ミスリル(フルメタル・パニック!)とは、賀東招二氏のライトノベル「フルメタル・パニック!」、及びそれを原作とするアニメシリーズに登場する架空の軍事組織である。
フルメタル・パニック!の舞台は西暦1990年代末期だが、史実と異なりソビエト連邦が崩壊しておらず、米ソの東西冷戦が依然として続いている現実世界のパラレルワールドである。この世界情勢の中、イギリス人貴族のマロリー伯爵を中心とする有志達により、90年代半ばに第三次世界大戦を阻止する為の地域紛争の火消し役として、いかなる国家にも属さぬ極秘の傭兵部隊であるミスリルが結成された(というのは建前であり、最終巻にて真の結成目的が明らかとなる)。
世界の十年先を行く装備と凄腕の人材を揃え、世界各地の紛争地帯や内戦国に神出鬼没に出現、テロ組織や独裁政権の殲滅や難民の救出等を行い紛争の拡大を防いでいる他、「ウィスパード」と呼ばれる特殊な能力を持った人間の保護も行っていた。
しかし、長編六巻『踊るベリー・メリー・クリスマス』にて敵組織「アマルガム」に関係する国家や企業、テロ組織やマフィア等の情報の入手に成功し、積極的な攻勢に打って出ようとしたが、この事がアマルガムの逆鱗に触れ、それまで「見逃されていた」ミスリルは全世界規模でアマルガムの総攻撃を受け組織としては事実上壊滅、辛うじて生き残った西太平洋戦隊「トゥアハー・デ・ダナン」のみが僅かな残存戦力を整えつつ反撃の機会を伺っている状態となる。
その後は世界各地に散り散りになったミスリルの残党と合流しつつアマルガム、ひいてはその組織を掌握したレナード・テスタロッサに対して反攻の機を窺い、世界各地を転戦することとなる。
最終的にアマルガムとの激戦の末、保有するASや航空戦力の全てとトゥアハー・デ・ダナンを喪失し、組織としても消滅している。一部の人員は後にPMCを設立した。
ちなみに、作者インタビューによるとフルメタの着想時に「国際救助隊(サンダーバード)のような話がやりたい」と考えていたようで、作中に登場するボーダ提督もこれに関する発言をしている。ミスリルのモデルといえる国際救助隊とは多くの共通項がある(大富豪の財力によって設立された・太平洋上の孤島を基地にしている・世界のどの国家にも属さない・世界の先を行く設備を有する・人命を最優先に行動する、等)。
作戦部・情報部・研究部の三つの部署から成る。作戦本部はシドニーの中心街に在るが、表向きは民間警備会社「アルギュロス」の本社という事になっている。このアルギュロスの他にも、組織の隠れ蓑として多数の新興企業や経営難で倒産しかけた所を救われた企業、息のかかった金融機関、有名無実のペーパー・カンパニー等を抱えており、組織の活動資金はこれらの企業が上げる収益とマロリー家の莫大な資産、そしてマロリー家がコネを持つ世界中の大富豪達からの出資で賄われている。
作戦部は世界中の担当地域をそれぞれ分担する四つの戦隊を編成しており、主人公の相良宗介が属する西太平洋戦隊「トゥアハー・デ・ダナン」、エーゲ海に基地を構える地中海戦隊「パルホーロン」、南大西洋戦隊「ネヴェズ」、インド洋戦隊「フィル・フォルヴ」が存在していた。作戦部長はジェローム・ボーダ提督。
情報部は作戦部が必要とする情報の収集とそれの分析・評価を行う他、各国の保安機関への情報提供や助言も行い、作戦部による実力行使が最小限で済む様に努めていた。しかし、作戦部との間には縄張り争いもあり、実際にはあまり良好な関係とは言えない。情報部長はメイヤー・アミット将軍。
研究部は戦略問題から軍事技術まで幅広い分野の問題を扱っており、ミスリルが誇る世界水準の一世代先を行く兵器群も多くがこの研究部の産物である。かつてはウィスパードであるバニ・モラウタ(故人)も所属していた。研究部長はペインローズ博士。
ミスリルの装備と技術力は、潤沢な資金とウィスパードであるバニ・モラウタ(故人)、テレサ・テスタロッサ、クダン・ミラらがもたらしたブラック・テクノロジー、世界中から集められた優秀な科学者や技術者の力によって、「世界の十年先を行く」と評される程である。
米軍でさえまだEMD(技術・製造開発)試作機のテスト段階にある第三世代型アーム・スレイブであるM9 ガーンズバックを既に主力機として実戦配備しており、それらの機体にはまだどの国も実用化出来ていない不可視モード付きのECS(「Electromagnetic Camouflage System」。電磁迷彩システム)が実装されている。
偵察衛星「スティング」を初め複数の人工衛星を運用している他、必要とあれば各国の衛星や情報ネットワークに侵入する事も可能。
他にも、西太平洋戦隊に限り、米軍の最新鋭潜水艦ですら探知できない程の隠密性を持つ強襲揚陸潜水艦「トゥアハー・デ・ダナン」や、ブラック・テクノロジーの塊であるラムダ・ドライバ搭載型ASのARX-7 アーバレストを保有する。
しかし、このアーバレストは開発者であるバニ・モラウタが死亡してしまった為、一機のみの製造で終わっており、計画されていたラムダ・ドライバ搭載機の量産化も頓挫している。対するアマルガムはM9と同等の機体性能を有する上にラムダ・ドライバを搭載しているPlan1056 コダールやPlan1501 ベヘモス等を既に量産化している為、国家の正規軍が相手ならば手玉に取れるミスリルでも、アマルガム相手には厳しい苦戦を強いられている。 が、物語後半ではコダール・タイプとの交戦データが充実し、対抗戦術を練りに練った結果、火力支援付きならばM9単機でコダールを撃破するまでに至っている。
ミスリル西太平洋戦隊「トゥアハー・デ・ダナン」の拠点「メリダ島基地」が存在する絶海の孤島。北緯20度50分、東経140度31分に存在するとされているが、通常の世界地図や海図には記載されていない。両翼およそ10kmの半月型をしており、面積は東京都心部と同程度。
気候は熱帯に属し、地上部分は熱帯雨林に覆われている。この熱帯雨林には様々な動植物が独自の生態系を築き上げているが、現在外来種のブタによる生態系の破壊が憂慮されており、ミスリル隊員たちは発見次第出来る限りブタを駆除するよう義務付けられている。また定期的にスコールが発生し、そのたびに基地内では雨漏りに悩まされる。
地理的にメリダ島はグアム・サイパンにほど近い位置にあるらしく、休日や非番の隊員はヘリでそちらに行く者も多い。家族を住まわせている者もいる。反面、相良宗介が任務に就く東京からは直線距離にしておよそ2500kmも離れている(ミスリルが保有する高速輸送機を用いても片道6時間はたっぷりかかる)。
『つづくオン・マイ・オウン』において西太平洋船体がメリダ島基地から撤退した後はアマルガムの制圧下に置かれ、レナード・テスタロッサ一派がその目的を達するための拠点となる。このため、最終決戦の舞台は皮肉にも宗介らの古巣となる。
余談だが、メリダ島には十七世紀に活躍したという大海賊「キャプテン・アミーゴ」が隠した財宝が眠っていた。それらは相良宗介、クルツ・ウェーバー両名の手によって発見されたが、その際に中古のM6 ブッシュネルを壊してしまい、財宝はその弁償代として消えてしまった。また、メリダ島の位置については、作者が以前手掛けていた『蓬莱学園』シリーズの舞台となる宇津帆島と全くの同緯度・同経度である。
トゥアハー・デ・ダナンの活動拠点。地上は深い密林に覆われており、航空機の滑走路やレーダー、防空兵器等の地上設備も巧妙に偽装、或いは地下に秘匿されている為、偵察衛星からでもミスリルの存在を伺い知る事は出来ない。
戦隊と同じ名を持つ強襲揚陸潜水艦「トゥアハー・デ・ダナン」の海底ドックや戦隊の司令部、隊員の兵舎等も同じ理由ですべて地下に建造されている。
そういった防衛手段を講じる為に大幅に基地建設予算を割いた結果、基地の内装そのものは重要個所を除くとかなり貧相なものとなっている。隊員が寝泊まりする兵舎では定期的に降るスコールの度に大量の雨漏りが発生したり、狭い上に取り分け安普請だったり、娯楽室には卓球台とテトリスしかない等と言った有様である。
しかし、長編七巻「つづくオン・マイ・オウン」にてアマルガムの総攻撃を受け、基地の施設は地上・地下を問わずその悉くが破壊若しくは制圧され、戦隊の総力を挙げた抗戦の末にトゥアハー・デ・ダナンは辛うじて脱出に成功するものの、メリダ島は完全にアマルガムに占領された。その後、アマルガムの手によって新たな基地施設が建造されているが、ミスリル時代の施設も一部流用されている模様。
前述の通り、世界中探しても類を見ないような超ハイテク兵器とそれを十全に扱うことができる熟練の隊員との両方を相当数保有する。しかし、他のミスリル戦隊にはない西太平洋戦隊独自の戦力に、強襲揚陸潜水艦「トゥアハー・デ・ダナン」と、ラムダ・ドライバ搭載型AS「ARX-7 アーバレスト」の存在がある。
潜水艦「トゥアハー・デ・ダナン」は、その潜水艦としてはあり得ない航行速度と隠密性によって通常ならば実現し得ない電撃作戦を可能とし、アーバレストはコダール・タイプを始めとするアマルガムのラムダ・ドライバ搭載型ASと単機で互角に渡り合える唯一のASである。この二つの存在から、西太平洋戦隊はミスリルの中でもやや特別な立場にある。
ミスリル陸戦隊にはPRT(「Primary Response Team」。初期対応班)とSRT(「Special Response Team」。特別対応班)という二種類の部隊が編成されている。この内SRTの方は相良宗介やメリッサ・マオ、クルツ・ウェーバーやベルファンガン・クルーゾー等が所属する精鋭部隊であり、PRTの手に負えない種類の作戦を担当する。
しかしSRTの人数は極少なく、日頃の作戦の殆どはPRTの隊員がこなしている。この点から、PRTとSRTの関係は日本の警察に例えるなら銃器対策部隊とSAT(特殊急襲部隊)の関係に近いと言える。SRT要員ほどではないが、PRT要員も実戦経験が豊富で、高い技能を持つ傭兵達である。また、PRTもSRTも基本的に実戦経験を持つ者しか雇われないという。
PRTには六つの専門部隊が有り、水陸両用作戦を専門とする部隊、市街戦や屋内戦を専門とする部隊、電子戦や情報戦を専門とする部隊、そしてアーム・スレイブの運用を専門とする部隊等が有り、PRTの兵士達はこうした専門部隊を定期的に異動し、それぞれの分野で専門知識、技術を身に付けていく。
従って、ミスリルの陸戦要員は基本的に幅広い分野の実践技術に精通しており、一部の技能に特化した、もしくは一部の技能のみを持たない兵士はヤン・ジュンギュ(SRT)等極少数である。
ミスリルは存在自体を公に出来ない秘密組織である。その為、組織構成の項で述べた通り、表の顔として多数の民間企業や金融機関を保有している。
これらの企業は、表社会でのミスリルの隠れ蓑、資金の運用、装備の調達、人材の発掘など、組織を運営する上で必要な諸々の手段として役立てられているが、そこに勤務する全ての人間がミスリルの関係者という訳ではなく、多くの者はミスリルの存在すら知らない。
ミスリルは正規軍と異なり、国家や民族、宗教といった拠り所を持たない傭兵部隊である以上、隊員達の忠誠心には限界が有り、どれだけ妥当な報酬を支払ってもアマルガム等にそれ以上の大金で買収される者も居る。
作中では実際に裏切りや情報漏洩といった問題が発生している。
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最終更新:2024/12/11(水) 04:00
最終更新:2024/12/11(水) 03:00
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