○○電車(企業・路線の通称)とは、一部の鉄道会社やその路線で使われる通称である。
概要
西日本に多く見られる鉄道路線や企業の呼び方。一部の東日本の地域でも使われているが、分布を見ると特に静岡県・愛知県・岐阜県・富山県以西で増加し、特に関西の駅では乗り場案内の看板でも頻繁に見られる表現。
社名として正式に採用しているのは
の二社のみだが、公式HP・SNSのページタイトルに採用されているものまで広げると
- 飯坂電車(福島県福島市/福島交通飯坂線)
- 登山電車(神奈川県/箱根登山鉄道箱根登山線)
- 静鉄電車(静岡県静岡市/静岡鉄道)
- 遠鉄電車(静岡県浜松市/遠州鉄道)
- 叡山電車(京都府京都市/叡山電鉄)
- 京阪電車(大阪府・京都府・滋賀県/京阪電鉄)
- 阪神電車(大阪府・兵庫県/阪神電鉄)
- 阪堺電車(大阪府/阪堺電軌)
- 山陽電車(兵庫県/山陽電鉄)
となる。
これ以外にも「京成電車」「(富山)地鉄電車」「福鉄電車」「阪急電車」「南海電車」「西鉄電車」など、現地の案内やプレスリリース等で使用されている場合もある。
ただし「電車」という言葉の都合上、蒸気機関車や気動車のみが走っている場合は使わないことが多い(「電車と列車の違い」の記事を参照)。また、現在はJR線に対してもあまり使われず、私鉄の路線を指して使われることが多い。
また、先ほど西日本で増加する表現だと書いたが、そもそも電車が走っていない地域では東日本・西日本ともに馴染みがない人が多いと思われる。ほかに、「嵐電」「ことでん」など、「○○電」という通称が使われる場合もあったり、「神鉄(神戸電鉄)」など西日本でも「○○電車」とあまり呼ばない場合もあるので、絶対に西日本でこう呼ばれるわけでもない。
経緯
もともと蒸気機関車や気動車が多く走っていた路線、中でも国鉄線(JR線)を「汽車」と呼ぶことがあった(一部地域では現在も「汽車」という表現が通用する)。これに対し、開業当初から電気で走っていた路線を「電車」と呼ぶこともあり、「○○電車」として鉄道会社や路線の通称に使われる場合もあった。
例えば東日本でも、過去の東武鉄道の浅草駅の入り口には「東武電車」という看板が掲げられていた。また、国鉄以前でも(電車の車両名を指す場合もあるが)路線の区間を指す言葉として「省線電車」などの表現があり、東海道本線の東京駅~熱海駅・沼津駅の区間は「湘南電車」と呼ばれる場合もあった。
おそらくこの「○○電車」という表現が、何らかの要因で西日本寄りの地域の私鉄に残ったものとみられる。しかし、その理由ははっきりとはわからず、偶然そうなった可能性もある。
政治学者の原武史によると、関西では国鉄の電化が関東と比べて30年ほど遅かったために「○○電車」という表現が定着したとされている(参考
)。
これ以外にもあくまで推測だが、関西の場合は路線名だけで「京都線」「神戸線」と書くと「JR京都線」「阪急京都線」など会社を超えて重複する路線名があり、混同を避けるために通称に会社名が使われるようになった可能性がある。
近鉄以外は同じ鉄道会社内の路線数が比較的少ないため、「阪急京都線」と呼ばずとも地元内の会話であれば「阪急電車」で通じてしまうことが多い。さらに鉄道会社の社名2文字の「阪急」だけだと「阪急バス」「阪急百貨店」等と勘違いされる可能性もあるため、「阪急電車」のような「○○電車」の表現も残ったのかもしれない。
一方で関東は名称の重複が少ない「東横線」「東上線」などの「○○線」の呼称が広まり、「○○電車」は使用されなくなった可能性がある。関東ではA社の路線にB社の電車が乗り入れるなど直通運転も多く、電車と路線が一致しないことが多いことも原因として考えられる。
ちなみに、路面電車の場合は「市内電車」と呼ぶ場合があり、富山市・豊橋市・広島市・松山市などで現在でもこの表記が見られる。
○○電車と呼ぶ路線・企業の例
公式で確認できるものに限る。灰色は現在使われていないとみられるもの。
- 飯坂電車
- 福島市を走る「福島交通飯坂線」。東日本では貴重な「○○電車」であり、かつ路線名のほうを採用している点が珍しい。
- 京成電車
- 東京や千葉・成田を結ぶ大手私鉄「京成電鉄」。以前と比べると数を減らしているが、京成津田沼駅の発車案内
などに残っている。 - 新京成電車
- 千葉県の松戸駅から京成津田沼駅を結ぶ「新京成電鉄」。こちらも京成津田沼駅に残るが、2025年に京成電鉄と合併する予定なので消えてしまうかもしれない。
- 北総電車
- 東京都の京成高砂駅から千葉県の印旛日本医大駅を結ぶ「北総鉄道」。過去には「北総電車の走る街
」などのキャッチフレーズがあったほか、松飛台駅近くの高架の壁に「大江戸直行 北総電車道
」と書かれていた。しかし、松飛台駅の方は2015年~2018年の間に塗り直されて消滅したようだ。
- 東武電車
- 東京都・埼玉県・群馬県・栃木県などを走る大手私鉄「東武鉄道」。先述したように、過去には浅草駅に「東武電車」と書かれた看板
があった。 - 京王電車
- 東京都の新宿駅から京王八王子駅などを結ぶ大手私鉄「京王電鉄」。この表記はあまり見かけることはないが、外国人向けのパンフレット
で「京王電車の詳しい情報にアクセスできます。」と記載されている例があるにはある。
- 小田急電車
- 東京都の新宿駅から神奈川県の小田原駅などを結ぶ大手私鉄「小田急電鉄」。鳥瞰図のパンフレット
などで、過去には「小田急電車」と案内されていたこともあったようだ。
- 京急電車
- 東京都から神奈川県の横浜・三浦半島などを結ぶ大手私鉄「京急電鉄」。過去には「羽田空港へは京急電車で。」という看板
が神奈川駅にあったようだ。 - (箱根)登山電車
- 神奈川県の小田原駅から箱根の強羅駅までを結ぶ「箱根登山鉄道」。箱根湯本駅までは小田急が乗り入れる。「箱根」は省略される場合もある。
- (富山)地鉄電車
- 富山市などを走る私鉄「富山地方鉄道」。「日頃より地鉄電車、市内電車、路線バスをご利用いただきありがとうございます。」と表記されている。
- 北鉄電車
- 石川県金沢市などを走る私鉄「北陸鉄道」。パンフレット
に掲載されている検索ワードは「北鉄電車」が推奨されている。 - 福鉄電車
- 福井市などを走る私鉄「福井鉄道」。公式HP
のお知らせでは「いつも福鉄電車をご利用いただき、ありがとうございます。」と毎回書かれている。 - 岳南電車
- 静岡県富士市を走る私鉄。「岳南電車」が社名。2013年に岳南鉄道の鉄道部門が分社化されて誕生した。バス部門は富士急静岡バスに移管されている。
- 静鉄電車
- 静岡市を走る私鉄「静岡鉄道」。公式HP
のタイトルは「静鉄グループ 静鉄電車」。 - 遠鉄電車
- 静岡県浜松市を走る私鉄「遠州鉄道」。公式HP
でこの表記を採用。なお走っている電車の色から「赤電」とも呼ばれ、こちらも公式HPで使われている。 - 豊鉄電車
- 愛知県豊橋市・田原市を走る私鉄「豊橋鉄道」。「渥美半島菜の花まつり2020へは豊鉄電車・バスでお出かけください」というお知らせ
がある。ちなみに路面電車もあり、そちらは「市内電車」と呼ばれる。 - 名鉄電車
- 愛知県・岐阜県を結ぶ大手私鉄「名古屋鉄道」。「名鉄電車全線1DAYフリーきっぷ
」がある。 - 三岐電車
- 三重県桑名市などを走る私鉄「三岐鉄道」。「ぜひ三岐電車で西藤原駅へお越し下さい。」という表記が公式HP
にある。
- 近鉄電車
- 近畿地方の広範囲を走る大手私鉄「近畿日本鉄道」。「近鉄電車の旅」などの表記が公式HP
にみられる。ただし関西の大手私鉄の中では比較的「近鉄線」、あるいは単に「近鉄」と呼ばれる場合も多いとする声もある。 - 叡山電車
- 京都市の出町柳駅から鞍馬駅・八瀬比叡山口駅を結ぶ私鉄「叡山電鉄」。公式HP
のタイトルが「叡山電車」。 - 京福電車
- 京都市の西部を走る私鉄「京福電気鉄道」。ただし嵐山へ向かう電車であることから「嵐電」と呼ばれることも多く、公式HP
では「嵐電(京福電車)」と書かれている。 - 京阪電車
- 京都府・大阪府・滋賀県大津市を走る大手私鉄「京阪電気鉄道」。社名ロゴが「こころまち つくろう KEIHAN 京阪電車」で、現地看板でも使われている。
- 阪急電車
- 京都府・大阪府・兵庫県を走る大手私鉄「阪急電鉄」。公式HPのタイトルは「阪急電鉄」だが、「ちいかわ×阪急電車」などキャンペーン
でこの表記がみられるほか、現地看板でも使われている。 - 南海電車
- 大阪府・和歌山県を走る大手私鉄「南海電気鉄道」。こちらも現地看板
で使われている。 - 阪堺電車
- 大阪府を走る「阪堺電気軌道」。公式HP
のロゴで使用されているほか、現地看板でも使われている。 - 阪神電車
- 大阪府・兵庫県を走る「阪神電気鉄道」。公式SNS
の名前で採用されているほか、現地看板でも使われている。 - 山陽電車
- 兵庫県神戸市から姫路市を走る「山陽電気鉄道」。公式HP
のロゴで使用されているほか、現地看板でも使われている。 - 一畑電車
- 島根県松江市から出雲市を走る鉄道。「一畑電車」が社名で、加えてバス会社などを傘下に持つ持株会社が「一畑電気鉄道」。一畑電車の通称は「ばたでん」。
- 西鉄電車
- 福岡県・佐賀県東部を走る大手私鉄「西日本鉄道」。公式HPでは「西鉄電車からのお願い
」などの表記がみられるほか、現地看板でも使われている。
関連動画
関連リンク
- 関西にあって、関東にないもの→「○○電車」という表記(Togetter, 2023/10/11)
- 関西人はなぜ「○○電車」というのか?→「言われてみれば確かに」「私鉄の中に沿線があるので、関東とは違う」有識者から様々な意見が集まる(Togetter, 2024/09/18)
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