1998 FIFAワールドカップとは、フランスで開かれた16回目のFIFAワールドカップである。
概要
1998 FIFAワールドカップ | |
---|---|
期間 | 1998年6月10日~7月12日 |
場所 | フランス |
出場国 | 32ヶ国 |
公式球 | トリコロール(アディダス) |
マスコット | フティックス |
今大会はフランスで二度目となる開催となった。また、前回大会の24枠から32枠に大幅に出場枠が増やされ、多くの国の門戸を開くこととなった。初出場となったのは日本、クロアチア、ジャマイカ、南アフリカの4か国。予選では、前回準優勝のイタリアがプレーオフの末に辛うじて本大会出場を決めたが、前回3位のスウェーデンが敗退となった。
今大会は、次の時代を担う若いスター選手が数多く登場した大会である反面、ブラジルのロマーリオ、フランスのエリック・カントナ、イングランドのポール・ガスコイン、ドイツのマティアス・ザマー、アルゼンチンのクラウディオ・カニーヒアといったスター選手が落選。日本代表でも、長年日本サッカー界を牽引してきたカズこと三浦知良が大会直前の合宿で落選を告げられている。
前述したように、日本が悲願の初出場を果たした大会であり、アジア最終予選では一時は絶望に近い状況に立たされながらも中田英寿や名波浩、中山雅史らの活躍で出場権を勝ち取っている(詳細は「ジョホールバルの歓喜」を参照)。日本代表が初出場するとあって、多くのサポーターが現地へ観戦に訪れようとするが、日本戦観戦ツアーの申込分の一部のチケットが旅行代理店に到着しない事態が発生し、大問題となった。
公式球は「トリコロール」というアディダス製のボールが採用された。
グループリーグ
グループA | グループB | グループC | グループD | グループE | グループF | グループG | グループH |
---|---|---|---|---|---|---|---|
ブラジル (1位) |
イタリア (14位) |
フランス (18位) |
ナイジェリア(74位) |
オランダ (25位) |
ドイツ (2位) |
ルーマニア (22位) |
アルゼンチン(6位) |
ノルウェー (7位) |
チリ (9位) |
デンマーク (27位) |
パラグアイ (29位) |
メキシコ (4位) |
ユーゴスラビア(8位) |
イングランド(5位) |
クロアチア (19位) |
モロッコ (13位) |
オーストリア(31位) |
南アフリカ (24位) |
スペイン (15位) |
ベルギー (36位) |
イラン (42位) |
コロンビア (10位) |
ジャマイカ (30位) |
スコットランド(41位) |
カメルーン (49位) |
サウジアラビア(34位) |
ブルガリア (35位) |
韓国 (20位) |
アメリカ (11位) |
チュニジア (21位) |
日本 (12位) |
グループA
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ブラジル |
― | ● 1-2 |
○ 3-0 |
○ 2-1 |
6 | +3 | 6 | 3 |
2 | ノルウェー |
○ 2-1 |
― | △ 2-2 |
△ 1-1 |
5 | +1 | 5 | 4 |
3 | モロッコ |
● 0-3 |
△ 2-2 |
― | ○ 3-0 |
4 | 0 | 5 | 5 |
4 | スコットランド |
● 1-2 |
△ 1-1 |
● 0-3 |
― | 1 | -4 | 2 | 6 |
前回王者ブラジルが頭一つ抜けた印象のグループとなったが、そのブラジルが2連勝で決勝トーナメントへ進出する。王国の命運を託された21歳の新エース・ロナウドは第2戦のモロッコ戦で初ゴールを決めており、連覇へ向けて順調なスタートを切った。
ブラジルの対抗馬と見られたノルウェーだったが、ブラジル以外の2チームと立て続けに引き分け、雲行きが怪しくなっていた。だが、第3戦で当たったブラジルはすでにGL突破が決まっていたためどこか気が抜けており、先制されながらも逆転勝利を飾り、王者相手に金星を取ったことで2位で突破している。
初戦でノルウェーと引き分けたモロッコだったが、第2戦でブラジルに完敗したことが響いて敗退。スコットランドは1勝もできず、最下位に終わった。
グループB
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | イタリア |
― | △ 2-2 |
○ 2-1 |
○ 3-0 |
6 | +4 | 7 | 3 |
2 | チリ |
△ 2-2 |
― | △ 1-1 |
△ 1-1 |
3 | 0 | 4 | 4 |
3 | オーストリア |
● 1-2 |
△ 1-1 |
― | △ 1-1 |
2 | -1 | 3 | 5 |
4 | カメルーン |
● 0-3 |
△ 1-1 |
● 1-1 |
― | 2 | -3 | 2 | 5 |
前回悲劇のヒーローとなったロベルト・バッジョがサプライズとして大会直前に代表に復帰したイタリア。そのイタリアを追う3チームはいずれも横一線の実力者という組み分けとなった。
伝統のカテナチオに回帰したイタリアは、堅守からのカウンターでR・バッジョとヴィエリの2トップの個人の力で攻撃を完結させていた。この2トップが5点を奪ったイタリアが首位で通過する。
こちらもサラス&サモラーノの「ZaSa」コンビの2人だけで攻撃を完結させていたチリは、1勝も挙げられなかったが、他チームと違い唯一イタリアに負けなかったことが突破の決め手となった。
逆にオーストリア、カメルーンは結局イタリアに負けたことが敗退の原因となった。エースのエムボマが最終戦で1ゴールを決めたカメルーンだったが、時すでに遅かった。
グループC
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | フランス |
― | ○ 2-1 |
○ 3-0 |
○ 4-0 |
9 | +8 | 9 | 1 |
2 | デンマーク |
● 1-2 |
― | △ 1-1 |
○ 1-0 |
4 | 0 | 3 | 3 |
3 | 南アフリカ |
● 0-3 |
△ 1-1 |
― | △ 2-2 |
2 | -3 | 3 | 6 |
4 | サウジアラビア |
● 0-4 |
● 0-1 |
△ 2-2 |
― | 1 | -5 | 2 | 7 |
開催国のフランスにどうしても注目が集まったグループ。地元メディアからは懐疑的な目で見られていたフランスだったが、蓋を開けてみると理想的なサッカーで他チームを圧倒。サウジアラビア戦でジダンが退場となるハプニングもあったが、若いアンリ、トレゼゲの活躍もあって全勝でグループを突破する。
デンマークの至宝ミカエル・ラウドルップを擁するデンマークは、初戦のサウジアラビア戦に勝利した後を1分1敗で乗り切り、前評判取り2位でグループリーグを突破。
前回ベスト16入りを果たしたサウジアラビアだったが、直前に前回優勝監督のパレイラを招へいしたことでかえってチームがまとまらず、そのパレイラが2試合で解任になるゴダゴダもあって最下位に終わる。一方、初戦でフランスに大敗したことが響いた南アフリカだったが、チームを率いていたトルシエが次の日本代表監督になるとはこの時誰も予想していなかった。
グループD
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ナイジェリア |
― | ● 1-3 |
○ 3-2 |
○ 1-0 |
6 | 0 | 5 | 5 |
2 | パラグアイ |
○ 3-1 |
― | △ 1-1 |
△ 0-0 |
5 | +2 | 4 | 2 |
3 | スペイン |
● 2-3 |
△ 0-0 |
― | ○ 6-1 |
4 | +4 | 8 | 4 |
4 | ブルガリア |
● 0-1 |
△ 0-0 |
● 1-6 |
― | 1 | -6 | 1 | 7 |
「無敵艦隊」スペイン、前回ベスト4のブルガリア、アトランタ五輪優勝のナイジェリア、ダークホースとの評判のパラグアイが揃い、今大会の最激戦区と見られていたグループ。
31試合無敗のまま本大会に入り、優勝候補と見られていたスペインだったが、初戦でナイジェリアの勢いに力負けしてまさかの逆転負け。続くパラグアイ戦を0-0で終え、崖っぷちに立たされる。
スペインに勝利したナイジェリアは、次のブルガリア戦にも勝利し、死のグループを一番最初に通過する。残り一枠の争いは2分のパラグアイ、1分1敗のスペイン、ブルガリアとなり、最終節を前に全チームに突破の可能性が残された激戦となっていた。
突破には勝つしかないスペインは、前大会の輝きを失ったブルガリアを6-1と粉砕する。しかし、消化試合となっていたナイジェリアを相手にパラグアイが勝利したため、パラグアイが2位通過の切符を手にする。ラウールら若手が台頭し、戦力的にも充実していたはずのスペインだったが、勝ち点1届かなかった。
グループE
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | オランダ |
― | △ 2-2 |
△ 0-0 |
○ 5-0 |
5 | +5 | 7 | 2 |
2 | メキシコ |
△ 2-2 |
― | △ 2-2 |
○ 3-1 |
5 | +2 | 7 | 5 |
3 | ベルギー |
△ 0-0 |
△ 2-2 |
― | △ 1-1 |
3 | 0 | 3 | 3 |
4 | 韓国 |
● 0-5 |
● 1-3 |
△ 1-1 |
― | 1 | -7 | 2 | 9 |
3強(オランダ、ベルギー、メキシコ)1弱(韓国)と見られ、グループDほどではないものの、ここも激戦区のグループと見られていた。
アヤックスが95年に欧州王者となった時のメンバーを中心に構成されたオランダは、ベルギー、メキシコと引き分けたが、第2節の韓国戦で5-0と快勝。メキシコはブランコが披露したカニばさみドリブルが話題となり、初戦で韓国に3-1と勝利。ベルギーは勝ち切れず、3試合とも引き分けに終わった。
つまりは、韓国との試合の結果が順位を左右することになり、5点を奪って大勝したオランダが首位。2点差勝利のメキシコは得失点差で2位。引き分けてしまったベルギーは敗退。韓国はこれで4大会連続1勝もできないままグループリーグ敗退。1勝の壁は厚いままだった。
グループF
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ドイツ |
― | △ 2-2 |
○ 2-0 |
○ 2-0 |
7 | +4 | 6 | 2 |
2 | ユーゴスラビア |
△ 2-2 |
― | ○ 1-0 |
○ 1-0 |
7 | +2 | 4 | 2 |
3 | イラン |
● 0-2 |
● 0-1 |
― | ○ 2-1 |
3 | -2 | 2 | 4 |
4 | アメリカ |
● 0-2 |
● 0-1 |
● 1-2 |
― | 0 | -4 | 1 | 5 |
優勝候補のドイツ、国際試合からの締め出しが解除されたユーゴスラビアの2強というグループだったが、政治的に対立関係にあるアメリカとイランが同居したことが違う意味で注目された。
制裁が解除となり、8年ぶりに国際舞台へと帰ってきたユーゴスラビアは、強豪ドイツを相手にミヤトビッチと主将ストイコビッチのゴールで一時は2点をリードする。だが、不屈のゲルマン魂を持つドイツはこの2点のビハインドを追いつき、勝利は逃すが、強豪相手に互角以上に戦ったうえにイラン、アメリカを相手にきっちり勝利し、決勝トーナメント進出。東欧のブラジルの健在ぶりを見せる。
膝の故障で2年前にバロンドールを獲得したザマーが不参加となったドイツだが、選手の半数以上が30歳以上という経験値を武器に首位でグループを突破。なお、大会直前に代表に復帰したマテウスが史上初となる5度目の出場を果たしている。
戦前、様々な不安が囁かれたイランとアメリカの試合は、特に荒れるでもなく、暴動なども起きず、何事もなく終わっている。試合はイランが勝利し、今大会アジア勢で唯一の白星を挙げている。
グループG
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ルーマニア |
― | ○ 2-1 |
○ 1-0 |
△ 1-1 |
7 | +2 | 4 | 2 |
2 | イングランド |
● 1-2 |
― | ○ 2-0 |
○ 2-0 |
7 | +3 | 5 | 2 |
3 | コロンビア |
● 0-1 |
● 0-2 |
― | ○ 1-0 |
3 | -2 | 1 | 3 |
4 | チュニジア |
△ 1-1 |
● 0-2 |
● 0-1 |
― | 1 | -3 | 1 | 4 |
2年前のEURO96ではベスト4進出を果たし、国際舞台での競争力を取り戻したイングランドが本命と見られていたが、33歳になったハジが健在のルーマニアが中心となる。初戦でコロンビアに勝利すると、第2戦では本命と見られていたイングランドを相手に試合終了直前のペトレスクのゴールで劇的な逆転勝利。2試合で3大会連続の決勝トーナメント進出を確定させる。
第2節までを終え、2連敗のチュニジアはこの時点で敗退が決まり、勝ち点3で並ぶイングランドとコロンビアが第3節の直接対決で雌雄を決することになる。ルーマニア戦でゴールを決めた17歳のオーウェンをスタメンに抜擢したイングランドは、ベッカムのW杯初ゴールなどで重要な試合に勝利。2位でグループを突破する。
4年前の「エスコバルの悲劇」の暗いイメージを払拭したいコロンビアだったが、37歳になったバルデラマは流石に衰えが隠せず、前回と同じくGL敗退となった。
グループH
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | アルゼンチン |
― | ○ 1-0 |
○ 5-0 |
○ 1-0 |
9 | +7 | 7 | 0 |
2 | クロアチア |
● 0-1 |
― | ○ 3-1 |
○ 1-0 |
6 | +2 | 4 | 2 |
3 | ジャマイカ |
● 0-5 |
● 1-3 |
― | ○ 2-1 |
3 | -6 | 3 | 9 |
4 | 日本 |
● 0-1 |
● 0-1 |
● 1-2 |
― | 0 | -3 | 1 | 4 |
初出場4チームのうち日本、クロアチア、ジャマイカの3チームが固まる奇妙なグループとなった。当然アルゼンチンが大本命だったが、ユーゴスラビアから独立し、EURO96でベスト8に入ったクロアチアが他の初参加組より頭一つ抜けたグループだった。
「声は届いています。はるか東の方から、何百万、何千万もの思いが、大きな塊になって聞こえてくるようです。遠かった道のりでした。本当に遠かった道のりでした。日本の、世界の舞台に初めて登場するその相手はアルゼンチン。世界が注目するカードです」
初めてのワールドカップの舞台に立った日本だったが、現実は厳しかった。守りを固めて最少失点に抑えてはいたが、結果は全敗。中山が取った1得点が手一杯だった。アルゼンチンはバティストゥータが2大会連続ハットトリックを決めるなど、4ゴールを決め全勝で余裕のGL突破を果たす。続いたのはやはりクロアチア。格下といえるジャマイカと日本相手にきっちりと連勝し、2試合でGL突破を確定させている。
イングランド出身の選手を多く帰化させ、大会前に強化を図ったジャマイカだったが、2強相手では力の差があり、日本相手に1勝を挙げたのみとなった。
決勝トーナメント
ラウンド16
カテナチオの神髄ウノゼロでイタリアが北欧の巨人を沈黙させる。
GLで冴えわたったイタリアのカウンターがまたも炸裂する。前半18分縦パス1分で抜け出したヴィエリがゴールを決め、イタリアが先制。こうなるとイタリア得意の守りを固めて逃げ切る試合運びに移るのみである。
ロングボールを使って高さで勝負するノルウェーだったが、ゴールに鍵をかけたイタリアを崩せない。イタリアは身長193cmのFWトーレ・アンドレ・フローを身長175cmのDFカンナヴァーロが身長差を物ともせずに完璧に抑え込んでしまう。
"怪物"ロナウドの2ゴールで本領発揮のブラジルが南米対決に快勝。
南米勢同士の対決となった試合は、前半11分と27分にサンパイオが連続でゴールを決め、ブラジルが2点をリード。チリはブラジルにいいように弄ばれ、為す術がなくなっていた。前半終了間際にはロナウドがPKを決め、ブラジルが3点差をつける。
司令塔ジダンを出場停止で欠いたフランスがパラグアイの堅守に苦しむが、延長戦の末に勝利する。
立ち上がりから圧倒的に攻め立てる地元フランスだったが、南米最高の守備力を誇るパラグアイの堅守の前に苦戦。名物GKチラベルトがチームを鼓舞し続けるパラグアイは、気迫のこもった守備を見えていた。
延長戦でもゴールを決められず、PK戦突入がよぎり始めた延長後半8分攻めあがっていたDFブランがゴールデンゴールを決め、フランスが1986年以来のベスト8進出。
前半3分ミカエル・ラウドルップの芸術的なパスからメラーが決め、デンマークが早々と先制。さらに前半12分今度は弟のブライアン・ラウドルップが決め、デンマークが2点をリード。
10番オコチャにボールを集めて試合を作るナイジェリアに対し、カウンターを狙うデンマークは後半にも2点を奪い、強豪ナイジェリアを相手に4点を奪っての完勝。
やはり「最後にドイツが勝つ」。
一進一退の試合展開が続く中、後半に入って試合が動く。後半2分エルナンデスのゴールでメキシコが先制。リードを許したドイツはベテランのメラーを投入し、反撃に出る。
逃げ切りに入ろうとしたメキシコだったが、後半30分クリンスマンのゴールでドイツが同点に追いつく。さらに、終了間際の後半41分ビアホフが逆転ゴールを決め、勝負強さを見せたドイツが逆転勝利。
ちなみに敗れたメキシコのGKカンポスは前回のような自らデザインした派手なユニフォームの着用が認められず、他の選手と同じユニフォームを着てプレーしていた。
立ち上がりから試合の主導権を握るオランダは前半38分ベルカンプが決め先制する。
守勢に回る時間が続いていたユーゴスラビアだったが、後半3分ストイコビッチの正確なFKをコムリェノビッチが合わせ、試合を振り出しに戻す。
これで勢いをつけたユーゴスラビアは、後半6分PKのチャンスを得る。しかし、ミヤトビッチがこれを失敗。絶好のチャンスを逃したユーゴは、ストイコビッチに代えてサビチェビッチを投入。しかし、かえって攻撃のリズムが悪くなり、試合の主導権は再びオランダのものとなる。
東欧勢対決は全員が金髪となったルーマニアを試合巧者のクロアチアが完封。
選手全員が金髪に変身して登場したルーマニアに対し、初出場のクロアチアは自陣に引いて守りながらカウンターを狙い試合をコントロールする。
すると、前半終了間際アサノビッチが倒され、クロアチアがPKを獲得。これをエースのシュケルが決め、クロアチアが先制。
リードしたクロアチアは後半徹底して守りを固め、ルーマニアの攻め疲れを誘う。焦るルーマニアを尻目に虎の子の1点を守り切ったクロアチアがベスト8へ進出。
「10人の獅子と1人の愚か者」。
因縁深い両伝統国の対戦は、バティストゥータ、シアラーの両エースがPKで1点を奪い合う波乱の幕開けとなる。
前半17分オーウェンがドリブルで中央突破を開始し、DFを次々とかわしてゴールをこじ開け、イングランドが逆転。この衝撃的なゴールで"ワンダーボーイ"オーウェンの名は世界中に知れ渡る。
一方、アルゼンチンも前半終了間際にFKからトリックプレーを使い、サネッティが同点ゴールを決める。
後半開始直後事件は起きる。狡猾なシメオネの罠にかかったベッカムが退場となり、イングランドは10人となってしまう。試合はアルゼンチンが一方的に攻める流れとなるが、守りを固めたイングランドは75分間を耐え抜き、今大会初のPK戦へ。1人ずつが失敗した後、イングランドは5人目のバッティが失敗しここで終戦となる。
準々決勝
初優勝へ大きな試練を乗り越えたフランス。イタリアは3大会連続でPK戦に泣く。
優勝候補同士がぶつかり合うこととなった試合は、両チームにユヴェントスに所属する選手が多く含まれた試合でもあった。フランスは、2試合の出場停止処分が解けたジダンを中心にチャンスを作り出す。
守勢の続いていたイタリアだったが、後半22分デル・ピエロに代えてR・バッジョを投入すると盛り返すようになる。互いに死力を尽くした攻防を繰り広げるが、どちらも決定機をモノにできず、試合はPK戦へ。
互いに1人ずつが外した中、イタリアは5人目のディ・ビアッジョがクロスバーに当て、激闘を制したのはフランスとなった。
イタリアはこれで3大会連続でPK戦で敗退することに。倒れ込んだディ・ビアッジョに最初に声をかけたのは前回決勝でPKを外したR・バッジョだった。
デンマークの激しい抵抗をリバウドの2ゴールでブラジルが振り切る。
開始2分ヨルゲンセンのゴールが決まり、デンマークが先制する予想外の幕開けとなる。ブラジルも前半11分ベベットが同点ゴールを決め、すぐに試合を振り出しに戻す。25分にもリバウドが決め、ブラジルが逆転。この2点はいずれもロナウドのアシストだった。
王国相手に真っ向勝負で抵抗するデンマークは、後半5分守備のミスを突いたB・ラウドルップが決め、同点に追いつく。だが、15分リバウドのミドルシュートは名手シュマイケルですら届かない完璧なコースを突き、再びブラジルがリードする。
ベルカンプの変態トラップでオランダが強豪アルゼンチンを下し、ベスト4進出。
強豪同士の対戦は、前半12分鮮やかな連携からクライファートが決め、オランダが先制。アルゼンチンも5分後にDFラインの裏を取ったクラウディオ・ロペスが決め、試合を振り出しに戻す。
多くのタレントを抱える両者の戦いは激しさを増す中、後半31分またもシメオネがオランダのヌーマンを退場に追い込む。だが、後半42分苛立つアルゼンチンのオルテガがGKファン・デル・サールに頭突きを見舞い、退場となる。
動揺の走るアルゼンチンに対し、直後の44分後方からのロングボールを神がかり的なトラップでコントロールしたベルカンプがゴールを決め、オランダが激闘を制する。アルゼンチンのパサレラ監督は、秘蔵っ子であるオルテガの愚行に泣かされることに。
クロアチア、歴史的な大勝利。主力が高齢化したドイツはよもやの完敗。
下馬評では実績で上回るドイツ優位と見られたが、予想外の展開となる。序盤からクロアチアがドイツの攻勢を耐える展開となっていたが、前半40分ドイツはシュケルへのラフプレーでヴェルンスが退場となる。数的優位を得たクロアチアは、前半終了間際にヤルニがミドルシュートを決め、先制する。
10人ながら反撃に出るドイツだったが、クロアチアは運動量で勝っていた。後半35分ブラオビッチのゴールで追加点を決めると、40分にはシュケルがトドメとなる3点目を決める。独立して間もないクロアチアが大国ドイツを相手に完勝する歴史的な夜となった。初出場でのベスト4進出は1966年のポルトガル以来の快挙となった。
準決勝
歴史に残る名勝負を制したブラジルが2大会連続の決勝進出。試合後、老将は涙を流す。
互いに優れたタレントが名を連ねる両雄の戦いは、互いにそのポテンシャルが十分に発揮され、見ごたえのあるハイレベルな攻防が繰り広げられ、両チーム一歩も引かない互角の戦いとなっていた。
後半に入ってすぐ、リバウドのパスに反応したロナウドが怪物らしいゴールを決め、ブラジルが先制。敗色濃厚となったオランダだったが、後半42分クライファートがヘディングシュートを決め、同点に追いつく。
延長戦に入ってもスリリングな攻防は続くが、決着は付かず勝負はPK戦へ。ブラジルはGKタファレルが3人目と4人目を連続でストップし、ブラジルが2大会連続でファイナルへと進出。
地元フランスと初出場クロアチア、勝てばどちらも初の決勝進出となる試合。立ち上がりからフランスが攻め込み、クロアチアが耐えながらカウンターを狙う流れとなる。
後半に入ってすぐ、DFの裏に抜け出したシュケルが決め、クロアチアが先制する。ところがその直後、主将ボバンのまさかのミスからテュラムが決め、フランスが追いつく。
後半25分にはジダンのアシストからまたもテュラムがゴールを決め、フランスが勝ち越しに成功。後半31分フランスはブランが退場となったが、デサイー、テュラムを中心とした堅守は最後まで崩れず。悲願の初優勝まであと1つまで迫った。
3位決定戦
今大会、名勝負製造機と化しているオランダに対し、初出場でベスト4入りと台風の目となっているクロアチア。クロアチアは左足の怪我を抱えた主将ボバンもスタメンに名を連ねている。
ブラジルとの激闘の疲れが残るオランダに対し、クロアチアのほうがコンディションで上回っていた。前半13分見事なターンからプロシネツキが決め、クロアチアが先制。オランダも前半21分ゼンデンが右からカットインしての豪快なミドルシュートを叩き込む。
試合を振り出しに戻されたクロアチアだったが、前半36分ボバンからのパスを受けたシュケルが左足で大会6ゴール目を決める。このゴールでシュケルは得点王の座を射止めることになる。
後半、セードルフを軸に反撃を見せるオランダだったが、クロアチアの守備を崩せず。初出場のクロアチアが3位入賞で大会を終え、試合後に3位のメダルをかじったままピースするシュケルの姿が映し出された。
決勝
試合前、ブラジルのエース・ロナウドは謎の発作に襲われ、一時意識不明になっていた。ロナウドの意識は回復し、出場の可否が問題となるが、最終的にザガロ監督がロナウドの出場を決断する。
地元の大声援を受けるフランスが序盤からジダンを軸にボールを動かし、試合の主導権を握る。すると、前半27分CKからジダンがヘディングシュートを決め、フランスが先制する。全体的に動きが重く、ミスも目立つブラジルに対し、その後もフランスがいい流れで試合を進め、次々とチャンスを作り出していた。
前半終了直前、今度は左CKからまたもジダンがヘディングシュートを決め、フランスが前半で2点をリードする。ブラジルはやはりロナウドが本来の出来と程遠く、抜け殻のようになっており、そのことがチーム全体に悪影響を及ぼしていた。
後半23分フランスはデサイーが退場となるが、それでも試合をコントロールし続けていた。後半ロスタイムには、プティがブラジルに終わりの鐘を告げる3点目を決める。3-0と予想外の快勝で締めくくったフランスが地元で悲願の初優勝を飾る。
大会のまとめ
1998 FIFAワールドカップ 大会結果 | |
---|---|
優勝 | フランス(初) |
準優勝 | ブラジル |
3位 | クロアチア |
4位 | オランダ |
個人表彰 | |
大会MVP | ロナウド |
得点王 | ダヴォール・シュケル |
最優秀GK | ファビアン・バルデズ |
20世紀最後のワールドカップは、開催国のフランスが初めて優勝し、7番目の優勝国となる。パリの悲劇によって2大会連続で出場を逃した過去から、エメ・ジャケ監督はエリック・カントナらスター選手を外し、ジネディーヌ・ジダンを中心としたチーム作りに着手。4年間、批判を浴びながら信念を貫いたことが最終的に実を結ぶ形となった。マルセル・デサイー、ローラン・ブラン、リリアン・テュラムを中心に大会をわずか2失点で乗り切った堅守も優勝の原動力となった。優勝の立役者となったジダンは、この大会で世界的なスター選手と認識され、フランスのレジェンドとなる。
この大会は、強豪国が順当に勝ち進んだこともあり、決勝トーナメントに入ってからは数多くの名勝負が生まれており、評価の高い大会となった。その一方で、クロアチアの大躍進は目を見張るものがあり、元々レベルの高い選手が揃っていたのに加え、独立したばかりの国を世界にアピールしようという団結力の強さが際立っていた。
ブラジルのロナウド、オランダのパトリック・クライファート、イングランドのマイケル・オーウェンといった次世代の若いスター選手の活躍が目を引いたのもこの大会の特徴と言える。逆に、デンマークのミカエル・ラウドルップ、ユーゴスラビアのドラガン・ストイコビッチら久々にワールドカップの舞台に戻ってきたベテランの活躍も光った。
32か国に増えた出場国については、グループリーグにおいてのチーム間の実力の格差が出てしまったことは否めず、躍進が期待されていたアフリカ勢は結局前回と同じくナイジェリアのベスト16が最高となり、出場枠が4に拡大されたアジア勢は白星を挙げたのはイランのみで、全チーム早期敗退と厳しい結果に終わった。
1998年ワールドカップの日本代表
苦難の道を乗り越えてようやく初のワールドカップの舞台に立った日本代表を待ち受けていたのは厳しい現実だった。日本サッカー界の顔ともいえる三浦知良を直前で落選させるという大きな決断を下した岡田武史監督は、相手との力量の差を考えて守備を固めた現実的なスタイルで戦うことに。
アルゼンチン、クロアチアという強豪を相手に徹底した守備でよく守れていたが、一瞬のミスや隙をガブリエル・バティストゥータ、ダヴォール・シュケルというワールドクラスのストライカーに突かれて連敗。勝てそうだったジャマイカ相手には攻撃重視で挑むが、先に2点をリードされる苦しい展開に。ようやく中山雅史が足を骨折しながらも記念すべき初ゴールを記録するが、3戦全敗という厳しい結果となった。
エースとして期待されながら不発に終わった城彰二は戦犯として激しいバッシングを浴び、空港でファンからペットボトルの水をかけられるという屈辱まで経験している。それでも、21歳の中田英寿は世界の舞台でも輝きを放ってその後のイタリア移籍を勝ち取り、18歳の小野伸二がピッチに立って存在感を見せるなど今後への可能性は示していた。
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