ブラックバス(英:Black bass)とは、スズキ目サンフィッシュ科の淡水魚の内、オオクチバス属に属する魚の総称である。釣り人に人気の淡水魚である。単にバスとも。 ブラックと言うわりにバスの体色は概ね緑である。
概要
北米原産。世界の河川に生息。とにかく繁殖力・生命力が強く、いろんな河川に放流されては爆発的に増加し、在来種を駆逐する存在として問題視される。
1925年、芦ノ湖に初めて放流された。誤解される事も多いが、ちゃんと政府の許可をとっての放流である。ただし、当時からその旺盛な魚食性が危惧されており、わざわざ独立水系である芦ノ湖が選ばれたという経緯がある。
ところがなぜかいつの間にか全国の湖沼に拡散。80年代からその増加が社会問題化。現在では既に全都道府県で生息・繁殖が確認されているが、バスの増加・在来種の減少を留める直接的な対策は無く、放流禁止などが定められている。
現在では特定外来生物法によって輸入、飼育、生体での移動が禁止されている。ただし、釣りはOK。リリースも禁止では無いが県によっては禁止されている事があるので注意。
バスの種類
- オオクチバス(ラージマウスバス) 学名:Micropterus nigricans
普通、ブラックバスと言えばこの種類の事。非常に大きな口が特徴であり、見た目の通り動くものにならなんにでも食いつく悪食。汚濁水質にも強い。泳力は強くなく、池や沼、湖を好む。基本的に水温20度くらいの温水域を好むため、東日本より温暖な西日本で大型の物が多く見られる。意外と捕食力が低く、獲物を追いかけるのではなく待ち伏せして捕らえる。実は、増殖期が終わったため(日本の環境になじんだため)近年急速に生息数を減らしている。
学名は長らくM. salmoidesが使用されてきたが、2022年に現在のものに変更になった[1](フロリダバスの項目も参照)。 - コクチバス(スモールマウスバス) 学名:M. dolomieu
最近、日本の河川で大繁殖中。口はかなり小さいが、オオクチバスよりも泳力が強く、日本の河川の激しい流れにも対応し、おまけに冷水にも強い。つまりオオクチバスよりも日本向き。しかも極めて獰猛。釣りの対象魚としてはラージの倍くらい引くので面白いのだが…。 - フロリダバス 学名:M. salmoides
オオクチバスの近縁種であり、亜種とされることも多い。オオクチバスと殆ど見分けがつかず、容易に交雑するため日本のフロリダバスの多くが雑種である。非常に大型になるのが特徴であり、時に70cmとかになる。奈良県池原ダムに最初に放流され、琵琶湖でも生息が確認されている。ロクマルと呼ばれる全長60cmオーバーのフロリダはバサーの憧れの的。
学名は長らくM. floridanusが使用されてきたが、2022年の再検討によりかつてオオクチバスの学名であったM. salmoidesに変更された。ややこしい。 - ノーザンスポッテッドバス 学名:M. punctulatus punctulatus
琵琶湖などにいるらしい。口がちょっと小さい。大きさもやや小型だが、泳力は強くて良く引く。スポッテッドバス(学名:M. punctulatus)の亜種の1つである。
バスフィッシング
ブラックバスはとにかく釣りの対象として大人気であり、バス釣りは最もメジャーなジャンルの1つである。
そこらじゅうの河川にいることや、引きがパワフルなことが理由。日本でも80年代後半にブームが起こって以降、現在に至るまで高い人気を誇る。
ルアー釣りの印象が強いが、ミミズなどの生餌を使うこともある。
ニコニコでも、バスフィッシングの様子を撮影した動画は『バス釣り』『ニコニコバス釣りクラブ』のタグで纏められており、フィッシング動画の人気が高くない中でも一定の人気を得ている。
食用・味
上述のように増加が問題視されていることもあって、キャッチアンドリリースではなく持ち帰って料理することが勧められることもある。
ちなみに、他の河川への放流はもちろん、生きたまま持ち帰ることも禁止されており、釣ったその場で絞めて帰らなくてはならない。
淡白な白身魚で、天ぷらやムニエル、フライにすると美味しい。スズキや鯉に似ていると言う。アメリカではスーパーで普通に売っているものであるとか。
ただ、身は美味しいものの皮が非常に臭いため、これを剥がないと食えたものではない。また、淡水魚なので刺身はNG。
90年代のバス釣りブーム
それまでは魚釣りといえば海釣りのサビキ、鯉や鮒釣り、渓流での鮎釣りなど、いずれにせよゴルフなどと同列の完全に中高年の趣味だった。
同様に釣り道具といえば高価なもの、専門的なものというイメージだった。
フライフィッシングや鱒釣りなど肉食魚を対象としたルアー釣り自体は以前から存在したが
いずれも限られた管理釣り場や漁協が管理する河川で、数千円程度のそれなりの入漁料を払って
放流された魚を釣るというもので、素人が思い立って気軽に始められるような敷居の低いものではなかった。
一方で、ブラックバスは北海道から沖縄までどこにでも放流されており、主要な河川、湖、その辺の野池、農業用溜池、皇居など文字通り魚がいる場所であればどこにでもいた。バス釣りで使われる竿は5-6フィートの小型ロッドであり、子供や女性でも簡単に扱えるサイズだった。
生きた小魚やミミズや虫などに針を刺して餌とする生き餌とは違い、疑似餌は誰でも気軽に触れるものだった。
複雑な仕掛けも必要なく、ルアーと糸を直結させるだけですぐに釣りを始められる手軽さもあった。
オモチャのように面白い見た目の多種多様なルアーの存在は釣り道具という価値以外にも
コレクターズアイテムとしての側面もあり、バス釣りは単なる、魚を釣るだけのものという枠組みを超えて、たちまち空前の大ブームとなった。
実際に人気メーカーの人気ルアーは店頭でも売り切れが続出し、プレミア価格がつくほどだった。
本屋にはバス釣りの雑誌や増刊号、特別号が溢れ、民放各局で釣り番組が増加した。
人気芸能人がバス釣りに挑戦するバラエティ番組なども放送されたり、ついにはゴールデンタイムでバス釣りのアニメまでが放送されたりした。
メディアなどで人気の釣り場として紹介された場所はたちまち釣り人が大挙して押し寄せ、竿を振るのにも苦労するほど 釣り人が密在している状況となった。
90年代中頃にはプレイステーションやセガサターンといった新世代、3D技術を駆使したテレビゲーム機が世に出て子供達を魅了したがそれでもバス釣りの人気は衰えることなく、テレヒゲームに浸りがちな子供達をそれでもなお水場へ、自然へと誘い、生き物と触れ合わせる機会を提供した。
(無論、バス釣りのテレビゲームも存在した。)
先述の池原ダムは、本来は単なる山奥深くの貯水池で、辿り着くのも相当に困難な過疎地だったが、バス釣りを地域経済の柱とすることで、ボート業者が林立し、自治体自らがブラックバスを放流し、大規模な釣り大会を定期開催するなど、現在まで訪れる釣り人が絶えないバス釣りの聖地として、好況の様相を呈している。
ブーム終焉
釣り業界や釣り場周辺の商業施設など、恩恵に預かる者にとってはまさに空前の好景気、バス景気だったが、それらとは無縁の者にとっては、釣り人は迷惑な存在でしかなかった。
ブラックバスがどこにでもいる、それを狙う釣り人もどこにでも現れる。必然的に様々な問題を引き起こした。
路上駐車、ゴミの問題、私有地の池に無断で侵入するなど、釣り人の弊害に頭を悩ませた結果、釣りを禁止にする場所が相次いだ。
海や川や湖でなくとも釣れる、どこにでもある小さな池でも釣れることがバス釣りの間口を広げていたが、そういった池やその周辺環境は、そもそも釣りをする為の場所ではなかった。
少数の地元民が秘密の釣り場のように利用していた場所に、バス釣りブームの只中、遠方から釣り人が大挙して押し寄せた結果、釣り禁止になる、というような例は枚挙に暇がないだろう。
2000年代に入りインターネットや携帯電話の普及で一気に情報化社会が加速。程なくしていつでも他人と遊べるネットゲームが爆発的な人気に達する。
90年代とは違い、もはやバス釣りに若者を引き留めるだけの訴求力や土壌はなくなっており、完全にブームは終了し過去のものとなっていた。
2005年、外来生物法が成立。これにより釣り上げたブラックバスをその場から移動させることが不可能となった。
また地球温暖化、ハイブリッドカーや電気自動車などの登場で環境の保全、生態系の重視などに関心が高まり、それまでブラックバスを好き放題に放流し、現状を作った、釣り人や業界関係者の行いが完全に敵視されることとなった。
かつてのブームの只中、「ブラックバス」という単語は 世間的には、「釣りの人気魚種」というだけの、何の偏見もない言葉だった。
しかしブームの興亡を経た現在、その単語は生態系の破壊者、忌まわしい存在として連想されるようになっている。
功罪
ブラックバスをきっかけとした、外来魚の弊害、生態系への悪影響に関心が高まった結果、
ブラックバス以外の魚にも同様の観点からの疑問が投げかけられることも増えつつある。
たとえば鯉、以前は馴染み深い魚としてブラックバス同様にどこにでも放流されていたが
現在は悪しき外来魚、バスと同じかそれ以上の環境破壊者として、安易な放流を控える向きも出てきている。(実際に放流した水域では、鯉が支配的になっている場合が多い)
護岸工事などによる魚類の産卵床の減少、生態系への悪影響などが考慮される事も以前にも増している。
また、同種とされる魚でも、地域によって体色や体型などの細かな違い、いわゆる遺伝的多様性が存在する事がわかっており、そういったものを重視する研究者のなかには、そもそも外来種であろうが在来種であろうが本来その場所にいない魚を放流する事自体が生態系の破壊であり控えるべきと主張する者もいる。
日本の歴史において、ブラックバスという魚は、生態系の概念、重要性、定義など様々な問題提起をした存在といえるだろう。
関連動画
痛ルアー使用動画。マッドウォーターではこんなルアーでも十分釣れる。
関連商品
コロコロコミックで連載され、人気を博したフィッシング漫画。作中のルアーやロッドは実際に商品化されたが、その使い心地がどうだったのかは不明。この漫画でバス釣りを知った10代・20代がいるはず。
関連項目
脚注
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