レオポルド・シューマッハ(Leopold Schumacher)とは、『銀河英雄伝説』の登場人物である。
CV.中田譲治(石黒監督版OVA)、小谷津央典(Die Neue These)。
概要
ゴールデンバウム朝銀河帝国軍大佐、銀河帝国正統政府軍にて提督の称号を受け、ローエングラム朝銀河帝国軍において准将。有能なビジネスマンをおもわせる顔立ちの持ち主で、帝国暦489年2月末に33歳。
作中もっとも数奇な運命をたどった人物のひとり。リップシュタット戦役ではフレーゲル男爵の参謀として貴族連合軍につき、男爵の死後部下とともにフェザーンへ亡命。皇帝エルウィン・ヨーゼフ2世の誘拐を実行し、銀河帝国正統政府の設立に加わる。”神々の黄昏”作戦と正統政府の倒壊を経て新帝国暦3年にローエングラム朝銀河帝国により逮捕され、のちに新帝国軍准将として登用されたが、宇宙海賊との戦闘中に行方不明となった。
経歴
20歳で士官学校を卒業してのち、軍務に就いた。キャリアは前線よりも後方での勤務のほうが多かったが、以後10年のあいだに大佐まで昇進している。
リップシュタット戦役と亡命
帝国暦488年のリップシュタット戦役勃発に際しては貴族連合軍に属し、フレーゲル男爵の参謀を務める。戦役末期のガイエスブルク要塞の戦い最終戦では、完敗があらわとなり狂気めいて敵将との一騎打ちをのぞむフレーゲルに対し、戦いをやめて落ちのびるよう諫言。反発し「滅びの美学」を謳うフレーゲルを「そういう寝言を言うようだから、戦いに負けるのです。要するに、自分の無能を美化して、自己陶酔にひたっているだけではありませんか」と痛烈に批判する。これを聞いて逆上したフレーゲルに射殺されかけるが、先んじて周囲の兵士たちがフレーゲルを射殺したことで難を逃れた。
この兵士たちから今後の展望を問われたシューマッハは、「いまさらローエングラム侯の陣営にくわわることもできんだろう」と、いっとき身を隠すこととし、兵士たちとともにフレーゲルの乗艦でフェザーン自治領へと向かった。彼はすでに戦争にも陰謀にも嫌気がさして静かな生活を望んでおり、フェザーンで艦を売却した代金を兵士たちに分配し、各自の自由にさせようとする。しかしそこは生き馬の目を抜くフェザーンの商業社会、帝国生まれの兵士たちはその恐ろしさを誇大に認識しており、とうてい単独で生き抜ける場所ではないように感じていた。
そこで彼らは、解散することなく引き続き参謀の思慮に頼ることとした。命の恩人たちに頼られたシューマッハも彼らを見捨てられず、とはいえ彼とて商才に自信があるわけではなかったため、より堅実な選択肢を選んだ。シューマッハたちは代金をアッシニボイヤ渓谷に土地と住居を得るもとでとし、集団での開拓農業を始めたのである。
銀河帝国正統政府軍へ
帝国軍人としての過去を捨て去り、フェザーンで農業を始めたシューマッハだったが、僅かに数ヶ月後に転機が訪れる。自治領主の補佐官ルパート・ケッセルリンクが彼のもとを訪問し、帝国旧体制派による幼帝エルウィン・ヨーゼフ2世の”救出”――つまり誘拐への参加を求めてきたのである。「悲しいかな、作物は市場で売れないことには意味がない」という素晴らしくフェザーン的な脅迫を受けると、彼は要請を受け入れざるを得なかった。
フェザーン自治政府が発行した別人名義のパスポートを持ったシューマッハは、同様にフェザーンに亡命していた伯爵アルフレット・フォン・ランズベルクとともに帝都オーディンへと赴く。彼らは見事に皇帝誘拐を成功させ、フェザーンを経由して自由惑星同盟へと脱出した。そして同盟の地で、”宇宙暦七九八年のねじれた協定”により、レムシャイド伯ヨッフェンを首班とする銀河帝国正統政府が設立されることになる。
これにともない、シューマッハも皇帝を”救出”した功を賞されて提督の称号を与えられたが、もとより正統政府軍に実体など無く、しかも正統政府をめぐる状況は見る間に悪化していった。ラインハルト・フォン・ローエングラムによる対同盟宣戦布告、”神々の黄昏”作戦の発動、フェザーンの占領、そしてバーミリオン星域会戦を経て、バーラトの和約において同盟は帝国の属国となり、銀河帝国正統政府は水泡に帰した。
逃亡と逮捕
ハイネセンが帝国に占領されたとき、ランズベルク伯は皇帝エルウィン・ヨーゼフ2世とともにいずこかへと逃れた。このときシューマッハがどうしていたか、ランズベルク伯に追随したのかは不明であるが、いずれにせよ、シューマッハもまた姿を消し、新帝国の官憲から逃れ続けた。どうやらフェザーン自治領主アドリアン・ルビンスキー(ロイエンタール元帥叛逆事件と前後してハイネセンに逃れていた)と関係を持ち、ランズベルク伯の動向だけでなく地球教関係の情報も多少得ることができる立場にいたようである。
その姿がふたたび浮かび上がるのは、新帝国暦3年7月のことである。”ルビンスキーの火祭り”に巻き込まれて負傷入院したなかに偽造された身分証明書を持つ者がおり、帝国軍憲兵隊が取り調べたところ、レオポルド・シューマッハであると名乗ったのである。彼はすなおに尋問に応じ、いくつかの新事実を語った。年頭に”皇帝エルウィン・ヨーゼフ2世の遺体”とともに逮捕されたランズベルク伯の供述は創作であり、ほんもののエルウィン・ヨーゼフは逃げ出していたこと、そして地球教最後の実働集団がいまだ皇帝ラインハルトの身をねらっていること、その二点であった。この情報は、ハイネセンへと帰還する軍務尚書パウル・フォン・オーベルシュタインのもとに伝えられている。
二ヶ月後、彼は恩赦によって釈放され、フェザーンにもどった。彼の希望は旧部下たちが残っているはずの農場に合流することだったが、フェザーンを取り巻いた数年の動乱を経て、アッシニボイヤ渓谷からは集団農場も旧部下たちも消えていた。居場所をなくしたシューマッハは、アルツール・フォン・シュトライト中将に推挙されて新帝国軍に准将の地位を得たが、のちに宇宙海賊との戦闘中、行方不明となったという。
なお、作中において、ゴールデンバウム朝、正統政府、ローエングラム朝という帝国系三政府すべての軍隊に属した経歴を持つ人物はシューマッハが唯一の存在である。
能力・人物
「理性に富み、任務遂行能力にすぐれ、必要に応じて自分ひとりで行動することも集団を行動させることもできる。きわめて”使いでのある男”のようであった」と評される有能な人物。するどさと勁さを兼ね備え、理性と思慮はフレーゲル麾下の兵士たちから高い信頼を受けていた。皇帝誘拐にあたっても、フェザーンの思惑を常に警戒しつづけるいっぽう、成功を期すべく各種の陽動作戦を提案し、フェザーンの弁務官事務所をほとんど脅迫してまで最低限の陽動実施と迅速な保護を約束・実行させている。
実際、軍内でも将来を嘱望されていた軍人のひとりであり、貴族出身でなく、後方勤務主体で前線での武勲を得る機会も少なかったにも関わらず、士官学校卒業後わずか10年で大佐まで昇進している。これはカール・グスタフ・ケンプ(32歳前後/帝国暦485年に大佐)のような、のちのローエングラム元帥府の面々にも匹敵(場合によっては凌駕)する昇進速度であり、軍から高い評価を受けていたことがわかる。人材収集には余念のないラインハルトも、のちに経歴を確認した際、それまで彼を見逃していたことを残念に感じたほどで、ラインハルト崩御後の新帝国軍への復職も「旧王朝時代の才識と経験をかわれ」てのものであった。
人格面でも、けして守旧的な人物などではなく、皇帝の誘拐と正統政府の成立といった自分の関わっている事柄が時勢に逆行する無意味なものに過ぎないことをはっきりと認めていた。しかしそれでも彼は情勢に流されるまま反ラインハルト・正統政府の一員としての立場をとりつづけざるをえず、信じてもいない正義に人生を賭けなければならない身を自嘲することもあった。
彼のその後について
「宇宙海賊との戦闘中、行方不明になった」というシューマッハの行く末は、銀英伝ファンの中でしばしば話題となる事柄の一つである。文章を単純に解釈すれば、宇宙海賊との戦いのさなかに明確には断言できない形で戦死し遺体も発見されなかった、ということになるが、他にも様々な考察が展開される。中には、当の宇宙海賊がシューマッハの離散した旧部下であり、それを知ったシューマッハが彼らと合流して宇宙海賊となった/新天地の開拓に向かったのだ、といったものもある。
しかしいずれの考察にせよ、作中に明確にされていない以上、あなたはこの考察を信じてもいいし、なぞめいた形で乗員を失ったシューマッハの乗艦が大宇宙をさまよっているのだと思ったり、大和型四番艦めいた謎の独立戦闘艦に乗って人類の敵と戦い続けているのだと考えたり、あるいは旧帝国軍の再建を目指して銀河の何処かでドリル戦艦を造っているのだとみなしてもよいだろう。たぶん。
関連動画
関連項目
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