業害虫に寄生し内側から食い殺す)。またハエの幼虫(蛆虫)には広くに知られる腐食性や糞食性のものだけでなく昆虫食性のものも結構おり、アブラムシなど他の害虫の天敵として活躍してくれる。
成虫も成虫で、植物の花粉媒介者として重要な種が多い。皆が皆腐った食べ物ばかりに寄り付くわけではなく、花蜜食性であるハナアブ科のハエなどは、ハチと並んでメジャーな農作物の受粉係である。サトイモ科の植物の一部や、世界最大花で知られるラフレシアなどは、ハエが受粉してくれなければ子孫を残すことさえできないのだ。
またキイロショウジョウバエは現代生物学(遺伝学・発生学)発展の礎として1世紀以上実験体として貢献してきたし、蛆虫は動植物の死骸を細菌腐敗だけに頼らず真っ先に溶かして片付けてくれる自然界の分解者代表である。他には蛆虫が壊死・病死部分だけを食べ生きた器官に口をつけない/自身の衛生確保のため、常時抗生物質を分泌しているといった習性を、切除手術では解決できない傷口の治療に活用する「マ(ー)ゴットセラピー」の登場などなど…
彼らが湧く季節になるとよく、「蚊だけはこの世から絶滅していいよ、誰も困らないだろ?」「ゴキブリマジで絶滅しろ」など各方面から嘆きの声が聞こえてくるものだが、仮にデスノートのような人外の力で蚊をひっくるめたハエ目の昆虫全部を絶滅させることに成功したなら、世界は今以上に腐敗と疫病で溢れ返ることであろう。
ゴキブリがいなくなった場合は知らん。
ベルゼブブ(Beelzebub)
他に「ベルゼバブ」「ベルゼブル」等と呼ばれることもある。元々は「気高き王」を意味し神聖な神であったものだが、異教徒だ邪教だとして、発音のよく似た「ハエの王」という意味を付けて呼んだ蔑称が、そのまま旧約聖書に記載され広く知られるようになったのが始まりだという。旧約聖書の時点では、まだかろうじて「異教の神」として扱われたが、新約聖書になるといつの間にやら完全に悪魔扱いになっていた。
姿は諸説あり、元はやはり威厳ある賢王の姿だったようだが、今では「ハエの王」としてハエを操る力を持った巨大なハエの化け物という姿が最も有名で、ファンタジー物などではほぼ間違いなくハエの魔物・ハエ型の悪魔として登場する。
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関連項目
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