知ってるか?
陸自にはふつうじゃない普通科連隊が3つある。
防衛相直轄の緊急展開部隊「中央即応集団」に所属する「中央即応連隊」、
「富士教導団」所属の「普通科教導連隊」、西部方面隊直轄の「西部方面普通科連隊」、この3つだ。
ヤツらは…
彼らは、「陸自の海兵隊」と呼ばれていたー。
西部方面普通科連隊(Western Army Infantry Regiment;WAiR)とは、かつて存在した、陸上自衛隊の特殊部隊である。
略称は西普連、英略称のWAiR(ワイアー)、バラモン部隊(部隊マークである長崎の民芸品のバラモン凧とかけて)
また、その任務の内容から「自衛隊の海兵隊」とも呼ばれている。
九州・沖縄地方の防衛を担当する西部方面隊の管内に所在する2600ある島嶼の防衛・奪還を任務とする2002年に新たに新編された部隊。南西有事が起きた際に真っ先に行動する部隊である。
中国が言うに「尖閣防衛専門の部隊」であるとか。陸上自衛隊に存在する普通じゃない普通科連隊その2。
その任務は、敵部隊が占領する恐れのある島嶼への予防的進出、または敵占領下の島嶼への隠密潜入、遊撃による敵占領部隊の陣地構築の妨害、通信の遮断、敵情報の収集、逆上陸部隊(奪還部隊)の誘導、上陸支援など多岐わたり、米海兵隊の武装偵察部隊「フォース・リーコン」と同様の性格を持った部隊と言われている。
隊員のほとんどがレンジャー資格を有し、海上へのパラシュート降下は当たり前、海上自衛隊のスキューバ資格までもっているとの噂まである。
東の第1空挺団と並ぶ陸上自衛隊の精鋭部隊であり、そのため空挺団と同じくアクの強い精強な隊員が多いとか。
陸上自衛隊の部隊としては初の水陸両用部隊であり、毎年米海兵隊との合同演習を行っている。
余談だが、西普連で第4代連隊長を務めた黒澤晃1佐はその後、統合幕僚監部運用部運用第1課で3自衛隊の各特殊部隊の特殊作戦を司る特殊作戦室で室長を務められたが、2013年5月3日に東京・霞が関の参議院議員宿舎前にある見通しのいい交差点で信号無視したオートバイにはねられ亡くなっている。…分かるね?
陸上自衛隊は、長らく北海道でソ連軍とのガチンコ勝負を想定した北方重視の戦略を取ってきた。
その為、人員や装備の面ではその主戦場となる事が予想される北海道の北部方面隊下の部隊が優遇され、訓練も北海道以南の部隊が北海道へ陸海空路で増援に向かう想定の「北方転地演習」が実施されるなど、全てが北海道を中心に行われてきた。
しかし、冷戦が終わりソ連が崩壊すると、今度はソ連に代わって東シナ海を挟んだ向こう側、中国が台頭し始める。好調な経済成長に支えられた人民解放軍(中国軍)は、瞬く間に急成長を遂げ、日本の脅威となった。
これを受け、防衛省は従来の北方重視の戦略から西方重視への移行、いわゆる「西方シフト」を実施。
北部方面隊の2個普通科連隊と、東北方面隊の1個普通科連隊を廃止し、新たに東北以南の各方面隊に計4個普通科連隊の新編を決定。
それら新編された普通科連隊の中でも、特に異色な存在だったのが西部方面隊下に新編された部隊だった。
西方有事の主戦場となる九州・沖縄の防衛警備を担当する西部方面隊は、対馬から与那国島までの
南北1,200km、東西900kmにも及ぶ広大な守備範囲を持っており、その中には有人・無人島合わせて日本が有する島嶼の約半分、2,600あまりの島を抱えている。しかし、当時は北方のソ連に対抗するために重戦力を重視していた為、ハッキリ言って西方の守りはガラ空きでありこれら離島が敵対勢力に攻撃される場合、未然に上陸を防ぎ、またそれを奪還するのは困難な状態であった。
そこで、占領された離島を奪還する為の先遣部隊として2002年に創設されたのが西部方面普通科連隊だった。
先程、西普連が異色な存在だと言ったが、一体何が普通ではないのか?それには5つの理由がある。
西普連は九州各地から精鋭の隊員が集められているが、そのレベルはハンパではない。
部隊の中核を担う下士官である陸曹はいずれもレンジャー資格を保持している西部方面隊内で名の知れた隊員が集められており、レンジャー訓練の教官役である助教を務めている隊員も多いと言う。
さらに、それも部隊の若手隊員である陸士でも同じである。
21、2歳の入隊間もない士長クラスの若手隊員を見てみると、ふつうの普通科連隊なら2年おきに「契約」を更新する「任期制自衛官」が一般的なのに対して、西普連では入隊した時点で下士官への道が約束される資格を手にしている「一般曹候補学生」がその殆どであり、「正社員」である下士官予備軍の割合が多くなっている。
そして、任期制隊員の場合でも任期満了とともに下士官である3曹への昇任試験に挑戦して「正社員」を目指す隊員が殆どである。
(加筆予定)
西普連は全国の師団・隷下の普通科連隊とは違い、よりコンパクトな普通科連隊(軽)の編制となっている。
普通科連隊(軽)は師団隷下の連隊と比べて
西普連の編制は以下の通り。同時に各中隊の特色も記述する。
西普連は、前述の通り各中隊で使いやすい装備を積極的導入している。
また、隊員の裁量で独自の装備品を使用することも認められている。それらヘルメット、ブーツ、ダンプポーチ、
マグポーチ、チェストリグ、水筒などで使い勝手のいいものはさらに連隊全体で購入されたりもしている。
その中には、なんと部隊の枠を飛び越え官品になってしまったものまである。
イラク派遣でも使用され、西普連のトレードマークともなっている「ブッシュハット」と、「キャメルバッグ」である。
事の発端は、連隊の作戦運用を司る運用訓練幹部(通称:運幹)のある一言だった。
西普連の任務は、荒れた海を渡り、はたまたヘリからロープ一本で降下し、南の島で何日も野山を駆け巡る過酷なものである。 そんな過酷な任務において、官品の水筒1つだけでは到底足りないのではないか… 。
そう思った運幹の陸佐は、当時西普連のレンジャー訓練で助教を務めていた九州で名の知れたベテランの2等陸曹を呼び、「良い感じで手頃な水筒を見つけて!(超意訳)」と依頼した。
2曹はミリタリー雑誌を片っ端から調べる一方、駐屯地内の売店にミリタリー関連の品を販売している業者にあたったり、東京の卸売業者に電話を入れるなどして、遂に背中の部分に1.5リットルもの水を入れられるキャメルバッグを見つけ出した。このキャメルバッグは、従来の水筒と違い背中に背負って使うもので、水筒に長いホースが付いており、普段は前に回して胸元に止めてあるが、喉が乾いたら歩きながらでもホースを口に咥えて、手を塞ぐ事なく水分補給が出来ると言う米軍仕様のなかなか優れものであった。
それ以来、2曹は自分達西普連の先輩とも言える米海兵隊やSEALsがどんな装備を使っているのか、インターネットも使用して調べ始めた。そして、ブッシュハットに目が留まったのである。
陸上自衛官が頭に被るものと言えば、制服の時ならひさしと装飾の付いた制帽、普段駐屯地の中にいる時は部隊のエンブレムが刺繍されたキャップを、そして訓練や災害派遣の時ならヘルメットである。
しかし、前述の通り西普連の活動地域は九州全域と東シナ海に位置する南西諸島、いわば南国の島々である。
うだるような暑さとまとわりつくような湿気の中で、重装備を背負い風通しの悪いヘルメットを被って活動していたら、何時の間にか頭がのぼせて、いざという時とっさの判断が遅れるかも知れない。
しかし、ジャングルの中で枝葉などから頭を守るには無帽と言う訳にはいかない。
では、何を被ればいいのか?そう!ブッシュハットである!
数々の戦場という場数を踏んできた米海兵隊や米陸軍の特殊部隊グリーンベレー、米海軍のNAVY SEALsなどがジャングルで被っているブッシュハットなら、使い勝手は申し分ないだろう。
なら、南の島を守るのが任務の西普連も、この帽子を使うべきではないのかー。
2曹は、いかにも軽快そうにジャングルに入って行くブッシュハットを被った米兵の姿を捉えた写真をさし示しブッシュハットの必要性を進言して回った。その中でも2曹の進言に真剣になって耳を傾けてくれたのが、かなりのミリタリーマニアであったあの「日本刀中隊長」であった。
中隊長は様々なチャンネルを駆使して、2曹の考えを陸自の総司令部である陸上幕僚監部が検討課題に加えるように働きかけ、その結果、遂にブッシュハットはキャメルバッグと共に正式に官品として国費で購入する事が決まったのである。日本刀中隊長スゲぇ…。一下士官の提案が陸上自衛隊という巨大な組織を動かしたのである。
しかし、その事自体、異例なことではあったが、逆に言えばそれだけ日本の防衛が南への備えという発想に欠いていた、と言うことだろう。
後に、ブッシュハットは「防暑帽4型」として海外派遣用装具に組み込まれ、イラク派遣などで使用され、キャメルバッグは「水のう覆3型」として西普連で使用されていたその他の隠密行動用装具共々、陸自狙撃手の必須アイテムである「隠密行動用戦闘装着セット」として全国の部隊に配備されている。
普通科だけどふつうじゃない西普連はその訓練もふつうじゃない!
まあ、特殊部隊だからといって実弾射撃が増えるとかじゃないんだけどさ…
まず、普段の訓練メニューからしておかしい。
前述した通り、西普連の任務はボートやヘリで島嶼部に進出し、敵部隊から島を守ったり奪還したりする事である。
その際、敵の上陸に備えて事前に上陸する場合は海上自衛隊のLCACなどで車両を揚陸することが出来るものの、敵占領下の島へ隠密では車両を揚陸し、運用することは不可能なので、西普連では徒歩での移動を重視している
なので、西普連ではふつうの普通科連隊ではレンジャー訓練でしかやらないような1日中険しい山々を進み、深い森に分け入るの「山地機動訓練」を、まるでランニングでもするくらいのノリで毎月のように実施している。
しかもレンジャー訓練でさえ教育期間中の3ヶ月に過ぎないのに対し、西普連の山地機動訓練は毎月の定例行事のように最低でも2泊3日は実施している。
さらに、その内容も凄い。
ふつうの普通科連隊が野外訓練をする場合、夜間はテントを張って雨風を防ぎ隊員は寝袋に入って眠りにつく。
しかし、西普連の山地機動訓練で隊員たちがテントの中に入ると言う事は殆どない。隊員たちは各々木の幹に持たれるなどして仮眠を取る。雨が降っているなら雨衣(ポンチョ)を被り、中でロウソクを付けて暖を取る。もちろん仮眠の最中も訓練は続いているので、対抗部隊の奇襲に備えて隊員が交代で歩哨に立つ。
これは、そもそもテントを持って行ける余裕がないこと、木々の生い茂る山々にテントを張れるスペースが少ないということもあるが、それ以上に西普連が想定している状況でそんな悠長なことをやっている暇が無いからである。
小規模かつ軽装備で敵占領下の島に潜入する西普連が敵部隊の意図を挫き作戦を成功裏に終える為には、
敵の虚をつき損害を与える「奇襲」を実行するしかない。奇襲を成功させるには我の行動を敵に悟られないようにすることが不可欠であり、部隊を展開してテントを張れるような土地は敵の監視下にある可能性が高いのである。
西普連では、アメリカカリフォルニア州サンディエゴに所在する米海兵隊基地「キャンプ・ペンデルトン」で合同訓練「アイアンフィスト」を毎年実施している。
上記でも触れたとおり2000年代に入り、中華人民共和国の国力が増大し、その軍事力が周辺地域の膨張し、日本国領海でも中国海警局や人民解放軍の船籍やその他、不審船の侵入が相次ぐようになった。
そうした、他国による、島嶼部の軍事的侵攻の懸念、東アジア地域のパワーバランスの変化をうけ、日本政府は平成25年度防衛計画大綱において、より柔軟に有事対応できる統合機動防衛力という、新たな防衛力整備方針を決定した。
この中で島嶼部における作戦遂行能力を高めるため、この西部方面普通科連隊を基盤に新たな部隊として水陸機動団が設置されることが決定される。
2016年度から準備室の設置等、部隊設立のための各種準備が行われ、2018年に水陸機動団が発足。西部方面普通科連隊はこの傘下となり、第一水陸機動連隊と名を変えた。
現在は水陸機動団の下、陸上自衛隊の全部隊を統括する、陸上総隊直轄の部隊となっている。
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最終更新:2024/07/27(土) 23:00
最終更新:2024/07/27(土) 22:00
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