概要
檜(ひのき)とはヒノキ科ヒノキ属の針葉樹である。
建築材木としては最高品質とされ、寺社の建築には必須とされている。人工林も各地に存在する。
その木のしなやかさのおかげで揺れに強く、また経過年数での劣化が少ない。むしろ伐採されてから200年程はゆっくりと強度が上がり続けると言われている。
そんな木材を武器に用いたのが「ひのきのぼう」である。ドラゴンクエスト最弱の武器として君臨する。
値段の安さから、檜そのものはドラクエ世界では特に求められているわけではなさそうだ。
それぞれのゲーム内での扱い
下記ではそれぞれのゲーム内での「ひのきのぼう」の扱いや謎を、個人的に推測してみることにした。
ドラゴンクエストⅠ
ひのきのぼう:存在していない。
アレフガルドにはどうやら生育していないらしい。代わりに「たけざお」が最弱武器として販売されている。
どうやら竹はたくさん生えているらしい。
ドラゴンクエストⅡ
ひのきのぼう:攻撃力2 非売品 売値15 三人とも装備可能。
ムーンブルク王女の初期装備であり、最弱の武器。
売値は低いが非売品であり、やはりアレフガルドがある世界では生えていないのだろうか。もしくは「こんぼう」の量産に成功していて、武器として販売する気になれなかったのかもしれない。
もしも貴重品ならこの値段なのはおかしいので、後者であろう。
ここで疑問が生まれる。それはなぜ王女はこのような物を武器として持っていたのかという事だ。近くのムーンペタの道具屋には攻撃力:12の「せいなるナイフ」が存在しているので、現実的に考えればそちらを装備するべきである。
考えられるのは二つ。一つはやはりレアリティがあり王女の装飾品として持っていたという事。
もう一つは実は最初は「せいなるナイフ」を所有していたが、犬の時に心ない人間によって奪われ、とりあえず誰も奪いそうにない「ひのきのぼう」を装備していたという事。
どちらにしても推測の域は出ない。
ドラゴンクエストⅢ
ひのきのぼう:攻撃力2 買値5 売値3 全職業が装備可能。
王様から渡される「50G」、「たびびとのふく」、「こんぼう」×2、そして「ひのきのぼう」。
勇者はすでに、「どうのつるぎ」と「たびびとのふく」を装備している。つまり「こんぼう」×2と「ひのきのぼう」は、他の仲間三人に渡されることとなる。
ここで問題となる事柄を一つずつ考えていくこととする。
まず一つ目は『なぜ王様はアリアハンの武器屋最強の武器である「どうのつるぎ」ではなく「こんぼう」と「ひのきのぼう」を送ったか』。
勇者はすでに「どうのつるぎ」は装備しているので、不必要と考えていたのであろう。しかし、それでも仲間に渡すのは「こんぼう」よりは「どうのつるぎ」の方が装備できる職業も同じであり、仲間に装備させれば戦力アップになるであろう。
考えられる理由は二つ、一つは”財政難”。
少し北に離れた町レーベには店の武器防具が揃っている(ブロンズナイフ、どうのつるぎ、くさりがま、けいこぎ、かわのよろい、カメのこうら、かわのぼうし、ターバン)。
なのにアリアハン大陸の中心であるアリアハンには武器屋しか存在しない。しかも売っているのは「ひのきのぼう」「こんぼう」「どうのつるぎ」だけである。
なぜ近くの国と町なのここまで品ぞろえに違いが出るのか。そこから導き出される答えはアリアハンの物資不足。
アリアハンにもたくさんの優れた武具が存在していた。だがモンスター達との激しい戦いの末に損傷して消耗していった。
しかしその結果、中心の城であるアリアハンの周囲には「スライム」と「おおガラス」だけで、驚異的なモンスターは存在しなくなった。
つまりアリアハンの周りに、商人や遊び人でも勝てそうな雑魚モンスターしか存在しないのは、アリアハンの尽力があってこその話なのである。ゆえに資金不足であり、物資不足なのだ。
そしてもう一つ考えられるのは、”勇者とその他の職業の上下関係をはっきりさせるため”。
ルイーダの酒場にいる様々な職業の者たち、しかし装備はそろって「ぬののふく」のみ。レベルも1。外でモンスターと戦えば、金も経験値も手に入るのにである。
これはおそらく、王様が手回しをした結果ではないだろうか? もしも勇者よりもレベルが高く装備もいいものを装備して強い者がいれば、下手をすれば勇者のリーダーシップを奪われかねない。ただでさえ子供な主人公なのに、そんな風に格下だと舐められればパーティ崩壊の危機である。
ゆえに王様は勇者よりも高いレベルの者は置かず、装備も貧弱なものしか認めず、さらに装備品を勇者に渡す事でそれを配る決定権を勇者に握らせる。こうする事で見た目としてもそのあとの行動にしても、勇者がリーダーである事をみとめさせようとしたのである。
アリアハン以外に「ひのきのぼう」を売っている場所は存在しない。他の国々では武器として見られていないのであろう。
しかし扱いやすさゆえに全ての職業が装備できる。魔法使いでさえ装備できるのである。
これは遠まわしに『魔法使いを仲間にしろ』と言っているのではないのではなかろうか?
ジパングの宿屋のタンス内に「ひのきのぼう」が入っている。ジパングには武器屋が存在しない。作ろうと思えば、個人で作れるのであろう。
スライムつむりが落とす。作ろうと思えばスライムつむりにだって作れるのであろう。
ドラゴンクエストⅣ
ひのきのぼう:攻撃力2 買値10 売値7 勇者・ライアン・ブライ・クリフト・マーニャ・ミネアが装備可能。ブライの初期装備。
毒針の次に低い攻撃力。老人のブライが装備できるのに、なぜかアリーナ・トルネコ・ピサロが装備できない。装備する気が無いの間違いではなかろうか。
ちなみに「ひのきのぼう」はほぼ非売品である。狐に騙された時だけ買える。
まず一つ目『なぜブライはこれを装備していたのか』。アリーナの城出が急だったために装備が整えられなかったから、もしくはブライに他に装備できるものが無かったから。
なにせブライの装備できる物は少なく、本当に売っていないのである。「ひのきのぼう」でも仕方ない。
マッドルーパーが落とす。海に出るメダパニを使う緑のトカゲ。腹の中にでも間違って飲み込んだのであろう。
みならいあくまが落とす。みならいあくまはホイミスライムのいる古井戸の底に出る、メラしか使えないモンスター。手に持っていたのは杖を模した「ひのきのぼう」、気分だけでも魔法使いの杖。
ベロベロが落とす。実はあの長い舌が「ひのきのぼう」。
ドラゴンクエストⅤ
ひのきのぼう:攻撃力2 買値10 売値5 主人公・男の子・サンチョ・人型モンスターが装備可能。
主人公の初期装備。王様であるパパスはその素性を隠すために出来る限り一般人を装った。それを主人公にも強要した結果である。
この「ひのきのぼう」。サンタローズにしか売ってない。町やダンジョンにも落ちてないし、モンスターも落とさない、すごろく場にもない。
サンタローズですら、子供が成年になる間に凄まじい品ぞろえの変化をきたしている。
「ひのきのぼう」ではモンスターとはやってられない。そう思ったのであろう。もしくは売れなくなったか。
本当はそこら中に檜が生えているけど、誰も武器としては扱わなくなってしまったのであろう。
ドラゴンクエストⅥ
ひのきのぼう:攻撃力2 買値10 売値7 かっこよさ0 主人公・ハッサン・ミレーユ・バーバラ・チャモロが装備可能。テリー・アモスはこれを武器として見たくないようだ。主人公の初期装備。
ライフコッドだけで販売。「たけのやり」や「どうのつるぎ」も売っているのになぜ主人公の初期装備がこれなのか?
おそらく王子様の夢の中では、争いが嫌だったのではないかと推測してみる。でも戦わないわけにもいかないから、最弱の武器を手にしていたのだ。
ライフコッドは夢の世界も下の大陸も武具屋の品ぞろえは一緒である。どっちも最弱レベル。
上の大陸ではともかく、下の大陸での敵モンスターではこの品ぞろえでは生きていけない。
しかし下ライフコッドにはイベントでモンスターの群が襲いかかるのだが、ずしおうまる・てっこうまじん・ボストロール・バーサクオークとそうそうたるメンバーに村人たちが互角に戦っているのである。
ここの村人たちは実は結構な実力者たちで、装備などなくともやっていけるようだ。
もりじじい、はえまどう、パペットマンが「ひのきのぼう」を落とす。
体内から取り出しているのであろう。
ドラゴンクエストⅦ
ひのきのぼう:攻撃力2 買値10 売値5 かっこよさ0 全キャラ装備可能。
フィッシュベルのよろず屋とグランエスタード城内道具屋で売っている。
モンスターがいないご時世なので、武器と言うより道具として売っているのではなかろうか?
ねこまどうとそらの狩人が落とす、ねこまどうの杖がわりであり、そらの狩人の弓がわりであったのであろう。
ドラゴンクエストⅧ
ひのきのぼう:攻撃力4 買値10 売値5 主人公だけ装備可能。
攻撃力0の毒針を除けば、最弱の武器。主人公が最初から攻撃力8の兵士の剣を持っているので装備する事はない。
錬金窯において、「ひのきのぼう」に「ダガーナイフ」をくっつければ、「鉄のヤリ」に。
「鉄のヤリ」にさらに「ひのきのぼう」を2本くっつければ「ロングスピア」になる。
「石のぼうし」に「ひのきのぼう」をくっつければ「石のオノ」。
「ひのきのぼう」を2本と「力の指輪」を混ぜれば、「クロスボウ」となる。
錬金というよりは、改造合体。
ドラゴンクエストⅨ
まさかの戦力外通告。存在せず。
なぜヒノキなのか
そもそも、なぜ「『ひのきの』ぼう」なのか?
こちらはゲーム内の都合ではなく、メタ的に制作上の視点から考えてみる。
木製の棒を登場させるにしても、木材はたくさんあり、別にヒノキでなくてもよかったはずである。なぜあえてゲーム製作者はヒノキを選んだのだろうか。
「どう」のつるぎ
「どうのつるぎ」が銅製である理由がヒントとなるかもしれない。
銅である理由のまず1つ目としては、「実際に歴史上に広く存在しており、メジャーである」ということが推測される。銅、特に青銅(ブロンズ)で武器を作る事は多くの文明で一般的であった。ヨーロッパ、中東、インド、中国。日本でも(実戦用ではなく祭事用も混じるが)弥生時代や古墳時代の遺跡から銅剣(この「銅」剣も実際には青銅である)が出土している。
さらに2つ目としては、「『他の武器と比較して弱い』という事実がわかりやすい」ことではないかと思われる。「どうのつるぎ」はシリーズ1作目「ドラゴンクエスト」から登場しているが、同作にはさらに上位の武器として、「てつのおの」と「はがねのつるぎ」が登場するのだ。「どう」「てつ」「はがね」。ドラゴンクエストのメインターゲットである若年の少年たちから見ても、どれが弱くどれが強いのか大変わかりやすいと言えるだろう。
以上の2つの理由を、「ひのきのぼう」にもあてはめられないだろうか。
ヒノキ製の打擲武器は実在するのか
まず、「どうのつるぎ」での1つ目の理由のように、ヒノキを使用した打擲武器が歴史上で実際に存在し、それを参考にしたという可能性はないだろうか?
木刀
だが、まず身近な木製の武道具である木刀について調べてみると、「ヒノキのような針葉樹は、通常木刀には使用しない」という事実がわかる。木刀にはカシ、ビワ、コクタンなどの硬くて重い広葉樹の木材が使用されるのが一般的なようだ。ちなみに、広葉樹は英語でhardwood(硬い木)と呼ばれ、対して針葉樹はsoftwood(柔らかい木)と呼ばれる。
ヒノキの木材の特徴について調べると、「柔らかくて加工しやすく」「軽い」と言うのが特徴である。ヒノキの密度はおよそ0.4g/cm3とされる。対して、カシの密度はおよそ0.9g/cm3程度とされる。実に、ヒノキの密度はカシの1/2以下でしかないのだ。
軽い木刀では打った時の威力もなく、また柔らかくてはすぐに形が変わってしまうだろう。つまりヒノキは、普通の木刀には「もっとも向かない」種類の木材と言える。
「軽い」という点を逆に利用し、余計な力が入らないようにして「形」の乱れを検証・修正するための練習用の木刀、として存在はしているようだが、これは実際に打つためのものではないし特殊例だろう。
西洋武具
ドラゴンクエストは西洋的雰囲気のファンタジー作品である。ウィザードリィ、ウルティマ、ダンジョンズ&ドラゴンズなどの海外製の西洋ファンタジーゲームから影響を受けていることも知られている。
ヒノキ製の木刀が無いとしても、海外にヒノキ製の打擲武器があり、それを参考にした可能性はないだろうか?
ヒノキは日本と台湾特有の木材であり、そもそも西洋には存在しないようだ。英語ではJapanese cypress(日本の糸杉)とも呼ぶらしいので糸杉(cypress)がヒノキに対応するものかと思われる。実際、糸杉を西洋檜(セイヨウヒノキ)と呼ぶこともある。また、英語版ドラゴンクエストシリーズではひのきのぼうは「cypress stick」と訳されている。
しかし糸杉で作られた棍棒的な武器はと調べても、やはりそれらしいものはないようだ。木刀に使用されない理由はそのまま棍棒に利用されない理由にもつながるので、それも当然かもしれない。
「医療の象徴」として有名な「アスクレピオスの杖」や、カトリックの聖人「アッシジの聖フランシスコ」が持っていた杖が糸杉でできていたという説はあるようだが、これらはもちろん武器ではない。
そもそも武器ではない
ひのきでできた棒というのは古来より武器ではなく小麦粉などを伸ばす麺棒としての調理器具として存在する。基本的に小麦文化であるドラクエ世界では家にはまずある調理器具である。農民でもない戦闘には縁の無い家からとりあえず何かを殴るものとして携帯性が良いひのきのぼうを選ばれてもおかしくはない。またあくまで殺傷する目的ではなく鎮圧や撃退の場合にはひのきのぼうは都合が良い。
弱さがわかりやすい
以上から、ヒノキ製の実用的な打擲武器が存在したとは考えがたいこと、つまり「ヒノキ製の武具が実在したから」という理由ではなさそうだという事がはっきりした。しかしその過程で「ヒノキは武具に向かない」という事もわかったので、もう一方の理由に近づけたと言えるだろう。
そう、2つめの「『他の武器と比較して弱い』という事実がわかりやすい」である。何しろヒノキは柔らかくて軽いのだ。
さらに言えば、建材や家具材などとして身近で触れる機会も多い。強度や密度について正確な科学的知識として知らなくとも、「ヒノキはなんとなく柔らかくて軽そう」というイメージは多くの人が持っているだろう。
仮にこれが「かしのぼう」であったらどうだろうか?「ひのきのぼう」ほど弱そうなイメージを持てない人が多いのではないだろうか。
つまり、「ドラゴンクエスト最弱の武器」である「ひのきのぼう」は、「事実データ的に最弱である」だけでは足りずそれを知らしめることまでも求められたが故に、「ひのき」がその材質に採用された……という理由が推測されるのである。
一行でまとめ
「『この武器は弱い』とわかりやすくするために、軽くて弱い木材であるヒノキを選んだ」ってことじゃね?
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