ミサイル防衛 単語

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ミサイル防衛

ミサイル防衛(MD:Missile Defense)とは、弾道ミサイルに対しての防衛システムについての総称である。BMD(Ballistic Missile Defense)とも呼ばれる。

概要

ゴルフに例えればですね、相手はゴルフ場のどこかに居て、これからティーショットをする……打ち出されたボールミサイルです。」
「どこかに隠れた相手がボールを打ち出した間気がつく! そこであわてて自分も……ティーショットを打つ!」
「そこで、たがいのボールを、中で衝突させる! それがTMDです!」

「あらゆる情報網が必要でいつでも臨戦態勢のスタッフりつき、衛星、地上、上の動きを時に察知し、それを判断できる組織が出来て……初めて機するシステムです。」

ゴルゴ13「戦域ミサイル防衛 TMD 」 (1999年8月)より

ミサイル防衛とは、相手側から打ち出されたミサイルから自分たちを防衛するために生み出された構想、およびその防衛体制やシステムを総称するものである。

相手がミサイルを発射したことを察知して自分たちもミサイルを発射し、ぶつけるかあるいは近くで爆発することで誘爆させ、相手のミサイル効化させるという手法が基本となる。
しかし、実際にそれらを行うには、相手のミサイル発射をいかに期発見できるか、発見したところでいつ迎撃するのか、どこで迎撃するのかといった、ミサイル発射後の各段階に分けてさまざまな対応を行っていかなければならない。

また、地上のレーダーだけでなく衛星といった陸すべてのシステム活用しなければならないこと、相手の物量攻撃に備えた質と量のった迎撃手段が必要になること、各段階での迎撃が失敗したときは次の手段も必要になること、などといったもろもろの問題もあるため、軍事技術の向上にともなって防御の負担も増加している。

近年は北朝鮮ミサイル実験の活発化によりネットテレビでこの単語が多く出て来るようになってきたが、アメリカでは陸ミサイル研究開発を統合した専門機関「ミサイル防衛局」を1993年には設けている。

アメリカのミサイル防衛

ABM[1]

1950年代末にアメリカ弾道ミサイル迎撃ミサイル(ABM)の開発を始めた。まず、5メガトン核弾頭を搭載し、高度20km以上で敵の弾道ミサイルを迎撃する「ナイキジュース」と、より低高度で迎撃を行う核搭載ABMナイキ・スプリント」の開発を開始、その後ナイキジュースナイキスパルタンと改称され搭載弾頭も1メガトンのものに変更された。1967年に防御システム開発する計画はセンチネル計画と改称、2年後にはセイフガード計画に改称された。全の12箇所にABM基地を置き、ICBM基地を守る計画だった。

1972年ソでABM条約が締結され、両国のABM基地の数を各々2箇所(後に1箇所になった)に、ABMの数を100発にすることが決められた。アメリカ側はグランドフォークスにABM基地を置いたが半年も経たずに運用を停止。それ以来核弾頭を搭載したABMは配備していない。ソ連モスクワを取り囲む形で核弾頭搭載のABMを64基配備し、ロシアになった今もミサイル近代化しつつ運用し続けていると考えられている。

SDI

1980年代、レーガン政権下ではSDI(戦略防衛構想) = スターウォーズ計画とも言われた、レーザー兵器レールガンなど現在でも現実味のない兵器により核ミサイルを迎撃しようとするプランが誕生した。これに対抗しようとしたソ連が巨額の軍事費負担により崩壊していった…という説もあるが、現在ではいささか懐疑的に取られている。もし本当だとするとSDI計画により、結果的に話はややこしい方向に向かっていったことになるが…。

GPALS

ソ連が崩壊したことでSDIの必要性は薄れたが、その後のイランイラク戦争湾岸戦争で、「戦域弾道ミサイル世界への拡散」が大きな脅威として認識されるようになった。これに対処するため、ジョージブッシュ政権(1989-1993)はG-PALS(限定した攻撃に対する全世界防衛)と呼ぶシステムを提唱したが、これは宇宙配備の警・迎撃システム力に地上配備の迎撃ミサイルを組み合わせており、ABM条約(宇宙空間への弾道ミサイル迎撃システム実験・配備を禁じている)に抵触する可性があった。

TMD以降

クリントン政権(1993-2001)ではABM条約に絡む問題の煩雑さを嫌い、G-PALSを破棄し、ABM条約に抵触しない地上発射の迎撃ミサイルシステムだけをTMD計画として推進することにした。当初はTMBD(戦域弾道ミサイル防衛)という略号が使われたが、巡航ミサイルにも対処することになり、Bを取りTMDとなった。TMDではパトリオットPAC-3THAAD開発が開始され、米海軍でも低での迎撃を行うNAW海軍広域防衛)用のSM-2ブロックAミサイルと、大気圏外で迎撃するNTW海軍戦域防衛)用のSM-3ミサイルを計画した(後にNAWは中止)。

その後TMDNMDと名前を変え、各種の装備が開発が行われる一方、予算や技術的障害に合い、統合、止を繰り返している。

そして現在、ミサイル防衛(MD)、弾道ミサイル防衛(BMD)はある一定のシステムにより実現可なところまできている。

ミサイル防衛について

ミサイル防衛における三つの段階(フェイズ)

(弾道)ミサイル防衛は三つの段階(フェイズ)に区切られて考えられており、それぞれ対応する兵器システムが存在する。

■ブースト・フェイズ (上昇段階)
ミサイルが発射され、大気圏外に出るまでの間をす。
ここでの防衛方法で現在開発中なのは中発射レーザー(ABL)及び運動エネルギー迎撃弾(KEI)があげられる。
ABL搭載のテスト機であるAL-1(B-747の機体をベースにしたもの)が開発されていたが技術的にも難航したものの2010年2月、実際AL-1が試射された弾道ミサイルの撃墜テストに成功。成果をあげつつあったのだが、2011年12月AL-1開発は中断(モスボール保存)されることが決定。ただし、レーザー兵器研究開発は続行するとのこと。
KEIは後述するSM-3よりも大の12m強のミサイルで、運動エネルギーを用いた直撃破壊をしているが、現在これも開発中のためどうなるか先行きは不透明陸上上からの発射を可にする模様。
■ミッドコース・フェイズ (中間段階)
ミサイルが大気圏外に進出し、宇宙空間を飛び最終落下にいたるまでの慣性飛行段階をす。
現実的にはこの段階での迎撃が一番理想的(ミサイル探知、付随被害の防止の観点から)であり、現在イージス艦に搭載するスタンダード対空ミサイルベース開発されたSM-3ミサイルが実用化されつつある。イージス艦にBMD力を付与することによって運用可になるミサイルで、現在SM-3は日共同開発によるブロック2が各種迎撃テストの続行中。旧ブロック1-Bが制御不能のまま落下中の衛星を撃墜するという「実戦」で見事クリア。BMDの中核ともいえる存在になっている。
また後述するGBI(Ground Based Interceptor)ミサイル代替として、SM-3の地上発射システム開発が行われることが最近決定した。[2]
■ターミナル・フェイズ (終末段階)
ミサイル標に対して大気圏外から再突入し、命中するまでの間をす。
この段階での撃墜は付随被害を発生させるが、背には変えられないといったところ。また高速で落下する弾頭部に対して被害を与えるには技術的障害も大きい。
大気圏上層(成層圏より上)の撃墜はTHAADミサイル、それより下に突入した段階ではパトリオットPAC-3がその役を負う。

MD/BMD対策

このようなアメリカMD/BMD技術の発展に伴い、ロシアは従来までのMAD(相互確破壊)理論の前提が崩れてしまう点を踏まえて危惧のを揚げる一方、このようなMD/BMDの各種迎撃手段に対する対抗処置も導入が行われつつある。MIRVと呼ばれる多弾頭化対策が施されたSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)R-30"ブラヴァー"など開発が行われている。

ダーティー・ボム[3]

ダーティーボムを装填した弾道ミサイルは大気圏に再突入すると標地点の上爆薬を点火して自爆、再突入体に充填している放射性汚染物質(原子炉から取り出した燃料棒を硝で溶かしてから燥させたもの)が大気中で飛び散ってそのまま地表に降り注ぐ。例えMDによって大気圏内で破壊されても結果は変わらない。もちろん北朝鮮のような国家はダーティーボム安価に大量生産できる。

日本政府福島第一原発の近傍の町に住民が戻ることを許しておらず、同じ安全基準をあてはめるなら、どんな大都市であろうとダーティーボムが何発も降ってきた都市には、住民は半永久的に戻れないことになる。これを効化するためには少しでも高い高度、できれば大気圏外(ミッドコース)でミサイルを撃破する必要がある。

日本のミサイル防衛

日本におけるミサイル防衛が切実なものになったのは北朝鮮が行ったテポドンの発射テストが行われたことがきっかけである。アメリカと違って、日本の場合、ミサイル攻撃を行うであろう「仮想敵」は日本に隣接しているといってもよく、ミサイルの探知から迎撃に残された時間はあまりにも少ないことが問題であった。内では様々な意見が飛び交ったものの、アメリカの技術を取り入れることを決定。急な勢いでミサイル防衛(にまつわる様々な計画が)行われることなった。以下は大まかな対策。

論、これらの開発・導入費用は巨額なもので、日本は基本的に防衛費からこれを捻出する結果となった。これにより自衛隊はありとあらゆるところで予算不足に喘ぐ破になっていることも書かねばならないだろう。
(またイージス艦の運用についても大幅な変更が行われることになるなど、各種運用についても変化がめられることになった。…宇宙開発関係者からは偵察衛星の導入などについても色々と言いたいことは山ほどあるらしい。気持ちはわからないわけでもない…)

2009年北朝鮮ミサイル発射実験などに応じてパトリオットPAC-3部隊の展開などが行われたが、現状の部隊配備や編成では日本全域を網羅するには足りず、まだ問題を数多く抱えていることが判明した。THAADミサイルシステムの導入まで行うか、あるいは近頃開発されるというSM-3の陸上発射で対応するのか、まだ日本のミサイル防衛はこれからというところであるのが実情である。

また、前述した通り、日本におけるミサイル防衛は技術的困難さが付きまとうのも事実である。さらには日本国内におけるミサイル防衛について誤解、様々な政治的な立場による責任な発言が政治家から行われるなど、いろいろな問題もある。


しかしながらミサイル防衛は切実な問題である一方、日本現在おかれた政治的、思想的立場からすると、ある種の理想的な防衛システム(つまり、核ミサイルによる相互確破壊 = MADに頼らずして自の防衛を確立できる)という点も無視できない利点ともいえるだろう。

問題点

たとえさまざまな迎撃態勢をとったとしても、弾道ミサイルは対処することが非常に難しい。

理由を列挙すると以下のようになる。

通常のミサイルと違う
弾道ミサイルは誘導を行うのは打ち上げ直後の数分間だけで、あとは弾道特定地点に落下してくるため、通常のミサイルのように狙った相手を常に追いかける誘導性のものではない。
つまり、通常のミサイルに有効なチャフ / フレア / ECMといった、誘導機を妨するごまかしの手段(ソフトキル)が通用しないため、物理的な手段で迎撃(ハードキル)しなければならない。
非常に高速である
物理的に迎撃する必要があるのに、物凄い速さで飛んでくるのだからたまったものではない。弾頭が再突入するときの速度に至ってはマッハ20以上なんてこともある。
着弾までの時間が短い
ロシアからアメリカといった大陸弾道弾のようなものでも打ち上げから着弾まで30分程度しかかからない。北朝鮮から日本へ飛んでくる可性のあるノドンテポドンなどはさらに短い。
発射地点がどこだか分かりにくい
そもそも射程が長いのでこちらへ飛んでくるまでわからないことが多いという恐ろしさもあるが、弾道ミサイルの中には移動式プラットフォームである車両列車から発射するものなどもあり、実際に世界初の弾道ミサイルであるV2は一度も発射前に発見されることがなかった。現在潜水艦発射弾道ミサイルSLBM)などの中に潜む戦略原潜から発射してくるものさえあるためお手上げ状態である。
宇宙空間を飛んでくる
つまり飛行する高度が高いため、弾道ミサイルを迎撃する理想的な段階の中間段階では、迎撃手段もかなりの長射程がめられる。「変遷」の項にあるスターウォーズ計画のように、弾道ミサイルを迎撃するための人工衛星を打ち上げようという話もあったが、あまりにもコストが高く頓挫してしまった。
そもそも数が多い
例えばロシアアメリカ弾道ミサイルを撃ってくる場合、数発が同時に、いろいろな地点から、いろいろな標へ向かって発射されるであろうことは想像に難くない。現実的に考えてこれらすべてを迎撃することは不可能に近く、たとえ99%を迎撃したとしても数発は核兵器が着弾することになる。
近年の弾道ミサイルクラスター爆弾のように小核兵器をいくつも搭載しているものが登場しており、一発弾道ミサイルでいくつもの弾頭が降ってくる。また迎撃に備えて軽量のデコイ(囮)の弾頭を放出するものもあり、終末段階での迎撃を一層困難にしている。
中国ミサイルなどはまさに物量による攻撃(数で勝負)を志向しており、ICBMの一つである東41(DF-41)は最大10個の核弾頭を搭載でき着弾前に分散する"散弾ミサイル"であるとされている。2019年軍事パレードでは東41が16基もお披露された。 [4]
ミサイル防衛を回避するミサイルもある
近年になって開発されたロシアの極音速ミサイルアバンガルド」は、迎撃用のレーダーを避けるため垂直・方向への移動ができる様になっている(とされている)。ミサイルを迎撃するには相手のミサイルに当てないとダメなので、攻撃側の動きが不規則だと当然ミサイルを当てづらくなるため、防衛側が不利になるという部分がある。 [5]

また、技術的な問題ではないが大量破壊兵器は迎撃したとしても、兵器の残骸が問題になる。弾頭が核兵器であればウランプルトニウムが飛散してしまうし、化学兵器であれば熱に耐えるものならやはり飛散してしまい、落下地点の周囲を汚染してしまう。生物兵器に関しては熱で化されてしまうのでこの限りではない。

こういった様々な理由から、3つの段階(フェーズ)のうちどの段階でも弾道ミサイルを迎撃することは技術的に容易ではない。

そのため、今のところはミサイル防衛よりも、こちらも核兵器を搭載した弾道ミサイルレーダー網を用意して敵が弾道ミサイルを撃てばそのに全力で撃ち返せる体制を整えることで、「互いが互いのを滅ぼせる力を持っているため、相手に対してうかつに大量破壊兵器を使用できない」という、相互確破壊という考え方のほうがより現実的で確実な対策である。

ミサイル防衛の環境

日本 北朝鮮 中国 ロシア
人員 24万人 128万人 203万人 90万人
船舶 134 780隻 740隻 260隻
航空機 400機 560 2720機 390
ミサイル
(核弾頭)
- 30 40発 320 6375発
防衛費
(公称)
約5兆円 - 約19兆9200億円 約6兆7000億円

2020.06.26 テレビ朝日報道より [6]

現行の環境は、日本の周辺国家に限ったものである。

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関連項目

関連リンク

脚注

  1. *兵器戦略」江謙介 朝日新聞社 1994
  2. *GBIミサイル:手っ取りく言うと、既存の弾道ミサイルを迎撃ミサイル化した非常に力技的なシロモノで、発射設備も従来のミサイルサイロを転用する…というもの。的としては大陸弾道クラスミサイルを撃墜するためにある。運搬を可にした簡易GBIも計画に上がっていたが、欧州におけるミサイル防衛はロシアの反対もあり紆余曲折。結局はSM-3の地上発射開発が行われることになった。
  3. *空母を持って自衛隊は何をするのか」兵頭二十八 2018 徳間書店 pp.93-95
  4. *2020年6月26日テレビ朝日「"極音速"時代 の脅威」より
  5. *2020年6月26日テレビ朝日「"極音速"時代 の脅威」より
  6. *2020年6月26日 テレビ朝日「拡大する軍備"日安保"のいま」
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