貴婦人と名づけられた才女が晴れの舞台を颯爽と駆け抜けた。
英雄と讃えられた父を彷彿とさせる瞬発力で牝馬三冠の栄誉を勝ち取った。
受け継がれた最強の遺伝子は想像を超える夢を描いていく。
ジェンティルドンナとは、2009年生まれの日本の元競走馬である。
日本競馬史上4頭目の三冠牝馬であり、GI七冠馬。アメリカ競馬めいたラフなレース運びや牡馬とも十二分に渡り合う爆発的な末脚などから、馬名の和訳をもじった「鬼婦人」の異名で恐れられた。これから年月が経ってもディープインパクトの代表産駒の一角に数えられるであろう一頭である。
主な勝ち鞍
2012年: 中央競馬牝馬三冠[桜花賞(GI)、優駿牝馬(GI)、秋華賞(GI)]、ジャパンカップ(GI)、ローズステークス(GII)、シンザン記念(GIII)
2013年: ジャパンカップ(GI)
2014年: ドバイシーマクラシック(
G1)、有馬記念(GI)
| この記事では実在の競走馬について記述しています。 この馬を元にした『ウマ娘 プリティーダービー』に登場するウマ娘については 「ジェンティルドンナ(ウマ娘)」を参照して下さい。 |
| ジェンティルドンナ Gentildonna 貴婦人 |
|
|---|---|
| 生年月日 | 2009年2月20日 |
| 馬種 | サラブレッド |
| 性・毛色 | 牝・鹿毛 |
| 生産国 | 日本 |
| 生産者 | ノーザンファーム (北海道安平町) |
| 馬主 | (有)サンデーレーシング |
| 調教師 | 石坂正(栗東) |
| 主戦騎手 | 岩田康誠 |
| 馬名意味 | 貴婦人(イタリア語) |
| 抹消日 | 2014年12月28日 |
| 戦績 | 19戦10勝[10-4-1-4] |
| 獲得賞金 | 17億2603万400円 |
| 受賞歴 | |
| 競走馬テンプレート | |
父ディープインパクト、母*ドナブリーニ、母父Bertoliniという血統。
父ディープインパクトは説明不要、無敗のクラシック三冠を含めGIを7勝した名馬。種牡馬としても「ディープインパクト系」と呼ばれる一大勢力を作る大活躍を見せたが、本馬はその2年目産駒にしてディープインパクトが大種牡馬へと駆け上がっていく上で大きな一歩を担うこととなった。
母*ドナブリーニはサンデーサイレンス系に合わせるべく輸入された英2歳G1チェヴァリーパークSの勝ち馬で、この他にWinning Post7でもっとも勝ちにくい2歳重賞として一部で有名なG2チェリーヒントンステークスを勝っている。
母父Bertoliniはスプリント重賞のジュライステークス(G3)を勝利し、その後欧州G1戦線で善戦を重ねた英国のちUAE馬。Danzigを父に持っている。種牡馬としては*ドナブリーニが代表産駒になる程度で大きな実績は残していない。
全姉には2012年の関屋記念(GIII)と京都牝馬ステークス(GIII)を勝ったドナウブルーがいる。
また、*ドナブリーニの半妹*リトルブックがディープインパクトとの間に産んだ2019年の日本ダービー馬ロジャーバローズは本馬と8分の7同血の近親である。
2歳になった2011年秋のデビュー戦は1番人気に推され不良馬場で大外を回していい脚で追い込んだが、逃げ馬を捉え損ね惜しくも2着に敗れた。その後の未勝利戦では先行して若干包まれる場面もあったが、直線では馬群を縫って楽な手応えのまま突き抜け快勝。
3歳初戦のシンザン記念(GIII)では牡馬混合ながら2人気に推される。レースでは中団前目から直線力強い末脚で抜け出すとそのまま後ろを寄せ付けず、牡馬勢に完勝。このレースで重賞初制覇を決めクラシック路線に名乗りを上げた。
シンザン記念の勝利でクラシックに向けての賞金はバッチリ確保していたのだが、彼女はここで熱発を起こし倒れてしまう。競走馬にとっての熱発は非常に厄介なものであり、石坂調教師をはじめとした陣営は「桜花賞本番で納得いくまで仕上げよう」と考え桜花賞トライアル・チューリップ賞(GII)に出走することに決める。前3レースの鞍上はM.デムーロ、I.メンディザバル、C.ルメールと短期免許の外国人騎手が務めたが、ここからは主戦騎手として岩田康誠が騎乗することとなった。結果はスタートから最内の中団に控えると直線は進路を探すのに手間取り最後なんとか追い込んでの4着。優先出走権外のためシンザン記念で賞金を積んでいなければ桜花賞へ出走できなかった可能性が高いが、「本番前に一度使えたということが大きなプラスになった」と石坂調教師は語っている。
そして桜花賞(GI)当日。前走同様1番人気は2歳女王ジョワドヴィーヴルに譲ったものの、彼女はシンザン記念でのパフォーマンスが評価され2番人気に支持される。レースは好スタートから中団に控えると直線では後方から進めたジョワドヴィーヴルが伸びあぐねる中、馬場の真ん中から黄色い帽子のジェンティルドンナがシンザン記念でも見せた末脚を爆発。内から抜け出しを図ったヴィルシーナ・アイムユアーズに外から並びかけ、そのまま先頭に立つとアイムユアーズを差し返して粘ったヴィルシーナをゴール前で競り落として優勝、GI初制覇を成し遂げた。
次走はもちろんオークス……ではあったが、ここでも問題が発生。2週間前のNHKマイルカップでの走行妨害によって主戦騎手の岩田が騎乗停止となってしまい、オークスでの騎乗ができなくなってしまったのだ。このため、急遽ピンチヒッターとして川田将雅が騎乗することに。
姉であるドナウブルーがマイル路線で活躍していたことや、これまで(データ不足だったとはいえ)ディープインパクト産駒の長距離実績の少なさ[1]から桜花賞からさらに人気を落とし3番人気に。1番人気はフローラステークスを快勝したミッドサマーフェアで、2番人気がヴィルシーナであった。「あれ?桜花賞馬がなんで桜花賞2着より低評価?」と思われそうだが、上記の不安要素だけでなくヴィルシーナはクイーンカップで東京競馬場を経験していた一方、ジェンティルドンナは東京コース未経験であったことも相まって評価を下げていたものと考えられている。
レースでは先頭の1000m通過が59.1秒と流れた展開の中、川田とジェンティルドンナのコンビは中団より後ろにつけて脚をためると直線大外から追い込みを開始。残り400過ぎで早くも前に並びかけると坂を上り終えた辺りで外から一気に突き抜けてリベンジを狙うヴィルシーナを始めとした他馬を置き去りにしそのまま5馬身差をつけて圧勝。上がり3Fで2位に1秒もの差を付け従来から1.7秒更新のレースレコード2:23.6で二冠に輝いた。
鞍上の川田は8年目で中央GI3勝目。ここまでそのすべてがクラシックと、ここぞの勝負強さを見せた。
夏は休養にあて、秋初戦はローズステークス(GII)。流石にもうその強さを疑う者はなく1.5倍の1人気となる。
レースでは二番手集団で先行し直線で追い出すと逃げ馬をあっさりかわし、またも2着に入ったヴィルシーナ以下の追撃も問題なく抑えて完封。三冠に向けて上々の滑り出しを見せた。
貴婦人の進撃
まず桜の丘で乱を鎮め
樫の渓谷を平定すると
いま秋華の郷も制圧。
乙女の国を統べる者が
ここに誕生した。だが女領主は満足を知らぬ。
まだ見ぬ強敵を求めて
新たな荒野へ飛び出していく。
波の向こうへ漕ぎ出していく。
貴婦人の進撃は続く。
桜花賞以降の勝ちっぷりの強さと過去の二冠達成の実績から1.3倍の1番人気となり、ジェンティルドンナとの対戦で三回連続で2番手になるという苦杯を舐め彼女への雪辱を晴らさんと挑むヴィルシーナが2番人気であった。
レース本番、ジェンティルドンナは外枠から五分のスタートで中団につけヴィルシーナは再内枠から好スタートでハナに立った。このまま進んでいくかと思われたレースだが、なんと出遅れて最後方にいたチェリーメドゥーサが向正面からまくり上げて大逃げを打ちこれを他の馬が追うという荒れる展開となる。ジェンティルドンナは4コーナーで早くも鞭が入って追い出しを開始、直線入口ではまだ前と大きな差があったがこれを猛然と追い上げゴールの数十メートル手前で逃げ粘るチェリーメドゥーサと内側から抜け出してきたヴィルシーナをまとめて捉えた、と思いきやヴィルシーナだけは尚も食い下がって盛り返し写真判定にもつれ込む程の僅差で並んでゴールに飛び込んだ。写真判定の結果、同タイムハナ差での勝利となり彼女は史上四頭目となる牝馬三冠を達成。なお、三冠戦全てジェンティルドンナ→ヴィルシーナで決着する珍記録のおまけ付きであった。
牝馬三冠を達成し、自信をつけた陣営はジャパンカップ(GI)への参戦を決定する。
2012年のジャパンカップは凱旋門賞からSolemia、天皇賞(秋)からエイシンフラッシュ、フェノーメノ、ルーラーシップ、そして何より前走凱旋門賞でSolemiaの2着から帰国した前年の三冠牡馬のオルフェーヴルも参戦し、好メンバーが揃った。このメンバーの中でも牝馬三冠での勝ちっぷりが評価され、彼女は3番人気に推される。
外枠と大幅な体重減(-14)で心配されたが、レースは斤量差を生かし果敢な先行策に打って出ると折り合い良く道中を進め、最後の直線で追い出しにかかって狭いラチ沿いから馬群を抜け出した。まだ前にはまくり上げて外から追い込み内にササッてきたオルフェーヴルと大逃げを打って一杯になったビートブラックがいたため二頭に挟まれ進路を失いかけてしまうが、ここでジェンティルドンナは牝馬とは思えない豪快なタックルでオルフェーヴルを外へふっ飛ばし進路をこじ開けるとラストスパートをかけ先頭に立つ。オルフェーヴルも態勢を立て直し猛然とジェンティルドンナを追いかけ、最後は三冠馬同士のプライドがぶつかった熾烈な追い比べになったがこれを制したのはジェンティルドンナ。ラフプレーは審議になったものの、オルフェーヴルもゴールまで内にササり続けてジェンティルドンナを内ラチに押し付けかけていたこともあってか騎手の騎乗停止処分のみで降着は無しとなり、わずかハナ差でジェンティルドンナが三冠馬対決を勝利。牝馬三冠馬として初となる牡馬混合GI制覇、3歳牝馬による初めてのジャパンカップ勝利を果たした。
当然最優秀3歳牝馬を受賞。そしてGI4勝、特にジャパンカップでの勝利が評価され、彼女は3歳牝馬としては史上初となる年度代表馬に選出された。
明けて2013年。陣営は凱旋門賞挑戦を見据え、海外初挑戦となるドバイシーマクラシック(G1)への遠征を決断。放牧に出された後、国内で入念に調教を積み一週前に現地へ乗り込んだ。休み明け、ぶっつけ本番、長距離輸送を不安視する声もあったが、それを吹き飛ばすように現地の最終追い切りでは慣れない馬場に対応し抜群の動きを見せる。海外の関係者からもジャパンカップでオルフェーヴルに勝った事を非常に高く評価されており、ブックメーカーのオッズでは1番人気に支持された。
そしてレース本番、ゲートは外目の8番枠からスタート。積極的な逃げ馬がいない中でShareta(シャレータ)が鼻を切り、それに2番人気St Nicholas Abbey(セントニコラスアビー)、ジェンティルドンナが続き有力馬で先頭集団が形成される。ただ本馬の道中は内に入れず外を回された上、掛かり気味なのか鞍上の岩田騎手が手綱をずっと抑えた状態でリズムを欠いていた。そしてそのままの隊列で4コーナーから直線へ入る辺りで前にいたセントニコラスアビーが先に仕掛け、シャレータを交わし先頭に躍り出るとジェンティルドンナもそれを追う。直線セントニコラスアビーを捉えようとラストスパートを仕掛けるが道中リズムを悪くしたためか最後の伸びに欠き、日本で見せていた爆発的な末脚も出ず先頭のセントニコラスアビーとの差が詰められない。それでも持ち前の勝負根性で何とか食い下がり後続は封じたが前からは少し離されて2着、世界の壁の厚さを感じた惜敗だった。
勝ったSt Nicholas Abbeyは前年の凱旋門賞こそフランスの馬場が合わず11着と惨敗していたが、その後世界中のクラシックディスタンスを転戦しコロネーションC連覇とBCターフ勝利でG1・3勝、負けたレースでも堅実に着を拾って実績を積み重ねてきた有力馬であった。
ドバイからの帰国後は、予定通り宝塚記念(GI)に出走。二度目の三冠馬対決となるオルフェーヴルと初対決となる同期の二冠牡馬ゴールドシップに、天皇賞(春)を制したフェノーメノを加えた四強決戦が期待された。しかしオルフェーヴルが肺出血により直前で回避。残った3馬で最強4歳馬決定戦の様相を呈す中、彼女は単勝2.4倍の1番人気に支持される。
レース本番では大外の11番枠からジャパンカップと同様に先行策を打つ。大逃げを打つシルポート、実質上のペースを作るダノンバラードに続く3番手につけ、同じく先行策をとると想定されていたフェノーメノの機先を制することに成功する。思惑通りの展開であっただろうが、ここで予想外の事態が発生する。いつも通り最後方からレースを進めると思われていたゴールドシップが、内田騎手の出鞭と押しに応えて先行し、4番手につけてきたのだ。最後にスタートを出負けしたフェノーメノが5番手についたことにより、レースの道中は三強が順に並ぶ形で進んでいった。
レースが動いたのは第3コーナー。フェノーメノが前2頭を捉えるべく仕掛けたのを機に、各馬スパートを開始。内からジェンティルドンナ、ゴールドシップ、フェノーメノの順で三強は一団となりコーナーを曲がってゆく。そして最後の直線、数日前の台風とレース直前までの雨により荒れていた内を嫌った岩田は、外に持ち出すべくゴールドシップを弾こうとしたが、これを読んでいた内田には通じず逆に弾き返される結果に。この時点で勝負は決し、彼女は荒れた馬場を苦にせず伸びてゆくゴールドシップに突き放されていく。最後はフェノーメノの追撃こそ凌いだものの、ダノンバラードを半馬身交わせずに3着。勝ったゴールドシップからは3馬身半離された完敗であった。
ドバイのメイダン競馬場、実質重の阪神競馬場といったパワーの要る馬場で連敗を喫したことにより、陣営は両競馬場より馬場が重くなることが想定されるパリ・ロンシャン競馬場で行われる凱旋門賞への挑戦を断念せざるを得なくなった。
秋初戦は古馬中距離路線の天皇賞(秋)へ直行することに。ゴールドシップ不在ということもあり、彼女は1番人気に支持された。しかしレースでは前半1000m58秒4のハイペースで掛かり気味の2番手から直線でも失速せず一旦は先頭に立ったものの、後方待機が幸いしたジャスタウェイの爆発力に差し切られ他の後続馬寄せ付けなかったが4馬身差の2着に敗れた。
レース後の石坂調教師とオーナーの協議の末、鞍上をこれまで主戦だった岩田康誠からライアン・ムーアに変更して次は連覇の懸かるジャパンカップへ出走することに。
前走で折り合いに苦しみ2着、天敵のゴールドシップも出走するとあり人気を落とすかと思われたが、当日は前年覇者ということもあってか1番人気。
レースは好スタートから馬群の中5番手付近で追走。エイシンフラッシュの押し出された逃げで作り出された1000m62秒4という超スローペースで各馬折り合いに苦しむ中、彼女はうまくリズムを整えながら進んでいく。4コーナーから仕掛け始め直線で内から抜け出して早め先頭に立つとゴールドシップが捲り不発で追ってこず、デニムアンドルビーなど追い込み勢の追撃もしのぎ切って史上初のジャパンカップ連覇を達成した。
その後疲労面などを考慮して有馬記念には出走せず結局この年はジャパンカップの1勝のみに終わったが、ドバイシーマクラシックや天皇賞(秋)でも善戦したことが評価されジェンティルドンナはこの年のJRA最優秀4歳以上牝馬に選出された。
陣営は前年同様ドバイシーマクラシックへの挑戦を表明し遠征前の前哨戦に京都記念(GII)を選択。鞍上は福永祐一が務めることに。GⅡということで誰もが楽勝だと思っており単勝1.6倍の圧倒的な1番人気に支持された。しかしレースでは好位置につけながらも直線で全くといっていいほど伸びがなく、デビュー以来初めて掲示板を外す6着。ドバイ遠征を不安視する声も聞かれた。鞍上との相性が悪かったとも。
不安要素が募る中迎えた本番、ドバイシーマクラシック(G1)では再びライアン・ムーア騎乗での出走になった。
彼女は同じく日本から遠征していたデニムアンドルビーと共に好スタート。先行したデニムアンドルビーに対してジェンティルドンナは外枠からだったこともあり内の馬を行かせて馬群の中で控え、その際に故障発生で逸走した内の馬と接触するも特に影響はなく中団のラチ沿いに付ける。4コーナーを迎えると外に出そうとし始めたが他の馬も外から仕掛けてきたことで馬群の真っ只中に置かれており、直線に向いてもCirrus Des Aigles(シリュスデゼーグル)に内に押し込まれたことで囲まれる状況になってしまう。しかし横を塞いでいたシリュスデゼーグル前に出てスペースができるとすかさず横っ飛びするように一瞬で外に切り返して抜け出し、鞭が入って追い込むと一気に伸びて残り120mでシリュスデゼーグルを捉えてそのまま差を広げていき1着でゴール。2012年のこのレースの勝ち馬でもあるフランスの強豪シリュスデゼーグルに完勝して昨年敗れたドバイシーマクラシックを制し、牝馬としては初のドバイG1制覇となった。
帰国後は再び宝塚記念への出走を表明し鞍上はオークス以来となる川田将雅とのコンビが復活。昨年はゴールドシップに完敗したものの、今年こそはと陣営もかなり気合を入れて望んだ。
やはり昨年優勝ということで1番人気のゴールドシップ、GⅡ日経賞勝利から天皇賞(春)2着と上り調子を見込まれて2番人気のウィンバリアシオンに次ぐ3番人気となったが、それでもジェンティルドンナは単勝4.1倍とかなりの支持を集めていた。
スタートはまずまずで前目につけたものの最初の直線で今年もゴールドシップがジェンティルドンナの外に付け、スタート1000m62秒4のスローペースにうまく折り合えない。外に居たゴールドシップに3コーナー過ぎから先行されてレース終盤に入ると、前の位置からロングスパートで先頭に立ったゴールドシップに対してジェンティルドンナは直線でも伸びがなく、過去最悪の9着と惨敗を喫してしまった。
宝塚記念の後は休養に入り秋は天皇賞(秋)からの始動し鞍上は初騎乗となる戸崎圭太に乗り替わりとなった。また、ジェンティルドンナはこの年一杯で引退となることが陣営から発表された。天皇賞の1番人気はダービーでも2着と善戦し秋はセントライト記念を制して臨むその年の皐月賞馬イスラボニータで、ジェンティルドンナはそれに次ぐ2番人気に支持された。
レースは再内枠から好スタートを決めて3番手を先行し道中でその外にイスラボニータが付けて来る形となり、最後の長い直線では先に抜け出したイスラボニータに対してジェンティルドンナは内に閉じ込められかけて追い出せない状態になってしまう。なんとか狭いラチ沿いを抜けて加速すると残り100m付近でイスラボニータを捉えたが、その後ろ大外から飛んできたスピルバーグに差し切られ2年連続の2着に惜敗。その後陣営は三連覇がかかるジャパンカップを次のレースとするも、ここでの結果次第では年末を待たず即引退の可能性も示唆した。
当日は得意の府中2400m、騎手も好成績が続くライアン・ムーアとあって1番人気での出走。レースではここも好スタートから中団前目につけたが、前日に雨が降ったせいで良馬場発表ながら若干重めの馬場になっており道中最内を通ったこともありスタミナ勝負で苦戦。不良馬場の菊花賞で圧勝したエピファネイアによる先行抜け出しについていけず後ろの2頭にも差されての4着となった。
ただ掲示板は確保する善戦となったため、陣営は即引退はせず年末の有馬記念をラストランに定め秋古馬三冠レースを完走することを決定。
有馬記念(GI)ではジャパンカップで騎乗したライアン・ムーアの短期騎手免許が切れ帰国してしまっていたため、再び戸崎が騎乗することに。ジェンティルドンナは事前のファン投票では1位のゴールドシップに続く55699票を集めた。
この年の有馬記念は史上初めて枠順を公開抽選で決めることになったが、ジェンティルドンナはなんと1番最初に選択権を獲得し2枠4番、8年前に父ディープインパクトが引退レースを勝利で飾ったのと同じでもある好位置からの発走となった。しかし彼女は実は有馬記念どころか中山未経験。前走でも敗戦したことが祟り、4番人気にまで人気を落とした。そしてその出走メンバーは下表の通りである。
| 枠 | 番 | 馬名 | 主な勝ち鞍(当時) |
|---|---|---|---|
| 1 | 1 | トーセンラー | 2013年マイルチャンピオンシップ |
| 2 | ヴィルシーナ | 2013年・2014年ヴィクトリアマイル | |
| 2 | 3 | ワンアンドオンリー | 2014年日本ダービー |
| 4 | ジェンティルドンナ | 2012年牝馬三冠、2012年・2013年ジャパンカップ、2014年ドバイシーマクラシック | |
| 3 | 5 | ラキシス | 2014年エリザベス女王杯 |
| 6 | トゥザワールド | 2014年弥生賞 | |
| 4 | 7 | ラストインパクト | 2014年京都大賞典、2014年金鯱賞 |
| 8 | メイショウマンボ | 2013年オークス、2013年秋華賞、2013年エリザベス女王杯 | |
| 5 | 9 | ウインバリアシオン | 2011年青葉賞、2014年日経賞 |
| 10 | フェノーメノ | 2013年・2014年天皇賞(春) | |
| 6 | 11 | サトノノブレス | 2014年日経新春杯 |
| 12 | デニムアンドルビー | 2013年フローラS、2013年ローズS | |
| 7 | 13 | エピファネイア | 2013年菊花賞、2014年ジャパンカップ |
| 14 | ゴールドシップ | 2012年皐月賞、2012年菊花賞、2012年有馬記念、2013年・2014年宝塚記念 | |
| 8 | 15 | ジャスタウェイ | 2013年天皇賞(秋)、2014年ドバイデューティーフリー、2014年安田記念 |
| 16 | オーシャンブルー | 2012年金鯱賞 |
実に出走16頭中GI馬10頭かつ残り6頭も全員GII馬という超豪華な面子が揃う夢のグランプリが実現した。スポーツ紙予想や評論家予想も割れに割れ、4番人気のジェンティルドンナも単勝オッズ8.7倍とまさに混戦の様相。
レースは古馬になってからヴィクトリアマイルを連覇し同じくこの有馬記念での引退が発表されていた牝馬三冠時のライバル:ヴィルシーナがレースを引っ張る展開の中、ジェンティルドンナは好スタートから道中3番手を追走。4コーナーに入ると各馬が一斉に仕掛け始め、前のエピファネイアが先頭に立って抜け出しを図り後ろからはゴールドシップが外をまくって上がりジャスタウェイも直線一気を狙って追い込みをかけた。ジェンティルドンナはその真ん中から前を追うと鞭が入って直線半ばで先頭に立ち、殺到するエピファネイア、ゴールドシップ、ジャスタウェイら時代を彩ったライバルたちを従えるようにただ1頭抜け出したまま3/4馬身差でゴール、GⅠ7勝目を手にした。前年のオルフェーヴルに続き、2年連続で有馬記念を引退レースとした馬が優勝によって有終の美を飾ることとなった。
またこの有馬記念制覇は
という記録ずくめの引退レースとなり、全レース終了後には引退式が執り行われた。
海外G1ドバイシーマクラシック及び引退レースとなった豪華メンバーの有馬記念を勝利したことが評価され、JRA賞で2年連続の最優秀4歳以上牝馬と2年ぶり2度目の年度代表馬に選出された。
19戦10勝。マイルからクラシックディスタンス、主要4場から海外、先行から差し追い込み、そして現役生活を通して8人の騎手を背に乗せてそのうち4人でGⅠを勝利とあらゆる方面に幅の広い活躍を見せた競走馬時代であった。
競走引退後は自身の生まれ育った北海道安平町のノーザンファームにて、繁殖牝馬として子育てに勤しんだ。
初仔のモアナアネラは準OP止まり、2番仔は故障でデビュー断念、4・5番仔は未勝利に終わったが、3番仔のジェラルディーナが2022年のオールカマー(GII)を勝利して産駒初の重賞勝利を挙げると、勢いそのままに同年のエリザベス女王杯(GI)も勝利し産駒初GI勝利の快挙を達成、母*ドナブリーニから続いて3代でのGⅠ勝利にもなった。
2025年に入って体調を崩すことが増えたため繁殖を引退し功労馬として余生を送ることとなったが、程なく現役時の馬主であるサンデーレーシングから2025年11月25日に死去したと発表された。命日は13年前にジェンティルドンナが初めて3歳牝馬としてジャパンカップを勝利した日でもあった。
この前日の24日には長女モアナアネラの初仔、つまりジェンティルドンナにとっての初孫である牝馬のカフェラバーが新馬戦でデビュー勝ちを収めている。他にも未出走だった二番仔以外はダイワスカーレットに倣ったのか全員牝馬であったため、今後一大牝系の始祖としても彼女の名前が伝わっていく未来があるかもしれない。
| 出生年 | 馬名 | 性 | 父 | 主な勝鞍 |
|---|---|---|---|---|
| 2016 | モアナアネラ | 牝 | キングカメハメハ | 3歳以上2勝クラス(19/11/24 京都8R) |
| 2017 | (ジェンティルドンナの2017) | 牡 | キングカメハメハ | (未出走) |
| 2018 | ジェラルディーナ | 牝 | モーリス | '22オールカマー[GII] '22エリザベス女王杯[GI] |
| 2019 | マリーナドンナ | 牝 | ロードカナロア | (未勝利引退) |
| 2021 | エヴァンジェリーナ | 牝 | モーリス | (未勝利引退[3]) |
| 2023 | アルジェンテーラ | 牝 | ドレフォン | (デビュー前) |
| 2024 | (ジェンティルドンナの2024) | 牝 | エピファネイア | (デビュー前) |
| ディープインパクト 2002 鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
| Cosmah | |||
| Wishing Well | Understanding | ||
| Mountain Flower | |||
| *ウインドインハーヘア 1991 鹿毛 |
Alzao | Lyphard | |
| Lady Rebecca | |||
| Burghclere | Busted | ||
| Highclere | |||
| *ドナブリーニ 2003 栗毛 FNo.16-f |
Bertolini 1996 鹿毛 |
Danzig | Northern Dancer |
| Pas de Nom | |||
| Aquilegia | Alydar | ||
| Courtly Dee | |||
| Cal Norma's Lady 1988 栗毛 |
*リファーズスペシャル | Lyphard | |
| My Bupers | |||
| June Darling | ジュニアス | ||
| Beau Darling | |||
| 競走馬の4代血統表 | |||
クロス:Lyphard 4×4(12.50%)、Northern Dancer 4×5×5(12.50%)
| JRA顕彰馬 | |
| クモハタ - セントライト - クリフジ - トキツカゼ - トサミドリ - トキノミノル - メイヂヒカリ - ハクチカラ - セイユウ - コダマ - シンザン - スピードシンボリ - タケシバオー - グランドマーチス - ハイセイコー - トウショウボーイ - テンポイント - マルゼンスキー - ミスターシービー - シンボリルドルフ - メジロラモーヌ - オグリキャップ - メジロマックイーン - トウカイテイオー - ナリタブライアン - タイキシャトル - エルコンドルパサー - テイエムオペラオー - キングカメハメハ - ディープインパクト - ウオッカ - オルフェーヴル - ロードカナロア - ジェンティルドンナ - キタサンブラック - アーモンドアイ - コントレイル - イクイノックス |
|
| 競馬テンプレート |
|---|
| 中央競馬の三冠馬 | ||
| クラシック三冠 | 牡馬三冠 | セントライト(1941年) | シンザン(1964年) | ミスターシービー(1983年) | シンボリルドルフ(1984年) | ナリタブライアン(1994年) | ディープインパクト(2005年) | オルフェーヴル(2011年) | コントレイル(2020年) |
|---|---|---|
| 牝馬三冠 | 達成馬無し | |
| 変則三冠 | クリフジ(1943年) | |
| 中央競馬牝馬三冠 | メジロラモーヌ(1986年) | スティルインラブ(2003年) | アパパネ(2010年) | ジェンティルドンナ(2012年) | アーモンドアイ(2018年) | デアリングタクト(2020年) | リバティアイランド(2023年) |
|
| 古馬三冠 | 春古馬 | 達成馬無し |
| 秋古馬 | テイエムオペラオー(2000年) | ゼンノロブロイ(2004年) | |
| 競馬テンプレート | ||
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