星雲賞(せいうんしょう)とは、SF作品を対象とした投票型の賞である。
概要
毎年開催されている日本SF大会において、参加者の投票によって決定される賞。世界SF大会で同様の方式で選出されるヒューゴー賞の日本版とも言える賞であり、SF作品への賞では現存する中で最も歴史が古い。選考委員による議論で決まる日本SF大賞とは別の賞なので注意。
ちなみにヒューゴー賞と並ぶ権威を持つ、アメリカのネビュラ賞(『ネビュラ』は「星雲」の意)とは全く関係がない。
現在は「日本長編部門」「日本短編部門」「海外長編部門」「海外短編部門」「メディア部門」「コミック部門」「アート部門」「ノンフィクション部門」「自由部門」の9部門が存在する。日本の一般的な文学賞のように「受賞は一作家一回限り」という縛りは無く、参加者の層もある程度固定されるためか複数回受賞している作家が多い。一方、受賞対象は投票前の1年間に完結した作品、という縛りのため受賞のチャンスが基本的に1作品1回しかなく、「あれと同じ年だったので受賞を逃した」作品もある。そういった巡り合わせは文学賞にはつきものではあるが。
対象は前年1月~12月に発表された作品など。投票開始前に参考候補作が発表されるが、これは一般的な文学賞における候補作とは異なり、参考候補作に挙がらなかった作品にも投票が可能。とはいえ参考候補作以外から受賞作が出ることは非常に珍しい。ただし実例はあり、例えば第49回(2018年)のノンフィクション部門『アリエナクナイ科学ノ教科書 ~空想設定を読み解く31講~』は参考候補作以外から選出されている。
日本長編・短編部門は初期の70年代は筒井康隆・小松左京ら、80年代からは神林長平を筆頭にいわゆる第三世代が占めてきたが、ゼロ年代にはライトノベル系レーベル出身の作家の受賞が目立った。尻Pこと野尻抱介(歴代2位タイの7度受賞)、小川一水(『第六大陸』『漂った男』)、秋山瑞人(『おれはミサイル』)、新城カズマ(『サマー/タイム/トラベラー』)、有川浩(『図書館戦争』シリーズ)など。
基本的にはSFでデビューしてSFを書き続ける狭義のSF作家が強いが、プロパー作家でないところでは、大槻ケンヂに短編部門で二度の受賞歴がある(『くるぐる使い』『のの子の復讐ジグジグ』)ほか、日本SF作家クラブ会長になった池澤春菜も受賞している(『オービタル・クリスマス』、原作:堺三保)。
小説での最多受賞は神林長平の8回。次いで筒井康隆・野尻抱介が7回、小松左京が6回(谷甲州との共著である『日本沈没 第二部』を入れれば7回)、梶尾真治が5回。
日本長編部門の受賞作が、同年の日本SF大賞の受賞作と被ることは意外と少ない(ダブル受賞を達成したのは井上ひさし『吉里吉里人』、夢枕獏『上弦の月を喰べる獅子』、柾悟郎『ヴィーナス・シティ』、伊藤計劃『ハーモニー』、藤井太洋『オービタル・クラウド』、林譲治『星系出雲の兵站』の6作のみ)。人気投票と選考委員による合議制という違いもあるが、星雲賞は夏、日本SF大賞は冬に決まるので、それとなくバランスを取っているのかもしれない(小説以外の場合は星雲賞と被ることも多いが)。
ニコニコ生放送では、2015年から日本SF大会チャンネルが日本SF大会の中継を行っており、ニコニコニュース公式生放送で星雲賞発表の模様が中継されたりしている。
受賞作について
基本的に小説部門はあくまで「SF小説の賞」と言えるラインナップだが、SFコミュニティのなかでもごく一部の人(基本的にはSF大会参加者)による人気投票という面があるためか、メディア部門やコミック部門、自由部門などでは、一般的には「SF」というカテゴリでは語られないような作品が受賞することもままある。例としては、
- 第18回コミック部門(1987):うる星やつら(高橋留美子)
- 第20回メディア部門(1989):となりのトトロ
- 第20回コミック部門(1989):人魚の森(高橋留美子)
- 第24回メディア部門(1993):ママは小学4年生
- 第28回コミック部門(1997):うしおととら(藤田和日郎)
- 第32回メディア部門(2001):高機動幻想ガンパレード・マーチ
- 第32回コミック部門(2001):カードキャプターさくら(CLAMP)
- 第37回コミック部門(2006):陰陽師(夢枕獏・岡野玲子)
- 第42回コミック部門(2011):鋼の錬金術師(荒川弘)
- 第43回メディア部門(2012):魔法少女まどか☆マギカ
- 第46回コミック部門(2015):もやしもん(石川雅之)
- 第47回メディア部門(2016):ガールズ&パンツァー劇場版
- 第48回コミック部門(2017):こちら葛飾区亀有公園前派出所(秋本治)
- 第49回コミック部門(2018):それでも町は廻っている(石黒正数)
- 第50回コミック部門(2019):少女終末旅行(つくみず)
- 第51回コミック部門(2020):バビロンまでは何光年?(道満晴明)
- 第52回コミック部門(2021):鬼灯の冷徹(江口夏実)
などなど。特撮では大映の「ガメラ」シリーズが二度受賞、東宝のゴジラシリーズも「シン・ゴジラ」「ゴジラ S.P <シンギュラポイント>」で二度受賞したほか、円谷プロのウルトラシリーズでは「ウルトラマンティガ」「ウルトラマンZ」「シン・ウルトラマン」で三度受賞(小説では「ウルトラマンF」が日本長編部門、「多々良島ふたたび ウルトラ怪獣アンソロジー」所収の「多々良島ふたたび」「怪獣ルクスビグラの足型を取った男」が同短編部門を受賞している)、東映も負けじと仮面ライダーシリーズとスーパー戦隊シリーズの「仮面ライダークウガ」「特捜戦隊デカレンジャー」で一度ずつ受賞している。なお、ゲームの受賞は今のところ「ガンパレード・マーチ」のみ。映画・TVと同じメディア部門なのが災いしているのかもしれない。
SF界にはかつてマニアによる「あれはSFじゃない」(主に『機動戦士ガンダム』などに向けた)という言説がジャンルを排他的にして衰退していったという過去がある(対照的にミステリーは『このミス』などであれもこれもミステリーとして扱って人気を広げた)。そのため90年代ぐらいには狭義のSFがほとんど出版されなくなってしまい、マニアの間でもSFの範囲を広くとる方が主流になっていった。上記のような受賞作に「え、これがSF?」と思う人は多いだろうが、現代ではSFの定義は人それぞれなので、上記のような作品も「SFの要素がある作品はSF」「SFマニアが面白がる作品はSF」ぐらいの定義で選ばれたのだと思っておけば良い。たとえば『まどマギ』は時間SFだし、『ガルパン』は世界観がSFである。
他、ニコニコに関連するものとしては、第36回(2006)自由部門で「はやぶさ」のイトカワ着陸ミッション、第39回(2008)自由部門では初音ミクが受賞。第40回(2009)日本短編部門ではニコニコ動画をモデルにした野尻抱介の短編「南極点のピアピア動画」が、さらに第43回(2012年)日本短編部門では同じく野尻作の「歌う潜水艦とピアピア動画」が受賞している。
各部門における受賞作の一覧はWikipediaを参照のこと。→外部リンク:Wikipedia
関連動画
星雲賞受賞スピーチ
関連チャンネル
関連リンク
- 日本SFファングループ連合会議 (日本SF大会および星雲賞を運営)
関連項目
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