番狂わせ甲府とは、2022年の天皇杯 JFA 全日本サッカー選手権大会(天皇杯)で優勝したヴァンフォーレ甲府のことである。なお、ここでは天皇杯優勝で得たAFCチャンピオンズリーグについても記述する。
前年2021年のJ2リーグで3位に入り、この年からJ1参入戦が復活することからヴァンフォーレ甲府は2022年のJ1昇格候補の1チームとされていた。しかしシーズンオフに監督の伊藤彰がコーチをごっそり引き連れてJ1へ昇格したジュビロ磐田へ行ってしまい、代わりの監督人事が難航。そんな中2017年から2018年途中まで監督をしており、シンガポール代表監督になっていた吉田達磨を監督に再招集。選手の主力の流出も最低限に食い止めるなどし、2022年はこの陣容で戦うことになった。
しかし甲府をJ2へ降格させたばかりかJ2でも低迷させた吉田達磨の再招集はサポーターの間で疑念を生み、開幕戦のファジアーノ岡山戦で1-4とフルボッコにされたことでそれが現実となり阿鼻叫喚。4月に一度は立て直すも5月に再び低迷し、さらに6月にはチームキャプテンが週刊誌をお騒がせすることをやってしまい退団するなど(これはとんだとばっちりとはいえ)チーム状況は最悪ともいえる状況になってしまった。
そんな中リーグ戦に並行して5月から天皇杯が開幕。甲府は初戦(2回戦)の環太平洋大学に5-1と大勝するもサポーターは天皇杯捨ててでもリーグ戦の惨状をどうにかしろという状況であった…が、ここから甲府の奇跡のカーニバルが開幕するとはこの時誰も知る由はなかった。
6月に入り3回戦の相手はJ1の北海道コンサドーレ札幌。2019年ルヴァンカップ準優勝相手にオウンゴールで相手に先制を与え「やっぱりダメだ」となるもその後逆転し、さらにPKを与えるもGKがセーブしそのまま勝利した。但しこの時は他所でもJ1勢がJ2勢に負けた試合が多く(後述)、甲府が札幌に勝った試合は特に注目されることはなかった。
次の相手はJ1に10年以上定着しているサガン鳥栖。この試合でも甲府は終始有利に試合を進め、3-1と勝利しこれまでのチーム最高成績に並ぶベスト8に進出した。このあたりからサポーターは低迷しているリーグ戦より天皇杯に注目し始め、そっちを応援するようになる。
7月に行われた準々決勝の相手はやはりJ1のアビスパ福岡。翌2023年でルヴァンカップを制覇することになるチーム相手に試合は膠着状態のまま1-1のまま延長に入り、延長前半で貴重な勝ち越し点を得た甲府がそのまま逃げ切り2-1で勝利。クラブ初の準決勝進出を成し遂げた。ちなみに準決勝に進出した時点で賞金2000万(J2優勝と同額)ゲットとなり、サポーターは「貴重な収入源が手に入った」と大喜びであった。
準決勝まで3ヶ月以上空くことになり、天皇杯ベスト4に入った勢いをJ2リーグ戦でも…と思ったが、現実は残酷な状況に陥ってしまう。8月のFC琉球戦の勝利を最後にまったく勝てなくなり、9戦未勝利かつ6連敗を喫してしまう。当然サポーターの心がゲシュタルト崩壊したのは言うまでもなく、J1昇格どころかJ3降格すら見える状況にSNSだけでなく試合終了後の挨拶でも「吉田達磨辞めろ」「監督に辞めてもらいたい人手を挙げて(実話。但し2018年の話)」の大合唱。火の粉は監督や社長だけでなく筆頭株主の山梨日日新聞や新スタジアム計画を白紙にした山梨県知事にまで飛び、ここでは書けない罵声が飛び交うことになった。
そんな状況で10月5日の準決勝の相手は天皇杯だけでも過去5回優勝、AFCチャンピオンズリーグ優勝やFIFAクラブワールドカップでレアル・マドリード相手に延長まで死闘をしたことがある鹿島アントラーズである。今の甲府の状況から「ドラゴンクエストⅢで例えるならレベル15で(適正レベル35の)バラモスを相手にするようなもの」と評されるほど実力差があると思われたが前半先制したのは甲府のほうで、その後鹿島は「メラゾーマ」「イオナズン」をガンガン発動するかのごとく猛攻を仕掛けるも点が取れずにそのまま試合終了。なんと下馬評を覆し甲府が決勝へ進出したのである。
まさかの結果に甲府サポーターは「賞金が2000万円から5000万円に増えた」「リーグ戦のことなんて忘れて決勝会場でお祭りだ!」と狂喜乱舞し、震えた手で決勝戦のチケットを購入し始めた。一方甲府に勝つことを前提に決勝戦のことしか頭になかった鹿島サポーターは購入済みの決勝戦チケットを片手に頭を抱え、SNS上で「甲府サポさん3割引、いや半額でいいからチケット買って」と泣きすがる光景が見られ、それでも売れなかった鹿島サポーターは「こうなったら歴史が変わる所観に行くわ」としてそのまま決勝会場へ向かったとか。実際YouTubeでは鹿島サポーターのアカウントが甲府の応援している様子が投稿されている。
甲府が決勝戦に進出した翌々日(10月7日)の朝日新聞で元横浜F・マリノスや柏レイソルなどで監督を務めていた早野宏史が甲府を評価する中で「まさに(ヴァンフォーレに絡んで)番狂わせ(ヴァンクルワセ)甲府だね」とダジャレを披露。これにハヤリストが反応し「早野のダジャレが炸裂した!」と歓喜に沸いたとかどうとか。
そしてリーグ戦では7連敗となって迎えた10月16日の決勝戦、横浜の日産スタジアムに迎えた相手はJ1リーグ3度優勝を誇るサンフレッチェ広島。ドラゴンクエストⅢで例えるならまさにラスボスであるゾーマそのものであるが、前半に甲府攻撃陣が「ひかりのたま」を発動したかのごとく広島鉄壁のバリアを破り、最後は三平和司が押し込んで先制。しかし広島も後半残り8分に川村拓夢が「ここえるふぶき」で相手を凍らせるかのごとく強烈なシュートを叩き込み同点に追いつく。そのまま延長に入りその後半、途中から入った甲府の生きる伝説こと山本英臣が自陣ゴール前でハンドをとられPKを献上。HP残1状態となり万事休すと思われたがここでGK河田晃兵が「けんじゃのいし」を使って回復…ではなく好判断でセーブしPK戦まで持ち込むことに成功する。
PK戦でもGK河田晃兵が4人目を阻止したのに対し甲府は4人全員が決め、5人目はハンドを取られた山本英臣。甲府サポが祈る中、山本の蹴ったボールはゴール左側に吸い込まれ、試合終了。
この優勝で賞金1億5000万円、2023年のAFCチャンピオンズリーグ出場権、決勝2週間後にずれ込んだ信玄公まつりで武田騎馬軍団と一緒にパレード催行&県民栄誉賞受賞など夢としか思えないご褒美を手に入れた。
ちなみにその後リーグの連敗も止まってJ2残留も決まり、めでたしめでたし・・・とならず、番狂わせ甲府はもうちょっとだけ続くことになる。
こうして天皇杯優勝を遂げた甲府であるが、先述の通り2023年のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の出場権も獲得することになった。しかし甲府は2023年もJ2である。当時のチーム数の差からJ2はJ1よりリーグ戦の試合が4試合多く、さらに昇格プレーオフの兼ね合いから試合間隔も短い。そんなキツキツのスケジュールでグループリーグだけでも6試合が追加、うち3試合は海外遠征(リーグ戦は日本のチーム同士の試合がない)である。これだけでもきついのであるが、甲府はさらにハンデを背負うことになる。
実は甲府のホームスタジアムである小瀬陸上競技場は背もたれの座席がなく、これがACLの開催規定に抵触することが発覚。改修するにも工事が間に合わず、泣く泣く小瀬陸上競技場の使用を断念。代わりに使用することになったのが東京にある国立競技場であるが、使用料が小瀬陸上競技場と比較にならないほど高額で、さらに対戦相手のチームのホテルも甲府持ちであるが東京のホテルはインバウンド効果で金額が跳ね上がっており、まさに泣きっ面に蜂であった。実際甲府の試算では8000万の赤字とされており、ただでさえ「ACLは罰ゲーム」と揶揄されているのに甲府からすれば「ACLはデスゲーム」となりかねない状況であった。
しかしこんな苦しい状況でも甲府は手を抜くことなく全力で挑む選択をし、第二章が始まることとなる。
2023年8月にグループリーグの抽選会が行なわれ、甲府はメルボルン・シティFC(オーストラリア・Aリーグ王者。マンチェスター・シティの弟分)、ブリーラム・ユナイテッド(タイリーグ王者)、浙江FC(中国・超級3位)と一緒にグループHに配属されることとなったが、相手との差は勿論のこと、アウェーの試合会場が赤道を超えるどころか南極に近いメルボルンと赤道にほど近いブリーラム、反日が根強い浙江である。普通に見たら何もかもが厳しい状況で、対戦相手からしても甲府だけはボーナスステージという扱い、特にメルボルンのメディアは「1チームだけアンダードッグ(かませ犬)がいる」と甲府を嘲笑する有様であった。但しACL常連チームのサポーターからは「面倒なKリーグと当たらなくてラッキーでは」という意見も見られた。
さてリーグ戦ではキャプテンが引き抜かれるなどで苦戦していた甲府であるが、9月に早速ACLの試合に挑むこととなる。向かう先はメルボルン。直行便でも東京から10時間かかるが、移動日は直行便がなくシドニー経由で行かざるを得ず、結果甲府を出てメルボルンに着いたのが25時間後という「宇宙よりも遠い場所」を体現してしまった(しかもお金がないのでエコノミークラス)。こんな状況ではヘトヘトだろうと思ったが甲府の選手は逆に初めての海外に胸を躍らせ、終始楽しんでいた様子であった。さらに甲府サポーターも300人がメルボルンに集結し、現地の山梨県関係者と一緒に試合前のパーティーを開催するなど初ACLに向けて盛り上がりは最高潮に達していた。
そして試合は事前の予想を覆し、甲府が終始優勢に試合を進める展開に。メルボルン・シティもAリーグ王者の意地からゴールを死守し続けたが、結果0-0のスコアレスドローで終わり、甲府はアウェー(しかも地球の裏側)で貴重な勝ち点1をゲットした。この結果に甲府だけでなくJリーグの他サポーターも「これいけるんじゃね?」と驚き、逆にメルボルン・シティは先述の件(メディアが言ったことでメルボルン・シティ関係者が言ったことではない)もありSNSでAリーグの他チームサポーターから「かませ犬扱いして今どんな気持ち?」と批判されてしまった。
メルボルンから帰ってきた甲府の次の相手はホームでのブリーラム・ユナイテッド戦。しかし先述の通り試合会場は東京となり、しかも平日開催のため観客動員が見込めないことが予想されていた。そこで甲府は都内各所に試合開催の広告を掲示すると同時にX(twitter)で「#甲府にチカラを」というハッシュタグを使い、他チームのサポーターに対しても「普段のユニフォームを着て応援に来て」と呼びかけた。
そしてその呼びかけに応じた他Jリーグチームのサポーターが国立競技場に集結。甲府側ゴール裏の一角で甲府を応援するという光景が見られた。確認情報だと埼玉スタジアムで試合があるはずの浦和レッズサポーターや隣の神宮球場で試合があった阪神タイガースのファンもいたとかどうとか。
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https://twitter.com/TheAFCCL_jp/status/1729664045425291411
この大声援を受けて甲府はこの試合でも奮起し、後半終了前にACL初ゴールを決めるとそのまま逃げ切り、ACL初勝利を挙げたのである。この結果で甲府はかませ犬どころかグループHのキーマンとなり、X(Twitter)では甲府について紹介する東南アジアのサッカーファンの書き込みが散見された。
この勢いのままでいきたい甲府であるが、次の相手はアウェー・浙江戦。反日色が強いこの地でサポーターが所謂「アウェーの洗礼」を受けることとなる。まず甲府側が確保できたチケットはわずか100枚で、浙江サイドからは「チケットを持っていない人は渡航を自粛するように」と言われてしまう。さらにチケットを確保したサポーターも持参した日の丸を没収されると言ったことがあった模様で(尤もAFCアジアカップ2004の出来事を知っていればこの措置はやむを得ないが)、これまでの雰囲気とは明らかに違うものとなった。また、浙江FCの情報はメルボルン・シティやブリーラム・ユナイテッドと比較して限られており、どういったチームか情報が不足していた。このような状況の中浙江FCのオープンサッカーのスタイルについていけず、結果0-2で敗れてしまった。
しかし第4戦はホームでの浙江戦で、この試合でも他サポーターが集結。甲府も浙江FCに対しての対策が万全となり、前線とはうってかわって甲府のゴール祭りとなった。PKによる1失点があったものの4-1と圧勝に近い結果となり、「やられたらやり返す、倍返しだ!」という半沢直樹状態となった。そしてこの勝利で甲府はなんとグループリーグ首位となり、決勝トーナメント進出も夢ではなくなったのである。
そして2024年も甲府はJ2で戦うことが決定した直後の第5戦、ホームで同じ勝ち点のメルボルン・シティと対戦することになった甲府であるが、グループリーグでの好成績と宣伝を見たサッカー以外のファンも駆け付け、日本プロ野球やメジャーリーグのユニフォームはもとよりジャパンラグビーリーグのユニフォームや柔道着を着た者までいたという目撃情報があり、まさに競技の垣根を超えたお祭りであった。紅の豚のポルコ・ロッソがいたら「馬鹿どもがお祭り騒ぎにしちまいやがった」と言ってしまう状況であろう。
試合であるが、第1戦のスコアレスとは逆に打ち合いとなる。メルボルンが先制するも甲府が逆転して前半終了。しかし後半メルボルンが再逆転して万事休す・・・と思われたが残り10分で再び追いつき、3-3のドローで首位死守に成功した。一方他会場でのブリーラム対浙江戦は大荒れとなり、双方で退場者が続出。甲府にとって追い風となり、リーグ戦が終わったこともありACLに集中した状況でタイへ向かった。
そして東京からバンコクまで飛行機で6時間、さらに車で5~6時間の会場に500人もの甲府サポーターが駆け付けた最終戦。出場停止者が多数いたブリーラムに対して甲府は前半だけで3得点を挙げて楽勝ムード・・・と思ったが相手もタイ王者で後半立て続けに2失点を喰らう。それでも7月に離脱していたがこの試合で復帰したGK河田がこれ以上点を与えず試合終了。3-2で勝利し、甲府はグループリーグHを首位で突破したのである。
この快挙にアジアだけでなくスペインの大手メディア『マルカ』も以下のように取り上げている(二次出典からの引用のため本来の記事とはニュアンスが異なる)。
ヴァンフォーレ甲府が歴史を作り続けている。昨シーズンに天皇杯優勝クラブとしてACL出場権を獲得したときに、すでに前評判を覆していた。彼らを特別とたらしめるのは、2部リーグながら優勝したという点。2部リーグである。それも、全22チーム中、3部リーグ降格圏から3つ上の18位でだ。
こうして番狂わせはACLでも続き、決勝トーナメントでも続くだろうと思われた。
しかしACLの活躍を見たJ1のチームが放っておくわけがなく、シーズンオフに甲府は草刈り場と化し大幅に戦力ダウンしてしまう。さらに決勝トーナメントの対戦相手はKリーグ王者の現代蔚山FC。さすがに勢いだけではかなう相手ではなく、初戦のアウェーでは0-3と大敗。ホームで一矢報いたが1-2で敗れ、甲府のACLはここで終了した。しかしJ2のチームがここまで戦えたことにサポーターからは温かい拍手で迎えられた。
掲示板
5 ななしのよっしん
2025/08/09(土) 09:25:06 ID: XG1A4JgcY+
ドラクエの例え部分は浮いてるけど大健闘だったのはよくわかる良記事
6 ななしのよっしん
2025/08/10(日) 11:17:20 ID: fI3pXzapY+
良い記事だと思うけど同じくドラクエの部分だけ浮いているとは思う
最初に信玄公を例えに出してるのでできればそこも武田で例えて欲しかった
7 ななしのよっしん
2025/10/18(土) 21:17:30 ID: bEfKq+vfRn
ゆっくり動画でドラクエ3を例えにしていたからそれを基に書いたと思われ
まあ直してほしいのは同意
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最終更新:2025/12/16(火) 08:00
最終更新:2025/12/16(火) 08:00
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