公営競技とは地方公共団体等が主催し、ギャンブルとして行われるスポーツ競技の一つである。いずれも人間が馬・自転車・モーターボート・オートバイといった乗り物を扱って速さを競い合う。
競馬・競輪・ボートレース(競艇)・オートレースの4つがある。これらをまとめて3競オートと呼ぶこともある。
わかりやすく言うと、都道府県や市町村などが主催して行う公営ギャンブルである。ただし中央競馬に関しては日本中央競馬会という特殊法人があり、そこが主催者になっている。基本的に賭博が禁止されている日本において唯一の公認されたギャンブルである。
管轄官庁は競馬が農林水産省(JRA、NAR)、競艇が国土交通省(ボートレース競走会)、競輪とオートレースが経済産業省(JKA)。
配当はすべてパリミュチュエル方式という、予想を的中させた人で経費等(20%~30%)を差し引いた額をすべて山分けするという形で決められる(「馬券」の記事も参照)。ナンバーズやtotoなどの宝くじもこの方式で払戻金が決まる。なお、選手や職員など関係者の投票券購入は不正対策のため禁止されており、違反した場合は刑事処分が課せられる。
2024年現在、全国に中央競馬10場・地方競馬15場・競輪43場・競艇24場・オートレース5場の計97場がある。(この中には後述の理由で廃止が決定、あるいは廃止を検討している競技場を含む)
幕末の横浜外国人居留地でイギリス人が始めた競馬が、公営競技の起こりである。現在のような形で公営競技が整ったのはおおむね1950年前後のことで、これは第二次世界大戦からの復興を主な目的として始められたものであり、戦後日本が復興した後も続けられてきた。しかし、近年の不況など様々な要因により、売上高は減少し続けている。
その影響もあり、2001年3月に中津競馬場が突然廃止されて以来、競輪や地方競馬においても廃止が決定される競技場が増えている。2016年には船橋オートレース場が廃止された。廃止がない中央競馬や競艇も、新たな客層を掘り起こすための広告戦略を続けているほか、競輪やボートレースでは事業を民間に委託するなどの対応が行われている。それほどまでに、公営競技の現状は厳しい。
しかし、近年ではネット投票の充実や、ネットユーザーをターゲットにしたレースの実施により、全体としての収益は回復傾向にある。特に、新型コロナウイルスのパンデミックが日本国内で本格化し、競技場や場外発売所がすべて閉鎖され、無観客開催となった2020年には、政府による外出制限も重なり、ミッドナイト競輪などネット投票限定のレースの売上が急増した。その結果、廃止を検討していた競輪場が廃止を撤回するほどにまで回復している。
さらに、公営競技で得られた利益は、福祉活動や農林水産業、商工業の発展、周辺環境の整備、さらには伝統文化の保護のために活用されている。JRAでは売上の10%+αが国庫金として納められ、競艇では売上の約3%が日本財団の活動資金として役立てられている。
公営競技の選手は、多いところ(競輪)で2,200人以上と意外と多い。近年は女性選手が長らく活躍できなかった中央競馬とオートレースで藤田菜七子(中央競馬)、佐藤摩弥(オートレース)が女性最高記録を塗り替える活躍を見せており、競艇でのレディースシリーズとしての女子戦の充実や、ガールズケイリンの開始など女性選手の活躍も著しい。腕さえあれば1億円以上の賞金を稼ぐこともでき、トップクラスともなると競輪、競艇では2億円、競馬やオートレースで1億円程度の賞金を手に入れることができる。逆に成績が悪い選手でも、地方競馬の賞金下位場でもない限り年収500万程度の収入を得られるという。
ことスポーツ選手としてみると、その選手生命は非常に長い。これは脚が乗り物という緩衝材で保護され、骨格への負担が低いことが主な要因(ただ姿勢の関係から腰痛に悩まされる選手は競技関係なく多い)。なので、やろうと思えば何歳になっても選手として活躍できる。実際、70歳以上の選手がレースに勝利した例もあり、その姿はファンを興奮させる。
しかし、競輪やオートレースでは、勝率が低い選手は強制的に引退させられる制度がある。また、競艇には『魔の8項』と呼ばれる、成績不振の選手に引退を勧告する制度があり、まさに実力が全ての厳しい世界である。
さらに、これらの競技はスピードを追求するため、常に体重管理が求められる。減量がうまくいかなくなって引退する選手や、健康への影響を考慮して引退する選手も少なくない。加えて、レース中の事故、たとえば落馬や落車、転覆などで命を落とす危険があり、障害が残って選手として再起不能になることもある。無事であっても、競技復帰までに年単位の時間がかかることがあるなど、レースは常に危険と隣り合わせである。そのため、後述する厳しい訓練を乗り越えなければ、公営競技の選手になることはできない。
参考までに、2024年現在の各公営競技における選手養成や獲得賞金等の違いを一覧にまとめた。
種類 |
募集期間 |
養成期間 |
年齢制限 | 強制引退制度 | 選手のクラス分け |
獲得賞金最高額(2023年) |
中央競馬の騎手 | 年1回 | 3年 | 15歳以上20歳未満 | なし | なし | 5,994,587,000円(C.ルメール騎手) ※騎手の取り分は5% |
地方競馬の騎手 | 年1回 | 2年 | 15歳以上20歳以下 | なし | なし | 1,254,377,000円(笹川翼騎手) ※騎手の取り分は5% |
競輪選手 | 年1回 | 1年 | 満17歳以上 | あり | S級3班・A級3班 | 252,707,900円(松浦悠士選手) |
競艇選手 | 年2回 | 1年 | 15歳以上30歳未満[1] | 事実上あり | A級2班・B級2班 | 222,030,000円(石野貴之選手) |
オートレーサー | 年1回[2] | 9か月 | 満16歳以上 | あり | S級・A級・B級 | 121,912,315円(青山周平選手) |
競輪、競艇、オートレースの選手はそれぞれの競技場から「このレースに出てくれませんか?」と斡旋を受けレース場へ向かい、3~7日間のレースに臨む。都合がつかないときは、場合にもよるが斡旋を断ることも可能。
競馬の騎手の場合は馬主の意向に基づき、調教師や仲介人が騎手に対して騎乗をお願いする形で馬に乗る(騎乗依頼)。多くの場合、騎手と馬主・調教師との関係や成績、当日のスケジュールによって騎手が決められる。中央競馬の場合は依頼によって全国の競馬場を飛び回るが、地方競馬の場合は所属場のレースにのみ出るのが基本である(大レースや休催中に別の競馬場へ遠征することもある)。中央競馬の騎手が地方競馬に出ることもあるし、逆に地方競馬の騎手が中央競馬に出ることもある。
出場したレースの賞金や出場したときにもらえる手当などで選手は収入を得る。賞金はレースの格や競技場(売上により区別されている)により異なるが、最高で1億円がもらえる。基本的に開催終了時に宿舎の売店で使ったお金を差し引いた現金をポンと手渡しされるそうだが、さすがに不用心なので現在では銀行振込も多いという。
開催中は不正防止のため、携帯電話など通信機器の持ち込みは厳禁(アルコールなど持ち込み禁止の品物は競技によって異なるが、通信機器は全ての競技で持ち込み禁止)。開催初日の前の日の指定された時間(一例として中央競馬は21時、競艇は12時)までに競技場へ行って、後述の宿舎に預けることになる。競馬以外ではその日に健康診断や使用する自転車・バイクなどの検査、競艇の場合は一節間使用するボート・モーターの抽選を行う。これを「前検」といい、これに引っかかれば前検不合格となり、レースに出場することができなくなる。当然集合時刻への遅刻は厳禁で、1秒でも前検集合時刻に遅れれば交通機関にダイヤの乱れがあったり、渋滞に巻き込まれたりしたなどの汲むべき事情がない限りレースに出られないだけでなく、開催終了後には厳しい処分が待っている。(前検遅参)
前検日から開催終了まで、選手たちは競技主催者の管理下に入り、競技場の敷地内もしくは近くにある選手宿舎(競馬では「調整ルーム」の名がある)で寝泊まりする。中央競馬や南関東公営競馬、ホッカイドウ競馬などは個室だが、基本的には相部屋で、食堂・娯楽室・簡易売店・トレーニングジム・サウナ付き大浴場も完備してあるが、外部との連絡は身内の不幸など余程のことでもない限り取れず、やむを得ず電話連絡をする場合も職員立会いの下で会話内容はしっかりチェックされる。外出は勿論、職員や給食などの業者を除き、宿舎には家族や厩舎関係者であろうと如何なる外部の人間を入れる事も許されない。違反すると下記のようなペナルティがある。
そしてレース終了後に賞金と一緒に預けていた携帯などを返してもらって、斡旋等のない間に仲間や師匠らとともに練習や調教をしたり、その競技を知ってもらうためのメディア出演などを行う。大体この繰り返しである。
中央競馬の場合、美浦・栗東のトレーニングセンターにも同様の宿舎が独身寮とは別にあり、こちらを利用する事も可能。この場合、朝の調教の後、一旦携帯電話などを返してもらい、マイカーもしくはJRAが手配したタクシーで騎乗予定の競馬場に移動、到着後、再度携帯電話を預けた上で騎乗する。
なお、ほとんど連日開催となる南関東公営競馬や東海地方の公営競馬では、各競馬場の調整ルームもあるが、厳密に適用すると特に南関東の場合だとほぼ毎週競馬場に缶詰になってしまうため、所属している競馬場以外で開催される場合は指定されたタクシーに乗れば自宅待機も可とする制度が整えられている。この他一部の地方競馬では調整ルームがなく自宅から規定の時間まで検量室に出てくればOKというところもある。
出場したレースで斜行などにより他の選手の落馬・落車・転覆などを引き起こす妨害や周回誤認、さらにはドーピング違反などのルール違反をして失格・降着となった場合、またはフライングや出遅れにより返還欠場となり、売上げを払い戻しさせることで主催者に損害を与えた場合、さらに八百長や前検遅参、宿舎への部外者立ち入り、通信機器の持ち込み、投票券の不正購入などの不正行為を行った者、あるいはこうした行為を短期間に繰り返した選手には、厳しいペナルティが課される。主な罰則は以下の通りである。
特に競輪における「お寺行き」が有名である。競輪では一定の事故点が溜まると再訓練を受講しなければならない。軽度の違反の場合は伊豆修善寺の日本競輪選手養成所に送られるが、重度の違反を起こすと、京都府宇治市にある黄檗宗萬福寺(お寺)で座禅や写経、作務を5泊6日の泊まり込みで行う訓練が課される。この期間中は一切練習ができない。近年、スポーツ選手に対するこの措置に対して疑問の声が挙がりつつあるが、競輪選手は往年の名選手であり、日本競輪選手養成所の所長を務める滝澤正光の言葉を借りれば「仕事は練習でレースは集金」というほど練習に励む者が多い。そのため、彼らが練習もできず、やりたくもないことを強いられることで精神的苦痛を味わうことから、特に恐れられている。
一方、競艇の場合は、0.05秒以上のフライング(非常識なフライング)を起こすと、通常のフライング休みに5日間が追加され、愛知県碧南市にある競走会の研修所に送られ、一定期間スタート練習を繰り返さなければならない。この点で、競輪のお寺行きとは対照的である。また、短期間でフライングを繰り返すと、2回で60日、3回で90日とフライング休みの期間が長期化し、その間レースに出られないため無収入となる。ボート界屈指の個性派レーサーである阿波勝哉は、初めてフライングを3本切った際、半年のフライング休みの間にローンを返済するため、日当1万円で各地の工事現場を回り、5ヶ月間働いたという。それほど、ボートレーサーにとってフライングは死活問題である。
また、これらのペナルティは点数化されており、罰則に応じて選手の競走得点から差し引かれたり、制裁点や事故点として加算されるため、来期の成績に影響を及ぼす。結果として、斡旋・出走回数が減り、成績が落ちることになる。すなわち、賞金も稼げなくなるのである。
選手資格はいずれも国家資格で試験に合格することで取得できる。しかし、何処の馬の骨か分からない様なのにペーパーテストを受けさせて選手にする訳にもいかない上、実際のレースでは試験以上の経験が求められることから、「競馬学校」(中央競馬、千葉県白井市)、「地方競馬教養センター」(地方競馬、栃木県那須塩原市)、「ボートレーサー養成所」(競艇、福岡県柳川市)や「日本競輪選手養成所」(競輪、静岡県伊豆市修善寺)、「オートレース選手養成所」(オートレース、茨城県下妻市・筑波サーキット内)といった選手養成所に入って一定期間の訓練を受けることが現在の試験の前提となっている。なお、ばんえい競馬のみ養成過程がなく厩務員経験を経たものが主催者の帯広市が行う騎手試験を受けるシステムを取っているが、やはり難問で合格して騎手になった者でさえ何度か落ちていることも多く、狭き門であることにはかわりない。
どの公営競技でも共通して言えることだが、公営競技の選手になるには長くて3年、短くても1年近く各選手養成所で厳しい訓練を受けなければならない。その厳しさ・規律の徹底ぶりは軍隊かそれ以上のレベルであり、ミスがあれば容赦なく教官たちの叱責が飛ぶ。また、訓練とともに最低限の一般教養も身につけさせるカリキュラムも設けられている。実際の競技では選手宿舎に泊まることに慣れさせるため世間とは隔離された寮でこれまで選手生活に慣れさせるため時間の決められた規則正しい生活を送り、更には計量による体重の維持、外出も年末年始等決められた日時でないと不可能など、卒業した選手ですら「戻りたくない」というほどに厳しい日々を過ごす。
選手候補生となるためには年齢や体格、健康状態などの一定の条件が求められる。そのため現役・引退選手の息子や娘(いわゆる二世選手・親子選手)や兄弟姉妹が公営競技の選手を目指すケースも多い。例えば、中央競馬の騎手である横山典弘の長男・和生や三男・武史、オートレーサーの鈴木辰巳とボートレーサーの娘・成美、競輪選手の新山将史・響平兄弟などが挙げられる。
また、特別枠として他のスポーツで何らかの実績がある場合は条件が緩和されたり、試験の一部が免除されたりすることがある。その適用例として、競輪ではスピードスケートの武田豊樹、元プロ野球選手の松谷秀幸、フリースタイルスキーのメダリストでスキーのオフシーズンは競輪選手として活動する原大智がいるほか、ボートレースではそれぞれフィギュアスケート、アーティスティックスイミング、プロ野球の選手から転身した平川香織、計盛光、野田昇吾が挙げられる。また、近年は年齢制限が緩和・撤廃される傾向にあり、肉体的なピークを過ぎようという30代で選手になろうというチャレンジャー意欲ある人材も現れるようになった。
さらに、ここ数年で女性にも門戸が開かれるようになり、各競技で少しずつではあるが女子選手の活躍の場が広がっている。女子だからといって厳しさに変わりはなく、男子と同じカリキュラムをこなして選手となる。また、競馬ではこれまで期限を区切って行われていた海外で活動する騎手の通年での受け入れも行われるようになり、クリストフ・ルメールとミルコ・デムーロが海外の競馬から日本の競馬に転身している。
最後に、ボートレーサーの養成訓練の一部を撮影した番組があるので、こちらの動画で養成訓練のすさまじい雰囲気を感じ取ってほしい。この項目と動画を見て、公営競技の選手になりたいと思った人は選手養成所リンクにある各選手養成機関のホームページで募集要項を確認し、チャレンジして欲しい。
掲示板
9 ななしのよっしん
2024/01/02(火) 14:21:34 ID: T1H9ALDsCQ
競馬はギャンブルはともかく馬の動物としての魅力をプッシュしたのが大きいな。
これは他じゃちょっとできない。
10 ななしのよっしん
2024/01/27(土) 14:36:53 ID: 5NnSR+cORO
競艇はモンキーターンと日本財団の印象
競輪はアデランスとギャンブルレーサーの印象
11 ななしのよっしん
2024/02/06(火) 07:17:50 ID: 4APyYIWKBh
競馬は海外との対戦も普通にある(というか欧米が本場)お陰でギャンブル色が強いままなのにも関わらず、スポーツとしての側面を強く押し出せるというのも大きいと思う。馬という生物の魅力も含め、鉄火場としてだけではないライトなファン層を掴み得る点でそもそもの土台が他の公営競技とは差があると思う
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最終更新:2024/11/08(金) 04:00
最終更新:2024/11/08(金) 04:00
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