ファンディーナ(Fan Dii Na)とは、2014年生まれの日本の競走馬・繁殖牝馬。青鹿毛の牝馬。
牝馬ながら2017年の皐月賞に出走し、1番人気に支持された事績で知られる。
7戦3勝[3-0-0-4]
主な勝ち鞍
2017年:フラワーカップ(GⅢ)
概要
父ディープインパクト、母*ドリームオブジェニー、母父Pivotal。
母*ドリームオブジェニーはフランス産。未出走のまま日本に繁殖牝馬として輸入され、ディープインパクトとの間に産んだ本馬は2番仔。母父ピヴォタル(Pivotal)は現役最後のレースで挙げた英ナンソープステークスのGI1勝のみだが、種牡馬としてはドバイWCを制したアフリカンストーリー(African Story)など数多くのの重賞馬を出し成功を収めた。日本では他にミッキーロケットの母父になっている。
馬名「ファンディーナ」(Fan Dii Na)はタイ語で「良い夢を」の意味(日本語の「おやすみなさい」のように、これから寝る人への挨拶に用いる)で、母の名からの連想。
生産はサクセスブロッケンなどを輩出した浦河町の谷川牧場、馬主はターフ・スポート。栗東・高野友和厩舎所属。騎手は2戦目の500万下つばき賞(川田将雅騎乗)を除き岩田康誠が務めた。
戦歴
無傷の3連勝
明け3歳となった2017年1月22日の新馬戦(京都芝1800m)でデビュー。この時点で516kgという牡馬顔負けの恵体であり、しかもスタートから簡単にハナを奪うと、直線では岩田康誠が手綱を持ったまま2着に9馬身差圧勝の鮮烈なデビューを飾った。続いて川田将雅のテン乗りとなった2月19日の500万下つばき賞(京都芝1800m)では、3番手進行から直線ぐんぐん脚を伸ばして大逃げ馬をかわし、2連勝。
3戦目、重賞初出走の3月20日フラワーカップ(GⅢ)では、道中2番手から4角で岩田がゴーサインを出すと、やはりあとは持ったままで5馬身差・レースレコードの完勝。圧倒的な内容で無傷の3連勝を飾った。
この年の牝馬クラシック戦線大本命は、無敗で阪神JFを制し前哨戦のチューリップ賞も快勝した超良血「16冠ベビー」ソウルスターリング[1]。桜花賞を目前に、これに対抗し得る強力な馬が現れた、と思われていたのだが……。
ファンディーナ陣営から発表されたのは「追加登録料を支払って中3週で皐月賞に出走する」という、驚きのローテーションだった。
皐月の夢へ
「牝馬と皐月賞」の歴史
「牝馬の皐月賞出走」の事例は、2014年(勝ち馬イスラボニータ)のバウンスシャッセ(12番人気11着)以来3年振りである。「3年振り」と書くとたまにはそういう牝馬もいるのかと思えるが、21世紀に入ってからはこの2014年バウンスシャッセの出走が初例であり、その前というと1991年(勝ち馬トウカイテイオー)のダンスダンスダンス(15番人気5着と健闘した)まで飛び、さらにその前というと一気に1953年(勝ち馬ボストニアン)のチエリオ(1番人気6着)まで遡らねばならない。
戦前や戦後すぐの時代であればたまに牝馬の出走はあり、1947年トキツカゼ・1948年ヒデヒカリと2頭の牝馬の勝ち馬も誕生している。ただしこの2頭は「農林省賞典」の競走名で東京芝2000mで開催されていた頃の勝ち馬であり、1949年に「皐月賞」に改称・中山開催に変更されてから牝馬の勝ち馬は出ていない。それどころか、1950年代半ば以降は牝馬が皐月賞への出走を選択すること自体が、歴史上数例しかない極めて稀なケースなのである。
1991年ダンスダンスダンス・2014年バウンスシャッセとも、「フラワーカップ → 皐月賞」というローテはファンディーナと共通する。しかしこの2頭は美浦所属の馬であり、栗東所属のファンディーナが同じローテを採ると中3週で中山競馬場に2往復の遠征を行わねばならないのだ。この点も大きな不安要素と言えた。
皐月賞64年振り牝馬1番人気
そして迎えた2017年4月16日、第77回皐月賞。史上稀な牝馬の挑戦に、中3週のローテ、月2回の関東遠征と不安要素の数々がありながらも、ファンディーナはなんと単勝2.4倍の1番人気に支持された。2番人気が7.0倍なので堂々の本命であった。先に述べた1953年チエリオ以来、実に64年振りの皐月賞牝馬1番人気である。
「そんなにこの世代の牡馬は不作だったの?」と思うかもしれないが、皐月賞で2番人気以下の馬を並べると、2人スワーヴリチャード、3人カデナ(弥生賞など重賞3賞を挙げ種牡馬入りも果たした)、4人ペルシアンナイト、5人レイデオロ、6人ウインブライト…と、後のGⅠ馬たちが数多く並んでいる。
そして結果的にこの皐月賞をレースレコードで勝利するのは9番人気のアルアイン。その他にも後にGⅡ2勝の名脇役ダンビュライト(12番人気3着)や、菊花賞2着・京都記念制覇からダートに転じて長く活躍したクリンチャー(13番人気4着)が掲示板に食い込んだ。あくまで後年から見渡した後出しでの評価となるのは大目に見てもらいたいが、突出した大エースは不在でも早枯れに終わらず古馬まで結果を残した馬が揃っており、不作の皐月賞という評価は到底当たらないだろう。
ただ、この世代の朝日杯FS勝ち馬・2歳王者サトノアレスが3歳初戦のスプリングSで4着に敗れて評価を落とすなど(皐月賞では上がり最速の末脚は繰り出したものの、出遅れが響いて8番人気11着)、この時点では「今年は牝馬豊作の気配、一方牡馬は…」といった評価が大勢で、クラシック三冠戦線は本命不在の混戦模様を呈していた。そんな中に、牡馬にも劣らぬ大柄な馬体で圧勝を続ける牝馬が緊急参戦した。この挑戦に対し、ファンディーナに夢を託した購入者が大勢いた結果の1番人気ということである。
夢破れたり
4枠8番から好スタートを決めたファンディーナは、4・5番手の内目好位を確保。3・4角を使って岩田は馬を外に出し、直線の入り口で先頭に立つ。……ここまでは十分な形だったが、直線で伸びなかった。後方から殺到する馬群に飲まれ、アルアインがレースレコードの1分57秒8で勝利する中7着。一瞬見せ場は作ったものの、異例の牝馬挑戦は苦い結果に終わった。
桜花賞直後には次走として日本ダービー参戦計画も示されていたものの、その後オークス狙いに方針変更、さらに馬体の回復の遅れから春を全休することが決まった。
引退へ
秋はローズステークスから復帰したものの6着。これは皐月賞から+22kgと太め残りでの叩きとしても、2戦連続の掲示板外で流石に評価を落とし、続く秋華賞ではアエロリットに続く2番人気(5.6倍)と初めて1番人気を譲った。2番手先行でレースを進めたものの、重馬場の中直線で脚が止まり13着の大敗。
立て直しを図って、12月には初のマイル戦となるリゲルS(OP)に出走するも9着。レース後、右後脚を痛がる素振りを見せていたが、その後骨盤部の右腸骨骨折が判明。長期休養に入ったが、翌2018年7月、復帰を断念し引退・繁殖入りすることが発表された。高野友和調教師は引退に際し「皆さんに申し訳ない。これからの人生で、後悔の感情が心の奥底にずっと残りそうです」とのコメントを残している。
異例の皐月賞挑戦も実らず、その後大きく歯車を狂わせてしまったファンディーナだったが、いつか果たして、夢を継ぎ皐月を制する牝馬は現れるのだろうか。
血統表
ディープインパクト 2002 鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
*ウインドインハーヘア 1991 鹿毛 |
Alzao | Lyphard | |
Lady Rebecca | |||
Burghclere | Busted | ||
Highclere | |||
*ドリームオブジェニー 2008 青鹿毛 FNo.2-d |
Pivotal 1993 栗毛 |
Polar Falcon | Nureyev |
Marie d'Argonne | |||
Fearless Revival | Cozzene | ||
Stufida | |||
Glia 1999 鹿毛 |
A.P. Indy | Seattle Slew | |
Weekend Surprise | |||
Coup de Genie | Mr. Prospector | ||
Coup de Folie |
クロス:Halo 3×5(15.63%)Northern Dancer 5×5(6.25%)
- 母*ドリームオブジェニーはフランス産で未出走。母の半姉スージングタッチ(Soothing Touch)の子にアメリカンオークスなどGI4勝のエモリエント(Emollient)。
- 曾祖母クードジェニー(Coup de Genie)はMachiavellianの全妹。現役時はフランスのモルニ賞・サラマンドル賞の2歳GI2勝を挙げ仏最優秀2歳牝馬。繁殖に入っても直子からマルセルブサック賞勝ち馬デネボラ(Denebola)を出し、その牝系からは先述のEmollient以外にも、凱旋門賞馬*バゴ、イスパーン賞・ムーランドロンシャン賞のマキシオス(Maxios)、日本ではファンディーナ以外にナムラクレアなどが出ている。
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関連項目
脚注
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