プログレとは
- プログレッシブ・ロック(Progressive Rock)の略称。Progressiveとは「先進的」という意味。本稿で扱う。
- プログレッシブ・ハウス(Progressive House)の略称。一般的にはプログレハウスと言う。
- トヨタ自動車が製造・販売していた自動車。 →トヨタ・プログレを参照のこと。
概要
1960年代末にイギリスから発生したロック音楽のジャンルのひとつ。新しい音楽表現を生み出そうとし、ロック・ポップの本流とは異なる表現をするバンド、楽曲を総称してプログレッシブ・ロック(Progressive Rock)、日本では「プログレ」と呼ぶ。海外では「Prog-Rock」とも言われている。
若者の反骨精神の表現法でもあったロックも、60年代にビートルズなどの台頭により大衆化され、次第に中流階級以上の富裕層にも好んで聴かれるようになる。
そうして幼少期からクラシックやジャズなどの音楽に触れ、高度な音楽的な素養を持っていた彼らがロックを始め、やがて行き着いたのはプログレッシブ=前衛的なロックであった。
クラシック音楽のような芸術性と構成美をロックに取り入れ、様式にとらわれない実験的な試み、高度な技術による演奏、変拍子の多用など、従来のロックでは見られなかったまさしくプログレッシブなサウンドを体現した。
一般的にKing Crimsonが1969年にリリースしたアルバム『In the Court of the Crimson King』がその始まりとされ、1970年前半にイギリスを中心に世界中でブームとなった。
当時その中心的存在であったYES、Pink Floyd、King Crimson、ELPをプログレバンド四天王、またそこにGenesisを加えて五大プログレバンドと呼ぶ。
演奏形態や曲の構成ではなく、表現方法や方向性を指すジャンルであるため、文面では解りにくいかもしれない(そもそも五大プログレバンドにしても音楽性そのものはバラバラである)。極端に言えば、個性的すぎてジャンル分けが難しいバンド、楽曲。実際に聞いてみるのが一番だろう。
そもそもレコード会社やリスナー側がそう呼んでいるだけで、バンドのメンバーはプログレであることを意識していない、あるいは否定している場合が多い。プログレを意識してしまうとそれはプログレ風の音楽であり、本来のプログレではなくなってしまうのだ。
プログレの第一人者とされるKing Crimsonのロバート・フリップ氏はプログレと呼ばれることを嫌っており、「プログレは自分たちがデビューした頃の音楽を指すジャンルであって、我々はそこから進化している」としている。
一方、プログレと同様に実験的な試みを取り入れる前衛的なスタイルだが、オルタナティブの流れを汲むバンド(例えばRadioheadやToolなど)は一般的にはプログレに分類されない。
結局のところプログレとは単に先進的な音楽というより、70年代前半に流行した英国を中心に流行した音楽の様式、およびその流れを汲むフォロワーを指すジャンルというのが実情である。
パンクやニューウェーブが台頭した70年代後半にはブームも終息し、それから現在に至るまで再ブームらしい再ブームは起こっていないが、長いロックの歴史においてもプログレの影響は決して無視出来るものではない。
Pink Floydの『The Dark Side of The Moon』のセールスは全世界で5000万枚を超えるとも言われており、ロック史上最もヒットした作品の一つである。彼らはプログレのムーブメント終息後も流行に媚びることなくヒット作を送り出し続けた。
80年代の巨大産業化された音楽市場においてプログレ出身アーティストの活躍は目覚ましく、『プログレ界のスタープレイヤーで形成されたポップバンド』であるAsiaや、同じくポップス路線に転向したYesやGenesisもメガヒットを記録している。
また1983年、ELPのキース・エマーソンがOP/ED他主要曲を提供した角川アニメ映画「幻魔大戦」が公開。当時決して洋楽の共通趣味層とは言い難かった、SF・漫画・アニメ指向中高校生がプログレに開眼する契機をもたらした。
現在でもアニメやゲーム音楽にはプログレの影響が非常に色濃く残っている。
’90年代以降になるとドリームシアターやクイーンズライクといった「プログレッシブ・メタル」という新しい音楽表現が生まれ、プログレが再評価されるようになった。
プログレにありがちなこと
- 変拍子や転調を多用した複雑な構成(流行ったのでPの指示で小品を無理やりつなげるようなことも横行)
- 超絶技巧曲を要求する対旋律・ソロパート
- メロトロンやシンセサイザーといった(70年代当時の)最新技術を積極的に持ち込む
- メンバーの入れ替わりが非常に激しい
- 電子音やエレキベースのスラップから、教会的合唱や弦楽器の柔らかい和音も用いる
- アルバム全体をひとつの作品としたコンセプトアルバム
- 長時間の大作(2、30分はあたりまえ。1曲でLP版の片面を使い切ることが多い)
- 演奏を重視したインストゥルメンタル
- 異様に長いイントロ部
- 音が小さくなってこれで終わりかと思ったらそこからが本番
- 歌唱部が短い
- 他のジャンルとの融合
- ドラムソロでドラムセットごと横に回転する
- ドラムに対抗してピアノを縦に回転させる
- パート1パート2とタイトルの最後に付く
- アルバム1枚で解散(なぜか日本盤が存在し2000年代に再結成来日)
などなど
五大バンド
キング・クリムゾン/King Crimson
デビュー作はプログレの原点であり金字塔。ジャズ、クラシック、現代音楽などとの融合や即興演奏の多用など新しい音楽を模索し続けた。 1973年から1975年にかけて発表された三枚のアルバムはヘヴィメタル色が濃くメタラーからの人気も強い。
ピンク・フロイド/Pink Floyd
幻想的で浮遊感のある曲が特徴。代表作The Dark Side ot the Moonはセールスが5000万枚を超えるとも言われ、ロングランヒットのギネス記録など様々な記録を打ち立てた歴史的な名盤。もちろん他の作品も傑作揃いである。シド・バレットが在籍した初期はサイケバンドでそちらでも有名。
エマーソン・レイク・アンド・パーマー(EL&P)/Emerson, Lake and Palmer(ELP)
ロックバンドとしては珍しくギタリストががいないドラム、ベース、キーボードによるトリオ形式。キース・エマーソンによる縦横無尽に駆け回るような激しいキーボードプレイが最大の特徴。またシンセサイザー音楽のパイオニアでもある。ファイナルファンタジーシリーズの植松伸夫を筆頭にゲーム音楽界に異常にファンが多く、プログレ界でもとりわけゲーム音楽への影響が強い。
イエス/Yes
長尺、変拍子、超絶技巧、難解な歌詞などプログレを象徴するようなバンド。キャッチーながらもメンバー同士が激しく主張しあうような演奏が独特の緊張感を生み出している。ニコニコ動画においてはジョジョの奇妙な冒険の主題歌となったRoundaboutでお馴染み。
ジェネシス/Genesis
ピーター・ゲイブリエル(ボーカル、フルート、ドラム、踊り)による演劇的なステージ、イギリス人らしい皮肉っぽい語り口の物語性のある世界観で有名。フォーク志向だった初期の影響を感じる叙情性のあるプログレ期の楽曲群はイタリアンプログレ界隈に大いに影響を与えた。演奏テクも十分。
サブジャンル
UK
プログレの本家。ロックの本家なのでロックの可能性を探る作業(=プログレ)もUKが最前線だった。
フォークとの融合(ルネッサンス)、古楽との融合(グリフォン)、ジャズとの融合(ソフト・マシーン)をはじめとして、殆どのことはUKでやってしまったと言っていいレベル。
五大バンドの他にムーディーブルース、キャメルなど。
カンタベリー・ロック
UKの中でもイギリスのカンタベリーを中心に生まれた音楽。カンタベリー一派、カンタベリー系とも呼ぶ。時代、グループによって性質が違い、音楽性によるくくりというよりは、原点となったバンド『ワイルド・フラワーズ』に連なる人脈にと捉えたほうが正確かもしれない。
ワイルド・フラワーズを元としたソフト・マシーン、キャラヴァン、まれにゴング。
イタリアン・プログレ
70年代にプログレが大流行した国のひとつがイタリアであり、そこから多くのバンドが誕生した。クラシック音楽やイタリア音楽、地中海音楽の要素を取り込んだ音楽表現はプログレの様式をより突き詰めたとも言える。アンサンブルや(主にボーカルの)暑苦しさが特徴的。オペラの本場だけあってかボーカルも声楽経験者が多い。
バルカン半島の音楽に影響を受けたアレア、美麗なメロディのPFM、バンコなど。
クラウト・ロック
60年代末期から70年代にかけて西ドイツで発生した実験的音楽。ジャーマン・プログレとも呼ぶ。
クラウト(=キャベツ)は第二次大戦期のドイツ人に対する蔑称だったが、クラウト・ロックは今では60年代70年代のドイツのロックくらいの意味となっている。
シュトックハウゼンのお膝元であったため電子音楽など現代音楽的な要素を前面に出したグループが活躍。
シーケンサを使ったタンジェリン・ドリーム、人力ドラムマシンのノイ!、そもそもミュージシャンじゃなかったアモン・デュールII、放浪日本人をヴォーカルに据えたカンなどがいる。
ユーロ・プログレ
言葉の意味はヨーロッパの(EUの)プログレだが、西ヨーロッパ圏(伊独を含まない場合も)特にフランスやオランダのさらにシンフォニックなグループを指すことが多い。
東欧プログレ
旧東側諸国のシンセ音楽。ロックの受容や音楽への向かい方、テルミンの流れを汲むソ連製シンセの影響か独特の雰囲気がある。
ハンガリーのソラリスなどが有名。
アメリカン・プログレ・ハード
80年代以降の北米のハードロックの音でプログレ的な曲を演奏するグループを指した渋谷陽一による言葉(らしい)。プログレ的なポンプ・ロック、スタジアム・ロック、アリーナ・ロックくらいの意味で使われることが多い。わかりやすく便利な言葉なのでよく使われる。
カンサス、ラッシュなどが代表例。
ポンプ・ロック
80年代初頭にイギリスで起こったプログレの再ブームから生まれた音楽。
当初はネオ・プログレと呼ばれていたが、次第に「華麗、盛儀(大仰)」を意味する「POMP」と呼ばれるようになった。
RIO系/レコメン系/アヴァンギャルド
Henry Cow 主導の Rock in Opposition 運動に参加したバンドなど。Recommended Records系(レコメン系)や Avant-Garde Prog(アヴァンギャルド・プログレ、前衛的前衛的ロック)とほぼ同義。ズール、チェンバー・ロックなど「その他、ジャンル外」なグループ群。
Rock in Opposition は「レコード会社が興味を示さないような『在野のロック』」を広める運動であり、そのような音楽であると考えれば概ね間違いない。性質上、音楽的共通性は低い。強いて言えばロックってなんだろうなと思わせてくる点が共通。
ジャパグレ
日本のプログレ。さまざまなレコードに影響を受けた多様なグループがある。俗に言うお城系などを含むファンタジック、シンフォニックなグループは好まれやすい。
海外プログレの影響を受けた人たちが、80年代後半以降需要を増したゲーム音楽、アニメ音楽に参加したことで、ゲームやアニメの劇伴がプログレとして受容されることは多い。またその逆にゲームやアニメから作曲者を通じてプログレ沼に嵌る例は後を絶たない。
ニコニコ動画でのプログレ
音程が激しく外れた曲やバグッたゲームのBGMなどのある意味難解な音楽(→イルーム音楽)がプログレと呼ばれていたりする。
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関連項目
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