概要
FFMと呼ばれる多用途護衛艦で、基準排水量は3900トン。あぶくま型護衛艦・はつゆき型護衛艦・あさぎり型護衛艦・はやぶさ型ミサイル艇・一部掃海艇の後継艦として建造される。FFMの「FF」はフリゲート、「M」は多機能(Multiple)と機雷戦(Mine warfare)の2つの意味がある。
船体は敵のレーダーに補足されにくくなるステルス形状を採用。省人化を追求しており、従来型では200人の乗員が必要なのに対し、半分以下の人数で運用できる。稼働率を上げるためにクルー制(複数の乗員チームが交代で勤務する)も導入される。
もがみ型は当初22隻を建造する計画だったが、これは12隻で建造を終了し、設計を変更した新型FFMが12隻、新たに建造される予定になっている。
開発
もがみ型護衛艦は2005年に作成された「次期護衛艦に関する調査研究」からLCSを参考に研究され、2013年の25大綱・26中期防で構想が発表された。
この時は多機能護衛艦(DEX)と呼ばれ一部掃海部隊を解体し二桁護衛隊を増強、USV・UUVを使用した掃海任務、海賊対処任務や尖閣問題等の長期間続くと見られるグレーゾーン任務から主戦力となる汎用護衛艦(DD)を開放し有事に備える事を目的とされた軽武装かつ居住性が良い護衛艦として発表された。
これが2015年になると性能要求概案が決定され、2018年から年2隻建造すると発表、名称も3000トン型将来護衛艦となった、この発表からDEXと言う名称からDXと呼ばれるようになり一部のミリクラからは汎用型護衛艦の後継と誤解される事もあった。
2017年にDXは三菱案に決定基準排水量が3900トンとなったことから3900トン護衛艦(FFM)と呼ばれるようになった。
これまではもがみ型護衛艦の歴史だが、ここからは公開情報や軍事趣味者の考査をみた筆者の予想であるので話半分で見てもらいたい
もがみ型護衛艦の主目的は上に書いたグレーゾーン任務からDDを開放する事と掃海任務であり、正規軍隊との戦闘では補助に回る立ち回りの護衛艦である。
掃海任務に関しては、機雷対処として海上自衛隊は浅深度機雷用に掃海艇、外洋での掃海および深深度機雷用に掃海艦を配備していたのだが、今後掃海艇は廃止し掃海艦に集約、掃海艇の任務はUSV/UUVを搭載した、もがみ型護衛艦が担うことになっていると見られている。次点として島嶼防衛が重要視される中、敵から攻撃を受けながらも掃海任務を行う事が予測されており掃海中の護衛として護衛艦の掃海部隊編入が上がっていたため、その回答として多機能護衛艦として各種任務を行うもがみ型護衛艦を適時派遣する運用になると見込まれている。
装備等
武装に関してはSeaRAM(11連装)、5インチ両用砲、SSM-2対艦誘導弾発射機(4連装)2基、3243連装短魚雷22基に将来的にはMk.441VLS(16セル)を追加装備するとされる。
これは上にも書いてあるとおりグレーゾーン対処が第一であり、中東ではゲリラがSSMを持っていたりと物騒だったりするので仮に何処かの勢力に攻撃されても自衛ができる程度の能力を持つ、そもそもSeaRAMと5インチ砲の防空を抜く攻撃を受けたらもはや事故でなく明確な戦闘行為なのである意味鳴子の役割を担っているとも言える。以下各装備。
ソナー
ソナーは機雷用の中波ソナーとVDS/TASS可変深度ソナーを装備、中波ソナーの採用は主任務である掃海対応のためとともに、設備の貧弱な湾港対策で喫水線を浅くする事で入港できる場所を増やす事だと見られる、潜水艦はVDSで探知することになるため、荒れた海での対潜能力は一定の評価となるが、バウソナーのデータはDDから受け取ることもできるので、有事の際は問題無いと言う判断だと思われる。
なお艦載機としてSH-60K対潜ヘリ、近接防御用として上述の魚雷発射管、さらにVLSを後日搭載すれば07式VLAが運用可能となり海上自衛隊護衛艦伝統の三重の対潜水艦防御を運用できる。潜水艦死すべき慈悲はない、海上自衛隊の面目躍如である。
機関
機関はディーゼルエンジン×2、ガスタービン×1で出力は公称7万馬力。海上自衛隊として初めてCODAG[1]を採用している。速力は公称30ktでディーゼルのみでVDS/TASSの有効最大速力である25ktを出すのでないかと見られている。
ガスタービンはボーイング777のエンジンであるトレント800のエンジンコアを流用したロールスロイス製MT30を採用。たった一基で5万馬力を絞り出す化け物で、もがみ型の実際の最高速力は34ktに達するのではないかと言われている。
レーダー・射撃管制
対空レーダーはOPY-2、電子光学センサーとしてOAX-3を採用する。
OPY-2はマストの四面に貼られたフェーズドアレイレーダーで、あきづき型護衛艦やあさひ型護衛艦に採用されたOPY-1(FCS-3)とは別物。一つのアンテナで複数の波長の電波を扱うことができる世界初のレーダーアンテナで、レーダー/電子攻撃/電子戦防御の機能を一枚のアンテナでこなすことができる。
一方でミサイルの火器管制能力は無いと言われており、後日搭載のVLSにESSMを搭載することは無いと思われるが、アクティブレーダーホーミングミサイル(例えば2017年より開発が開始された03式中距離地対空誘導弾ベースの艦対空ミサイル)を採用すれば対空ミサイルを運用出来る可能性も残されており、対空性能に関してはどのようになるのか現状の情報で予想が難しい。
OPY-2の上下の細長いアンテナはそれぞれNOLQ-3E電子戦装置用アンテナ(NOLQ-3Eは搭載が公表されている)と、恐らくはOPY-50潜望鏡レーダーではないかと思われる。
OAX-3電子工学センサーは艦橋上部中央に回転型が、マストとレドームの間に固定型が搭載されていると思われる。ここから入手した全周の光景はもがみ型護衛艦のCICに表示し、人員の省力化を行うユニークな方法を採用している、この円形かつ全周の光景を表示する方法だが、似た例が後述するイタリア海軍PPA多目的哨戒艦が艦橋にCICのコンソールを持ってくると言う事を行っている。もがみ型護衛艦の艦橋の情報をCICに持ってくる方法とPPAの艦橋にCICの情報を持ってくる方法と、お互いに人員削減を目的とし似た方法を取ったが、やり方が真逆な処が運用思想の違いとして面白い。
マスト上部の細長いレドームは複合通信空中線NORA-50で、レドームの中には電波探知妨害装置NOLQ-3E、洋上無線ルーターORQ-2B-4、データリンク、IFF応答機、TACANが配置されている。[2]
多目的甲板
護衛艦として完全な新基軸でありFFMのマルチプルを象徴するのがこの多目的甲板の存在である。この多目的甲板は艦尾のスリップと直結しており、例えば機雷の除去、掃海に用いられる無人水上艇(USV)や無人潜水艇(UUV)の展開・収納を行うことができる。また人員輸送用のモジュールを組み込む事で簡易的な人員輸送を行ったりする事が出来る。機雷の敷設に関しては未だ不明であり今後の情報がまたれる。
その他類似艦艇の解説
LCS(フリーダム級/インディペンデンス級、アメリカ)
FFM開発の際参考としたLCSであるが、この艦、そもそもはストリートファイターコンセプトを走りとした非対称戦争を念頭に入れて開発された船である。しかし生存性確保の為に過大な速力とデータリンク能力を与えられ、目玉であったはずのミッションモジュールは多用途性を確保しようとして失敗。そして中国海軍の強大化による政略戦略の変更の結果、値段(一隻あたり約370億円)の割には性能が低く扱いに困る艦艇になってしまった。
アブサロン級多目的支援艦(デンマーク)
デンマーク海軍が運用している多用途艦であり、ミッションモジュールによく似たコンセプトのスタンダード・フレックス・コンセプトを採用している。個別記事も参照。
スタンダード・フレックス・コンセプトとはステンレス性のモジュールに各任務に合わせた兵装をパッケージ化した物でありSAM,SSM,ASWだけで無く艦砲や輸送、クレーン、MCM、等もパッケージングされておいる。余談だがアブサロン級の準同型艦であるアイヴァー・ヒュイトフェルト級ミサイルフリゲートや300トンクラスの小型哨戒艇、フリーヴェフィスケン級にも採用されている。
ただ、採用初期はモジュールのとっかえひっかえを考えていたようだが、現在は艦にモジュールは基本的に固定で整備の際引っこ抜くとかそういう使われ方をされているのが現状のようである。
PPA哨戒艦(パオロ・タオン・ディ・レベル級、イタリア)
イタリア海軍が採用した新型哨戒艦だが、哨戒艦と言いつつ排水量は5000トン級でBMDにも対応するとかお前のような哨戒艦がいるか。
PPAは搭載する武装やレーダーなど電子設備の多少によりライト、ライト+、フル、の三パターンの建造を行う予定であり、FFMのバッジ1、バッジ2のように同一艦で軽武装タイプと重武装タイプを運用する予定で有る。
バーデン・ヴュルテンベルク級(ドイツ)
昨今のマルチハザード化、グローバル化した任務に対応するため建造されたフリゲート艦……、を自称しているが基準排水量が7300tと下手な駆逐艦よりでかい。あきつき型護衛艦(6800t)よりでかいとかなんかのジョークか? そのコンセプトは
とかなり野心的というか長期展開能力に振っているフリゲートである。しかし
- 派遣地域に船だけ残し乗員を定期的に入れ替えを行うこと自体のコストが高い
- 設計不良による海軍の引き取り拒否
- でかいくせに主武装はハープーンとSeaRAM、127mm砲のみ。いや確かに非対称戦闘前提ならこれでいいんでしょうけど……
- ソナーも対ダイバー用[3]
と派遣任務に割り振りすぎて使い道が少ないのに建造コストが約880億円とあきづき型(750億円)より高くついたとか本当に何の冗談ですか。
結局どんな護衛艦なのか
もがみ型護衛艦は歴史を見ればわかるが色々な千変を得て現在の形になったが重要な項目である、年2隻の建造、長期の外洋航行能力、艦載機運用能力、掃海能力、5インチ砲の保有は保持されている。
この5つからわかることは、
この三つを重要視した護衛艦であり、ある種の割り切りの結果であると共に海上自衛隊のブラウンウォーターネイビーからブルーウォーターネイビー化の第一歩でもある。
余談ではあるが、もがみ型の大型化によって割を受けたのが尖閣問題であり、将来哨戒艦は外洋に特化したもがみ型に対し内海に特化した灰色の巡視船になると見られている。
同型艦
艦名 | 艦番号 | 所属 | 進水 | 建造 | 艦名の由来 | |
---|---|---|---|---|---|---|
就役 | ||||||
1番艦 (FFM) |
もがみ | FFM-1 | 掃海隊群 (横須賀) ↓ 第11護衛隊 (横須賀) |
2021年3月3日 | 三菱重工 長崎造船所 |
山形県を流れる河川「最上川」より 旧海軍通報艦「最上」重巡「最上」、海自いすず型「もがみ」に続く4代目。 |
2022年4月28日 | ||||||
2番艦 (FFM) |
くまの | FFM-2 | 2020年11月19日 | 三井E&S造船 玉野艦船工場→三菱重工マリタイムシステムズ 玉野本社工場[4] |
奈良県、和歌山県、三重県を流れる河川「熊野川」より 旧海軍重巡「熊野」、海自ちくご型「くまの」に続く3代目。 |
|
2022年3月22日 | ||||||
3番艦 (FFM) |
のしろ | FFM-3 | 第13護衛隊 (佐世保) |
2021年6月22日 | 三菱重工 長崎造船所 |
秋田県を流れる河川「能代川」より 旧海軍軽巡「能代」、海自ちくご型「のしろ」に続く3代目。 |
2022年12月15日 | ||||||
4番艦 (FFM) |
みくま | FFM-4 | 2021年12月10日 | 三菱重工 長崎造船所 |
大分県を流れる河川「三隈川」より 旧海軍重巡「三隈」、海自ちくご型「みくま」に続く3代目。 |
|
2023年3月7日 | ||||||
5番艦 (FFM) |
やはぎ | FFM-5 | 第14護衛隊 (舞鶴) |
2022年6月23日 | 三菱重工 長崎造船所 |
長野県、岐阜県、愛知県を流れる河川「矢作川」より 旧海軍防護巡洋艦「矢矧」、軽巡「矢矧」に続く3代目。 |
2024年5月21日 | ||||||
6番艦 (FFM) |
あがの | FFM-6 | 2022年12月21日 | 三菱重工 長崎造船所 |
福島県、新潟県を流れる河川「阿賀野川」より 旧海軍軽巡「阿賀野」に続く2代目。 |
|
2024年6月20日 | ||||||
7番艦 (FFM) |
によど | FFM-7 | - | 2023年9月26日 | 三菱重工 長崎造船所 |
愛媛県、高知県を流れる河川「仁淀川」より 海自ちくご型「によど」に続く2代目。 (建造中止された旧海軍軽巡「仁淀」も含めると3代目) |
2024年12月予定 | ||||||
8番艦 (FFM) |
ゆうべつ | FFM-8 | - | 2023年11月14日 | 三菱重工マリタイムシステムズ 玉野本社工場 |
北海道を流れる河川「湧別川」より 海自ゆうばり型「ゆうべつ」に続く2代目。 |
2025年3月予定 | ||||||
9番艦 (FFM) |
なとり | FFM-9 | - | 2024年6月24日 | 三菱重工長崎造船所 | 宮城県を流れる河川「名取川」より 旧海軍軽巡「名取」に続く2代目。 |
2025年度予定 | ||||||
10番艦 (FFM) |
ながら | FFM-10 | - | 2024年12月19日 | 三菱重工長崎造船所 | 岐阜県、三重県を流れる河川「長良川」より 旧海軍軽巡「長良」に続く2代目。 |
2025年度予定 | ||||||
11番艦 (FFM) |
- | FFM- | - | - | - | - |
- | ||||||
12番艦 (FFM) |
- | FFM- | - | - | - | - |
- |
関連リンク
- 自衛艦のクルー制について(通達) 2017.11.1
作品
動画
静画
MMDモデル
関連項目
脚注
- *通常はディーゼル機関、高速航行時はガスタービンを併用する推進方式。効率はいいがディーゼルと回転数を合わせるガスタービン側の減速機の設計が大変。
- *「30FFM/日本」徳丸伸一 世界の艦船2021年2月号
- *韓国で天王山級や独島級揚陸艦が積んでて魚群探知機と揶揄されたアレ。なお非対称戦闘を前提としているので装備として間違ってるわけではないうえヨーロッパの艦は対潜水艦戦闘は基本的に艦載対潜ヘリに丸投げで艦そのものに対潜装備はあまり積まない傾向がある。というか太平洋戦争で敵潜水艦に補給線ズタズタにされたのがトラウマになって潜水艦絶対殺すマンになってしまった海上自衛隊の方がおかしい例外であることに注意が必要。
- *2021年10月1日より三井E&S造船株式会社から承継。
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