とてもとても大事なことなので二度言いました。
※馬齢表記は当時のものに合わせて旧表記で記載しています。
無名の父と、狂気の母と
と今ではまず聞くことがない血統を持つ馬、それがコスモドリームである。
一応母父であるラッキーソブリンは父として"皇帝のライバルその2"ことスズマッハや"九州産馬の父"シンウルフを輩出したり、母父としても後にショウナンカンプやカネツクロスを輩出して活躍しているわけなのだが、父と母は完全無欠の無名馬だった。
まず母のスイートドリームは未出走馬で、血統的にも特筆すべきところはない。京都大賞典など重賞を4勝したシルクスキーの半妹だから繁殖入り出来たんだろうなーという感じの馬である。
父のブゼンダイオーに至っては、ダイコーター産駒の条件馬である。競走馬時代に一番良かったことは「毎日杯で2番人気に推されたこと(結果は7着)」ぐらいで、全兄が金鯱賞・小倉記念を勝ったホウシュウミサイルであったこと、その兄が種牡馬になるも若くして亡くなったことという事情が無ければまず種牡馬入りしなかっただろうという馬であった。
まあ、種牡馬入りしたはいいけど、アテ馬が主な仕事だったんですけどね実際。牝馬が発情してるかどうかの確認だけさせられて、本番は他のガチな種牡馬の方々に持っていかれるアレである。コスモドリーム以前に輩出した産駒も全く走らなかったし仕方ないね。
スイートドリームは未出走であまりいい血統の馬ではなかったとはいえ貴重な繁殖牝馬。なんでこんな謎の配合になったのかというと、理由はスイートドリームの気性にあった。
後ろに馬が立つと蹴りたくて仕方なくなるという、どこかのスナイパーみたいな性格だったのである。これでは事故が怖くて高額な種馬を付けるにはリスクが大きすぎる。
あっちの方もどこかのスナイパー並なら良かったかもしれないが、苦労して種付けした人気種牡馬・モガミの種も不受胎に終わり、スイートドリームは繁殖馬として使い物にならなくなる寸前になっていた。
でもそれじゃあもったいないだろう、ということでスイートドリームを慣らすための練習用種牡馬として白羽の矢が立ったのがブゼンダイオーだった。
「事故ってもこいつならいいや」という扱いだったとはいえ、女は目の前を通過していくもの、というのが仕様になっていたブゼンダイオーからしてみればとてつもなくラッキーな出来事だっただろう。
相手がちょっとアレな性格の女だったとしても
とハッスルしようってもんである。
そんなブゼンダイオーの頑張りが効いたのか、スイートドリームは無事に受胎。こうして生まれたのがコスモドリームだった。
スイートドリームの子だけあって気性は不安だったのだが、後にコスモドリームを管理した松田博資調教師曰くおとなしい馬だったらしい。
桜花賞を目指して
地方競馬行きになってもおかしくない生まれのコスモドリームだったが、なんとか中央競馬入りを果たすと当時は若手のホープだった熊沢重文騎手を背にデビュー。
最初の3戦はダート戦だったが2戦目の新馬戦で勝ち上がって父ブゼンダイオーに中央地方合わせて初の勝利をもたらすなど3戦1勝3着2回という安定した成績でまとめ、次なるターゲットを桜花賞トライアル・チューリップ賞に定めた。
実はデビューからの3戦は全て出遅れていて、それでもそんな成績を残したコスモドリームに陣営は手応えを感じていたのだ。
ところが、条件馬という身で桜花賞に出走するには絶対に勝たなければいけないこのレースで、おとなしいはずのコスモドリームは母・スイートドリーム譲りの狂気を発揮してしまう。
スタート直後、熊沢騎手を振り落としてしまったのである。
4戦1勝3出遅れ1落馬。騎手の責任が問われてもおかしくない戦績で桜花賞への道が断たれたコスモドリームは、熊沢騎手が自厩舎の中京遠征に帯同しなければいけなくなったこともあり、期待の新人・岡潤一郎騎手を背に新たなスタートを切ることになった。
オークスへ向けてコンビ復活
岡騎手との新コンビを結成したコスモドリームは直後の400万以下条件戦を2着すると、続くはなみずき賞(400万以下条件)を勝利し、新たなパートナーとの相性の良さをアピールする結果となった。
この勝利によりコスモドリームは大一番・オークスへの出走が可能となり、当然その鞍上には岡潤一郎騎手……という風には簡単には行かなかった。
GⅠレースに出るには通算31勝以上していないといけなかったのだが、この年にデビューしたばかりの岡騎手はその条件を満たしていなかったのだ。風のシルフィードだったら土下座すれば出られたのに。
そこで再び白羽の矢が立ったのが、チューリップ賞まで手綱をとっていた熊沢重文騎手である。
松田調教師は、あの出遅れ連発は前脚が弱くスタートダッシュが苦手だったコスモドリームに原因があったと考えており、熊沢騎手が主戦を降ろされたのも条件馬よりも所属厩舎の中京遠征を優先しなければならないという事情があったのが大きかったからだ。
なにはともあれ、オークスを迎えるにあたってコスモドリーム・熊沢騎手のコンビが復活した。
はじめてのだいぶたい
無事にオークスへの出走が決まったコスモドリームだったが、ブゼンダイオーの子がGⅠの舞台に立つのは当然ながら初めてのことである。
そればかりか、鞍上の熊沢騎手もGⅠ……どころか東京競馬場で騎乗するのが初めてのことだった。なにしろ競馬場入りの日に道に迷ったぐらいだし。
当のコスモドリーム陣営である調教助手からして「こんなのが勝ったらネタになる」と言うぐらいで、マスコミやファンの注目度が低いなんてことは当たり前。
当日の人気が22頭立て10番人気だったのは「むしろ人気集めすぎぃ!」という状況だった。
女王の座へ
桜花賞馬アラホウトク、ヤエノムテキの嫁桜花賞2着のシヨノロマンを筆頭に重賞実績に馬たちが顔を揃える中でスタートしたオークスで、コスモドリームはまたもや出遅れてしまう。
だが、熊沢騎手はコスモドリームを加速させると強引に中団につけ、"牝馬の河内"が操るアラホウトクをマーク。
そして直線を向くと、スルーオベストの作り出したハイペースで総崩れになる先行馬、距離の壁に泣かされるアラホウトクを尻目に足を伸ばし、2着のマルシゲアトラスに1馬身半差をつけて見事な勝利を飾った。
ちなみに熊沢騎手は上記の通りGⅠ初騎乗初勝利なうえ重賞も初勝利であり、さらに20歳3ヶ月でのGⅠ勝利は当時の最年少記録を更新することになった[1]。
サンキョウセッツ?ハハハ、なんのことやら
その後
オークスを制した後にコスモドリームは高松宮杯でオグリキャップと対戦し3着に入ると、小倉記念、京都大賞典を連続2着してオークスがフロックでないことを示した。
秋の目標であるエリザベス女王杯は故障で回避することになり、休養明け後にオープン特別のオーストラリアトロフィーを快勝。
しかし宝塚記念を14着、2年連続で出走した高松宮杯を9着と惨敗するとそのまま引退した。
ちなみに鞍上は引退までのほぼ全レースで熊沢騎手が手綱を握ったが、京都大賞典のみ岡騎手が再び騎乗している。
父のブゼンダイオーはコスモドリームの活躍でちらほらと種付け依頼が来るようになったが、大井で1勝したキヌノコトブキが代表産駒というような元のダメ種牡馬に戻ってしまう。寝取りの高揚感がなくなったのがダメだったのだろうか。
母のスイートドリームもブゼンダイオーとの間に3頭、ブゼンダイオーが用無しになった後種付けに慣れた後に他の種牡馬との間に6頭の子を作っているが、ギャロップダイナとの子が船橋で1勝しただけにとどまった。
ただ曾祖母ミスブゼンから始まる牝系はコスモドリームの活躍に刺激されたのか、コスモドリームの従姉の仔にあたるラッキーゲランが88年末に阪神3歳Sを勝利、90年に従弟のオースミシャダイが阪神大賞典と日経賞を連勝、はとこのヤシマソブリンが94年にラジオたんぱ賞を勝ちダービー3着・菊花賞2着に入るなど活性化。近年もハクサンムーン・サトノレーヴ兄弟がスプリント重賞で活躍したりウインブライトが香港で魔王になったりと健在である。
コスモドリーム自身も奇跡の産物だったのか、リヴリアやリアルシャダイなどの当時の一流種牡馬が付けられたが活躍馬を出すことはなく、2024年現在残念ながら彼女の血を引く後継繁殖牝馬は残っていない。彼女自身は2009年に繁殖を引退した後はむかわのフラット牧場で余生を過ごし、2015年に死亡している。
血統表
ブゼンダイオー 1974 鹿毛 |
ダイコーター 1962 鹿毛 |
*ヒンドスタン | Bois Roussel |
Sonibai | |||
*ダイアンケー | Lillolkid | ||
Bonnie Luna | |||
アランバード 1963 鹿毛 |
*アドミラルバード | Nearco | |
Woodlark | |||
*アランデール | Propontis | ||
*フリローラ | |||
スイートドリーム 1979 鹿毛 FNo.18 |
*ラッキーソブリン 1974 鹿毛 |
Nijinsky II | Northern Dancer |
Flaming Page | |||
Sovereign | Pardao | ||
Urshalim | |||
ゲラン 1964 栗毛 |
*ソロナウェー | Solferino | |
Anyway | |||
*ミスブゼン | Summertime | ||
Imperial Gold | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:Bois Roussel 4×5(9.38%)、Pharos=Fairway 5×5(6.25%)
関連動画
え?ゴールまでコスモドリームの名前が呼ばれてない?気のせい気のせい
関連項目
脚注
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