アリダー(Alydar)は、1975年生まれのアメリカ合衆国の元競走馬・元種牡馬である。
ケンタッキー州の超名門・カルメットファームの生産所有馬で、父は大種牡馬Raise a Native(レイズアネイティヴ)、母Sweet Tooth(スウィートトゥース)、母の父On-and-On(オンアンドオン)という血統。兄に日本で種牡馬としてそこそこ活躍した*ホープフリーオンがいる。
ケンタッキーダービー馬*フォワードパスなどを出した名牝系に属す母を持つ血統もさることながら、なにより栗毛でぴかぴか輝き、恐ろしいまでに発達した筋肉で覆われた馬体はデビュー前から大評判であった。この褒められっぷりやバックボーンである馬を浮かべられたら、アメリカ競馬にそこそこ詳しいと思う。
……というか、その馬の父親なんですけどもね、この馬。よく似たんだなあ。マッチョな馬体もそっくりだったな、イージーゴア。
デビュー戦にはなんとステークス競走のユースフルSを選択し、しかも1番人気を背負う。どれだけ期待されていたのかが分かるが、流石に厳しく5着に敗れる。
「世の中ナメすぎ」とでも思ったかどうかはわからないが、このレースですでにデビューしていたのにもかかわらず二番人気にされたこのレースの勝ち馬が、ずっと彼の前に立ちふさがることになる。その名はアファームド。……相手が悪い。
仕切り直した未勝利戦を圧勝して向かったグレートアメリカンSでは再びアファームドとの対戦となったが今度は圧勝。トレモントS(GIII)・サプリングS(GI)を連勝しGI馬となった。
しかし続けて参戦したホープフルS(GI)で3度目の対戦となったアファームドの2着に敗れると、そこから4戦目のベルモントフューチュリティS(GI)は長い叩き合いで同馬のハナ差2着、5戦目のシャンペンS(GI)こそ大外強襲で一矢報いたものの6戦目のローレルフューチュリティ(GI)でもクビ差粘られて敗れ、結局2歳時はアファームドと6回対決して2勝4敗。圧倒的負け越しである。(ノ∀`)アチャー
この後アファームド不在のレムセンS(GII)に出走したが、ここではビリーヴイットという馬の逃げ切りを許して2着に敗れ、10戦5勝2着4回で2歳シーズンを終えた。
3歳になるとアファームドは本拠地だった西海岸に戻り、それに対してアリダーも本拠地の東海岸に戻ると、弱いものいじめのような圧勝の連続で連勝街道を驀進。
まず一般競走を早速2馬身ちぎって弾みをつけると、フラミンゴS(GI)ではレムセンSで後塵を拝した相手のビリーヴイットを4着に破り、馬なりのまま2着馬に4馬身半差をつけて圧勝。フロリダダービー(GI)でも直線入り口で先頭に立って2馬身差で押し切って勝利した。
トドメとばかりに、ケンタッキーダービーへの重要なプレップとなるブルーグラスS(GI)では13馬身差つけて独走。いやー強い。アファームドもこの年4戦無敗だったことからファンからも「やっぱりすげぇや! 今度こそアファームドをとっちめてやれ!」なんて機運が盛り上がったが、本番であるケンタッキーダービーではまた2番人気にされたアファームドがばっちり大勝利し、アリダーは追い込み届かず2着。あらら。
プリークネスSでは前走で差し届かなかった教訓から早めに仕掛けたが最後まで差が縮まらず、クビ差まで追い詰めるがまたも2着。ベルモントSでは大敵アファームドを見えやすくして闘争心を掻き立てるためブリンカーが外された状態で臨み、レースでも三冠を阻止すべく徹底マークの上早めに追い上げるが、激しい叩き合いに敗れアタマ差2着。アファームドはシアトルスルーに次いで2年連続での三冠達成、鞍上コーゼン騎手は最年少で三冠達成となったが、一方のアリダーは三冠全て2着という屈辱的な結果に終わった。
とはいえ後続を13馬身突き放したレース内容が示すようにアリダーの能力も素晴らしいもので、アリダーを管理したジョン・ヴィーチ師は「アリダーという偉大な馬に勝ったアファームドは真に偉大な馬」と、アファームドのラザロ・バレラ師は「アファームドはセクレタリアトより上だろう。何故ならアリダーという強敵を打ち負かしたからだ」と語り、互いの馬に対する大きな敬意を口にした。
この後のアーリントンクラシックS(GII)ではアファームド不在のメンバーが相手になるべくもなく13馬身差圧勝。古馬との初対戦となるホイットニーS(GII)では無敗の三冠馬シアトルスルーに初黒星を付けたジェイオートービンなどを一蹴して10馬身差で優勝した。
この2週間後のトラヴァーズSではアファームドとの10度目の対戦となり、レース史上最多の5万人の大観衆が見守る中でレースに臨むが3角で体勢を崩して敗戦。しかし体勢を崩した原因はアファームドに前を塞がれたためであり、本馬鞍上のジョン・ヴェラスケス騎手の抗議の結果相手は降着。アファームド相手に3勝目を挙げた。
しかし次走の予定だったマールボロカップハンデキャップを左前脚の骨折で回避し、結局残りの3歳シーズンは全休。このあとこの2頭が再び競馬場で会うことはなく、通算成績はアリダーの10戦3勝という完敗に終わった。ただし3歳時は結果的にアファームド以外には先着されていない。
ケガの癒えたアリダーは3月の一般競走を7馬身ちぎって優勝したが、次走のオークローンハンデキャップ(GII)ではこれが重賞初出走だった伏兵サンフアンヒルのハナ差2着に敗退し、久々にアファームド以外の相手に先着された。
これでリズムが乱れたのか、カーターハンデキャップ(GII)でこの年の最優秀スプリンターとなるスタードナスクラのクビ差2着に敗れると、メトロポリタンハンデキャップ(GI)ではデビュー戦以来の大敗となる6着に敗れてしまった。
続けて出走したナッソーカウンティハンデキャップ(GIII)こそ3馬身3/4差で快勝したものの、サバーバンハンデキャップ(GI)では3着に敗れ、更にこの後右後脚を骨折し引退を余儀なくされた。王道路線でシアトルスルーやスペクタキュラービッドらと激戦を繰り広げ、競走馬としての名声をいやというほど高めたアファームドとは対照的な結末と言えよう。
カルメットファームで種牡馬入りしたアリダーは、種牡馬としては82頭のステークスウィナーを出してそこそこ成功していたアファームドを更に上回り、二冠馬アリシーバ、ケンタッキーダービー馬ストライクザゴールド、危うく父の轍を踏みかけたベルモントS馬イージーゴア他活躍馬を多数出し大成功。
日本絡みでもマルゼンスキーのレコードを塗り替え外車の時代の幕開けを宣言したリンドシェーバー、*サンデーサイレンスらを下した*クリミナルタイプ、欧州や米国の芝で活躍しジャパンカップにも出た*カコイーシーズなど種牡馬や外国産競走馬として活躍した馬がそこそこいる。*クリミナルタイプは失敗だけど。実に偉大である。しかし孫世代以降はイージーゴアの夭折やアリシーバの大失敗のせいでイマイチ振るわない。大丈夫か。
1987年にはアファームドも同じ牧場にやってきて、かつてのライバルが種牡馬として同じ地に顔を揃えることとなった。そして1989年に殿堂入りを果たし、翌年の1990年にはリーディングサイアーも獲得したが、この年の11月13日に右後脚の下腿骨を粉砕骨折。手術の末になんとか生きながらえたものの、翌日になって手術した側の脚の大腿骨に致命的な骨折を発症し、流石に助からず、15日の朝に安楽死処置となってしまった。
これだけならば、アリダーは夭折の名馬と言うことも出来た。ところがこの5年後になって、ある女性検事補がテキサス州で起きた金融機関の連続倒産を調査していたところ、一つの疑惑が浮上した。
そもそもカルメットファームは1982年に場主が亡くなり、故人の孫娘の夫であったジョン・トーマス・ランディという人物が跡を継いでいたのだが、この男が多額の設備投資を行っており、その過程で受けた融資の総額は9500万ドルにも達していた。その巨額の融資を受けるためにランディは銀行の副頭取に賄賂を贈っていたのだが、この賄賂を受け取っていた人物が大量の不良債権を抱えた責任を取らされて辞職すると一気に事態が悪化し、銀行側は牧場に対して差し押さえをチラつかせるまでに発展した。
その結果、大量の種付けで腰を痛めていたため見切りをつけられそうになっており、更に3650万ドルの保険金がかけられていたアリダーに目をつけた牧場による保険金目当ての殺害が起きた。これが疑惑の内容だった。
結果から言えば、ランディとカルメットファームの財務責任者だったゲイリー・マシューズ弁護士は1999年になって告発され、詐欺と贈賄の罪で禁固刑となったが、アリダーを保険金目当てに殺害したという疑惑については証拠不十分と結論付けられた。後に残った結果は、このアリダーの死でカルメットファームが3650万ドルの保険金を得たこと、そしてこの資金を持ってしても倒産する運命は変えられなかったということ、それだけであった。
それにしても最期まで不運としか言いようがないとは……一体彼が何をしたんですか。現役時代はアファームドがいなければ三冠のうち一つは取れたかもしれないし、種牡馬としてもカルメットファーム以外で繋養されていればこのあとも種牡馬として大活躍したかもしれない。そうなればアメリカの血統地図も違った姿だっただろう。
まあ、現役が一世代ズレただけなら上にシアトルスルー、下にスペクタキュラービッドがいるからやっぱりツラいし、名門カルメットファームの代表種牡馬ということでいい繁殖牝馬も集まった側面はあるので、一概には言い切れない。運命とは非情なものである。
ちなみに倒産したカルメットファームはダンジグなどを生産した大馬産家ヘンリク・デ・クフャトコフスキの手により買い取られ、現在は更に売却されて別の牧場と統合されている。
Raise a Native 1961 栗毛 |
Native Dancer 1950 芦毛 |
Polynesian | Unbreakable |
Black Polly | |||
Geisha | Discovery | ||
Miyako | |||
Raise You 1946 栗毛 |
Case Ace | Teddy | |
Sweetheart | |||
Lady Glory | American Flag | ||
Beloved | |||
Sweet Tooth 1965 鹿毛 FNo.9-c |
On-and-On 1956 鹿毛 |
Nasrullah | Nearco |
Mumtaz Begum | |||
Two Lea | Bull Lea | ||
Two Bob | |||
Plum Cake 1958 栗毛 |
Ponder | Pensive | |
Miss Rushin | |||
Real Delight | Bull Lea | ||
Blue Delight | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:Bull Lea 4×4(12.5%)、Blenheim 5×5(6.25%)
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最終更新:2024/11/08(金) 18:00
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