くろしおは、JR西日本が運行する特急列車である。オーシャンアローに関しては「オーシャンアロー」の記事を参照してほしい。
なお、三陸鉄道にもかつて「くろしお号」が走っていた他、外房線(JR東日本)では、かつて準急として「くろしお」の名称が使用されていた事があるが、それらについては本項では触れない。
概要
列車名称としては鉄道省が1933年から1937年に「黒潮」として運行した快速列車を祖とする。阪和電気鉄道(現在の阪和線)天王寺駅と紀伊田辺駅間を結び、紀勢線が白浜まで延伸したのにあわせて白浜発着とされた。当時の阪和電気鉄道のぶっ飛んだ方針もあり、天王寺駅~和歌山駅間61.2kmを平均81.6km/h、45分で結んだ当時日本最速の列車でもある。この当時は南海電鉄難波駅発着便も設定されていたが、戦局の影響もあり定期便は4年での廃止となった(臨時便のみ1940年まで存続)。
1950年に臨時快速列車「黒潮」として天王寺駅~白浜駅間に復活すると、1954年に準急化。1956年に「くろしお」表記に変更された。
その後、1965年3月1日に天王寺駅と名古屋駅を関西本線・紀勢本線経由で結ぶ南紀全周特急として設定されキハ80系を充当。1972年時点で全区間走破すると約9時間を要していたが全列車が南紀全周する訳ではなく、新宮~天王寺の区間列車が7両編成4往復、全周が10両編成1往復の布陣であった。
なお、補完列車として急行「紀州」が同様に全周列車として設定されていたほか、名古屋側では急行「はまゆう」「くまの」、天王寺側では急行「きのくに」が運行されていた。
後に1978年10月2日の紀勢本線の和歌山駅~新宮駅間の電化を機に「くろしお」と「南紀」に分離され381系9両編成が導入され9往復運転となり、あわせてエル特急指定を受けた。
1982年時点では「きのくに」置き換え分を含めた12往復体制で、関西本線名古屋口の電化に伴う改正が実施された(新宮発着6往復、白浜発着6往復。白浜発着3往復は期日指定)。
381系導入にあわせて和歌山~紀伊田辺間の複線化、和歌山~白浜間の最高速度・曲線通過速度引き上げが実施され天王寺~白浜間がキハ80系の2時間33分から2時間5分(最速)に短縮された。一方、線形の都合で白浜~新宮間はキハ80系の1時間48分から1時間46分と2分の短縮に留まった。民営化直前の1986年11月改正では阪和線の最高速度が120km/hに向上し天王寺~白浜間が和歌山・御坊・紀伊田辺停車便でも2時間以内に短縮された。あわせて、1985年3月改正で急行「きのくに」格上げ分4往復に投入されていた485系がスピード面で不評であったため、出雲から381系を捻出・転属させ全列車381系に再統一した。
なお、運転開始当時は関西本線も紀勢本線も起点は名古屋側であった。
民営化後には381系のパノラマ編成による「スーパーくろしお」や283系による「スーパーくろしおオーシャンアロー(→オーシャンアロー)」も運行されており、京都・大阪と和歌山・新宮を結んでいた。現在は、後述の通り列車名が全て「くろしお」に統一されている。
なお、「スーパーくろしお」の登場と同時期に天王寺駅の阪和短絡線が運用開始となり、新大阪駅・京都駅へ運転区間を延伸。新幹線連絡を行うようになった。
283系「オーシャンアロー」投入当初は381系「くろしお」編成を全て283系に置き換える筈だった。が、283系に不具合が出た事から283系の投入ではなく381系の大規模リニューアルへと舵を切った為、2010年代前半においても車齢の高い381系が大切に継続して使用されていた。
2010年11月17日に381系の後継として287系が充当される事がJR西日本社長より明らかになった。オーシャングリーンをラインカラーとして纏う287系くろしお編成は平成24年(2012年)3月17日以降に運用に就き、全部で51両が投入される(なお、日根野区には126両の381系が所属しており全てが置き換えられる訳ではない)。287系「くろしお」はダイヤ改正時は4往復であったが2012年6月1日より7往復に増強される。これにより以前よりくろしおとして活躍してきた381系アコモ編成はすべて置き換えられるが、旧スーパーくろしお用のパノラマグリーン車付きの381系はこの時点では置き換え対象から外れ、継続して使用された(ちなみに、287系に置き換えられたアコモ編成は国鉄色へ復帰した上で福知山へ転属し183系を置き換えている)が、2015年3月14日のダイヤ改正以降に置き換えが行われる事が和歌山支社のプレスリリースにより明らかとなり、2015年10月30日に381系運用が終了した。
置き換え用車両として状況証拠から「しらさぎ」運用に就いていた289系(旧683系2000番台)が挙げられており、振り子式車両381系から非振り子289系への置き換えで新大阪~新宮間の所要時間が下り(新宮方面行き)が4~12分、上り(新大阪方面行き)が1~11分増える(新大阪~新宮間の所要時間は新宮方面行きが約4時間10分、25号のみ約4時間30分、新大阪方面行きが約4時間15~25分となる)。287系「くろしお」の天王寺〜新宮間の最速列車は3時間51分(土休日ダイヤ。平日は最速3時間52分)で、381系が導入された昭和53年10月ダイヤ改正当時に近い水準(最速3時間53分)まで後退したが、翌2016年3月のダイヤ改正で阪和線内のスピードアップ(44分→41分)を図り、3時間48分にまで向上している。その一方で、283系振り子車のくろしおは逆に最速3時間47分、他の便も軒並み3時間50分前後を要するにまでスピードダウン。振り子車と非振り子車の最速列車の差は僅か1分と、振り子車の優位性はほぼ失われている。いずれ非振り子車に統一したい気満々なようだ。現在は関空連絡絡みで日根野駅に、さらにうめきた新駅開業で大阪駅にも停車するため少し所要時間が伸びている。その為新宮駅に行く場合、時間帯によっては近鉄特急で松坂駅に行きそこから特急南紀に乗り換えた方が便利な事もある(所要時間はくろしおを使う場合と殆ど変わらない。)
2015年4月28日に正式に289系への置き換えが発表された(6連5本、3連3本:計39両)。運転開始日は2015年10月31日で、運用区間は京都・新大阪~白浜間。381系引退に伴い287系が新宮まで乗り入れる。
287系は振り子式車両ではないが加速性能の向上や、低重心構造化により381系には劣るものの、旧型の特急車よりはある程度カーブを高速で通過できるため(R=400m以上のカーブで本則+15km/h、400m未満で+10km/h。振り子式車両の283系は同+25km/h。381系は+20km/h、485系は+5km/hであった。)紀勢本線のカーブでも非振り子の287系で対応出来る、という判断から投入される事となった。 2012年3月17日のダイヤ改正以降は振り子装置の有無の影響を受ける和歌山~白浜間の所要時間が381系よりも約5分伸びるが(上下列車の交換による停車時間増を除く)、485系時代よりは約10分速く走破するダイヤが組まれている(しかも485系当時は藤並駅に停車していなかった)。また下り1本は途中停車駅を4駅削減することで新大阪 - 白浜間の所要時間を逆に1分短縮している。
ちなみに、「くろしお」と「スーパーくろしお」はパノラマ車両の有無でのみ区別されていた。なお、2012年3月17日のダイヤ改正より「スーパーくろしお」「オーシャンアロー」の名称が「くろしお」に統一される事となった。
※ちなみに、381系「くろしお」は自然振り子で酔う人もいる為ネット某所では「げろしお」と呼ばれる事がある(意味についてはお察し下さい)。置き換えまで不安な人は酔い止めの事前服用などがオススメされていた。現在くろしおで運転している列車は全て非振り子なので神経質にならなくていい。
なお、同じ381系を使用している「やくも」も同様に「吐くも」「ぐったりはくも」と呼ばれる事がある。
近年の利用状況については、南紀方面への観光利用は高速道路延伸開通に伴いマイカーに客足を奪われ、行楽期を除いて苦戦を強いられている反面、新大阪・大阪・天王寺~和歌山・海南間といった阪和間短距離利用客が年中通して比較的多く、この区間では混雑することも多い。その為白浜まではほぼ毎時1本は運転されている。一部列車はかつてのホームライナーを代替しており、通勤需要もあることから、南紀方面の利用低迷のイメージに反して、新車投入後も基本編成が6両から減車されていない。2023年春よりうめきた新駅開業で大阪駅にも停車するようになった。
一方で381系時代から287系に至るまで「パンダくろしお
」編成を投入するなど白浜エリアへの誘客については継続しているほか、白浜~新宮間では乗客が少ないことを逆手に取り「くろしおサイクル」として6号車をサイクリスト専用車両にするなど様々な試みを行っている。「パンダ」ラッピングは2025年6月のパンダ返還後も継続となっている。このうち1編成についてはラッピングを天野喜孝デザインの「Utopia」に変更して2025年11月より運行する。
なお、2022年3月のダイヤ改正にて、北近畿特急とともに全車指定席へと変更され自由席設定は消滅した(ついでに283系オーシャンアロー編成の振り子も止めた)。全席指定になった事で乗車率が可視化しやすくなった為か9両編成で運転する列車も多客期を中心に増えている。なお何れの車両も貫通扉を備えているにも関わらず北陸特急や北近畿特急と異なり、9両編成で運転する際何故か貫通扉を開けて幌を繋がず、通り抜けが出来ない。
2024年8月に南海トラフ地震の到来が予想された際には和歌山~新宮間の運転を取りやめ深夜帯にしか見られない和歌山行きの表示が終日に渡って見られる光景が目撃された。なおそれでも白浜方面に向かおうとする人はそれなりにおり、和歌山から普通電車に乗り換えて向かっていたようである。
この南海トラフ地震対策として、現在紀勢本線を走行する車両には避難はしごが設置されパンダのイラストを用いた避難方法のリーフレットも設置されている(車両写真はなぜか681系)。このため、「くろしお」編成が他線区に応援で入ることはあるが、避難はしごのない他線区の車両が「くろしお」運用に入ることはない。
2025年3月1日に特急運行60周年を迎え、各種イベントが実施された。2025年7月5日からは287系1編成(HC602)の1号車・6号車を初代「スーパーくろしお」ラッピングに変更し、先頭車貫通扉には国鉄特急エンブレムとヘッドマークが設置された。
ちなみに、「鉄道むすめ」の「黒潮しらら」(白浜駅駅員)の苗字はこの「くろしお」から採られている。
「くろしお」データ
- 運転区間:京都・新大阪~和歌山・白浜・新宮
- 運用線区:東海道本線・大阪環状線・阪和線・紀勢本線
- 会社:JR西日本
- 車両:287系・283系(吹田総合車両所日根野支所所属)、289系(吹田総合車両所京都支所所属)
- 過去に使用されていた車両:381系・485系
- 編成図(287系・289系:←新宮・白浜 新大阪・京都→)
1号車 2号車 3号車 4号車 5号車 6号車 G│指定 指定席 指定席 指定席 指定席 指定席 - 編成図(283系・オーシャンアロー:←新宮 新大阪・京都→)
1号車 2号車 3号車 4号車 5号車 6号車 グリーン 指定席 指定席 指定席 指定席 指定席 - 以前の289系編成図 ※交流機器撤去工事により消滅(←白浜 新大阪・京都→)
1号車 2号車 3号車 4号車 5号車 6号車 グリーン 自由席 自由席 指定席 指定席 指定席
※7~9号車は多客時のみ京都・新大阪~白浜間で増結される。白浜~新宮間に乗り入れるのは1~6号車のみ。また、6号車・7号車は通り抜けできない。
※5号車には女性専用席が設けられている。
※2012年3月17日より、283系で運転される列車の場合、一部6号車または1・9号車の2両がグリーン車となる場合がある。6号車がグリーン車の場合、1号車は普通車指定席となる。なお同日以前は「オーシャンアロー」がこの法則に当てはまる。
※283系が付属編成2連で代走となる場合はグリーン車の位置が変更される。また、287系付属編成での代走の場合はグリーン車の設定はない。
- 所要時間(目安)
天王寺~紀伊田辺 天王寺~新宮 速達型 停車型 最速列車~最遅列車 平均所要時間 283系(オーシャンアロー) 約1時間50分 約1時間55分 3時間47分~3時間55分 3時間50分 287・289系(非振り子車) 約1時間55分 約2時間00分 3時間48分~4時間16分 4時間01分
※上の表は、2016年3月26日改正ダイヤを参考としている。
※大阪駅・新大阪駅からの所要時間は、上の表に約20分を加えた時間が目安となる。
過去の編成(381系)
- 国鉄時代(新宮⇔天王寺・381系9両)(1978年10月2日~)
1号車 2号車 3号車 4号車 5号車 6号車 7号車 8号車 9号車 指定席 指定席 指定席 グリーン 指定席 指定席 自由席 自由席 自由席 - くろしお編成(新宮・白浜⇔新大阪・京都、HB301~307編成)
※4~6号車は増結用ユニット1号車 2号車 3号車 4号車 5号車 6号車 7号車 8号車 9号車 クロ381 モハ380 モハ381 モハ380 モハ381 サハ381 モハ380 モハ381 クハ381 - スーパーくろしお(新宮・白浜⇔新大阪・京都、1~6号車HD601~605/7~9号車HD331~333編成)
1号車 2号車 3号車 4号車 5号車 6号車 7号車 8号車 9号車 クロ380 モハ380 モハ381 モハ380 モハ381 クハ381 モハ380 モハ381 クハ381 - くろしお(モノクラス)(和歌山⇔天王寺、C601~604編成)
1号車 2号車 3号車 4号車 5号車 6号車 クハ381 モハ380 モハ381 モハ380 モハ381 クハ381
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