シュピーゲル・シリーズとは、冲方丁のライトノベルシリーズである。
二つのライトノベルレーベルに分かれ、以下のニタイトルが発表されている。
また、この二タイトルを統合したシリーズ「テスタメントシュピーゲル(角川スニーカー文庫刊、イラスト:島田フミカネ)」が現在刊行中である。
概要
近未来のウィーン=ミリオポリスを舞台に、都市治安を担う機械化少女たちの闘いを描く。
サイバーパンク風に砕け散った文体、悲劇的を通り越して凄惨な少女たちの過去、現代の社会情勢の延長線上として位置づけられた世界観など、ライトノベルでありながらヘビーな内容となっている。
オイレンシュピーゲルとスプライトシュピーゲルは姉妹作の関係にあり、設定や世界観を共有し、時系列や人物関係が相互にリンクされている。
特に、両シリーズの偶数巻は、同一の事件を異なる視点や立場から追いかける構成となっている。
以下、「オイレン」「スプライト」それぞれの概要。(テスタメントは両シリーズが合流した『最終章』なので割愛)
オイレンシュピーゲル
激化する都市犯罪・テロリズムの脅威に対抗するため兵科を導入した警察組織、MPB(ミリオポリス憲兵大隊)に所属し、犯罪者との闘争に明け暮れる三人の機械化少女たち。
「黒犬(シュバルツ)」「紅犬(ロッター)」「白犬(ヴァイス)」のコードネームで呼ばれる彼女らの、「死に至る悪ふざけ(オイレンシュピーゲル)」を描く。
スプライトシュピーゲル
高度な情報収集・ピンポイント要撃による都市全域警備構想を実現するために活動する公安部隊、MSS(ミリオポリス公安高機動隊)の一員として、カウンター・テロに従事する三人の機械化少女たち。
「紫火(アメテュスト)」「青火(ザーフィア)」「黄火(トパス)」のコードネームで呼ばれる彼女らの、「妖精たちの物語(スプライトシュピーゲル)」を描く。
設定
- 機械化児童/特甲児童
超少子高齢化社会を背景に、オーストリア政府は児童に労働の権利を与え、また重度の身体障害者に機械化した四肢を与える福祉政策を実施した。
結果、児童をサイボーグ化して公共事業に携わせることが可能になり、多くの少年少女が国家に従属している。
なかでも〈特殊転送式強襲機甲義肢〉=〈特甲(トッコー)〉を支給された児童は特甲児童と呼ばれ、軍事派遣や治安維持などの過酷な任務に就いている。
<猋>の3人の特甲は"レベル1・B"、<焱の妖精>のは"レベル2・A"に分類され、"特甲猟兵(ヤークトコマンドー)"が基本とする戦時(あるいはそれに類する状況)で許可される高度兵装の"レベル3"がある。 - 文化委託/漢字名
紛争や災害などで自国では保全困難となった文化を、他国が維持する制度。これの委託先となる国家には、国連から多額の予算が降りる。
文化委託の対象は有形無形を問わず、漢字名(キャラクターネーム)もこれに含まれる。ミリオポリス市民はランダムに決定される漢字名(キャラクターネーム)を姓名の一部として名乗ることで、毎月の保全金と社会保障を受けられる。
未成年は漢字名をファーストネームとして名乗らねばならず、準成人(25歳)時にミドルネームとなり、成人(35歳)時にセカンドネームとなる。 - マスターサーバー
作中の通信ネットワークの最上位に位置する演算装置。核にも匹敵するとされている国土防衛戦略の要。
超高度な演算能力と強力なアクセス権限を持ち、都市内の電子網を監視し、あらゆる電子機器へ干渉できる。
そのため、ミリオポリス内で大規模破壊兵器を運用することは困難を極める。
国家防衛を担う各省庁がそれぞれ保有しているが、各マスターサーバーの独立性を維持するため基本的に相互不干渉を貫いている。
MPBの所有する<刕(レイ)>、MSSが1巻の第1話で独占使用を認められた<瞐(バク)>、兵器開発局が所有する<叒(カムキ)>などがある。 - 犠脳体兵器
上記のマスターサーバーの電子干渉を排除しつつ大規模破壊を実行するための手段として、機体の制御系に人間の脳を使用した兵器。
機体に脳を移植するためには、生きている人間の脳を摘出しなければならず、当然、提供者の死を意味する。
脳摘出後も肉体との電気信号を中継することで人間的な活動は可能だが、これが途絶えた場合(肉体自体が損傷して機能的な『死』を迎えたとき)、脳は人間としての機能を失い、兵器の中枢部となって破壊活動を開始する。 - 転送塔
マスターサーバーの要請により機能を発揮する物質転送装置。特甲児童の戦闘に際し、通常生活用の義肢を戦闘用の特殊義肢〈特甲〉に置換する。 - 接続官(コーラス)
マスターサーバーと脳を接続することで、マスターサーバーと積極的に連絡し、転送塔との仲介などの各種サポートを行う。接続官も特甲児童であり、自らの特甲を用いてマスターサーバーと接続する。 - プリンチップ社
犯罪者(もしくは犯罪傾向のある一般市民)やテロリストに特別製の兵器を供する支援型テロ組織。
ミリオポリスの法律では企業は刑事罰の対象外のため、ダミー企業の体裁をとっている。
その名前はサラエボ事件にてフェルディナント大公を射殺したプリンチップの名に由来する。
登場人物
MPB(ミリオポリス憲兵大隊)
通常の警察機構とは別系統である国家憲兵隊の下部組織。
凶悪犯罪に対処するため、大隊長の指揮のもと兵科を導入し異例とも言える重武装化を推進している。
マスターサーバー〈刕〉を保有している。
〈猋(ケルベルス)〉
オイレンシュピーゲルの主人公チーム。MPBに属する遊撃小隊の一つであり、三名の機械化少女で構成されている。
犯罪者を制圧する戦闘任務の他、通常任務として「パンツまるみえの可憐な衣装で警察機構の重武装化の正当性と親しみ易さを健全な市民諸兄にアピールする」という広報活動に従事する。
構成員は一部の市民からアイドル的な人気を獲得しており、根強いファンも多い。
- 涼月・ディートリッヒ・シュルツ(スズツキ・──)
〈猋〉の小隊長にして突撃手(スターマン)。コードネーム「黒犬(シュバルツ)」。14歳。
乱暴だが一本気で生真面目。黒髪短髪、黒瞳白肌。
超振動型雷撃機を内蔵した漆黒の〈特甲〉で果敢に突撃する生粋のボクサー。
通称「対甲鉄拳(パンツァーファウスト)の涼月」。彼女の戦闘力はMPB一個中隊に匹敵する。
ヘビースモーカーであり、貧乳。第一話早々にオールヌードを披露した。 - 陽炎・サビーネ・クルツリンガー(カゲロウ・──)
〈猋〉の狙撃手(スナイパー)。コードネーム「紅犬(ロッター)」。14歳。
年相応以上に発達したモデル体型に裏打ちされた天性の小悪魔。赤髪灰眼。
超伝導式ライフルを備えた真紅の〈特甲〉による精密射撃を得意とする。
通称「魔弾の射手(フライシュッツ)の陽炎」。分析家であり、博覧強記で鳴らす隊の知恵袋。
冷静でニヒルな「私」と、いたいけで乙女チックな「彼女」という二面性を同居させた精神の持ち主。 - 夕霧・クニグンデ・モレンツ(ユウギリ・──)
〈猋〉の遊撃手(ショート)。コードネーム「白犬(ヴァイス)」。14歳。
天真爛漫で笑顔を絶やさない心優しい少女。他の二人の精神的支柱。金髪碧眼のユダヤ系。
液状化金属の極細ワイヤーを展開する白銀の〈特甲〉を駆使して敵を切り刻む、歌って踊れる殺人ミキサー。
通称「悪ふざけ(オイレンシュピーゲル)の夕霧」。広報活動の適正が高く、TV出演に引っ張りだこ。
電波一歩手前の天然であり、任務中に自作の電波ソングを全帯域の電波に乗せて歌っては上官に叱責されている。
その他MPB隊員
- 吹雪・ペーター・シュライヒャー(フブキ・──)
マスターサーバー〈刕〉の接続官。〈猋〉の戦闘補佐を任務とし、〈特甲〉転送も担当している。金髪碧眼のユダヤ人。14歳。非戦闘要員の特甲児童。マスターサーバーとの接続時には意識を失う『無意識型』に分類される。
IQ300の超天才児だが、超絶的な運動音痴のために軍属を免れて治安維持のセクションに配置された。
涼月に熱烈な恋慕の情を抱いており、彼女のためならどんな危険な行為もやりかねない善意の地雷源。
気弱で繊細だが、自分の意見は割りとはっきり言うタイプ。オイレンシュピーゲルにおけるヒロイン的存在。 - ミハエル・宮仕・カリウス(──・ミヤシ・──)
MPBに属する〈怒濤(ドランク)〉中隊の中隊長。無造作でありながら洗練された立ち振る舞いの、大人の男。
狙撃手として卓越した技能を持っており、非合法の傭兵としてその腕を振るっていた時期がある。
同じ狙撃手である陽炎にはなにかと目をかけており、傭兵仲間同士の絆の証だった「中」牌を託している。 - フランツ・利根・エアハルト(──・トネ・──)
MPB副長であり、〈猋〉を運用する現場指揮官。特甲少女たちの絶好のからかい相手でもある。
その知性と狡猾な包囲的手腕をして「蜘蛛の巣フランツ」の異名を取る。
潔癖症的気質の持ち主。隊員の下ネタ発言を嫌う堅物で、噂では操を守って未だに童貞。
MSS(ミリオポリス公安高機動隊)
ミリオポリスの全域警備を目指す独立部隊。1巻第1話にてマスターサーバー<瞐>の独占使用を認められた。
〈焱の妖精(フォイエル・スプライト)〉
スプライトシュピーゲルの主人公チーム。MSSに属する要撃小隊の一つであり、三名の機械化少女で構成されている。
少数精鋭による都市全域警備構想に対応するため、彼女たちの〈特甲〉は昆虫の羽をモデルにした飛行型である。
「羽」という本来人間に存在しない器官を装備することでの脳神経へのストレスにより、極端な味覚刺激を愛好する。
- 鳳・エウリディーチェ・アウスト(アゲハ・──)
〈焱の妖精〉の小隊長にして要撃手(サプライザー)。コードネーム「紫火(アメテュスト)」。15歳。
ホバリングに優れたアゲハチョウの羽をモデルにした、紫色の〈特甲〉を装着する。
主な武装は12.7ミリ超伝導式重機関銃。「さーぁ、ご奉仕させて頂きますわよーっ!」
物腰柔らかなお嬢様で気品たっぷりだが、怒ると怖いうえに、頑固で怒りっぽい。Sっ気がある。
コーヒーにまでタバスコを入れる極辛党。左目に海賊傷があり、巨乳。 - 乙・アリステル・シュナイダー(ツバメ・──)
- 〈焱の妖精〉の迫撃手(モータル)。コードネーム「青火(ザーフィア)」。14歳。
速度・旋回能力に秀でたトンボの羽をモデルにした、青色の〈特甲〉を装着する。
主な武装は鋼鉄も溶断する灼刃(ヒートブレード)。「ドキドキしたいっしょー!」
理由なき反抗娘で、危なっかしいくらいに突撃娘。ロリポップを常にガリガリかじっている。
ココアがコンクリート状になるまで砂糖を入れる極甘党。目立ちたがりの小生意気。妹属性。 - 雛・イングリット・アデナウアー(ヒビナ・──)
〈焱の妖精〉の爆撃手(ボンバー)。コードネーム「黄火(トパス)」。13歳。
姿勢制御に特化したスズメバチの羽をモデルにした、黄色の〈特甲〉を装着する。
主な武装は火炎放射器と連結式爆雷(チェーンマイン)。「いじめないで! いじめないで!」
女性としての潜在的危険に敏感で、自分を男の子だと称しているボクっ娘。自分の世界にこもりがちな爆弾魔。
レモンスカッシュを炭酸味のレモン汁に変えてしまうほどの酸味党。音楽マニアで、読唇術を会得している。
その他MSS関係者
- 水無月・アドルフ・ルックナー(ミナヅキ・──)
マスターサーバー<瞐>担当の接続官。<焱の妖精>の特甲転送などを担当する。キリギリスの羽の特甲を装備する。
鳳に好意を抱いて彼女の飲んだ後のコップに口をつけて喉を焼かれたり(先述の通り彼女は超辛党)、戦場に出る前の問いかけを盗聴しようとして盗聴器を破壊されたりしている。 - ヘルガ・不知火・クローネンブルグ(──・シラヌイ・──)
MSSの設立者で長官。事後承諾やら独断専行やらで外部からは疎まれているが彼女は気にしていないようだ。また、B級ホラーが好きだが見る態度は小学生レベル。
協力者
- トマス・ルートヴィヒ・バロウ神父
元兵器開発局の技術顧問で、特甲の開発に関係した。もろもろの事情で解任されるが後にMSS外部顧問として情報面でサポートする。MSSには有事の際に協力しているが、MPBとの接触は少ないようだ。 - 冬真・ヨハン・メンデル(トウマ・──)
特甲の開発責任者だった故ルートヴィヒ・数馬・メンデル博士の忘れ形見で、バロウ神父の助手。陽炎曰く、「美味そうな少年と書いて美少年か」。
プリンチップ社関係者
- リヒャルト・トラクル
プリンチップ社のエージェント。ハゲ・鷲鼻で黒手組を彷彿とさせる服装が特徴。
どうも複数人いるらしく、現在(『スプライト1』までの時点で)「リヒャルトさん」と「トラクルおじさん」が確認されている。このうち前者はシリーズ第3巻にて逮捕されている。 - 白露・ルドルフ・ハース(シラツユ・──)
元オーストリア軍の"特甲猟兵"でプリンチップ社の運び屋役。通称"鳥殺し"。バイオリンを弾いている。
ちなみに、彼が運び屋になったのは『オイレン』の第1巻第3話終了後以降で、それまではどこかのナチかぶれが担当していた。
その他特甲児童
- 螢・ヘレン・トローベル(ホタル・──)
- 皇・アンジェラ・ヴァール(スメラギ・──)
鳳のかつてのチームメイト。人格改変プログラムに関わる事故により公式的には行方不明になっているが、実際は2者とも生存(螢は皇の左手に内蔵されているが)。螢はその名の通りホタルのようなプラズマで攻撃する特甲を装備している。皇は透過防壁で姿を消すことが出来、その能力でいつもは隠れている。
他にも色々登場人物がいるが、それは小説で確認しよう。
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