アメリカンファラオ(American Pharoah)とは、2012年生まれの米国の競走馬・種牡馬である。
父Pioneerof the Nile、母Littleprincessemma、母父Yankee Gentlemanという血統。
父パイオニアオブザナイルは2015年まで日本にいた*エンパイアメーカーのアメリカ時代の産駒で、現役時代はGIサンタアニタダービーを勝ち、ケンタッキーダービーでも2着に好走した経歴を持つ。アメリカンファラオは2世代目の産駒である。母リトルプリンセスエマは未勝利馬で、その兄姉に2頭の重賞馬がいるが、牝系を相当遡らないと活躍馬は出てこない。母父ヤンキージェントルマンは重賞未勝利で入着歴もなし。良血かどうかは判断が分かれるところだろう。
エジプト人のオーナーブリーダーであるアハメド・ザヤット氏によって生産されたこの馬、仔馬時代は手がかからない大人しい馬だったという。セリに出される数週間前に脚をぶつけてコブが出来ていたために買い手からは敬遠されており、「有望な馬は100万ドル以下では売らない」というザヤット氏がこのとき30万ドルで買い戻したというから、たぶんそれなりに期待されていたと思われる。
育成牧場で既に「何をさせても完璧」と評判になっていた2歳春、アメリカンファラオは父と同じく超名伯楽ボブ・バファート調教師に預けられた。数々の名馬を育ててきたバファート師もこの馬の動きに惚れ込み、「こんな動きをする馬を管理したことがない」と絶賛したという。
8月、デルマー競馬場の未勝利戦でデビューするが、9頭立ての5着。どうもブリンカーが合わなかったらしい。というわけで2戦目はブリンカーを外して耳に綿を詰め込み(そういうのもアリなのか)、鞍上にビクター・エスピノーザを迎え、未勝利ながらGIデルマーフューチュリティに出走。未勝利馬が9頭中4頭を占めたせいか2番人気に支持されると、ここを4馬身余りの差をつけ圧勝。初勝利でGI馬になってしまう。確かに海外では初勝利が重賞ってのはままあるが、GIで初勝利となると最近はそう多くないのではなかろうか。続くGIフロントランナーSも逃げて楽勝。BCジュヴェナイルは故障で回避したが、この2勝の勝ちっぷりとBCジュヴェナイルを勝ったTexas RedをフロントランナーSで一蹴していたことが評価されて米最優秀2歳牡馬を獲得する。
明けて3歳、初戦のGIIは6馬身差で逃げ切ると、ケンタッキーダービーの前哨戦アーカンソーダービーは単勝1.1倍の評価に応えて後続を8馬身ぶっちぎり圧倒。大本命として堂々ケンタッキーダービーへ乗り込んだ。
本番、アメリカンファラオは当然1番人気だったが、オッズは3.9倍と案外割れた。同厩で6戦無敗のサンタアニタダービー馬Dortmund、BCジュヴェナイル2着で前走GIブルーグラスS勝ちのCarpe Diemなど強力なライバルが多かったからであろう。チャーチルダウンズ競馬場には史上最多となる17万513人が詰めかけたというから、このレースへの期待がうかがえる。
外枠からスタートしたアメリカンファラオ。飛び出していくがハナは奪えず、外目3番手の競馬になる。レースはDortmundが逃げを打ち、前走GIIIを14馬身差で勝ったFiring Lineが2番手。ペースはかなりスローだったのだが、後続はついていくのがやっとという感じ。3コーナーでは前3頭の競馬になる。直線に向くや否やアメリカンファラオが外から2頭をかわすと、連れて間のFiring Lineも脚を伸ばす。Dortmundはこらえきれず徐々に後退。2頭の叩き合いにもつれ込むが、アメリカンファラオがもう一脚を使って競り落とし、1馬身差で優勝した。Dortmundも3着を死守。結果的に前3頭の強さばかりが際立つレースになった。Mubtaahij?ああ、いたなそんなの。
続くプリークネスSは1.9倍の1番人気。絶対的大本命になったが、あまりにダービーがスローだったことでレース自体のレベルを疑う者もいないではなかったという。まあ、この馬にそんなものは関係なかったわけだが。
結論から言えば、逃げて7馬身差で圧勝。直前からの雷雨で田んぼかと思うような馬場なのに、楽な手応えで伸びる伸びる。他馬は3コーナーでおっつけ通しだったのに、この馬は鞭の一発も入れずに突き放してるんだからどうしようもない。しかも後続は雨と泥で馬も騎手もドロドロなのに、逃げ切ったアメリカンファラオとエスピノーザ騎手は(雨でビショビショだけど)まっさらなまま。もうこの馬の独壇場というほかに言葉が見当たらない。このレース後には種牡馬の権利がクールモアに売却されることが決定。お値段なんと24億円。まだ3歳春なのに。わけがわからないよ。
こうなれば狙うは最後の一冠ベルモントステークス、すなわちアメリカ三冠である。1978年のAffirmed以来、37年間三冠馬は誕生していなかった。79年以降12頭が二冠馬としてベルモントSに挑んだが、いずれも弾き返された。1頭は屈腱炎で挑戦もできなかった。厳しいローテ、ダート2400mという長距離、成長するライバル……。越えなければいけないハードルは限りなく高い。
輸送前に調整を全て終え、直前輸送でベルモントパーク競馬場に乗り込んだアメリカンファラオ。競馬場には入場制限がかかり、9万枚用意された入場券も飛ぶように売れ、前日時点で完売。勿論断然の1番人気。この年の三冠レースすべてに出たのはこの馬ただ1頭という事実が三冠という壁の厚さを物語る。まあその壁もこの馬には(ry
真ん中からダッシュよくハナを奪ったアメリカンファラオ。そのまま楽にリードを取る。後ろに取り付いた馬は露骨に前をマークしていたが、知ったこっちゃないとばかりに悠々逃げていく。3コーナーで後続が一気に手綱をしごき始めた……んだが、持ったままのアメリカンファラオに全く追いつけない。というか、さらにリードが開いてないか!?
直線、エスピノーザ騎手がひょいひょいと押すだけでグングン加速。後続は影すら踏めない。結局5馬身余りの差をつけて逃げ切り勝ち。この瞬間、第12代アメリカ三冠馬が誕生し、37年間の二冠の呪縛は解き放たれた。ちなみにボブ・バファート調教師は過去4回、ビクター・エスピノーザ騎手は3回三冠に挑戦して敗れており、念願かなっての三冠だった。勝ちタイムは史上6番目に速かった。それでもレコードホルダーのセクレタリアトとは2秒6も違う。あいつは本当に馬だったのだろうか……。
この後一休みして、3歳夏の大舞台の一つハスケル招待Sから始動。道中楽に2番手を進むと、3コーナーで軽く仕掛けて先頭を奪い、直線は独走。最後に詰められたため着差こそ大きくなかったが……この馬、直線は完全に持ったままだったのだ。動画を見てもらえばわかるが、最早ただの弱い者いじめである。
続いて「真夏のダービー」ことトラヴァーズSに出走。ここも楽勝……と思いきや、特に暑くもないのに発汗するというフラグ臭漂う現象が発生。そしてそれに不安を抱いたエスピノーザ騎手の懸念は的中してしまい、道中ベルモントS2着のFrostedに執拗に絡まれてペースを乱され、直線で前走2着に下した1勝馬Keen Iceに差し切られ2着に敗れてしまう。初勝利以来続いていた連勝は8でストップ。Frostedを突き放す意地は見せたものの、まさかの敗戦にファンは肩を落とした。それはオーナーも同様で、トラヴァーズS出走を提案したのが自分だったこともあってか「これで引退させるかもしれない」とこぼすほどショックを受けたようだ。
気を取り直し、王者の意地を懸けてBCクラシック@キーンランド競馬場に直行。年内での引退が決まっており、これが正真正銘のラストラン。現役最強牝馬Beholderこそ出走取消となったが、前述のKeen IceとFrosted、英2000ギニーなどGI4勝の愛国代表Gleneaglesなど、8頭立ての少頭数ながら不足のないライバルが揃った。
そして本番、4番枠からスタート。いつも通り先手を奪い逃げの態勢に入る。今度はさほど競り掛ける馬もおらず、楽な逃げに持ち込む。こうなればもう敵はなし。4コーナーで仕掛けると一瞬で後続を置き去りにし、直線も差は開くばかり。最後にはスタンドの大歓声を一身に浴びながら、2着のEffinexに6馬身半差をつける圧勝。絶対王者の力を存分に示し、有終の美を飾った。
通算11戦9勝、GI8勝。とにかく能力が圧倒的で、楽に逃げてしまえばもう誰もついて来られない、正しく絶対王者と呼ぶにふさわしい強さを誇った。今後はクールモアが所有するアシュフォードスタッドで種牡馬として繋養される。
2019年に産駒がデビュー。アイルランドでMonarch of Egyptが初出走初勝利を挙げたほか、本国でもSweet MelaniaがBCジュヴェナイルフィリーズターフで3着に入るなど滑り出しは上々である。日本にも産駒が輸入され、初年度産駒7頭中6頭が勝ち上がった。その後世界的にダートGI馬が出ずファンをやきもきさせていたが、2021年に入って*カフェファラオがフェブラリーSを制し産駒初の国際ダートGI勝ちを決めている。怪物の再来へ向けて、ひとまず道筋は明るそうだ。
2021年、引退から5年が経過し選考対象となった初年度で米国競馬の殿堂入りを果たした。
この馬を語るとき、必ず話題に上るのが馬名の登録ミスにまつわる問題である。
エジプト人である馬主のアハメド・ザヤット氏は、この馬の馬名を公募し、「アメリカンファラオ」という名を選んだ。ご存知の通りファラオとは古代エジプトの王のことである。アメリカの王になろうというのだから壮大な名前だなぁ。それはいいとして、アメリカンファラオは英語では「American Pharaoh」である。しかし、ザヤット氏が馬名を電子登録する際に「American Pharoah」と間違って登録し、それがそのまま通過してしまった。「Pharoah」をそのまま読めば「ファロア」、もしくは「フェイロア」となるため、日本においても「アメリカンフェイロア」としている例がある。もっとも、通販サイトなどで「Pharoah」と検索すると結構な数のエジプトっぽい商品がヒットすることから、このスペルミスは割とよくあるっぽい。
なお、三冠達成時に彼にかけられた馬服には「12th Triple Crown WinnerAmerican Pharaoh」と記されていた。製作スタッフが気を利かせたのか、単にスペルミスなのかは定かでない。ちなみにアメリカでは「三冠競走を勝った馬と同じ名前を名付けることはできない」というルールがあるが、この馬が活躍した後、「American Pharaoh」も使用禁止馬名となったらしい。
また日本の媒体だと、大体半分くらいが「アメリカンファラオ」、半分が「アメリカンフェイロー」と表記しているが、これはスペルミスとは関係ない。「フェイロー」は「Pharaoh」のアメリカ訛りの発音であり、本来の意味からくる表記とより現地読みに近い表記によって「アメリカンファラオ」と「アメリカンフェイロー」という二通りの読み方が現れてしまったのである。イージーゴアとイージーゴーアのように伸ばすか伸ばさないかくらいの違いはよくあるが、ここまで全く違う読み方をされるのも珍しい。
まあ馬名はともかく、今やアメリカンファラオを「アメリカ競馬の王」と呼ぶことに異論はあるまい。
Pioneerof the Nile 2006 黒鹿毛 |
*エンパイアメーカー 2000 黒鹿毛 |
Unbridled | Fappiano |
Gana Facil | |||
Toussaud | El Gran Senor | ||
Image of Reality | |||
Star of Goshen 1994 鹿毛 |
Lord at War | General | |
Luna de Miel | |||
Castle Eight | Key to the Kingdom | ||
Her Native | |||
Littleprincessemma 2006 栗毛 FNo.14 |
Yankee Gentleman 1999 鹿毛 |
Storm Cat | Storm Bird |
Terlingua | |||
Key Phrase | Flying Paster | ||
Sown | |||
Exclusive Rosette 1993 栗毛 |
Ecliptical | Exclusive Native | |
Minnetonka | |||
Zetta Jet | Tri Jet | ||
Queen Zetta | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:Northern Dancer 5×5(6.25%)
バケモノだ……
掲示板
57 ななしのよっしん
2023/11/21(火) 09:26:06 ID: iLStwEVANW
実況のコルムスさん、長く競馬に携わっていたこともあり、三冠達成時にはひじょーに心に残る実況をしてくれました
是非聴いてもらいたい
「The 37-year wait is over! American Pharoah is finally the one! American Pharoah has won the Triple Crown!」
58 ななしのよっしん
2023/12/04(月) 19:23:48 ID: MDGoHSD1s6
バファート厩舎のやらかしがクソすぎてアメリカンファラオにまで累が及ばないか心配
59 ななしのよっしん
2023/12/21(木) 19:15:56 ID: htuP2biJcO
まあ三冠馬がフィリーサイアー寄りでコケるのはまあまあある話だからね(アファームドやセクレタリアトはこれ)
疑惑じゃなく明確に「無敗」はアウトになりそうな後輩が種牡馬として割と好発進気味なのがなんというか
急上昇ワード改
最終更新:2024/05/09(木) 20:00
最終更新:2024/05/09(木) 20:00
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