『とある飛空士への追憶』(とあるひくうしへのついおく)とは、犬村小六によるライトノベル作品である。
概要
また、小川麻衣子によるコミカライズが行われている。漫画版は全4巻。
続編として「とある飛空士への恋歌」の他、スピンオフ作品「とある飛空士への夜想曲」がある。
あらすじ
そこに自由はあるか
中央海と呼ばれる海を隔てて西方大陸と東方大陸の2つの大陸しか無い世界。
それぞれの大陸を統べる「神聖レヴァーム皇国」と「帝政天ツ上」の両国の戦争の時代が舞台となる。
そんな最中、とある作戦が立案される。作戦名は「海猫作戦」。
その内容は帝政天ツ上内にあるレヴァーム皇国自治領から、中央海を隔てて12000km離れたレヴァーム皇国の本国まで、次期皇妃「ファナ・デル・モラル」を複座偵察機の後部席に乗せ送り届けるというもの。
帝政天ツ上が実質的に制空権を得ている空域を単機で突破するという無謀な任務。
作戦を命じられたのは孤児出身ながら天才的な操縦技術を持つ飛空士(パイロット)「狩野シャルル」。
全くの身分違いの二人の12000kmに渡る危険な旅と、その旅の末に待っていた結末。
当時、表舞台には決して現れなかった物語。後の時代にそれをとある作家が一冊の本に纏めた。
その本の名は「とある飛空士への追憶」という。
登場人物
- 狩野シャルル (かりの シャルル)
- 声:神木隆之介 / 吉永拓斗(少年時代)
本作の主人公。レヴァームと天ツ上の混血で、幼い頃に両親を失い孤児として育った過去を持つ。
21歳という若さでありながら、軍の中でもトップレベルの操縦技術を持つ凄腕の飛空士であり、「海猫作戦」の飛空士として選出される。
「空の上では身分も関係ない、自由でいられる」。そう言って心から空を飛ぶことを愛する青年。 - ファナ・デル・モラル
- 声:竹富聖花 / 諸星すみれ(少女時代)
本作のヒロイン。18歳。優れた容姿を持つ美少女。
その美しさをレヴァーム皇子のカルロに気に入られ婚約。次期皇妃となる。
とある過去から心を閉ざしていたが、シャルルとの旅路の中で次第に心を開いていく。 - カルロ・レヴァーム
- 声:小野大輔
レヴァーム皇国の皇子。晩餐会で一目惚れしたファナを皇妃として迎える。
悪人では無いが、情熱的で理想を追い求める傾向が強い。
事実として海猫作戦の前、ファナを本国へ移送するため、艦隊を出し壊滅させる等の失敗も犯している。
(動きの遅い大型艦中心の艦隊での敵制空権下の突破は極めて困難である) - 千々石 武夫(ちぢわ たけお)
- 声:富澤たけし(サンドウイッチマン)
天ツ上の飛空士で階級は中尉。搭乗機の機首にはビーグル犬のイラストが描かれている。
作中では度々このビーグルのマークが彼の代名詞となっている。
「燻し銀」という言葉が良く似合う熟練飛空士。海猫作戦の2週間前にシャルルを撃墜している。
スピンオフ作品「とある飛空士への夜想曲」は彼を主人公としている
メカニック
- サンタ・クルス
海猫作戦の使用機体として選ばれた水上複座偵察機。
偵察機だけあり飛行速度は620km/h、航続距離は3000kmを誇るが、武装は後部座席の銃座のみ。 - 真電
天ツ上の最新鋭主力戦闘機。レヴァーム軍の機体に比べ遥かに高い性能を誇る。
デザインは旧日本海軍が開発していた戦闘機「震電」をモチーフにしていると思われる。
なお、この世界では「水素電池」と呼ばれる動力源が普及しており、飛行機にも使われている。
これは海水から得られる水素ガスによって発電・蓄電が可能というもの。
海水さえあれば幾らでも動力を確保できるため、ほぼ無尽蔵と言える。
アニメーション映画
2010年4月に、アニメ映画化が発表、2011年10月1日より公開された。
映画化が発表された際の原作ファンの喜びはすさまじいものだった。しかし、その後の制作会社の公開時には、制作会社が声優を採用しない細田守監督の作品を制作するマッドハウスであることから不安の声が一部で上がりはじめる。キャラデザのラフの公開時には、ヒロインのファナが原作と容姿が異なることから、2chの本スレなどでも「大丈夫か」との声が見られるようになった。
そして声優発表時、主人公がタレント、ヒロインにはグラビアアイドル、そして脇役にお笑いタレントという、いわゆる「誰得キャスティング」であることから、2ch本スレは大荒れの様相を呈した。
それでも一部の住民は「演技が上手な可能性がある」と希望を捨てていなかったものの、声付きPVの公開によりその希望も潰えた。主人公については「神木隆之介は多少の演技力はあるものの、声が幼すぎてシャルルに合っていない」、ヒロインについては「竹富聖花は演技力も声質も何もかもダメ」との低評価を受けた。このPVにより2ch本スレは完全に葬式状態となった。そもそも、ファンタジー作品なのに素人キャストというのはジブリ以外では死亡フラグであり、後にこのフラグは見事回収されることとなる。
公開までの間に行われた、広報スタッフによる宣伝もまた、原作ファンが激怒するには十分であった。「原作ファンは必ず観に来る。我々は一般層も狙う」という内容のインタビュー、 女性ファッション雑誌への広告掲載などなど。
そして、ついに迎えた公開当日。劇場版を鑑賞してきた人の報告により2ch本スレは再び大荒れとなる。完全なる原作レイプであると判明したためだ。その見事なレイプっぷりが以下である。
・登場人物の心理描写が完全に削除されている。原作は主人公とヒロインの心の距離が大事な要素であるのに、これを削ってしまっては、その魅力の大半が失われる。
・声優が2人とも素人なため、声優の演技による心理描写の表現も出来ていない。
・登場人物の過去についての設定や、内面の設定も多く削除されたため、「ファナは心を閉ざしている」という設定も削られてしまった。
・ファナが決意を込めて自ら長髪を断髪するシーンなど、重要な箇所ばかりピンポイントでカットされている。
これだけでも見事な原作レイプと言えるが、極めつけがある。それは「終章のカット」である。
原作では、「終章」において、「後になり、『海猫作戦』をとある作家がノンフィクション小説『とある飛空士への追憶』として纏め上げた」という描写、すなわちタイトル回収がある。
しかし劇場版では、海猫作戦終了後、シャルルがファナへアクロバット飛行を見せ付けた所でプラックアウト、「ファナは後に『西海の聖母』と呼ばれるようになり・・・」というような内容の文章が入り、スタッフロールへと入り、終わりである。つまり、タイトル回収をしていないのだ。
初日91scrと、公開規模はそこそこ大きかったものの、興行収入は僅か2000万円という結果に終わった。2週間程度で公開終了する映画館も続出し、見事に死亡フラグを回収である。なお、キャスト公開時に不安視された富澤たけしについてはむしろ「思っていたよりも演技力がある」「唯一上手な演技と思えた」と意外にも好評だったことは記しておかねばならないだろう。
散々な結果となった劇場版「とある飛空士への追憶」であるが、後日談がある。後になって発売されたBD/DVDのコメンタリーで、驚くべき真実がスタッフの口から直接語られたのだ。その内容とは、「製作陣の上位スタッフにも原作を読んでいない者が複数居り、さらに監督が物語の整合性を把握していなかった」というもの。そりゃあんな原作レイプが生まれるわけだ、と2ch本スレでは半ば諦観めいた反応が見られることとなった。
2014年現在、amazonなどでBD/DVDのレビューを見ると批判の嵐であり、劇場版の感想サイトなどでも批判的感想がその大部分を占めている。
過去数年の間でここまで見事な原作レイプ、そして予想通りのコケっぷりを見せてくれたのは、おそらくこの劇場版だけであろう。
スタッフ
- 監督:宍戸淳
- 脚本:奥寺佐渡子
- キャラクターデザイン:松原秀典
- メカニックデザイン:山田勝哉
- 総作画監督:田崎聡
- 美術:橋本和幸
- 音楽:浜口史郎
- 音響監督:清水洋史
- 撮影:棚田耕平
- CG監督:設楽友久
- 色彩設計:小針裕子
- 編集:木村佳史子
- プロデューサー:高橋亮平、宮本秀晃
- 制作:トムス・エンタテインメント
- アニメーション制作:マッドハウス
- 製作:「とある飛空士への追憶」製作委員会
主題歌
関連動画
関連チャンネル
関連項目
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