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四白流星の鮮やかな肢体が、ダービーのゴールを駆け抜けたとき、2番目の馬は6馬身も離されていた。
根本騎手をして、「後ろの足音は聞こえなかった」と言わしめた。圧勝である。しかし、メリーナイスは、その負けっぷりも、また凄かった。その危うさが好きだったというファンが大勢いた。
軽やかな時代の風に乗った、新しいヒーローだったのかもしれない。
メリーナイスとは、日本の元競走馬、元種牡馬であり、「最も幸運な馬」が勝つといわれる日本ダービーをグレード制成立以降の最大着差(6馬身差)で制し、悲劇の世代と呼ばれた同世代の1987年クラシック世代の様々な悲劇を垣間見ながら、自らは誕生から死まで何事もなく、天寿を全うしたと言える年齢まで生きた、まさにダービーの格言を体現した馬である。
主な勝ち鞍
1986年:朝日杯3歳ステークス(GI)
1987年:東京優駿(GI)、セントライト記念(GII)
※この記事はメリーナイスが活躍した時代に合わせて、年齢を旧表記(現表記+1歳)で表記しています。
誕生～3歳
父コリムスキー 母ツキメリー 母父シャトーゲイ
父はノーザンダンサーの直子。良血と期待されていたがメリーナイス誕生までは今一つ産駒が走っていなかった。
母は小牧場の持ち馬ながら南関東競馬の強豪。その姉にはJRAの重賞勝ち馬もいるので芝にも対応可能の良血。
ちなみにこの2頭の配合にはポリネシアン4×5、ハイペリオン5×5×5という多重インブリードがかかっている。
そんな中生まれた仔は、四白流星(足元が白く、額から鼻先まで流星のように白い模様が付いている馬)の栗毛の美しい馬だった。
母の戦歴から地方競馬行きも想定されていたが、結局中央競馬でデビューとなった。結局これが正解となるのであるが。
デビュー前から瞬発力と均整のとれた馬体が評判となり、メリーナイスは期待の一頭となったいったのだ。その評判通り、鞍上に主戦騎手となる根本騎手を迎えた函館でのデビュー戦は快勝。その中には名脇役ホクトヘリオスがいた。
2戦目こそ出遅れてゴールドシチーの4着に敗れるが、3戦目のりんどう賞では今世代のサクラ軍団のエースと評判のサクラロータリーと激突。わずか頭差で敗れるも、サクラロータリーとわずか頭差の激戦を行ったことでますますメリーナイスの評判は高まった。そして次戦のいちょうSをあっさり勝つと、サクラロータリーとの再戦の舞台になるであろう朝日杯3歳Sへ駒を進めた。
迎えた朝日杯3歳S。1番人気はもちろんサク……あれ？ホクトヘリオス！？
実はサクラロータリー、その後府中3歳Sでシンボリ牧場の大器マティリアルをも破って3連勝を飾ったが、骨折で戦線離脱していた。
レースはメリーナイスはホクトヘリオスの追い込みを封じて1馬身半差で快勝。東の3歳王者となった。
4歳 ～日本ダービー
３歳王者となったメリーナイスだが、春初戦のスプリングS(GII)は調教過程からトラブルに見舞われたりして9着惨敗。そんな間にもこのスプリングSを直線一気だけで制したマティリアルに弥生賞(GII)の覇者サクラスターオーと新たなる皐月賞の有力馬が登場していた。
そして皐月賞でも完調ではなかったのか7着と、2着以下が激戦だったとはいえ、勝ち馬サクラスターオーにはちぎられてしまった。
そんなメリーナイスの状況が変わったのは日本ダービーが近づいてきてからだった。今年の日本ダービーには例年にはない「特典」が付いていた。それは
今年の日本ダービーの優勝馬は映画「優駿」の主人公馬「オラシオン」のモデルになる。
というものである。というのも、「優駿」の原作は小説であるが、その場合の「オラシオン」の毛色は青鹿毛、クライマックスの日本ダービーでは手に汗握る写真判定となる。しかし、クライマックスの日本ダービーのシーンをそれに合わせて馬を集めて撮影しても本来のダービーの迫力が出ないだろう。なら毛色やレース展開くらいは原作との違いに目をつむって、実際の日本ダービーのレース映像を使用してしまい、その勝ち馬を「オラシオン」のモデルにしてしまおう、というのが映画製作者の目論見である。そして撮影日程上、その「特典」がある日本ダービーに選ばれたのがこの年、1987年の日本ダービーである。
さて日本ダービーの出走メンバーに目を移すと、まず皐月賞を快勝し、出走すればまず1番人気間違いなしのサクラスターオーは故障で出走断念。代わりに断然の1番人気になったのはマティリアルである。……だが皐月賞の走りを見ると調子は下降気味っぽく、後のサッカーボーイやメジロブライトのような過剰人気臭が漂う。2番人気は皐月賞2着で阪神3歳S(GI)を制しているゴールドシチー、3番人気は毎度おなじみ関西の秘密兵器ダイゴアルファ、4番人気にメリーナイスである。皐月賞で8番人気7着だったことを考えるとちゃんとメリーナイスが絶好調なのを見ていた人は見ていたのだろう。ただ、肝心な人がそれを見ていなかったのだが…。
日本ダービーのレースはただ一言、先行策をとったメリーナイスが直線でぶっちぎった、ただそれだけである。2着サニースワローとの差、6馬身。グレード制成立(1984年)以降で日本ダービーを6馬身以上の着差をつけて勝った馬はメリーナイス以外にはいない。そのような馬を探すには、セントライト(8馬身)やメイズイ(7馬身)といったいにしえの馬を持ちだすしかない。
「このダービーに限っては、たとえサクラスターオーが無事出走してきたとしてもメリーナイスを交わすのは厳しかっただろう」と言われる事が多いのは、まさにこの着差ゆえである。
(ちなみに2着サニースワローは22番人気の馬による大殊勲であるが、後に同じ生産者・馬主・調教師・騎手の組み合わせで10年後ダービーにある馬で再挑戦する。しかも今度は皐月賞馬として二冠を賭けて。)
この勝利で「オラシオン」のモデルは確実なものとなったが、ここであるアクシデントが起こった。それは
……何を言っているのか分からないと思ったあなたは正しい。だが、実際にそうだったのだ。なんと「優駿」スタッフ、1番人気馬マティリアルを終始撮影し続けていたのだ。1番人気が絶対に1着になるとは限らないなんてバカでも直感的に分かりそうなことを……。
とはいえ、「今年の日本ダービーの優勝馬は映画「優駿」の主人公馬「オラシオン」のモデルになる」と大々的に宣伝をうった以上、後には引けず、「オラシオン」のモデルはメリーナイスに決定。映画「優駿」のその後の顛末はそちらの記事に譲る。大体予想はつくと思うが。
4歳秋～5歳
ダービー後は休養し、休養後はセントライト記念(GII)に出走、ここを快勝する。
そして迎えた菊花賞。皐月賞馬サクラスターオーはぶっつけ本番。マティリアルは不振。ゴールドシチーは気性難で前走も逸走して失格。京都新聞杯(GII)上位組は小粒感が否めず、神戸新聞杯(GII)組に至っては牝馬のマックスビューティに敗退。よってメリーナイスは単勝2.2倍の断然の1番人気に支持された。
しかし、肝心の鞍上の根本騎手がクラシックでの断然の1番人気というプレッシャーに押しつぶされてしまっていたのだ。なんでもサクラスターオーの東騎手の「俺の馬に負けたら恥ずかしいぜ」という軽口に答えを返すことすらできないくらい緊張していたらしい。そんな状況で騎手がまともに馬を制御できるはずもなく、ましてや舞台が京都>芝3000ｍの菊花賞では致命的なものであった。メリーナイスは終始引っ掛かり、4コーナーで自滅し、9着に惨敗してしまった。
代わりに勝利したのは、なんとぶっつけ本番の皐月賞馬サクラスターオーである。
さらに有馬記念では古馬勢が手薄だったこともあり、サクラスターオーが断然の1番人気。メリーナイスも3番人気だったのだが、スタート直後に根本騎手を振り落とし落馬。前走緊張が馬に伝わって敗退したことを受けて、手綱を長手綱に変更したのだが、そのためスタート直後のつまづきに咄嗟に対応できなかったのである。
さらにサクラスターオーも故障により競走中止で予後不良(その後、療養の末に安楽死)。4歳クラシック馬がそろって競走中止という悪夢のような有馬記念となった。
その後5歳となった後もメリーナイスの成績は振るわず、目黒記念(GII)2着、天皇賞(春)14着、函館記念(GIII)2着とダービー馬としては物足りない成績。そして函館記念のあとに故障を発症して引退した。
こうして様々な悲劇を見ながらターフを去ったメリーナイス。その後、彼の同世代であるマティリアルとゴールドシチーが、ともに予後不良による安楽死となっている。彼らの死にサクラスターオーの死というクラシックでの活躍馬の安楽死が合わさったため、この世代は悲劇の世代と呼ばれる(彼らは奇遇にも1987年皐月賞の1着～3着を占めた馬である)。彼ら以外にもタマモクロスは生まれ牧場が倒産している。しかし、「最も幸運な馬」が勝つといわれる日本ダービー馬のメリーナイスにだけはそういったエピソードが見当たらないのである。有馬記念の落馬は元をたどれば根本騎手のせいだし。
引退後、メリーナイスは種牡馬入りした。重賞勝ち馬を2頭出すなどまずまず堅実な成績を収めていたが、サンデーサイレンスの波が襲いかかり、それにノーザンダンサーの直系と多重インブリードというのが配合のしにくさを高めていた為、需要が減少し、最終的に1999年に種牡馬を引退。落馬した有馬記念で優勝した因縁を持つメジロデュレンや、ドバイから荒尾までという波乱の競走生活を送ったワールドクリークなどと共に長野県のスエトシ牧場で余生を送ることになった。(2007年にナイスネイチャらのいる北海道の渡辺牧場に移動した)
そして2009年3月1日に疝痛のため25歳(現表記)で死亡。サクラスターオーが亡くなってから約19年もの時が流れた後のことであった。まさにこの世代の他の馬とは一線を画す馬生を送った「最も幸運な馬」だった。
血統表
| *コリムスキー Kolymsky 1975 栗毛 |
Northern Dancer 1961 鹿毛 |
Nearctic | Nearco |
| Lady Angela | |||
| Natalma | Native Dancer | ||
| Almahmoud | |||
| Libro D Oro 1968 栗毛 |
Francis S. | Royal Charger | |
| Blue Eyed Momo | |||
| Exclusive | Shut Out | ||
| Good Example | |||
| ツキメリー 1977 栗毛 FNo.4-m |
*シャトーゲイ 1960 栗毛 |
Swaps | Khaled |
| Iron Reward | |||
| Banquet Bell | Polynesian | ||
| Dinner Horn | |||
| メリーブラット 1969 黒鹿毛 |
*テスコボーイ | Princely Gift | |
| Suncourt | |||
| コンチネンタル | *フェリオール | ||
| ウラッキホマレ | |||
| 競走馬の4代血統表 | |||
クロス：Nearco 4×5(9.38％)、Hyperion 5×5×5(9.38％)、Polynesian 5×4(9.38％)
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関連項目
外部リンク
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