アンビシャス (Ambitious)とは、2012年生まれの日本の競走馬である。黒鹿毛の牡馬。
ドゥラメンテ・キタサンブラック・リアルスティールなど、同期のトップクラスの馬と伯仲の勝負をし、自身もGⅠ制覇の大望を抱かれるも、果たせずに終わったもったいない馬。
マキバオーのカスケードを彷彿させるような、黒い馬体で首を低く沈ませるフォームも特徴的だった。
21戦5勝 [5-2-2-12
]
主な勝ち鞍
2015年:プリンシパルS(OP)ラジオNIKKEI賞(GⅢ)
2016年:産経大阪杯(GII)
概要
デビューからクラシック前~共同通信杯での邂逅
父:ディープインパクト
母:カーニバルソング
母父:エルコンドルパサー
父ディープインパクトは言わずと知れた大名馬にして大種牡馬。母父エルコンドルパサーも言わずと知れた世界にその名を轟かせた凱旋門賞2着馬で、母カーニバルソングはその初年度産駒にして初勝利馬。
2012年2月17日に辻牧場で誕生、オーナーは母と同じく近藤英子。「アドマイヤ」でお馴染みの近藤利一の妻である。
栗東・音無秀孝厩舎に所属。英子夫人・音無調教師の組み合わせはリンカーン・カンパニー・ヴィクトリーなどが著名だろう。
京都でデビューし、クリストフ・ルメールを背に2番人気に押されると新馬戦を圧勝。
音無調教師はよほど自信があったのか、1勝馬の身ながら次走を朝日杯フューチュリティステークスに登録。
年によっては1勝馬が抽選をくぐり抜け2歳G1に出走でき、時には勝利することもあったのだが、生憎とこの2014年はちょうど2歳戦の番組が改変され重賞が増えており、その影響もあってかボーダーは高く出走はならなかった。
仕方無しに500万下の千両賞に変更し、これも難なく勝利すると年明けは共同通信杯を初重賞として挑む。
だが、この年の共同通信杯は特にハイレベルなメンバーが待ち構えていた。
500万下を勝ったばかりだが、圧倒的な内容で2連勝し怪物と噂されるドゥラメンテがオッズ1倍台に推され、シンボリルドルフの再来アヴニールマルシェ、1勝馬だがこれもその素質を高く評価される超良血馬リアルスティールが2・3番人気と続く。
アンビシャスは彼らとは少し離れた4番人気。しかし2連勝の内容が評価されたか、他の2歳戦での実績馬たちを上回るオッズを得ていた。
レースはスタート直後から折り合いに苦労し、かかり気味ながら先に抜け出し直線では一旦は戦闘に立つも、道中アンビシャス以上にかかり散らしていたドゥラメンテが猛然と突っ込み、あっという間に交わされる。
だがそのドゥラメンテもリアルスティールにゴール直前で差され、アンビシャスはそれに続く3着。
相手が悪く収穫賞金加算とはならなかったが、このレースの内容から上位2頭は世代でもトップクラスと再認識され、それと渡り合ったアンビシャスも上々の評価を得たと言えるだろう。
3歳~秋の盾を望んで
陣営はこの馬をマイル~2000mまでと見ており、天皇賞(秋)出走を最大目標とし、次走は皐月賞を視野に入れ若葉ステークスにこの年からJRA免許取得のクリストフ・ルメールを確保し必勝を期す……。
という目算だったのだがここで事件発生、なんとルメールが調整ルームでTwitterを使用したためデビュー初日から30日間の騎乗停止となってしまったのだ。
かかり癖がネックのこの馬を制御するためルメールを乗せることに拘っていた音無調教師は、2着でも賞金が加算できる毎日杯にローテを変更し松山弘平を鞍上に(どのみちルメールは乗れない)。
しかしその毎日杯、大外を引いた上に最初から最後まで大暴れのジェットスキー状態で、好位につけることも控えることもできず外々を回らされて直線伸びきれず、共同通信杯では先着したミュゼエイリアンを捉えきれず痛恨の3着。おまけに後方から差してきた2着ダノンリバティは同じ音無厩舎なので泣くに泣けない。
毎日杯で賞金を積めなかったのが大きく響くこととなり、直前回避が相次いでアンビシャスの賞金でも出走可能になっていた皐月賞を回避し、除外が確定的なNHKマイルカップに登録するも当然のように除外(理由は不明、皐月賞のルメールはサトノクラウンに先約が入っており、NHKマイルCの方が相手関係的に勝ち負けが楽だからワンチャン賞金積めると思ったのかもしれない)。
天皇賞に出走するには確実に賞金を積むしかない……とダービートライアルのプリンシパルSに登録しルメールを確保。ここでも大外を引くも今度は比較的折り合いがつき後方一気で快勝。
だがプリンシパルSを使ったのは秋天に向けて手頃な時期と条件のレースを使っただけであり、トライアルを勝ったにも関わらずダービーではなくラジオNIKKEI賞を選択。
プリンシパルSを勝ちながら怪我以外でダービーを回避したケースは後にも先にもアンビシャスだけであり、これには色々と物議を醸したようだ。正直根本的な問題は若葉S選択からのチグハグさにあったと思うが。
ともあれそのラジオNIKKEI賞では他メンバーと1枚も2枚も違うと思われ1番人気に、トップハンデの56.5kgを背負いながら、文句なしの競馬で後続をぶち抜き圧勝。同期のトップレベルの馬とさほど対決しておらず今までは実力不明瞭な所があったものの、ここで大きく話題になるように。
……が、本命として挑んだ秋競馬、毎日王冠では2番人気に推されるも、大きく出遅れて上がり最速を使うも6着。それでも秋天では臨戦過程の怪しいサトノクラウンより上の4番人気に推されるも、やはり道中かかってしまい、最後は追い込み勢に差されて5着となんとも言えない結果に終わってしまった。
4歳春~4歳世代の一角として
明けて4歳、始動は中山記念。ここで立ちはだかったのは共同通信杯以来の2頭、世代最強馬としての復帰戦となる二冠馬ドゥラメンテにクラシックは惜敗続きだったリアルスティール。更にイスラボニータにロゴタイプの皐月賞馬コンビという中々のメンバーで、アンビシャスは4番人気。
レースはロゴタイプら先行勢が引っ張り、ドゥラメンテは先行勢を見る形でリアルスティールがそれをマーク、アンビシャスは後方から2頭目。
3コーナーに入るとドゥラメンテが前方の馬を飲み込みにかかり、直線で一気に先頭に立つ。
置いていかれる形となったリアルスティールが懸命に追う中、最後方からアンビシャスがそれを抜き去り、2頭が先頭を追いすがる。
勝ちを確信し緩めかけたドゥラメンテとデムーロを一瞬ヒヤリとさせたものの、惜しくもクビ差届かずの2着。
上位3頭のドゥラメンテ・アンビシャス・リアルスティールは前年の共同通信杯のワンツースリーと同じ結果に。
骨折明けで2kg重いハンデを背負いながらも勝ちきったドゥラメンテの強さを際立たせるレースになったものの、それにクビ差まで迫ったアンビシャスも改めて世代のトップ層に匹敵する力があると披露できたと言えよう。
次走はドバイターフへの招待……を狙っていたものの、ドゥラ・リアルが招待される中アンビシャスには連絡が無く、やむなく産経大阪杯に変更。ほらやっぱ3歳時に変な使い方してるから……。
このレースは翌年のGⅠ昇格が決定的であり、最後のGⅡ開催となっていた。
メンバーもそれに相応しい馬が勢揃い、去年宝塚・秋天を勝利し王道路線でトップを走ったラブリーデイ、香港C2着のオークス馬ヌーヴォレコルト、前年JC覇者秋華賞馬ショウナンパンドラ、そして同期の菊花賞馬・武豊と初コンビのキタサンブラック。
これらの相手に、休養明け2戦目・軽いハンデ・他馬は叩き目的という有利な条件もあってか、アンビシャスはラブリーデイに次ぐ2番人気に推される。
そしてゲートが開き、キタサンブラックが逃げて展開を作ったが、いつの間にやらその後ろに黒い影が。
今回初コンビの横山典弘が駆るアンビシャスは普段の後方待機ではなくスッと上がっていきキタサンの2番手につけたのだ。
どよめきに包まれる中、そのままスローの逃げでレースを引っ張る武豊キタサンブラック、そこからかかり気味ながらもつかず離れずマークする横山典弘アンビシャス。最後の直線でキタサンが突き放しにかかり、完全に前残りの展開となり後続のGⅠ馬勢は届かない……が、ただ一頭アンビシャスだけが食い下がる。それでもしぶとく逃げ粘るキタサンだが、激しい叩き合いの末ゴール前ついにアンビシャスが捉え、僅かクビ差で勝利。
改心の騎乗にノリさんも深くガッツポーズを決め、インタビューでも上機嫌で「(気性面で難しい馬だけど)ゴールドシップよりは楽でした」というジョークが飛び出していた。
2着キタサンブラックも負けて強しの内容であり(何気にGⅡ以下でキタサンが敗れたレースはこの大阪杯のみ)、これより前リアルスティールがドバイターフでGⅠ初勝利、ドゥラメンテもドバイWCで2着と好走したことにより、4歳馬の評価は一段と高まり、そのトップ層の中にはアンビシャスもいた。この時が紛れもなく彼にとっての絶頂期であったことだろう。まさかこれが最後の勝利になるとは誰が思ったか。
4歳秋~暗雲
例によって最大目標を秋の天皇賞とするため、秋まで全休も噂されたが、宝塚記念に出走。
ドゥラメンテが圧倒的1番人気に推され、キタサンブラックが対抗馬となる形。アンビシャスはそこから少し離れたグループとして3番人気となる。
しかし、今回は最内枠で先行競馬を狙ったためロスが大きく、更に重馬場でのハイペースでキタサンブラック以外の馬全てが潰されるタフな展開が重なる。直線半ばで伸びないと判断した鞍上が追うのをやめたこともあり、16着というデビュー以来初めての2桁着順に。
勝ち馬のマリアライトも同じディープ×エルコンだったため条件が合わない訳ではなかったはずだが……。
大敗のダメージ自体はなかったことは幸いで、切り替えて秋は毎日王冠から。
今度は後方からの競馬に戻すと、稍重で前が崩れる展開になったのもハマり、ルージュバックとの叩き合いでクビ差敗れるも2着。とはいえ後続は3馬身ほど離しており、斤量差も勝ち馬と3kgあったので上々の内容。
だが本番の天皇賞では直線で進路を失い、やむなく伸びない内に突っ込むもやはり伸びきれず4着。モーリスの中距離GⅠ制覇を遥か前に見る結果に終わる。
5歳以降~大志は抱けず
5歳となり再び中山記念から始動、1番人気に支持され、リアルスティールと人気を分け合っての四度目の対決となるも、両者ともに馬券外に吹っ飛ぶ。
更にGⅠ昇格した大阪杯で連覇を狙うも、現役最強馬の風格の出てきたキタサンブラックに影も踏めない5着。
音無調教師は前年の先行競馬には否定的で毎日王冠での乗り方をベストと考えていたようだが、この2戦は両方ともスロー展開で前に届かず、他力本願な競馬では限界があることを露呈。
秋天では遥か後方に沈んでいた同世代のサトノクラウン・ヤマカツエースが前年冬から春にかけて躍進する中、いい加減にも陰りが出始めてきた感が……。
陣営はここで路線変更し次走を安田記念に。確かに本質はマイラーとの評価を受ける時はあったものの、ぶっつけで久しく走っていない1600mと不安要素は多かった。
結果はというと15着の惨敗。鞍上の横山はゲートで異変を感じており、「いつものアンビシャスじゃなかった」とコメント。そのためもともと状態が悪い中で出走させたのではないかと様々な憶測が飛び交っていたようだ。
因果関係があるのかはわからないが、その後放牧先で状態が良くならず、例年の目標だった毎日王冠からの秋天も出走すらできなくなってしまった。
そして秋天回避後にJRAの登録を抹消。オーストラリアに移籍して活路を見出すこととなった。
当初はGⅠで2着・3着があったものの、以降は7歳まで走るも凡走が続き、もはや日本でも話題にならなくなった頃ひっそりと引退となっていた。
チグハグなローテや、宝塚の敗因になったとはいえ先行策を二度と試さなかったことなど、見る側としては陣営と相性が悪かったのではとどうしても感じてしまう。上記の通り気性面で難しい馬だったのは確かだが。
横山典弘は後に「自分のなかでアンビシャスはすごい馬だったよ。もったいない馬だったな。なぜかは言わないけど、もったいない馬だった」と含むようなコメントを残している。
その後の消息はしばらく不明だったが、引退後に乗馬に転向し、馬術大会でも好成績を収めていたことが2023年に明らかになった。
向こうで人に恵まれていたことがせめてもの救いだろう。
血統表
| ディープインパクト 2002 鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
| Cosmah | |||
| Wishing Well | Understanding | ||
| Mountain Flower | |||
| *ウインドインハーヘア 1991 鹿毛 |
Alzao | Lyphard | |
| Lady Rebecca | |||
| Burghclere | Busted | ||
| Highclere | |||
| カーニバルソング 2001 鹿毛 FNo.16-a |
*エルコンドルパサー 1995 黒鹿毛 |
Kingmambo | Mr. Prospector |
| Miesque | |||
| *サドラーズギャル | Sadler's Wells | ||
| Glenveagh | |||
| *カルニオラ 1993 鹿毛 |
Rainbow Quest | Blushing Groom | |
| I Will Follow | |||
| Carnival Spirit | Kris | ||
| Fiesta Fun |
クロス:Northern Dancer 5×5(6.25%)
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