人民解放軍(People's Liberation Army;PLA)とは、中国共産党直属の軍事組織であり、"事実上の"中華人民共和国の軍隊である。
概要
名前 | 中国人民解放軍 |
指導者 | 習近平(中央軍事委員会主席) |
所属 | 中華人民共和国 中国共産党 |
兵役年齢 | 18~49歳 |
総兵力 | 約230万 その他、武装警察60万人 |
人民解放軍という、各国の軍隊名とは一風変わった名称だが、これは建国前の国共内戦時代である紅軍からの改名をそのまま引き継いだものである。ちなみに軍旗などには"ハ一"という文字が書かれているがこれは建軍記念日とする"南昌蜂起"が起こった八月一日にちなんでいる。
人民解放軍は国共内戦の真っ只中である1947年に紅軍の名前から改名された。
共産党による軍の創設は「南昌蜂起」から始まり、1927年に遡ることとなる。
中国は1840年に起きたアヘン戦争以来、大陸領土は列強による半植民地化が進み、中国大陸は内乱へと突入していくのである。1945年にWWⅡの終戦を迎えると連合軍として戦った中国は戦勝国への仲間入りを果たした。
しかし、その後再び国共内戦が起こると国民党に勝利し今日までの中国共産党政権が樹立される。
されど、その後の解放軍の道のりは平坦ではなかった。建国後まもなく朝鮮戦争が起きると北朝鮮を支援することで冷戦の矢面に立ったり、武力による台湾侵攻の失敗、中越戦争での大打撃など順風満帆とは言えなかった。
鄧小平による改革開放と共に解放軍もまた80年代には軍の近代化として政府により着手される事になる。
さらに、江沢民政権時から増え続ける軍事費を背景に、さらなる軍拡が行われるようになった。
そして2009年の建国60周年パレード(国慶節)で行進された大閲兵の際には、99式B型戦車など中国製による近代的な装備を中国人民のみならず世界中のメディアや大衆が注目した。
組織
人民解放軍の最高機関は共産党の中央委員会から選出される「党中央軍事委員会」と全人代(日本で言う国会に相当)から選出される「国家中央軍事委員会」の二つの機関を最高指導部として機能される。そしてこれら二つの機関の長のことを総称して「中央軍事委員会主席」といい、人民解放軍全体を総指揮する。
これは、中国共産党総書記(党首)、国家主席同様にトップの権限を握るうえでは重要なポストである。
しかし、鄧小平以降、軍の最高指揮官は文官に限られており軍の支持を得ることばかりに着目しているため
職権の行使が上手く統制できていないのではないのか、と指摘する専門家もいる。
実例として、胡錦濤政権が成立したまもなく、前主席である江沢民は軍の指導権を手放さず、院政を図ろうとした。
しかし、文官である江沢民では軍の支持を得ることが困難だったため、はやくも胡錦濤に指導権を引き渡した。
そのため、2012年の新政権移行時も軍の指導権の引き渡しについて、さまざまな議論を呼んだが、胡錦濤はすかさず習近平に譲歩した。
人民解放軍の組織は複雑であり。国務院(日本の内閣)が管轄する国防部(日本の防衛省)は人民解放軍総部とともに陸海空軍の編成を行う。
公安部(警察)は軍とともに人民武装警察(日本の警察の機動部隊)を指揮する。
人民解放軍を指揮するのは国家の行政よりも党による官僚主導なため、国家の軍隊と言うよりは中国共産党の軍隊と言った方が妥当である。(事実中国は解放軍は党の軍隊であると断言している。)
軍区・戦区
五戦区 | ||
---|---|---|
東部戦区 | 日本や台湾方面における有事への備え | |
南部戦区 | 南シナ海やシーレーンなどの防衛 | |
西部戦区 | 中央アジアなどのイスラム過激派のテロ活動などに対処 | |
北部戦区 | ロシアと北朝鮮方面で軍事衝突などへの対処を想定 | |
中部戦区 | 国家の中枢である北京市などの首都機能の防衛 |
現在のエリアは、習近平指導部による組織改革の一環で軍区が見直されており、2016年2月より「七軍区」から「五戦区」へと再編されている。[1]
七軍区 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
北京 | 瀋陽 | 済南 | 南京 | 広州 | 蘭州 | 成都 |
これまでは、人民解放軍そのものがもともと複雑な組織であることに加えて、全体で7つの軍区に分かれており、さらにそのうえ指導機関である共産党自体においても派閥や利権争いなどが絡んでいるため、軍の指揮系統は決して一枚岩ではなかった。
しかし、現在では各軍が共同で作戦・指揮を行ったり、軍全体で統合運用する必要性が高まっていること、各軍区が政治家と結託して汚職の温床となることを防止すること、また、軍における国家主席および党中央の影響力を強化すること、といった狙いがあると思われ、行政指揮と作戦指揮を分けるアメリカ軍の地域軍構想を模倣することで組織の効率化をはかっているといわれている。[2]
兵力表
人民解放軍 | 自衛隊 | アメリカ軍 | |
---|---|---|---|
総兵力 | 約204万人 | 約24万人 | |
予備役 | 約50万人 | 約5万人 | |
陸軍 | 約97万人 | 約15万人 | 約54万人 |
海軍 | 約24万人 | 約4.5万人 | 約32万人 |
空軍 | 約40万人 | 約4.7万人 | 約33万人 |
海兵隊 | 約4万人 | 約2000人 | 約20万人 |
戦車 | 約6000両 | 約700両 | 約2800両 |
主要艦艇 | 約80隻 | 約50隻 | |
空母 (ヘリ空母除外) |
2隻 | 0隻 | 10隻 |
潜水艦 | 70隻 | 22隻 | |
ミサイル原潜 | 4隻 | 0隻 | 14隻 |
作戦機 | 2900機 | 420機 | 3500機 |
近代戦闘機 | 1146機 | 300機 | |
大陸間弾道ミサイル (ICBM) |
70基 | 0基 | 450基 |
人民解放軍は、物量においては世界屈指であり、例として自衛隊との比較を表にしてみたので見てもらいたい。上記のように物量では圧倒的に人民解放軍は多いといえよう。とくに、航空戦力こそアメリカには劣っているものの、陸上戦力は兵員・戦車数ともにアメリカ陸軍を完全に上回っている。
しかし資質の方では、戦闘機などは中国製と標榜しながらもロシア製やドイツ製などの技術や部品を多く投入している。
現在は一人っ子政策による人口問題および装備の近代化の影響からか、人数を増やす方式から転換しスリム化していく方針になったとされる。
徴兵制度
人民解放軍は徴兵制度を行っているが、農村部などの志願者で定員が足りるため実質的には志願制である。
空母建設、今後の人民解放軍
2012年、ウクライナより買い取ったロシア製の未完空母ヴァリャーグを中国製として完成させる。新たに遼寧と名付けられたこの空母は中国初の航空母艦として一時話題となる。
こういった空母建設をはじめとする急速な軍事力拡大、そして経済成長とともに増額され続ける軍事費などの軍拡に対して世界中から懸念の声が相次いでいる。 ⇒ 中国脅威論 (Wikipedia)
階級制度
人民解放軍も他の軍隊と同様に、構成員の上下関係を明らかにして指揮を容易にするために階級を定めている。
人民解放軍には元々階級は存在しなかったが、国共内戦に勝利しソ連との関係が深まった1955年に導入された。
しかし、毛沢東と劉少奇の権力争いから始まった「文化大革命」において、階級制はブルジョワ階級の産物として目の敵にされ一時廃止された。(廃止とは言っても実際は「指揮官」と「兵士」の2つの階級は存続していた。)
しかし、階級制の不在は部隊の指揮に大きな混乱を招いた為、文化大革命が一段落ついた1988年に復活された。
人民解放軍では、将校・士官を「軍官」、下士官を(非常にややこしいが)「士官」、兵はそのまま「兵士」と呼ぶ。
軍官(士官・将校) | 将官(将官) | 上将(大将) | |
中将(中将) | |||
少将(少将) | |||
校官(佐官) | 大校(上級大佐) | ||
上校(大佐) | |||
中校(中佐) | |||
少校(少佐) | |||
尉官(尉官) | 上尉(大尉) | ||
中尉(中尉) | |||
少尉(少尉) | |||
士兵(下士官・兵) | 士官(下士官) | 高級 | 6級士官(准尉) |
5級士官(兵曹長) | |||
中級 | 4級士官(曹長) | ||
3級士官(軍曹) | |||
初級 | 2級士官(伍長) | ||
1級士官(兵長) | |||
兵士(兵) | 上等兵(上等兵) | ||
列兵(一等兵) |
部隊呼称
人民解放軍の部隊呼称は我が国のそれと大きく異なっている。これを知らないとCCTVの軍事チャンネルやwikiの中国語版などを見ても何を言っているかサッパリ分からないので、ここで簡単に説明しよう。
人民解放軍での呼称 | 日本における呼称 |
軍区 | 方面軍 |
軍 | 軍団 |
師 | 師団 |
旅 | 旅団 |
団 | 連隊 |
営 | 大隊 |
連 | 中隊 |
排 | 小隊 |
班 | 分隊 |
公式軍歌
「中国人民解放軍進行曲」も参照。
“人民解放軍進行曲”は日中戦争の際に八路軍進行曲(行進曲)として作成されており、1988年には当時の軍の指導者である鄧小平によって公式軍歌として採用された。
元々は八路軍という名を冠した曲名ではあるものの、前進部隊としてもう一つ、新四軍もいたことを忘れてはならない。
別に新四軍用の軍歌として”新四軍軍歌”なるものも存在する。十大元帥の一人陳毅が手がけた歌詞なだけあって旋律ともにこっちのほうが名曲だと思う。
ニコニコにもうpされているので是非とも一度、聴いてみてほしい。
曲は今日まで人民解放軍で頻繁に流され、10年に一度の国慶節(日本でいう建国記念日)に開かれる軍事パレードの際には"分列式進行曲"として編曲され演奏される。
以下は人民解放軍進行曲の歌詞だが、曲の旋律をそのまま日本語として歌えるようにしたものである。
前進!前進!前進!!
恐れず、屈せず、戦う
敵軍が滅するまで 毛沢東の旗を翻せ
(中文)
向前!向前!向前!
我们的队伍向太阳,脚踏着祖国的大地,
背负着民族的希望,我们是一支不可战胜的力量。
我们是工农的子弟,我们是人民的武装,
从不畏惧,绝不屈服,英勇战斗,
直到把反动派消灭干净,毛泽东的旗帜高高飘扬!
听,风在呼啸军号响!
听,革命歌声多嘹亮!
同志们整齐步伐奔向解放的战场!同志们整齐步伐奔赴祖国的边疆!
向前!向前!
我们的队伍向太阳,向最后的胜利,向全国的解放!
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関連項目
関連楽曲
脚注
- *軍改革で5「戦区」創設 陸軍中心に終止符 (毎日新聞 2016年2月1日 21時19分)
- *なぜ習近平主席は人民解放軍を「7軍区」から「5戦区」に再編したのか? その狙いを読み解くと… (産経ニュース 2016.9.19 10:30)
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