無期拘禁刑単語

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無期拘禁刑(むきこうきんけい)とは、日本における拘禁刑刑事施設に収容する刑罰)の一種で、刑期に上限を設けないものをす。

2025年6月1日に施行された改正刑法により、従来の「無期懲役刑」と「無期禁錮刑」が一本化され、新たに設けられた。死刑に次いで重い刑罰であるが、死刑よりは軽い」というイメージが先行し、その実態が民に十分に理解されていない側面もある。

※なお、法改正以前に無期懲役・無期禁錮の判決を受けた者については、恩赦などがない限り、引き続き旧法の規定が適用される。

無期拘禁刑の概要

拘禁刑」とは、受刑者を刑事施設内に収容する刑罰である。旧法の懲役刑とは異なり、刑務作業(工場での労働など)を行うかどうかは、本人の希望や適性を考慮して刑事施設が判断する。

そして「期」とは、文字通り「期限を定めない」という意味であるが、これは「刑期の満了が存在しない」ことを意味する。そのため、無期拘禁刑の判決を受けた場合、満期での釈放はありえない。社会復帰のは「仮釈放」のみとなる。

仮に仮釈放されたとしても、その後の生涯にわたって保護観察下に置かれ、刑が終わりを迎えることはない。この点が、よくある「期停学(いつか解除される)」とは根本的に異なる。ちなみに、学校の「期停学」のように、期間は決まっていないがいつかは終わりが来る刑罰のことは「不定期刑」と呼び、無期刑とは区別される。

未成年者への適用

コラム:無期拘禁刑は「終身刑」と同じか?

世界では死刑止し、「終身刑」を導入するが増えている。「日本にも終身刑を導入すべき」という意見も聞かれるが、実は法学上、日本の無期拘禁刑はすでに終身刑の一種とされている。

終身刑には、以下の2種類が存在する。

日本の無期拘禁刑は、仮釈放の可性が残されているため、「相対的終身刑」に該当する。つまり、議論で登場する「終身刑」は、多くの場合「絶対的終身刑」をしていると言える。

他国との比較

日本の無期刑の運用は、諸外較するとその特殊性が浮かび上がる。

  • アメリカ:州によって制度が大きく異なるが、「仮釈放の可性のない終身刑Life Without Parole, LWOP)」を導入している州が多い。これは「絶対的終身刑」にあたり、受刑者は死ぬまで刑務所から出られない。一方で、仮釈放の可性がある終身刑を運用する州も存在する。
  • ヨーロッパ:多くの死刑止されており、最高刑として終身刑が置かれている。しかし、ドイツフランスなどでは、終身刑の判決を受けても一定期間(15年~25年程度)が経過すれば、仮釈放の審を受ける権利が保障されている。
  • 韓国死刑制度は存置しているが、1997年を最後に執行しておらず、「事実上の死刑」とされる。無期刑の受刑者は、20年が経過すれば仮釈放の対となるが、近年は日本と同様に運用が厳格化する傾向にある。
  • 中国死刑制度を維持し、執行数も多いとされる。無期懲役は、役態度が良好であれば、数年後に有期刑(25年など)に減刑され、その後、刑期の一部を終えれば仮釈放の対となるという、日本とは異なる多段階のプロセスを経る。
  • 台湾死刑制度を存置している。無期刑の受刑者は、25年が経過すれば仮釈放の対となる。
  • 日本の特徴日本の制度は法律上「相対的終身刑」でありながら、近年の運用は仮釈放が極めて困難で、「絶対的終身刑」に近い状態となっている。制度と運用の乖離という点で、他とは異なる状況にあると言える。

受刑者の生活:無期拘禁刑と死刑囚の比較

同じく社会から隔離される重い刑罰であるが、無期拘禁刑の受刑者と死刑囚生活は、その性質において全く異なる。

無期拘禁刑の受刑者

  • 生活環境:原則として他の受刑者との共同生活を送り、刑務所内の工場などで共に刑務作業に従事する。
  • 日中の活動:刑務作業が中心となり、規則正しい生活リズムが保たれる
  • 心理状態:「いつか出所できるかもしれない」という希望が存在し、更生の動機付けとなり得る。その未来は「不確定な生」である。

死刑囚

  • 生活環境:厳格な監視下の独居房で生活し、他の収容者との接触はほぼなく、極度の孤独の中に置かれる
  • 日中の活動ほとんどの時間を静止した間で一人過ごすことになる
  • 心理状態:「いつ執行されるか分からない」という絶え間ない恐怖の中にいる。その未来は「時期の定めのない、確実な死」である。

要するに、無期拘禁刑が「終わりの見えない生の継続」であるのに対し、死刑は「いつ来るか分からない確実な死を待つ日々」であり、両者が受ける精神的苦痛の種類は根本的に異なると言える。

仮釈放までの流れ

仮釈放の審理開始まで

法律刑法28条)上、無期拘禁刑の受刑者は「10年」が経過すれば仮釈放の審理対となる。審理が始まるきっかけは、に以下の2つのケースがある。

  1. 刑事施設の長からの申出刑務所の所長が「この受刑者は改善更生が進み、仮釈放が相当だ」と判断して、地方更生保護委員会に審理を申し出る。
  2. 30年経過による自動リストアップ役期間が30年を経過した受刑者を、地方更生保護委員会が職権でリストアップし、審理の対とする。

そして、実質的に審理が本格化するきっかけとしては、後者の「30年経過」が圧倒的に多いのが現状である。これは、法務省の通達によって「役30年」が事実上のスタートラインとされているためである。

仮釈放の厳しい条件

仮釈放が認められるには、以下の条件をすべて満たす必要がある。

  • 本人の内面:心から反省し(改悛の状)、更生の意欲があること。
  • 再犯の危険性:再び犯罪をするおそれがないと判断されること。
  • 社会の感情:被害者遺族の処罰感情や、検察官の意見を含め、社会が仮釈放を是認すること。
  • 受け入れ先:身元引受人や帰る場所が確保されていること。

特に「社会の感情」は大きなとなり、検察官が「仮釈放を絶対に認めない」という強い意見を持つ事件の受刑者は、俗に「マル特無期」と呼ばれ、事実上、生涯にわたって刑務所から出られないケースも少なくない。

仮釈放が不許可となった場合

一度仮釈放が不許可になると、次の審理までののりはさらに険しくなる。法律で明確なルールが定められているわけではないが、実運用上、次の審理まで5年、10年と長い期間がくことが多く、再度のチャンスを得ること自体が極めて困難となっている。

「マル特無期」という運用の問題点

法律に明確な根拠がないにもかかわらず、「マル特無期」という実務上の運用が存在することは、法治国家の原則に照らして大きな問題をはらんでいると摘されている。

  • 法の支配と透明性の欠如法律にはない「事実上の絶対的終身刑」を、検察官の意見という非開のプロセスによって作り出しており、法の支配の根幹である透明性を損なう。
  • 更生の機会の否定:仮釈放という社会復帰の可性は、受刑者が更生の意欲を維持する上で大きな支えとなるが、「マル特無期」に定されると、その希望事実上奪われてしまう。
  • 恣意的な運用の危険性:明確な法律上の基準がないため、担当検察官の個人的な考えやその時々の世論など、曖昧な要因に判断が左右される危険性がある。

これらの問題から、「悪な犯罪者社会に戻すべきではない」という意見があるのであれば、不透明な運用で対応するのではなく、「仮釈放のない終身刑」を導入すべきか否かを社会全体で議論し、導入するなら明確な基準とともに法律で定めるべきだ、という意見が強くされている (重無期刑) 。

恩赦というもう一つの道

仮釈放以外に、受刑者が刑事施設から出る可性として「恩赦」がある。無期刑受刑者に関わるのはに「減刑」であるが、これは極めて例外的な措置である。

例えば、昭和から平成平成から令和への改元に伴う恩赦では、多くの人が選挙違反などで失った公民権を回復するなどの「復権」の対となったが、殺人などの重大犯罪役する無期刑受刑者が減刑の対になることはなかった。このように、恩赦は多くの無期刑受刑者にとって、現実的な希望とはなっていないのが実情である。

仮釈放の長期化・獄死が増加する理由

仮釈放の運用が厳格化し、期間が長期化している大きな理由は、民や被害者遺族の厳しい処罰感情にある。特に、2005年に有期刑の上限が30年に引き上げられたことが転機となった。

しかし、無期刑の「仮釈放」と有期刑の「満期釈放」は、その性質が全く異なる点を理解する必要がある。

  • 満期釈放(有期刑):刑期を全に終え、一切の制約がない自由の身となる。
  • 仮釈放(無期刑):生涯にわたって保護観察下に置かれ、「遵守事項」と呼ばれる厳しいルールを守る義務を負う。ルール違反や軽微な再犯でも仮釈放は取り消され、刑務所に戻される。
    • 一般遵守事項:健全な生活態度の保持、保護との面会、転居・旅行許可など。
    • 特別遵守事項:個々の事情に合わせ、「ギャンブル施設への立入禁止」などが定められる。

この本質的な違いがあるにもかかわらず、単純な「年数」の較による感情論が先行し、「事実上の終身刑化」が進んでいるのが現状である。

経済的な側面:生涯収容のコスト

無期刑の厳格化は、社会が負担する経済コストの増大という問題も引き起こしている。受刑者一人を収容するための費用は年間で数万円に上り、高齢化に伴う医療・介護費はさらにその額を押し上げる。これらの費用はすべて税金で賄われている

このコストの問題は、死刑制度の存に関する議論とも深く結びついている。

コストを理由に死刑を支持する意見

  • 税負担の軽減死刑執行すれば、将来にわたる生涯収容のコストが不要になる
  • の再配分収容に費やされる予算を、他の社会福祉犯罪被害者支援などに使うべきだという考え方である。
  • 民感情:「なぜ自分たちの税金で、家族の命を奪った犯人を一生養い続けなければならないのか」という不感である。

コストを理由とする死刑支持への批判

  • 死刑制度自体も高コスト:誤判が許されないため、死刑事件の裁判は極めて慎重かつ長期にわたり、多額の訴訟費用がかかる
  • 生命の尊厳人の命を経済的なコストで測ることは、生命の尊厳という根本的な価値観を揺るがすという倫理的な批判である。
  • 誤判のリスクと不可逆性:万が一、実の人に死刑執行された場合、その過ちは永久に取り返しがつかない

弁護士会などからの意見

現在の無期刑の運用、特に仮釈放のあり方については、日本弁護士連合会(日弁連)などを中心に、長年にわたり強い懸念と批判的な意見が表明されている。

これらの問題に対し、日弁連は仮釈放基準の明確化、弁護士が関与できる透明な審理手続きの保障などをめる具体的な改善策を提言している。

無期拘禁刑が適用される可能性のある罪

太字は、法定刑に死刑も含まれる罪)

主な刑法犯

主な特別法犯

死刑との境界線

死刑と無期刑の選択は、日本刑事法における最も重い判断の一つである。その判断基準として、過去の判例(特に「永山基準」)が参考にされることが多いが、絶対的な基準ではなく、類似の事件でも結論が分かれることがある。

また、死刑制度の存に関する議論の中で、無期刑は常に代替案として言及される。死刑止する場合、それに代わる最高刑として「仮釈放のない終身刑(絶対的終身刑)」を新たに創設すべきだという意見は根強く、無期刑のあり方は、日本死刑制度の将来とも密接に関わっている。

無期拘禁刑の歴史

無期拘禁刑は2025年6月1日に施行された改正刑法により生まれた歴史の浅い刑罰であり、無期拘禁刑の歴史は無期懲役刑の歴史とほぼ同義である。なお、無期禁錮刑は内乱罪、爆発物使用罪、およびその未遂罪にのみ適用される刑であり、戦後適用された例はない。

2000年代以前の運用

日本の無期懲役刑は、かつては役開始から較的短期間で仮釈放が認められる刑罰として運用されていた。1960年代には均15年程度、1990年代でも20年程度で仮釈放となるケースが一般的であり、「死刑よりはるかに軽い刑」という認識が広まっていた。

厳罰化への転換点と2005年刑法改正

しかし、2000年代に入ると状況は一変する。1990年代後半から2000年代初頭にかけて犯罪が相次ぎ、「厳罰化」をめる世論が急速に高まった。この民的な要請に応え、2005年に有期刑の上限が20年(加重の場合は30年)へと大幅に引き上げられた。この改正が、無期刑の運用に決定的なを与え、「有期刑の最長より短い期間で無期刑が仮釈放されるのは不合理だ」という考え方が広まり、運用が著しく厳格化された。

現在の運用と「事実上の終身刑化」

この結果、期受刑者の高齢化が進み、現在では仮釈放される人数よりも獄死する人数の方が多くなっており、「事実上の絶対的終身刑」となりつつあるのが実情である。

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無期拘禁刑

1 ななしのよっしん
2025/08/01(金) 20:30:21 ID: FuJOARzzkJ
記事作成乙です

マル特無期って手続き上かなり問題あると思うんだよなあ。アレ確か国会の決定か通達だけで法律にかいてないはず。
事実上の終身刑があるならあるでいいんだけど、罪刑法義から考えればきちんと死刑と別に終身刑があると刑法に記載すべきだと思うわ
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2 ななしのよっしん
2025/08/01(金) 20:49:42 ID: FuJOARzzkJ
あと>>1とも関連するけど仮釈放のない絶対的終身刑は、国際法事実上禁止される傾向にあるという点は言及しておいてほしい。(人権規約10条解釈との衝突、ICCによるローマ規程110条での、仮釈放可性の義務付けなど)
多分マル特無期法律にできないのもそのへんの事情絡んでいるのは理解してるけど、法学かじった身としてはやはり刑法にのせるくらいの筋は通してほしいとは思ってしまう
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3 ななしのよっしん
2025/08/13(水) 03:42:02 ID: DsgW7Ex1xk
Geminiに確認してます
Q.国際法上、絶対的終身刑は禁止される傾向にあるというのは本当ですか?
A.国際法上、絶対的終身刑(仮釈放の可性が全くない終身刑)は、禁止される傾向にあると言えます。特にヨーロッパを中心に、この傾向は強まっています。
ポイントは以下の通りです。
* ヨーロッパ人権裁判所の判例: 欧州人権裁判所は、終身刑を科すこと自体は禁止していませんが、受刑者が将来的に釈放される見込みが全くない終身刑は、「非人的で品位を傷つける刑罰」を禁止する欧州人権条約第3条に違反する可性があると判断しています。つまり、終身刑は「減軽可」でなければならないという原則が確立されつつあります。
* 際的な人権基準: 国連子どもの権利条約第37条では、18歳未満の者に対して仮釈放のない終身刑を科すことを明確に禁止しています。多くの国連加盟がこの条約を批准しています。また、国連総会も、18歳未満の者に対するあらゆる種類の終身刑を禁止するよう加盟に促しています。
* 各の動向: 一部のアルバニアアゼルバイ
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4 ななしのよっしん
2025/08/13(水) 03:43:15 ID: DsgW7Ex1xk
Q.背景には人権条約10条解釈との衝突や、ICCローマ規程110条による仮釈放の義務付けとの関連もあるのでしょうか?
A.残念ながら、人権規約10条やローマ規程110条と絶対的終身刑の関係性について、信頼できる情報を見つけることができませんでした。
しかし、一般論として、絶対的終身刑人権条約と衝突する可性が摘されるのは、受刑者の尊厳と更生の機会という観点からです。
* 人権規約(自由権規約)第10条は、「自由を剥奪されたすべての者は、人的に、かつ人間の固有の尊厳を尊重して待遇される」と定めています。仮釈放の可性が全くない終身刑は、受刑者から生きる希望を奪い、更生の機会を全に否定するため、この条項の精神に反すると解釈されることがあります。
* 刑事裁判所(ICC)ローマ規程第110条は、ICCが科した刑罰の見直しについて定めています。第110条3項では、所長会議が、判決から25年経過後を基準に、刑の見直しを行うことができるとされています。この規定は、仮釈放の可性を前提としており、ICCの判決に絶対的終身刑は存在
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5 ななしのよっしん
2025/08/13(水) 03:44:27 ID: DsgW7Ex1xk
明日か明後日にも、簡約化して追記できればと思います。
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6 ななしのよっしん
2025/08/13(水) 03:46:32 ID: DsgW7Ex1xk
……ただ、本記事に書くより『終身刑』の項に書いたほうがいいかもしれませんね。
あちらの項はあまり発展していないのであちらの改稿も視野に入れています。

ご意見、ありがとうございました
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7 ななしのよっしん
2025/10/05(日) 17:17:08 ID: btxur6gZV6
仮釈放されるのは認知症になった受刑者の厄介払いなケースしかない。無期刑で60年近く役した受刑者が仮釈放されたが1年も経たない内に野垂れ死んだし。
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