ラニ(競走馬)(Lani)とは、2013年生まれの日本の競走馬・種牡馬である。
日本馬として初めてアメリカ三冠に皆勤した馬。人呼んで「砂のゴールドシップ」。
概要
~2歳
父Tapit、母Heavenly Romance、母父Sunday Silenceという米国産馬。つって、母は天覧競馬の天皇賞(秋)を制したヘヴンリーロマンス、母父は言わずと知れたサンデーサイレンスなんですけどね。母が繁殖として渡米し、当地のリーディングサイアーTapitと交配して生まれたのがラニである。ちなみにラニは6番目の子供で、兄のアウォーディー、姉のアムールブリエもダート戦線で活躍した超良血である。
母に騎乗していた松永幹夫厩舎から2歳9月にデビュー。芝2000mだったが4着に敗れる。ダートに替わった2戦目も後にJDDを勝つキョウエイギアに突き放された2着。3戦目は3馬身半差でスカッと勝ち、続く自己条件のカトレア賞も勝って連勝を飾る。
3歳春
年が明けた2016年、2連勝で可能性を見た陣営はなんとアメリカ三冠への挑戦を決定。第1戦のケンタッキーダービーに出走するためのポイントを加算すべく、OPヒヤシンスSからドバイGⅡUAEダービーに遠征する計画を発表する。ケンタッキーダービーに出走した日本馬は95年のスキーキャプテンただ1頭ということで大いに注目を集めることになった。
しかし年明け初戦のヒヤシンスSは後方からコーナーで大外を捲って2番手に押し上げ直線で沈むという謎の競馬で5着に惨敗。勝ったのが後のダート王ゴールドドリームだったとはいえ、海外挑戦前としては情けない結果になってしまう。
この敗戦で一時はUAEダービー出走も不安視されたがなんとか招待され無事出走。やっぱり出遅れて最後方からの競馬になるが、向正面で果敢に進出し4角で大外を捲る…って前走と同じじゃねえか!
しかしこの日のラニは違った。逃げ粘る日本馬ユウチェンジに一時は離されるが力強く加速し一完歩ごとに差を詰め、残り100mあまりで先頭に立ちそのままゴール。自身初の重賞制覇を遠くドバイの地で達成した。日本馬のUAEダービー勝利は史上初。武豊にとっては2006年のアドマイヤムーン以来10年ぶりのドバイミーティング勝利となった。
そしてこの勝利で出走ポイントを加算したことで、ケンタッキーダービーへの出走権がほぼ確定。ラニは史上2頭目となるアメリカ三冠へ出走すべくアメリカへ飛んだ。
アメリカ三冠
迎えた大一番ケンタッキーダービー。この年は7戦無敗のNyquistが絶対的主力で、前哨戦サンタアニタダービーを圧勝したExaggerator、重賞連勝中のGun Runner(翌年に年度代表馬となるがそれは別のお話)が2,3番手評価。実績に乏しいラニは20頭中14番人気と低い評価にとどまった。レースもやっぱり後方から大外を捲る競馬になり、何頭かはかわしたが前には遠く及ばず9着に敗れる。勝ったのは圧倒的人気のNyquist。
ラニは休まず二冠目のプリークネスSに出走。頭数は大きく減って11頭となり、ラニは6番人気に押し上げられた。前走とは打って変わってズブズブの不良馬場の中、前走以上に離れた後方からの競馬。しかも捲りきれず後方のまま直線を迎えてしまうが、バテた先行馬の間を縫うように進出。止まらなかった前とは離されたが5着に食い込み、日本馬として初めてアメリカ三冠で掲示板に名前を刻んだ。勝ったのはダービー2着のExaggeratorで、二冠を狙ったNyquistは3着に敗れている。
最後は三冠目のベルモントS。三冠で最も過酷なレースであり、前走敗れたNyquistも回避。ラニは再び6番人気で本番を迎えた。レースは二の足がつかずやっぱり後方からの競馬。しかし鞍上の武豊は向正面から押し上げ、3角手前で早くも先団に取り付くほどの位置に出る。コーナーでややポジションを下げたが外目を回って直線に入ると徐々に加速。そしてスピードに乗って前へ迫る。地元アナウンサーも「Here comes Lani!!」と高らかに叫んだ。
勢いに乗って突き進むラニ。しかし前には先に抜けていた芦毛が1頭、そして内を猛然と突っ込んできた芦毛がもう1頭。この2頭の接戦を1馬身半後ろで眺めながらゴールすることになったが、後ろにはさらに2馬身半差をつけて3着に大健闘。勝つことはできなかったが、日本馬として初めてアメリカ三冠に皆勤し、しかも2回入着するという偉業を成し遂げたのである。なお、勝ったのは先に抜けていた方の芦毛で、ラニと同じTapit産駒のCreator。上位3頭を芦毛が独占するという少し珍しい結果になった。
なお、このラニの挑戦が大きく注目されたことで、翌2017年から日本国内の指定された競走の上位馬にケンタッキーダービーの出走ポイントを付与し、ポイントが最も多かった馬にケンタッキーダービーへの出走権が与えられる制度「JAPAN ROAD TO THE KENTUCKY DERBY」が創設されることとなった。この制度を活用して2019年にマスターフェンサーが内国産の日本馬として初めてケンタッキーダービーに出走、ラニを上回る6着に健闘している。
その後
こうして日本競馬史に残る偉業を達成したラニだったが、帰国後は精彩を欠く。元々の出遅れ癖の上に押しても押しても伸びなくなり、OP特別すら勝てず。翌年にはドバイWCにも遠征したが結果を残せず、翌年10月のOPブラジルCを最後に引退。アロースタッドで種牡馬入りすることとなった。
砂のゴールドシップ?
ラニは現役時代から芝GⅠ6勝の名馬ゴールドシップになぞらえられることが多かった。主な理由は以下の通り。
- 馬体
ゴールドシップとラニは共に芦毛。しかもゴールドシップはステゴ産駒のくせに常時500kg前後の雄大な馬角を誇ったが、ラニも最大550kgを超える巨体だった。 - 戦法
とにかくゲートが下手で、常に後方からの競馬。しかもコーナーで大外を捲り、直線をスタミナで押し切るというおよそ常識ではやらない競馬を得意とした。 - 距離適性
芝とダートの違いはあるが互いに長距離戦を得意とした。ゴルシは菊花賞や春天、阪神大賞典と長距離で多くの勝利を収めたし、ラニも日本の同時期では経験しにくい1900mのUAEダービーや米国でも設定は多くない2400mのベルモントSで好成績を上げている。 - 気性
やんちゃで聞かん坊。ゴルシの武勇伝は調べればわんさか出てくるが、ラニも調教ではまともに走らないクセに周りの馬を威嚇する、蹴る、噛みつくなどやりたい放題。ドバイではラチを破壊し、アメリカではあのカリフォルニアクロームにメンチを切って引き下がらせるなど暴挙を連発し、海外でも「クレイジーホース」と恐れられた。アメリカでゴジラ、キングギドラと戦うラニのコラが作られたほど。 - 年を重ねてからの問題
海外遠征以降は以前にも増してズブくなり、後方から全く伸びないまま撃沈するというレースを繰り返した。しかも何の因果か、アメリカから帰国した後3戦はゴルシの主戦騎手だった内田博幸が騎乗している。
なんだかんだで一番はどちらもファンに愛されたことだろう。現在は共に日高で種牡馬生活を送っており、そのうち長距離戦でお互いの産駒が喧嘩を始める戦うことがあるかもしれない。
血統表
Tapit 2001 芦毛 |
Pulpit 1994 鹿毛 |
A.P. Indy | Seattle Slew |
Weekend Surprise | |||
Preach | Mr. Prospector | ||
Narrate | |||
Tap Your Heels 1996 芦毛 |
Unbridled | Fappiano | |
Gana Facil | |||
Ruby Slippers | Nijinsky II | ||
Moon Glitter | |||
ヘヴンリーロマンス 2000 鹿毛 FNo.13-c |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
*ファーストアクト 1986 鹿毛 |
Sadler's Wells | Northern Dancer | |
Fairy Bridge | |||
Arkadina | Ribot | ||
Natashka |
クロス:Mr. Prospector 4×5、Northern Dancer 4×5
主な産駒
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