「アレクサンドル・ビュコック」(宇宙暦726年~宇宙暦800年2月16日)とは、田中芳樹による「銀河英雄伝説」に登場する自由惑星同盟軍の軍人であり、ヤン・ウェンリーの良き理解者。そして、
老練という表現を、ビュコック提督以外に使うな
と言われた程の「老練」さで70代まで現役の艦隊司令官を務め、末期の自由惑星同盟軍を支えて民主主義の為に散った名将である。
わしに誇りがあるとすれば、民主共和政において軍人であったということだ。わしは、帝国の非民主的な政治体制に対抗するという口実で、同盟の体制が非民主化することを容認する気はない。同盟は独裁国となって存続するより、民主国家として滅びるべきだろう
旗艦は「リオグランデ」(石黒監督版OVAと「Die Neue These」では「リオ・グランデ」)。石黒監督版OVAにおける声優は老練なベテラン、富田耕生(※青年時は真殿光昭)。「Die Neue These」では石原凡→中博史。
士官学校出身でなく二等兵からの叩き上げで、50年を越える軍歴と戦場経験を持つその名は、呼吸する軍事博物館とウォルフガング・ミッターマイヤーが評し、帝国軍からも一目置かれる存在だった。宇宙暦745年の第2次ティアマト会戦にも19歳の砲術下士官として従軍しており、同盟軍の名将ブルース・アッシュビー率いる730年マフィアの下で戦った兵士の生き残りでもある。
歴戦の経験に基づく老練で繊細で豪胆な指揮は、戦時中と言う特殊な状況である事もあれ、士官学校出身ではない一兵卒から、[1]元帥そして宇宙艦隊司令長官と言う自由惑星同盟軍の軍事のトップにまで上りつめるのを納得させるだけのものがあり、戦術レベルではヤン・ウェンリーに次ぐ用兵能力を発揮した。
本編登場時にすでに70歳と言う高齢ながら、叩き上げの軍人らしい頑固で短気で辛辣な毒舌家ゆえに、艦隊の司令官を長く務めたものの、宇宙艦隊司令長官の座についたのは、人材の枯渇等により他に適任者がいなくなってからと言う苦境にあった人物だが、愛嬌もある好々爺でもあり、「おっかない親父だけど言いたい事を言う」頑固親父ぶりは、市民や兵士達からは人気があった。その毒舌振りは主にトリューニヒト派の軍人達に向けられ、帝国領侵攻作戦時には、アンドリュー・フォークに転換性ヒステリー症を起こさせた程。ドワイト・グリーンヒルらによるクーデター派との問答では、相手をひるませることもあった。
ヤン・ウェンリーにとっては公私に渡る良き理解者・協力者であり、同盟軍の急進派によるクーデターの可能性について内密に打ち明ける程に信用していたほか、オリビエ・ポプランも「ビュコックのじいさん」と呼んで敬愛し、フレデリカ・グリーンヒルは、ビュコックと老妻の仲睦まじさをうらやむ程だった。二人の息子があったが、ともに戦死している。
経験に裏打ちされた広い視野と、戦闘宙域の地形や環境をも利用する程の戦術家で、帝国軍の将帥の多くを手玉にとって戦った事もあるが、ヤン同様に戦略レベルでは先にラインハルトに勝利を用意され、寡兵や悪条件で戦わざるをえない機会が多かった。
軍人は戦場以外で権力や権限をふるうべきではない。また、軍隊が政府や社会の批判を受けずに肥大化し、国家の中の国家と化するようでは民主政治は健全でありえんだろう。
と、ヤン同様に民主共和制の理念から外れず、トリューニヒトらにたてついてはいたものの、文民統制の原則を破らず、民主国家の軍人である事に誇りを持っていた為、内部がすでに腐りきっていた自由惑星同盟ではどうすることもできなかったと言える。
そんな悲劇の名将でもあるビュコックだが、負けると解っていても、その後の状況を不利にしない為に徹底抗戦した姿や、同盟側の悪役であるトリューニヒトやフォークらに、まさしく読者・視聴者がいいたいであろう事を叩きつけた事等からヤン艦隊の主要メンバーと並ぶ人気を誇っている。
二等兵から始まったアレクサンドル・ビュコックの軍歴は、宇宙暦745年12月の「第二次ティアマト会戦」に第5艦隊所属の戦艦シャー・アッバスの砲術下士官として19歳で従軍したのが作中に登場する最古のものである。この時の体験については、同盟軍の公戦史に手記が収録されている。
ここから62歳時の宇宙暦788年までに、士官学校を出ていない人物ながら准将にまで昇進、辺境のマーロヴィア星域方面管区で警備司令官を務める。当時ブルース・アッシュビー謀殺疑惑を調査していたヤン・ウェンリーは、第二次ティアマト会戦について手記を著したビュコックへの聴取を計画したが、転任のためかなわなかった。宇宙暦792年には第五次イゼルローン要塞攻防戦に従軍(階級・職掌は不明)。遅くとも794年までには中将・第5艦隊司令官となり、同年のヴァンフリート星域会戦や翌795年の第三次ティアマト会戦に参加した。
宇宙暦796年に、ヤンによってイゼルローン要塞が無傷で陥落し帝国領侵攻作戦が発動すると、第5艦隊を率いて帝国領を進むも、ラインハルト・フォン・ローエングラム率いる帝国軍の焦土作戦に敗れる。オスカー・フォン・ロイエンタールとの対戦を経てアムリッツァ会戦を生き残り帰還した後、帝国領侵攻作戦で命令系統放置したまま寝てんじゃねえぞこのピザ野郎な指揮をとり失敗の責任をとってラザール・ロボス元帥が宇宙艦隊司令長官の職を辞任した(統合作戦本部長のシドニー・シトレも辞任した)事から、大将に昇進したビュコックが宇宙艦隊司令長官となった。
しかしビュコックの宇宙艦隊司令長官就任は、同時に天敵であるヨブ・トリューニヒトが帝国領侵攻作戦に反対した経緯から戦後に実権を得た事やクブルスリー統合作戦本部長の暗殺未遂といった重なる悲劇により無意味なものとなった。ラインハルトが仕掛けた策略にのせられたドワイト・グリーンヒルらによるクーデター時にも、未然に防ぐ事もスタジアムの悲劇を回避する事もできない状況だった。
結局クーデターは、イゼルローン要塞の司令官となっていたヤンにより鎮圧されたものの、その間に帝国ではラインハルトが軍事的にも政治的にも地盤を固め、やがて“神々の黄昏”作戦により、帝国軍が大挙して同盟領に侵攻してくる事態となった。
宇宙暦799年2月、帝国の“神々の黄昏”作戦発動を受けて元帥に昇進したビュコックは、宇宙艦隊司令長官としてランテマリオ星域会戦において「双頭の蛇」陣形で相対したラインハルト率いる帝国軍と戦う。しかし根本的な戦力差や、ミッタマイヤーやフリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトといった諸将の猛攻により衆寡敵せず敗れた。自決を覚悟したビュコックだったが、参謀長のチュン・ウー・チェンに諌められ、思い直して帰還する。
わしは敵の銃口のために、この老体を残しておかねばならんというわけだな
この時すでにビュコックには、自由惑星同盟の趨勢に対する影響力はなく、ヤンが帝国軍の将帥達を撃破し続ける事で決着の舞台となる「バーミリオン星域会戦」をラインハルトに用意させ、巧みな用兵と分析により追い込んだ際も、先に自由惑星同盟の本星ハイネセンに到達したミッターマイヤーとロイエンタールに降伏しようとするトリューニヒトを止める事が出来なかった。
要するに、同盟は命数を費いはたしたのです。政治家は権力をもてあそび、軍人はアムリッツァにみられるように投機的な冒険にのめりこんだ。民主主義を口にとなえながら、それを維持する努力をおこたった。いや、市民すら、政治を一部の政治業者にゆだね、それに参加しようとしなかった。専制政治が倒れるのは君主と重臣の罪だが、民主政治が倒れるのは全市民の責任だ。あなたを合法的に権力の座から追う機会は何度もあったのに、みずからその権利と責任を放棄し、無能で腐敗した政治家に自分たち自身を売りわたしたのだ
トリューニヒトらが降伏した事で発せられた停戦命令にヤンが従い武装を解除し、バーラトの和約が結ばれると、ビュコックは病気療養を理由に軍を辞職して引退した。
老妻と共に、夫婦二人暮らしの余生を送るはずだったビュコックだったが、ヤンに敗れた事を根に持っていた高等弁務官ヘルムート・レンネンカンプが、パウル・フォン・オーベルシュタインの暗躍もあって同盟政府を扇動し為にヤンの暗殺未遂事件が発生し、危機を脱したヤンが結果的に第三勢力となった為に帝国との仲がこじれ、皇帝ラインハルトによる“大親征”が発動する。
ビュコックは、それまで長く親交のあったジョアン・レベロ最高評議会議長からの現役復帰要請を再三固辞し続けていたが、皇帝ラインハルトが再度ハイネセンに出征してくる事を察知し、同盟軍の最後の戦いの為にこんどこそ現役復帰を決意した。
わしはヤン提督とちがって、五〇年以上も同盟政府から給料をもらってきた。
いまさら知らぬ顔を決め込むわけにもいかんでな
しかし彼は、同盟軍がすでに帝国軍に勝てる戦力を保持しておらず、敗北は必至である事も解っていた。戦わずに敗れるわけにもいかず、最後の抵抗をしてみせる意義を理解していたビュコックは、エル・ファシルにてイゼルローン要塞攻略を行おうとしていたヤンに現役復帰を知らせず、30歳以下の者達を副官のスーン・スールズカリッターに率いさせてヤンと合流させるように指示した。
考えてみると、わしはたぶん、幸福者だろう。人生の最後に、ラインハルト・フォン・ローエングラムとヤン・ウェンリーという、ふたりの比類なく偉大な用兵家に出会うことができた。そして、ふたりのうちいずれかが傷つき倒れる光景を見ないですむのだからな
ヤンに対してビュコックの復帰が事前に知らされていた場合、ヤン・ウェンリーは「恐らく生涯で初めて、勝算のない戦いに挑む」事になったと後世の歴史家が評している。
そして宇宙暦800年、チュン・ウー・チェンや、第15艦隊司令官ラルフ・カールセンらを率い、マル・アデッタ星域にて皇帝ラインハルトを迎えうったビュコックは、星域の地形を利用した用兵で帝国軍の錚々たる顔ぶ
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しかし、兵力差による帝国軍の厚い防衛網を破れずカールセンが戦死し、壊滅の危機に陥る。
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宇宙暦800年1月16日。勝敗の趨勢が決し、ヤンの元へ残存艦隊を脱出させる為に残存している艦全てに戦線離脱を許可する。自らは戦艦リオグランデと共に戦線に残った彼に対して、首席秘書官ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフの進言を受けた皇帝ラインハルトはミッターマイヤーを通じて降伏勧告を行った。
ラインハルトと交信したビュコックは、
皇帝ラインハルト陛下、わしはあなたの才能と器量を高く評価しているつもりだ。孫をもつなら、あなたのような人物をもちたいものだ。だが、あなたの臣下にはなれん
ニ 二 ニ 二 ニ 二 ニ 二 ニ 二 ニ 二 ニ 二 ニ 二 ニ 二 ニ 二 ニ 二 ニ 二 ニ 二 ニ 二 ニ 二 ニ 二 ニ 二 ニ 二 ニ 二ニ |
ヤン・ウェンリーも、あなたの友人にはなれるが、やはり臣下にはなれん。他人ごとだが保証してもよいくらいさ
なぜなら、えらそうに言わせてもらえば、民主主義とは対等の友人をつくる思想であって、主従をつくる思想ではないからだ
わしはよい友人がほしいし、誰かにとってよい友人でありたいと思う。だが、よい主君もよい臣下ももちたいとは思わない。だからこそ、あなたとわしはおなじ旗をあおぐことはできなかったのだ。ご好意には感謝するが、いまさらあなたにこの老体は必要あるまい
と、降伏勧告を一蹴。「民主共和制最後の軍人」の意地を見せて通信を途絶した。
覚悟を感じ取った皇帝ラインハルトの砲撃命令により、帝国軍からの集中攻撃を受けた旗艦の艦橋では、アレクサンドル・ビュコックとチュン・ウー・チェンが杯をあげていた・・・
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帝国軍の砲撃をうけた旗艦は轟沈し、ビュコックは宇宙の藻屑と消えた。老将の最期を見届けた皇帝ラインハルトは、戦場を通過するにあたり、全軍に起立敬礼を命じ、帝国軍の将兵は老将へ向けて敬意を表した。
やがて惑星ハイネセンに到達した皇帝ラインハルトの元に、レベロ議長を殺害して降伏したロックウェルが現れると、保身の為に手段を選ばぬその姿勢に、「奴らが下水の汚泥とすれば、マル・アデッタで死んだあの老人はまさに新雪だったな」と亡き老将を評して白ワインを撒いて弔った。
石黒監督版OVAにおける老将アレクサンドル・ビュコックの声は、
などの役で知られるベテラン富田耕生が担当しており、戦場では老獪な戦術を駆使し、有事以外では頑固さと愛嬌を併せ持つ好々爺を見事に演じている。一方、『銀河英雄伝説外伝 螺旋迷宮』に登場した19歳の時のアレクサンドル・ビュコックは真殿光昭が声を担当した。
「Die Neue These」では石原凡が担当しているが、第33話では中博史に交代した。
関連人物:自由惑星同盟関連人物:銀河帝国 |
掲示板
192 ななしのよっしん
2024/01/27(土) 20:35:54 ID: aUaGHvkhBn
無差別攻撃が始まるまで3時間、トリューニヒトに停戦命令を出させない為に、トリューニヒトを殺す以外方法は無いんじゃないの?って言ってるんだって。
その制止ってどうやるの、力づくって言ってる(法的な方法とは思えない)一発殴って改心させる?羽交い絞めにして命令させないようにする?それはトリューニヒトが生きてる限り、SPが来た段階で反故にされる。
193 ななしのよっしん
2024/01/28(日) 00:03:27 ID: dxQbZ9o7v9
どれだけ理屈を捏ねたところで闇堕ち独裁者ヤンが誕生してたルートなんてありえないんだから意地になるのやめれば良いじゃん。
原作で明らかになってるのは、ビュコックが力ずくでトリューニヒトを制止しようとしたら、SPの代わりに地球教徒が来たという事実でしかないからね。
というかビュコックが大人しく拘禁されてる時点でトリューニヒトを即死させる技量が無いの明らかじゃん。
自信が有るなら駄目元でワンチャン狙えば良いし、ビュコック自身が死を恐れてるわけじゃないんだからね。
194 ななしのよっしん
2024/01/28(日) 09:09:11 ID: aUaGHvkhBn
>>193
勝算が限りなくゼロになったから、チュンに「ヤンに責任を回さないために生き残れ」って言われてるじゃん。
その瞬間までは何か勝算はあったんだろうと思うんだよ。
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最終更新:2024/05/25(土) 09:00
最終更新:2024/05/25(土) 09:00
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