ユートピア(Utopia)とは、2000年生まれの日本の競走馬。栗毛の牡馬。
南部杯連覇など交流GⅠ4勝を挙げた初代「盛岡の鬼」にして、日本調教馬として初めて海外ダート重賞を制した、金子さんちのダート副将。え、クロフネがいるから3番手?
主な勝ち鞍
2002年:全日本2歳優駿(GⅠ)
2003年:ダービーグランプリ(GⅠ)、ユニコーンステークス(GⅢ)
2004年:マイルチャンピオンシップ南部杯(GⅠ)
2005年:マイルチャンピオンシップ南部杯(GⅠ)
2006年:ゴドルフィンマイル(G2)
2007年:ウェストチェスターハンデキャップ(G3)
※ちなみにこの馬名は2代目。初代は1957年生まれのアングロアラブの牝馬。
父*フォーティナイナー、母ドリームビジョン、母父*ノーザンテーストという血統。
父はアメリカで数々の名馬と渡り合ってGⅠ4勝を挙げ、種牡馬としても1996年の北米リーディングサイアーに輝いた名馬。その前年に日本に輸入され、日本ではダート種牡馬としてマイネルセレクトやクーリンガーを輩出した。*エンドスウィープなどアメリカでの産駒も日本に輸入され種牡馬として活躍している。
母は不出走で繁殖入りし、ユートピアは第8仔。
母父は社台グループ興隆の礎となった80年代の大種牡馬。
半兄に芝で重賞2勝を挙げたアロハドリーム(父*クリエイター)、近親にはタイセイビジョン(半妹ドリームスケイプの孫)がいる。
2000年3月1日、ノーザンファームで誕生。同年のセレクトセールにて、金子真人オーナーに5100万円(税抜)で落札された。なお途中まで個人名義だったが、2005年の秋から法人名義の金子真人ホールディングスに変わっている。
同じ金子オーナー所有の同期には芝ダート両重賞制覇のサイレントディールがいた。
栗東・橋口弘次郎厩舎に入厩したユートピアは、2002年11月3日、京都・芝1400mの新馬戦にて武豊を鞍上にデビュー。2番人気に支持されたが、勝ち馬から1秒3も離された5着に終わる。
安藤勝己に交替し、中1週で挑んだ折り返し新馬戦でダート1400mに切り替えると、ぶっちぎりの上がり最速でなんと9馬身差の圧勝。続いて小牧太を迎えて阪神・ダート1400mのシクラメンステークス(OP)に向かうと、単勝1.1倍という支持に応えてここも6馬身差で逃げ切り大楽勝。
勢いに乗って引退間際の河内洋と乗りこんだ、GⅠ昇格初年度の全日本2歳優駿(GⅠ)でも単勝1.6倍という断然の支持を受けると、好スタートからスムーズにハナを奪い、終始余裕の手応えで悠々と後続を突き放して4馬身差で圧勝。河内洋に最後のGⅠ級勝利をプレゼントした。
さて、圧巻の強さでダート2歳王者に輝いたユートピアには、2000年に始まったばかりのUAEダービーから招待状が届く。ところがイラク戦争が始まってしまい、ドバイWCに行く予定だったゴールドアリュールらともども遠征を断念することになってしまう。
かといって国内には夏場までこれといったダート重賞はない。しょうがないので芝に再挑戦、武豊と毎日杯(GⅢ)へと向かうと、内枠から好スタートでハナを切り、タカラシャーディーに差し切られたものの3着は3馬身半突き放して2着に粘り込む好走を見せる。
そんなわけで安藤勝己とともにNHKマイルカップ(GⅠ)に参戦。混戦ムードの中で6.8倍の4番人気に支持され、無理にハナを狙わず中団からのレースを選択、直線では内ラチ沿いから脚を伸ばしたものの、前でレースを進めたウインクリューガーには届かず4着。
芝でもそれなりの適性を見せたユートピアだったが、陣営は素直にダートに戻ることを選択。引き続きアンカツとまずはユニコーンステークス(GⅢ)に向かうと、単勝1.8倍という支持に応えて、ここも1:35.8のレコードタイム5馬身差で楽勝。
かくしてダート4戦で合計24馬身という圧巻の成績でジャパンダートダービー(GⅠ)へと乗りこんだ。この年のJDDは「三強」と言われていたが、当然ながらユートピアが断然の1番人気。しかしここでは、前走ユニコーンSで蹴散らしたはずの三強の一角が打倒ユートピアへ牙を研いでいた。2番人気の武豊ビッグウルフである。
3番人気の南関二冠馬ナイキアディライトがハナを取り、ユートピアと安藤勝己は2番手でそれを追走。そのまま直線でナイキアディライトととの叩き合いとなり、力強く前に出た――と思った瞬間、外から襲いかかってくるビッグウルフ! 2000mだとちょっと長いユートピアを大井の長い直線で目標にして差し切るという武豊の作戦に見事にしてやられ、僅かにハナ差差しきられて2着惜敗。無念。
しかし世代ダート代表として負けたままでは終われない。続く盛岡のダービーグランプリ(GⅠ)ではナイキアディライトがいなかったためビッグウルフとの二強対決となったが、ここでも1.6倍の1番人気に支持されると、大外枠から一気にハナを奪って逃げる態勢へ。ビッグウルフは前走同様中団から押し上げてきたが、今度は全く相手にせず、気持ち良く逃げた勢いのままに悠々振り切って4馬身差で完勝。改めて世代ダート最強の座を確固たるものとした。
そんなわけで意気揚々と古馬戦線に乗りこんだユートピアだったが……アンカツが主戦のダート王アドマイヤドンに回ったため武豊を再び迎え、2番人気に支持されたJBCクラシック(GⅠ)は3角でもうついていけなくなり10着撃沈。ジャパンカップダート(GⅠ)もフリートストリートダンサーとアドマイヤドンの死闘のはるか後方、3秒以上離されて12着惨敗。後から振り返ってみると大井2000も東京2100も彼にはいささか長かったのだろうが、古馬との差を見せつけられた格好で3歳を終えることになった。
明けて4歳となったユートピアに対し、前2走で古馬の壁を感じたか、陣営はまた彼を芝に戻してみることにした。というわけで新たに四位洋文を迎えて年明けの京都金杯(GⅢ)に向かうと、クビ+ハナのタイム差なし3着に好走。
芝かダートか、ますます悩ましくなりつつフェブラリーステークス(GⅠ)に向かう。適性距離はマイルだろうと今回も2番人気に推されたが、先行するも内ラチ沿いでごちゃごちゃしたまま伸びずアドマイヤドンの8着。現役ダート王には全く手も足も出なかった。
ダート古馬GⅠで3戦惨敗では、芝で行ってみようという陣営の判断もまあ致し方ないかもしれない。しかし2番人気に支持されたダービー卿チャレンジトロフィー(GⅢ)は7着凡走。と思えば安田記念(GⅠ)では10番人気まで評価を落としたが、先行策から直線で一時は横一線の争いに加わっての4着好走。こう中途半端に芝でも走るから、陣営もすっぱりダートに専念させ辛かったのであろう。
しかし1番人気に支持された北九州記念(GⅢ)は5着に終わり、結局秋は再びダートへ。新たに横山典弘を迎え、ダービーグランプリを勝った盛岡のマイルチャンピオンシップ南部杯(GⅠ)に向かうことになった。と言っても賞金はギリギリで、中央枠5頭の5番目にどうにか滑り込んでの出走であった。
もちろんここでも断然の1番人気はアドマイヤドン。なんと単勝1.1倍である。ユートピアは6.3倍の2番人気だったが、過去3戦は全くアドマイヤドンには相手にされていなかったわけだし、他のメンバーが手薄すぎたが故の2番人気という感じであった。
しかしユートピアは好スタートから敢然とハナを奪い、マイペースで逃げる態勢へ。4角でアドマイヤドンが外から捲ってきて、直線ではそのまま一騎打ちの叩き合いとなる。内ラチ沿いで粘るユートピアに対しアドマイヤドンはじりじりとしか伸びず、横山典弘の鞭に応えてもうひと踏ん張りしたユートピアが、そのまま現役ダート王を半馬身完封。世代王座を掴んだ盛岡の地で見事に復活勝利を果たした。
橋口師は南部杯のレース後に「次はマイルCS」と言っていたが、結局南部杯の勝利でダート路線に戻ることになったユートピア。しかし大井のJBCクラシック(GⅠ)では今回も敢然と逃げたものの、3連覇がかかるアドマイヤドンに前走の轍は踏まぬとばかりにきっちりやり返されて4着。
ミルコ・デムーロを迎えたジャパンカップダート(GⅠ)では2100で逃げたら保たないだろうと中団に控えたものの、そのまま見せ場なく6着。
やっぱり控えては持ち味が出ない、と横山典弘が戻った東京大賞典(GⅠ)ではハナを奪いに行くもアジュディミツオーが競り掛けてきて結局離れた2番手となり、そのまま3馬身振り切られて2着。
明けて5歳、フェブラリーステークス(GⅠ)ではアドマイヤドンの大出遅れの陰でひっそりと出遅れてしまい、後方からのレースになったまま最下位15着撃沈。
安藤勝己が戻ったマーチステークス(GⅢ)は59kgを背負わされたこともあったが、アンカツ曰く「気難しいところが出てきた」と3着。
かきつばた記念(GⅢ)では1番人気に支持されたが、4角でごちゃついて下がってしまい4着。
昨年は好走したし、と向かった安田記念(GⅠ)も前目で進めたものの直線で馬群に呑まれて14着撃沈。
帝王賞(GⅠ)は3角での手応えがスカスカで後退してしまい。直線でひっそり盛り返したが4着。
どうやらあまり真面目に走らなくなってしまったようで、連覇のかかるマイルCS南部杯(GⅠ)でも単勝5.1倍の3番人気に留まった。しかしアンカツ曰くこの日はパドックからやる気になっていたそうで、スタートからハナを奪って得意の逃げのパターンに持ち込むと、そのまま2番手で追ってきたシーキングザダイヤを悠々と振り切って逃げ切り勝ち。連覇を果たしてGⅠ4勝目を挙げた。
レース後のアンカツのコメントに曰く「本来これぐらい走っても当然の馬なんですが、何故か他の競馬場では本気で走らないことが多いんです」とのことで、負けなしの盛岡は馬自身もいい思い出しかないからやる気に満ちていたのかもしれない。
続く名古屋のJBCクラシック(GⅠ)は馬が嫌気を出さないようにアンカツが気を遣って乗り、タイムパラドックスの2着に好走したが、ジャパンカップダート(GⅠ)は逃げたもののやっぱり距離が長く、同じ金子オーナーのカネヒキリに蹴散らされて8着。東京大賞典(GⅠ)もアジュディミツオーの逃げ切りから大きく離されて5着に終わった。
明けて6歳、フェブラリーステークス(GⅠ)から始動したユートピア。過去2年惨敗していたことから11番人気に留まったが、安藤勝己がスタートからグイグイ押して前に出て行くと、ハナ争いをしていたメイショウボーラーとトウショウギアの2頭が釣られてハイペース暴走逃げになるのを尻目に離れた3番手を確保。直線ではカネヒキリにあっさりかわされたものの、そのまま3着に粘り込んだ。
そしてこの年、ユートピアは3年前に遠征が叶わなかったドバイの地へ、カネヒキリとともに向かった。ドバイWCはカネヒキリに任せ、適正距離のゴドルフィンマイル(G2)に武豊とともに挑んだユートピアは、最内枠から果敢に逃げを打ち、後続を引きつけたまま経済コースを通って直線へ。そのまま内ラチ沿いで後続を突き放し、4馬身差の圧勝で逃げ切り勝ち。武豊の完璧な騎乗と馬自身の力とで、日本調教馬の海外ダート重賞初制覇という輝かしい栄冠を勝ち取った。ちなみに次に日本馬がゴドルフィンマイルを勝つのは実に16年後、2022年のバスラットレオンのことになる。
……で、この快勝ぶりに目を点けたのが、誰あろう、このレースの冠にもなっている世界のゴドルフィンを率いるシェイク・モハメド殿下であった。5月、なんとユートピアは400万ドルで金子オーナーからゴドルフィンへの移籍が決定。シーキングザパールに続く史上2頭目の海外移籍した国内GⅠ馬となったのである。
というわけでアメリカで走ることになったユートピアだったが、残念ながらこの後の彼は環境の変化が合わなかったのか、順調に行かなかった。
アメリカ移籍初戦はブリーダーズカップの予定だったが出走回避、ジャパンカップダートへの凱旋出走も辞退。結局復帰は7歳となって5月のウェストチェスターハンデキャップ(G3)。2番手追走から直線の叩き合いを制し、1年ぶりの復帰戦かつ移籍初戦を重賞制覇で飾る。
しかしその後はまた脚の異常での回避などで順調に行かず、秋にハンデ重賞を2戦して6着、2着と敗れたところで引退、そのままアメリカで種牡馬入りすることになった。通算34戦9勝 [9-5-3-17]。
アメリカでの種牡馬としての繋養先は向こうの馬産の中心であるケンタッキー州ではなく、ニューヨーク州やテキサス州の牧場で、種付け料も初年度7500ドルと決して高くはなかった。とはいえ北米リーディングサイアーになったときには日本に売られてしまっていた*フォーティナイナーの貴重な後継ということでか、100頭を超える牝馬を集めた。
しかし結局アメリカではリステッド競走の勝ち馬を2頭出したのみに留まり、5年目からは種付け数がガタ落ちしてしまう。
2014年にトルコに売却されてトルコで種牡馬を続けたが、2015年7月6日、心臓発作のため15歳で死亡した。トルコに残した1世代のみの産駒から、現地G3勝ち馬が1頭出ており、どうやらそれが唯一の重賞産駒だったようである。またトルコの準重賞勝ち馬Ghost Pashaが後継として種牡馬入りしたようだが、産駒が1頭登録されている、程度のようだ。
なお、16年後のゴドルフィンマイル勝ち馬バスラットレオンも2025年からトルコで種牡馬入りとなった。
そんなわけで日本のファンにとってはすっかり遠い存在になってしまっていたユートピアだったが、2022年、アメリカに残してきた牝馬*シンシアズフューリーを新ひだか町のアフリートファームがセリで購入し、Vino Rossoの仔を受胎した状態で日本に輸入。2006年のトレードから16年を経て、ユートピアの血が初めて日本に戻ってくることになった。その仔シンシアズフューリーの2023は2025年のデビューを目指し、ヒダカ・ブリーダーズ・ユニオンで募集されている。
気付けば金子オーナーのダート馬といえばカネヒキリとクロフネばかり有名になってしまったが、南部杯連覇、4年連続GⅠ勝利、6年連続重賞勝利、日本調教馬初の海外ダート重賞制覇……と、ユートピアも決してそれに劣らない勲章を積み重ねたダートの名馬である。直系の仔を日本で見ることはさすがに無理だろうが、*シンシアズフューリーの仔たちによって、ユートピアの血が日本競馬に残っていくことを期待したい。
*フォーティナイナー 1985 栗毛 |
Mr. Prospector 1970 鹿毛 |
Raise a Native | Native Dancer |
Raise You | |||
Gold Digger | Nashua | ||
Sequence | |||
File 1976 栗毛 |
Tom Rolfe | Ribot | |
Pocahontas | |||
Continue | Double Jay | ||
Courtesy | |||
ドリームビジョン 1986 栗毛 FNo.23-b |
*ノーザンテースト 1971 栗毛 |
Northern Dancer | Nearctic |
Natalma | |||
Lady Victoria | Victoria Park | ||
Lady Angela | |||
*ハニードリーマー 1973 鹿毛 |
Dewan | Bold Ruler | |
Sunshine Nell | |||
*ハニーサツクルヴアイン | Tom Fool | ||
Sweet Clementine |
クロス:Nasrullah 5×5×5(9.38%)、Native Dancer 4×5(9.38%)、Lady Angela 5×4(9.38%)
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最終更新:2024/12/25(水) 13:00
最終更新:2024/12/25(水) 13:00
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