ヴァンパイア十字界とは、原作:城平京、作画:木村有里による漫画作品である。
概要
スパイラル~推理の絆~に続いて城平京が原作を手掛けた漫画で、2003年9月号~2007年3月号まで月刊少年ガンガン誌上で連載された。単行本は全9巻。副題は「The Record of Fallen VAMPIRE」。
ミステリ作家である城平が原作を手掛けているため、物語の根幹である「真相」が二転三転する展開になっている(複雑なストーリー展開は作者の好みでもある)。物語は戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」がベースとなっている。ヴァンパイアものという企画は当時の担当編集から持ち掛けられたもの。連載中は自身の思ったように物語を動かせずに苦労していたようで、回収できなかった伏線もいくつか残っている。
ストーリー
今から1000年前。
大陸列強の中でも最強を誇る夜の国に僅か200歳の若さで王に即位したローズレッド・ストラウス。彼の治世は国にかつてない繁栄をもたらしていたが、彼自身の強すぎる力が周辺国に危機感を抱かせ、停戦協定を解消して連合軍として夜の国に戦争を仕掛けられようとしていた。
それを回避するため国の元老院はストラウスの処刑を決定。その人質として女王アーデルハイトをとらえられ処刑場に連れられるが、それに狂乱した女王が秘めた魔力を暴走させ、世界を滅ぼしかねない危機へと追い込む。各国の協力のもとかろうじて女王を封印し世界の危機は去った。しかしその所業に激昂したストラウスは自ら夜の国を滅ぼしてしまう。
それから1000年。女王はいまだ封印から解放されず、ストラウスはその封印を探し砕き続ける。人間や同族から刃を向けられても彼は戦い続ける。愛する女王を取り戻すために。
1000年後の現代、人間社会の間ではヴァンパイアという存在は実在から空想に置き換わり、ストラウスはダムピールたちと、ストラウスを追い続ける狩人として生み出された霊体ブラックスワンに寄生された人間と戦いながら世界中にばらまかれたアーデルハイトの封印を探し砕き続けていた。日本国内のとある封印を巡ってダムピールと争っている最中、50代目のブラックスワン比良坂花雪と対峙。代を重ねる毎に成長する黒鳥の性質により遂にストラウスを上回りこれを圧倒する。そのままストラウスを滅ぼすと思われたが、突然態度を翻しストラウスを保護する。
花雪のバックには人間社会の黒幕であるGM御前がおり、御前の計画のためにストラウスを利用しようとしていた。世界の上層部以外には伏せられていたが実は地球は異星人のコンタクトを受けており、その星人フィオから地球の半分を譲渡するよう要求されていた。当然地球側はこれに応じる気はなかったが、人類にはこの相手を打倒する手段がない。そこでヴァンパイアに目を付け、ストラウスとアーデルハイトを利用して星人フィオを打倒してもらい、その後花雪に2人を始末してもらおうと考えていた。この「オーバームーン作戦」をストラウスとダムピールコミュニティはひとまず承諾する。ストラウスは宇宙飛行士訓練のためにシャトル基地のある島へ、ブリジットたちは残る女王の封印を破壊するために各地を回ることになる。
登場人物
- 比良坂花雪
第50代目ブラックスワン。彼女の代でストラウスを上回る力を持つに至る(周辺に配慮し力をセーブした彼相手ではあるが)。顔は先代の小松原ユキと瓜二つであり蓮火を刺激しかねなかったため、初登場時は仮面を着けていた。凋落しかかった比良坂家の令嬢というのが表向きの肩書であり、GM御前の孫でもある(ブラックスワンが憑いてからの後付けである可能性もあるが)。
初対峙でストラウスを圧倒し、御前の計画のため殺さない程度に弱らせて保護する。その後星人フィオが姿を現すとストラウスやダムピールコミュニティに協力を取り付け、ストラウスの監視のためシャトル基地のある島に滞在する。しかし思い通りに行動しないストラウスにより普段からいらつかせられ、思うように事態が進行しないことにより追い込まれていく。ブラックスワンの継承により精神的に落ち着いてはいるが、根本は年相応の女の子であり脆い一面も見せる。
- 李紅飛(リー・ホンフェイ)
シャトル基地のある島でストラウスたちを月に送るシャトル「ツクヨミ号」を製作した科学者の一人。エンジン付近を担当している。
気弱な性格で対照的ななずなの行動に頭を悩ませている。その性格と外見の割にエンジンの設計思想については結構過激で、パワーを重視して安全面の問題から却下されることもある。
ストラウスが島に滞在中、「ステラの首飾りの中央にはまっている石について突き止められたら誓って人類を救って見せる」という課題を与えられ、分析の結果その課題をクリア。それによりストラウスの特性を見破った。
- 萩なずな
シャトル基地のある島でストラウスたちを月に送るシャトル「ツクヨミ号」を製作した科学者の一人。ストラウスの宇宙飛行士訓練の責任者も務める。活発な性格で李を振り回している。「島での退屈な生活が改善される」ことを理由に島で厳重な監視下に置かれているストラウスに協力するなど、度々危ない橋を渡ることも。
月に行くことが幼い頃からの夢であり、宇宙飛行士になれずそれ以外の方法でも自身が月に行けないことを悟り、せめてもと宇宙に近い技術職に就いたという過去を持つ。
- セイバーハーゲン
夜の国時代大陸中にその名を知られた大霊力使い。各国合わせて500人の弟子を持つとされ、自身も「無限十字」の異名を持つ。自身の占術でストラウスを「大陸に災厄をもたらす災いの赤バラ」として執拗に狙う。夜の国時代ストラウスが後れを取ることは一度もなかったが、権謀術数を駆使して幾度となく渡り合った。それも私心ではなく大地の大義のためと信じており、それゆえに諦めることなくストラウスの前に立ち続けた。対夜の国大同盟を成立させた立役者でもある。その思考はアーデルハイトの暴走により結果的に正しかったことが証明されてしまった。
アーデルハイトを封印する術式とブラックスワンの術式を作り上げた人物でもあり、その2つは1000年経っても彼を苦しめていることから、ブリジットは「ただひとりストラウスに勝利した人間」と評している。
弟子としても育てられるよう孤児を積極的に引き取っており、ある程度育てて霊力使いの才能が見られなければ親子の縁を切り独立させ、しばらくその暮らしぶりを気に掛けるという。
大義のためには弟子たちに非情な指示も厭わず、己の命さえも惜しまない。その様を見てストラウスは「私などよりよっぽど人を率いる者としての心構えができている」と評している。
普段から甲冑と兜で身を包んでいるためブリジットも本人から言われるまで気付かなかったが、フルネームは「マリア・セイバーハーゲン」であり女性である。
用語
- ヴァンパイア
本作でのヴァンパイアの設定は一般的に知られているものとは大きく異なるものが多い。
- 吸血能力自体はあるが生きるのには吸血は不要で、同族同士や人間相手でも流血を嫌う程総じて温厚な性格。作中でも吸血するシーンはほとんど見られない(原作の城平は意図的に避けていた)。
- 寿命は凡そ1万年。その長命ゆえか繁殖力が低く、純血同士の子は種族全体でも1000年に1人産まれれば良い方と言われる。
- 一般的に知られている流水や十字架、にんにくなどは弱点とならない。弱点と言えるのは太陽光だけで、一度日光にさらされればその箇所は灰となり、復活まで何百年とかかる。
- 一度でも人間の血が混じるとダムピールとなる。ヴァンパイア同様長命で、ヴァンパイアの血が薄くなるほど成人になるまで時間がかかる。本作中最も血が薄いとされるレティシアになると200年の時間を要する。また純血から離れるほど太陽光を苦にしないという性質も持つ。
- 黒き白鳥(ブラックスワン)
ストラウスを永久に追い続ける狩人としてセイバーハーゲンにより作られた術式で霊的な寄生体。取りつかれた者は腕に黒鳥の文様が浮かび、魔力を相殺する力を持つ。宿主が死ぬとその体を離れ、新たな宿主を探してまた取りつく。代を重ねる毎に成長し、取りつかれた者は過去の記憶と能力をそのまま受け継ぐため、最終的にはストラウスを上回る力を身に着けることも可能となる。消滅する条件はストラウスとアーデルハイトが死亡することで、その条件が満たされるまで何度でも蘇る。また代重ねのサイクルを早めるため、取りついてからおよそ5年以内に条件が満たされなければ宿主を食い殺す。これらの情報や戦いに参加する手段も代替わりとともに受け継がれるため、宿主は積極的にストラウスと戦わざるを得なくなる。
術式が完成した頃の力はまだ弱く、初代は回復途中だったブリジットの矢の雨を射かけられた際も魔力を完全消滅させるには至っていなかった。そのため何代かの宿主がストラウスに敗れ犠牲となることは最初から織り込まれている。作り上げたセイバーハーゲン自身も外道な術式であることは自覚しており、このことを罪とするならば「時果てるまで地獄の業火で焼かれることも覚悟の上」で世に放った。
関連項目