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自由民主党憲法改正草案とは、自民党が2012年4月27日付で出した日本国憲法の改正草案である。
全文及び公式Q&Aは自民党HPを参照(リンク先よりPDF形式で閲覧できる)。
自民党はかねてから「占領体制から脱却し、日本を主権国家にふさわしい国にする」ため、自主憲法を制定することに意欲を見せており、この草案は、政権復帰を視野に入れ、自民党の考えた、理想的な憲法の姿だと言える。ただし、自民党は憲法改正にあたって、1つ1つの内容についてそれぞれ国民投票を行うべきだと考えており、すぐに同草案のように憲法改正をしたいわけではなく、あくまで一つの「理想」であるということは理解しておかなければならない。
また、政権復帰後は谷垣幹事長ら要人も「野党時代に出した右に尖りすぎた物」「叩き台でありこれをそのまま踏襲するつもりは全くない」と述べるなどあくまで野党時代の草案に過ぎないと認めており、この形のまま実際の改憲発議に持ち込まれる可能性は極めて低いと思われていた。
なお、2012年にこの草案が出されてから2022年8月現在にいたるまで、新しい改正草案は一度も出されていない。2022年7月にも高市早苗自民党政調会長(当時)が「今でも平成24年版の改正草案の内容がベストだと考えている」と発言するなどしており、当草案は2022年8月現在においても有効とするのが自民党の公式な見解である。
2013年に公開した公式Q&Aの中で自民党は、憲法改正に関し以下のように述べている。
現行憲法は、連合国軍の占領下において、同司令部が指示した草案を基に、その了解の範囲において制定されたものです。日本国の主権が制限された中で制定された憲法には、国民の自由な意思が反映されていないと考えます。
実際の改正案全文は上記リンクから見てもらうとして、この記事では主な改正点を現状の憲法条文と比較する。
なお、以下現行の日本国憲法を「現行憲法」、自民党の憲法改正草案を「自民党草案」と表記する。
ほかに細かな変更点として、
などが挙げられる。
また、前文のさらに前に目次を追加したり、翻訳口調の修正、旧仮名遣い・旧字体の解消などといったニュアンスの変更を伴わない文章的な修正も含まれている。
現行憲法
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
まず一目でわかるのは、平和主義に関する内容(青色部分)が大幅に削られていることである。これは「現行憲法はアメリカを中心とする連合国が敗戦国である日本に押し付けた、極端な平和主義を謳ったものだ」という自民党の考え方に基づくとされる。
(現行憲法の前文が)特に問題なのは、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」という分です。これは、ユートピア的発想による自衛権の放棄にほかなりません。
また国民主権に関する内容(橙色部分)も大きく削られていて、かなり簡潔な文書に書き換えられている。
一方、自民党草案では、戦前・戦後にまたがる日本国の歴史的連続性・正当性を主張する記述(緑色部分)が増えている。これは現行憲法が、侵略戦争を引き起こした過去との決別を掲げているのとは対照的である。これに関して公式Q&Aでは
としている。そして、そういった歴史を持つ「国家」と「伝統」を国民が維持し、国家を成長させていくことを義務として掲げている(紫色部分)。
基本的人権に関する内容(赤色部分)に関して、現行憲法では国民が「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」である自由を将来にわたって維持していく決意が述べられている。これに対し自民党草案では「基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って」となっており、「侵すことのできない永久の権利」としての基本的人権が現行憲法に比べ軽視され、かわって公共・集団の利益の重要性が説かれている。
また自民党草案では「我々は、自由と規律を重んじ」と書かれているが、これに関して公式Q&Aでは
としている。
憲法制定の目的として、現行憲法では国民主権・平和主義・国際協調・獲得した自由(基本的人権)の堅持を掲げている(冒頭部分)のに対し、自民党草案では「良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため」(末尾)としている。
まず、現行憲法第1条では天皇を「日本国の象徴」だとして元首規定を避けていたが、自民党草案では明確に「日本国の元首」としている。ただしこれまでも外交上、天皇は日本国の元首として扱われてきたため、これを憲法で明文化したのみとも取れる。
また現行憲法の「助言と承認」という表現が、自民党草案では「進言」に置き換えられている。公式Q&Aによるとこの変更は、
現行憲法では、天皇の国事行為には内閣の「助言と承認」が必要とされていますが、天皇の行為に対して「承認」とは礼を失することから、「進言」という言葉に統一しました。
という理由のためらしい。「助言と承認」という表現は目上の人に対して失礼だということなのだろう。
このほか自民党草案では、現行憲法に無かった国旗・国歌の規定が追加されているが、これは「国旗及び国歌に関する法律」の規定の通りである。
加えて同草案では、国旗・国歌の尊重を「国民の義務」として規定している。
反対論としては、世俗の地位である「元首」をあえて規定することにより、かえって天皇の地位を軽んずることになるとった意見がありました。反対論にも採るべきものがありましたが、多数の意見を採用して、天皇を元首と規定することとしました。
というように、自民党内においても敬意の面から見て反対意見があったようである。
また国民に対する国旗国家の尊重義務に対しては、現行憲法19条で規定されている「思想及び良心の自由」に反するのではないかとの議論がある。教員に対する国旗掲揚の際の起立及び国歌の斉唱の義務付けは最高裁判決で合憲だとされているが、一般の国民に対しては特に判断は下されていない。公式Q&Aでは
3条2項に、国民は国旗及び国歌を尊重しなければならないとの規定を置きましたが、国旗及び国歌を国民が尊重すべきであることは当然のことであり、これによって国民に新たな義務が生ずるものとは考えていません。
としている。
第二章 安全保障
第九条(平和主義)
1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。
第九条の二(国防軍)(新設)
1 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4 前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。
第九条の三(領土等の保全等)(新設)
国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。
現行憲法
自民党草案では「戦力」の不保持・交戦権の否定の記述を消去し、かわりに「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」との規定を加えることで、自衛軍の存在と自衛戦争の合憲性を明確化している。加えて、第九条の二において国防軍の保持を明言している。これに加え、自国民の救出などを目的にした国防軍の海外派遣についても規定されている。
現行憲法下においても、日本には国家の安全保障を担う事実上の国防軍である自衛隊が存在している。しかしあくまで日本は「戦力を保持しない」はずであるため、自衛隊は現行憲法との辻褄を合わせる(=軍隊と見なされない)ために様々な解釈やレトリックを用いてきた。そのため、今の日本には「歩兵」「工兵」「砲兵」などと呼ばれる「兵隊」はおらず、みな「普通科」「施設科」「特科」などの部署に所属する「自衛隊員」である、などとして合憲性を確保してきたわけである。
しかし自衛隊員は非戦闘員ではないのは明らかなので、国際慣習的に見なせば「文民」と見なすことは出来ない。しかし日本に「軍隊」はいない筈なので、自衛隊員は「軍人」でもないといえる。このように、自衛隊員の地位というのはその性格上、どうしても曖昧なところがある。これと現行憲法の記述も相まって、有事法制の整備に対しスムーズに着手できなかったり、自衛隊法(事実上の軍法)も他国の軍法に比べてかなり甘くならざるを得なかったりといった弊害があったとされる。
自衛隊の地位を「国防軍」として明確にすることで、有事に備えた体制整備が促進されたり、より厳格な軍法を制定できたりといったメリットが考えられる。
国防軍の規定に合わせて、軍法及び軍事裁判所(軍法会議)の整備が予定されている。現行憲法では第76条の2項「特別裁判所は、これを設置することができない」との規定により軍法会議の設置が認められておらず、自衛官も通常の裁判所で裁かれる事となっている。軍事裁判所の設置目的に関し、公式Q&Aでは以下のように述べている。
軍事上の行為(軍人等が職務の遂行上犯罪を犯したり、軍の秘密を漏洩したときの処罰)に関する裁判は、軍事機密を保護する必要があり、また、迅速な実施が望まれることに鑑みて、このような審判所の設置を規定しました。
前述したが、現在の自衛隊法は他国の一般的な軍法と比べてかなり甘いとされている。例えば敵前逃亡やスパイ行為は、他の国の軍隊ならかなりの重罪(特に戦時中は死刑や終身刑になり得る)が、自衛隊ではそれぞれ最高7年、5年の懲役刑で済んでしまう(自衛隊法第九章を参照のこと)。こうした行為は国を守る軍隊に風穴を開ける行為と言っても過言ではない。更に「敵と戦って死ぬかもしれない」リスクと、「捕まっても精々数年の懲役を受ける程度」のリスクは到底釣り合うものではない。国が攻撃されていざ防衛というときの部隊行動を、隊員各個人の良心だけで成立させるのは不安であるとの見方もできよう。
自民党の石破幹事長は、改憲後制定する軍法をそれなりに厳しいものにしようと考えていることがテレビ番組の発言から明らかになっている。
まず、自衛権は「個別的自衛権」と「集団的自衛権」に分けられる。
個別的自衛権とは「他国からの武力攻撃に対し、実力をもってこれを阻止・排除する」権利であり、国際法上、主権国家は全て個別的自衛権を持つ事が認められている。国家が存続する為には、他国の侵略を排除することが不可欠だからである。ただし、自衛権を放棄することはその国の自由である。
一方集団的自衛権とは、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する」権利であり、こちらは国連憲章において各国に認められている権利である。
ここで、上記現行憲法第九条の2項が「個別的自衛権」や「集団的自衛権」、及び「自衛権を行使する為の戦力の保持」を認めているのかどうかが問題になってくる。
現行憲法には「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と規定されており、自衛を行うために必要な「戦力」の保持が禁じられているように見える。事実、現行憲法が1947年に施行されてから1950年に警察予備隊が組織されるまで、日本は警察以上の「戦力」を保持していなかった。連合国軍(実態はほぼ米軍)が代わりに日本の防衛を担っていたためである。
しかし1950年に朝鮮戦争が勃発すると、日本国内の米軍も戦力として朝鮮半島に向かわざるを得なくなり、結果日本を防衛する兵力が存在しないこととなった。この空白を補完する為、GHQは当時の吉田茂首相に命じて警察予備隊を編成させ、これが後に保安隊、更には各自衛隊へと発展していったのだが、自衛隊は憲法9条との整合性を大きく問われる事となった。
そこで政府は、憲法をこのように解釈することで、9条の下でも「個別的自衛権の保持」及び「個別的自衛権を行使する為の戦力の保持」を可能にしている。以下にその概略を記す。
一方で政府は、次のように「個別的自衛権の行使や自衛のための兵力を制限」し、「集団的自衛権の行使を禁止」している。
以上の日本政府の見解をまとめれば、現行憲法下においては「日本は個別的自衛権を持っており、行使できる」「自衛隊は合憲である」「集団的自衛権は持っているが、憲法上行使できない」となるだろう。
このような政府見解に対しては様々な異論がある。特に「戦力」に自衛隊が含まれるかどうか(自衛隊が合憲か違憲か)に関しては、戦後度々大々的に議論になってきた。
しかしながら今日では大多数の国民が自衛隊存続を支持しており、もし改憲案が通らずとも自衛隊そのものが廃止される事態は早々おき得ないと言えよう。
また制裁のため他国に軍隊を派遣し、武力を行使する事が可能となる。このことは自民党草案第九条の2の3項でも規定されている。
自衛隊(国防軍)の海外派兵に関し、自民党は公式Q&Aで以下のように述べている。
9条の2第3項において、国防軍は、我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するための任務を遂行する活動のほか、「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」を行えることと規定し、国防軍の国際平和活動への参加を可能にしました。
その際、国防軍は、軍隊である以上、法律の規定に基づいて、武力を行使することは可能であると考えています。また、集団安全保障における制裁行動についても、同様に可能であると考えています。
さらに自民党草案のいう「自衛権」には、個別的自衛権のみならず集団的自衛権も含まれる。これに関し自民党は公式Q&Aで以下のように述べている。
現在、政府は、集団的自衛権について「保持していても行使できない」という解釈をとっていますが、「行使できない」とすることの根拠は「9条1項・2項の全体」の解釈によるものとされています。このため、その重要な一方の規定である現行2項(「戦力の不保持」等を定めた規定)を削除した上で、新2項で、改めて「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」と規定し、自衛権の行使には、何らの制約もないように規定しました。
もっとも、草案では、自衛権の行使について憲法上の制約はなくなりますが、政府が何でもできるわけではなく、法律の根拠が必要です。国家安全保障基本法のような法律を制定して、いかなる場合にどのような要件を満たすときに自衛権が行使できるのか、明確に規定することが必要です。この憲法と法律の役割分担に基づいて、具体的な立法措置がなされていくことになります。
自衛隊はこれまでにも何度も海外派遣されているが、その度に武器の使用や友軍との兼ね合いが議論になっている。2003年のイラク派遣の際も自衛隊の武器の使用は法律上かなり制限されていて、日本の刑法36条、つまり正当防衛や緊急避難などの事例に該当しなければ人に危害を加えられないなど、制約はかなり厳しいものだった。
更に集団的自衛権の問題に踏み込まないよう、他国軍との一体的な武力行使もほぼ禁止されている。海外派遣先で友軍が攻撃を受けた場合などでも、前述した「正当防衛」「緊急避難」が成立しない限りは敵対勢力への攻撃ができないわけである。自民党改憲案はこうした問題を見越したものだと取れる。
また、自民党草案第九条の2の3項「国防軍は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる」との規定により、有事の際の在外邦人救出が可能になる。
外国での戦乱や災害の際に在留邦人を自衛隊が救出することは、現状でも自衛隊法第84条の3により可能である。しかしかつて、現行憲法第9条との兼ね合いから自衛隊の海外派遣に政府が否定的であり、イラン・イラク戦争時には自衛隊が在イラン邦人を救出できなかった(詳しくは日土関係を参照)こと等への反省から、改めて国防軍の活動目的として規定したものと考えられる。
このことは自民党草案 第三章(国民の権利と義務)第二十五条の3(在外国民の保護)「国は、国外において緊急事態が生じたときは、在外国民の保護に努めなければならない。」でも扱われている。
自民党草案第九条の3では、国家の領土保全義務が規定されている。これに関し公式Q&Aでは以下のように述べている。
領土は、主権国家の存立の基礎であり、それゆえ国家が領土を守るのは当然のことです。あわせて、単に領土等を守るだけでなく、資源の確保についても、規定しました。
党内議論の中では、「国民の『国を守る義務』について規定すべきではないか。」という意見が多く出されました。しかし、仮にそうした規定を置いたときに「国を守る義務」の具体的な内容として、徴兵制について問われることになるので、憲法上規定を置くことは困難であると考えました。
そこで、前文において「国を自ら守る」と抽象的に規定するとともに、9条の3として、国が「国民と協力して」領土等を守ることを規定したところです。
領土等を守ることは、単に地理的な国土を保全することだけでなく、我が国の主権と独立を守ること、さらには国民一人一人の生命と財産を守ることにもつながるものなのです。
もちろん、この規定は、軍事的な行動を規定しているのではありません。国が、国境離島において、避難港や灯台などの公共施設を整備することも領土・領海等の保全に関わるものですし、海上で資源探査を行うことも、考えられます。
加えて、「国民との協力」に関連して言えば、国境離島において、生産活動を行う民間の行動も、我が国の安全保障に大きく寄与することになります。
自民党は、党としては徴兵制の導入を明確に否定しているため、直接的に徴兵制の議論につながる「国民の『国を守る義務』」の規定を避け、より広範で抽象的な国民の領土保存義務を規定したのだともとれる。
国防軍への昇格によって、現行憲法によって抑制されてきた「必要最小限度の自衛力」以上の「戦力」を持つ事が認められ、弾頭ミサイルなどの攻撃的兵器の保持が許容されるのではないかという懸念がある。
また他国への海外派兵に関する規定や集団的自衛権の許容によって、同盟国である米軍や、その他の友軍によって(本来日本には関係ないはずの)戦闘に否応なしに巻き込まれるのではという懸念がある。
加えて軍法会議はその性格上、一般国民に対する透明性の確保が難しく、その結果として身内同士の庇いあいや、階級に基づく不平等な判決、あるいは判決に政治的判断が介入するような事態が発生しやすい。改憲案では、軍法会議から一般の裁判所への上告が認められているが、それがどこまで効果を発揮できるかは未知数である。そうした反省に基づいて、軍法が適用されるケースでも一般の裁判所で取り扱っている国もあり、必ずしも軍法会議は必要とはいえないのではないかという指摘もできる。
第三章 国民の権利及び義務
第十二条(国民の責務)
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。
第十三条(人としての尊重等)
全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。
第二十一条(表現の自由)
1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
第十章 最高法規
[削除]
現行憲法
第三章 国民の権利及び義務
第十二条
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第十三条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第二十一条
1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
第十章 最高法規
第九十七条
この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
まず、現行憲法の「公共の福祉に反しない限り」という部分が全て、自民党草案では「公益及び公の秩序に反しない限り」に書き換えられている。この書き換えについて、自民党は公式Q&Aの中で以下のように述べている。
権利は、共同体の歴史、伝統、文化の中で徐々に生成されてきたものです。したがって、人権規定も、我が国の歴史、文化、伝統を踏まえたものであることも必要だと考えます。現行憲法の規定の中には、西欧の天賦人権説に基づいて規定されていると思われるものが散見されることから、こうした規定は改める必要があると考えました。
(中略)
従来の「公共の福祉」という表現は、その意味が曖昧で、分かりにくいものです。そのため学説上は「公共の福祉は、人権相互の衝突の場合に限って、その権利行使を制約するものであって、個々の人権を超えた公益による直接的な権利制約を正当化するものではない」などという解釈が主張されています。
今回の改正では、このように意味が曖昧である「公共の福祉」という文言を「公益及び公の秩序」と改正することにより、憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではないことを明らかにしたものです。
また自民党草案では、「公益及び公の秩序を害することを目的と」すれば、表現の自由が制限できる旨が明記されている。この規定について公式Q&Aでは以下のように述べている。
オウム真理教に対して破壊活動防止法が適用できなかったことの反省などを踏まえ、公益や公の秩序を害する活動に対しては、表現の自由や結社の自由を認めないこととしました。内心の自由はどこまでも自由ですが、それを社会的に表現する段階になれば、一定の制限を受けるのは当然です。
加えて第十章の「最高法規」から「基本的人権の尊重」が削除されているが、これに関して公式Q&Aでは特に説明がなされていない。
さらに草案第12条では「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し」とある。
そもそも現行憲法では、「人間全ては生まれながらにして自由・平等で幸福を追求する権利を持つ」と考えるフランス革命以来の天賦人権説に基づいて、基本的人権を最大限に尊重し、その上で人権相互の衝突が起こった場合にのみ、必要最小限の規制をすることを認めている。この衝突を調整する原理が「公共の福祉」であって、この概念もやはり長い伝統を持つものである。しかし自民党改憲案のような規定をすれば、「公益及び公の秩序」を理由にいかなる人権規制も可能になってしまうという懸念がある。公共の福祉は基本的人権同士の衝突だが、公益及び公の秩序には政府の都合と各個人の人権の衝突が含まれているという見方ができるためである。
戦前の大日本帝国憲法においても、基本的人権は「法律の範囲内」で認められていた。しかし実際にはその法律を根拠とした言論弾圧や拘束・拷問が横行し、憲法に謳われた基本的人権は政府の都合次第で尊重されなかった。自民党の改憲案は、そのような歴史を再現してしまうのではないかという懸念が各方面から根強い。
反社会団体に対する対応策も確かに必要ではあるが、現在の憲法下においても(公共の福祉に基づいた)法律の制定・運用の側で対応可能であって、憲法で規定する必要がなければ、規定するべきでもないとの意見もある。
なお、「公の秩序」と規定したのは、「反国家的な行動を取り締まる」ことを意図したものではありません。「公の秩序」とは「社会秩序」のことであり、平穏な社会生活のことを意味します。個人が人権を主張する場合に、他人に迷惑を掛けてはいけないのは、当然のことです。そのことをより明示的に規定しただけであり、これにより人権が大きく制約されるものではありません。
といった弁明をしているが、将来にわたって残り効果を発揮するのはあくまで憲法の条文であり、Q&Aに法的な拘束力はない。将来の施政者の判断がこれを反故にしても、国民は文句を言えないのである。
日本在住の外国人が、国政・地方自治体問わず参政権を付与されないようになった。自民党のQ&Aでは以下のように回答している。
地方自治は、我が国の統治機構の不可欠の要素を成し、その在り方が国民生活に大きな影響を及ぼす可能性があることを踏まえると、国政と同様に地方政治の方向性も主催者である国民が決めるべきであります。
なお、外国人も税金を払っていることを理由に地方参政権を与えるべきとの意見もありますが、税金は飽くまでも様々な行政サービスを賄うためのもので、何らかの権利を得るための対価として支払うものでなく、直接的な理由にはなりません。
外国人参政権はこれまでにも何度か議論されてきたが、安全保障上の問題などで殆どは却下されてきた。地方自治体では自治体の選挙に限って外国人参政権を認めている場所もあるが、この憲法案が通った場合はその制度も廃止されることになると思われる。
正直外国人参政権の問題自体は、ここで論ずるより当該記事に一任した方がいいと思われるので割愛させて頂く。
第九章 緊急事態
第九十八条(緊急事態の宣言)
1 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。
第九十九条(緊急事態の宣言の効果)
1 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。
現行憲法
(新設)
非常事態宣言が規定される。これは端的に言うなら、戦争やテロリズム、甚大な被害が予想される自然災害(合わせて有事と総称される)が発生した際に、国家が平時よりスムーズに行動できるよう、政府の権限を増強し国民の権利を制限しようというものである。この宣言は国会の事前または事後の承認が必要であり、最大期限は100日(国会の審議を経て延長可)。
この改憲案では、非常事態宣言時の政府の権限として、内閣が法律を(国会の事前決議なしに)制定する権利、総理大臣がその施行に必要な各種手続きを行い、地方自治体に命令できる権利が規定されている。ただしいずれも国会の事後承認が必要である。
また非常事態宣言の発令中は、衆議院が解散されなくなる。衆院が解散されると政権に大きな変更を強いることもありうるため、非常時においてそれを防ぐためのものとされる。
この改憲案について、自民党のQ&Aでは以下のように説明している。
国民の生命、身体、財産の保護は、平常時のみならず、緊急時においても国家の最も重要な役割です。今回の草案では、東日本大震災における政府の対応の反省も踏まえて、緊急事態に対処するための仕組みを、憲法上明確に規定しました。このような規定は、外国の憲法でも、ほとんどの国で盛り込まれているところです。
また、政府からの指示に対して国民がそれに応じる義務が盛り込まれている。ただしこれには「基本的人権に関する規定は、最大限尊重されなくてはならない」という条件もついている。これについても自民党のQ&Aでは、以下のように書かれている。
党内議論の中で、「緊急事態の特殊性を考えれば、この規定は不要ではないか。」、「せめて『最大限』の文言は削除してはどうか。」などの意見もありましたが、緊急事態においても基本的人権を最大限尊重することは当然のことであるので、原案のとおりとしました。逆に「緊急事態であっても、基本的人権は制限すべきでない。」との意見もありますが、国民の生命、身体、財産という大きな人権を守るために、そのため必要な範囲で小さな人権がやむなく制限されることもあり得るものと考えます。
結局は政府によって国民の人権が制限されるわけなので、それに対する不安はどうしても拭いきれるものではない。前述したとおり自民党は徴兵制には否定的なスタンスなので、そういった極端な事例はないにせよ、それがどういった形になるかは実際に発令されてみるまでわからない。
更に宣言の発令中は、内閣に多大な権力が付与されるのに加え、政権が固定され衆議院のメンバーも入れ替わらなくなるため、大多数の議席を取得した与党が非常事態宣言を濫用(というか悪用)して政権を恒久化してしまうのではないかという懸念もある。現にエジプトでは2011年の革命まで、ムバーラク政権が自ら制定した非常事態法に基づいて事実上の独裁性を敷いていた。
最高法規には国民の憲法尊重義務が加えられるとともに、天皇及び摂政の憲法擁護尊重義務が削除されている。
国民が憲法を尊重しなければならないと規定されているが、これは一見小さく見えて大きな違いである。
そもそも日本国憲法は、国民が、憲法によって、国家権力(天皇・国会議員・公務員といった公的権力を持ち得る者)を制限し、国民の権利を守ることを目的として制定されたものである。憲法が国家権力を制限するという考え方(立憲主義・法の支配)は欧米では長い歴史と伝統をもち、大日本帝国憲法下においても天皇が憲法に縛られるという考え方が長らく支配的だった(美濃部達吉・天皇機関説)。
そのことを考えれば、国民に憲法尊重義務を課し、天皇の憲法擁護義務を消去するのはアベコベな話なのだが、公式Q&Aではこの事に特に触れられていない。
あるいは「天皇は公務員である」と自民党が捉えているのかもしれないが、これまでの改憲案の内容からしてそれも考えづらいだろう。
掲示板
4856 ななしのよっしん
2024/09/11(水) 17:27:18 ID: QD3F/Q5Uac
4857 ななしのよっしん
2024/11/25(月) 21:47:03 ID: nFfmR0ZYAK
今の日本の法律さえ守れないような国会議員が、なぜ憲法だけは守るって信じられるんだ?
それ、「日本が武力を持たなければ戦争なんか起こらない!!」って思考停止している連中と何が違うんだ?
4858 ななしのよっしん
2025/01/16(木) 22:39:57 ID: IA2Bha87Hq
自民党がいまだこれを正式撤回どころかHPに載せてる辺り、
自民党がいかに国民の権利を制限したい政党なのかってことだけははっきりしてるな
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最終更新:2025/01/23(木) 20:00
最終更新:2025/01/23(木) 20:00
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