サーキットオブジアメリカズとは、アメリカ合衆国テキサス州オースティンにあるサーキットである。
Circuit of the Americasの頭文字をとったCOTAが略称である。
F1のアメリカGPや、MotoGPのアメリカズGPが開催される。
略歴
2010年7月に計画が始まる
2010年7月に、タヴォ・ヘルムンドという人物がサーキット建設計画を発表した。
タヴォ・ヘルムンドとその友人のケヴィン・シュワンツがサーキットのデザインのアイディアを出し、ヘルマン・ティルケが設計した。
建設工事の最中のゴタゴタ
2010年12月31日に着工して工事が進んでいたが、2011年11月頃には前途に暗雲が漂っていた。
タヴォ・ヘルムンドは、「建設工事の最中にテキサス州のスポーツ基金から2500万ドルの支払いを受けられる」という約束を受けていたのに、スーザン・コームズというテキサス州会計責任者が「2500万ドルの支払いは、サーキットの建設が終わって最初のレースを終えたときに行われる」と発言した。これにより、資金繰りが難しくなり、工事が中断された。
タヴォ・ヘルムンドとその友人のケヴィン・シュワンツは追放され、レッド・マコームズやジョン・ポール・デジョリアという億万長者やボビー・エプスタインという投資家が、サーキット建設の主導権を握るようになった。
ケヴィン・シュワンツは、「MotoGPの興行権を握るドルナとサーキットオブジアメリカズの間には自分が運営する会社が仲介するはずだったのに、ドルナとサーキットオブジアメリカズが直接交渉するようになった」として、サーキットオブジアメリカズに対して訴訟を起こすと表明した。ケヴィンは、サーキットが開場した直後の2013年4月に行われたMotoGPのときにもサーキットに姿を現さなかった。しかし、最終的に和解した。
開場とF1・MotoGPの開催
2012年10月21日に開場した。一番最初に走ったのは1978年にF1チャンピオンを獲得したマリオ・アンドレッティだった(動画)。
初めてのレースは2012年11月16日~18日のF1アメリカGPだった。それ以降、F1アメリカGPが2019年まで毎年開催されていた。
MotoGPは2013年に初めて開催され、2019年まで毎年開催されていた。
2020年はコロナ禍の影響があり、F1もMotoGPも開催されなかった。
CEO
2020年現在、サーキットのCEOはボビー・エプスタインが務めている。
立地
位置
オースティン市街地から東南に15km離れた郊外のこの場所に位置し、周囲には草原と木々が広がる。
オースティン市街地とサーキットオブジアメリカズの中間のこの場所に、バーグストロム国際空港がある。国際空港という名であるが海外からの就航便は少なく、国内線が多く発着する空港である。
まれに、この空港に向かう飛行機がテレビ中継に映り込むことがある。こちらの動画ではユナイテッド航空の飛行機が映っている。
気候
北緯30度8分で、日本の屋久島や種子島とほぼ同じの緯度で、南国のサーキットである。オースティンで一番寒い月の平均最低気温は5.3度で、鹿児島市とほぼ同じ。夏はかなり暑くなり、日本の猛暑に匹敵するほどである(資料)。
サーキットと海岸線の距離は190kmで、潮風の影響を受けず、沿岸部特有の天候の急変と無縁である。山との距離も15kmほど離れていて、山間部特有の頻繁な降雨はあまり見られない。平野の中のサーキットなので比較的に安定した天候が期待できる。
現地の法律で「雷が鳴ったら屋内に退避せねばならない」というものがある。2019年4月13日に雷が鳴り、サーキットのコースマーシャル(コース作業員)がサーキットが用意した黄色いスクールバスに乗って避難し、MotoGPの各クラスの練習走行が中止となった(記事1、記事2)。
こちらやこちらやこちらが現地の天気予報となっている。
テキサス州
サーキットにはテキサス州旗「The Lone Star Flag」(ただ一つの星の旗)がひるがえっている。テキサス州の異名は「The Lone Star State(ただ一つの星の州)」で、実況で呼ばれることがある(動画)。
テンガロンハット
西部劇とカウボーイで名高いテキサス州らしく、このサーキットではテンガロンハットを被った人が次々と出現する。
特に2016年以降のMotoGPにおいては入賞者3人が黒いテンガロンハットをかぶって表彰式に臨み、カウボーイになりきって記念撮影するのが恒例となっている(画像)。
テンガロンハットを被ってカウガールになりきるグリッドガールも多い(画像)。
サーキット施設など
オブザベーション・タワー
16~18コーナーのあたりのこの場所に、高さ77mで紅白に塗装されたオブザベーション・タワーがある。
ビル25階建てに相当する高さで、窓ガラスなど一切無く手すりがあるだけで(画像)、見るからに恐ろしい。床も透明で、足元を走る車両を床を通して眺めることができる(画像1、画像2、検索例)。
展望台の高さは70mで、定員は70人となっている。observation(観察)の名前どおり、サーキットの全てを見渡すことができる。
昇降するためのエレベーターがある。エレベーターが故障したときのため、階段も備えてある。階段を上る動画もある(動画1、動画2)。
ヴェール(veil)と呼ばれる18本の赤い鋼管が印象的である。この画像を見ても、確かに18本並んでいる。ちなみに、ヴェールというと結婚式に臨む新婦が頭に掛けるものをさす(画像)。
夜は綺麗にライトアップされる。
ヘイデンの丘
2018年4月、ニッキー・ヘイデンの功績をたたえるためオブザベーション・タワーのある丘を「Hayden Hill(ヘイデンの丘)」と命名すると発表された(記事)。丘の芝生に塗装が施された(画像)。
2つのリーダータワー
サーキットには、選手の順位を示すリーダータワーというものが作られる。本サーキットは広大なので、2ヶ所にリーダータワーが設置されている。1つは、1コーナー近くのコースの左側で、このあたりにある(動画)。もう1つは、12コーナー近くのコースの右側で、このあたりにある(動画)。
トンネルと橋
1コーナー近くのこの場所や、12コーナー前のこの場所に、トンネルがあり、物資を運ぶトラックがコース内外を往来できる。
3コーナー付近のこの場所や、16コーナー付近のこの場所に橋が架かっていて、観客や転倒したライダーがコース内外を往来できる。
ライブ会場
16コーナー近くのこの場所に、円形劇場(amphitheater アンフィシアター)がある。収容人数は1万4千人である。椅子の色は真っ赤に塗装されている(画像)。この記事では、円形劇場でライブを開催したアーティストの名前が列記されている。
サッカー場
16コーナー近くのこの場所に、サッカー場がある。ボールドスタジアム(Bold Stadium 勇敢なスタジアム)という名前がついている。オースティン・ボールドFCという地元のプロサッカーチームが本拠地としており、収容人数は5千人である。
路面の凹凸が激しい
路面の凹凸が激しいサーキットとして知られている。
このサーキットはF1が開催されるサーキットである。F1のハイパワーマシンの走行により路面が削られ、路面の轍(わだち)やバンプ(隆起)やギャップ(割れ目)が増える。特にブレーキングポイントにそうした凹凸が多くなる。
その一方で、「F1の走りの影響以外にも、路面の悪化の原因が存在する」という考えがニュースサイトに提示されることがある。
サーキットのCEOであるボビー・エプスタインは、「2015年にオースティンを襲った洪水でサーキット路面の下部構造が損傷し、サーキット路面に悪影響が及んだ」と述べている(記事)。
SPEEDWEEKは、「路面の下部構造の良し悪しで路面の寿命が決まる。時間的制約を抱えながら大急ぎでサーキットを建設したので、路面の下部構造の作成が十分に行われておらず、それによりサーキット路面の悪化が生じている」と論じている(記事)。
MotoGPの名物記者であるマット・オクスリーは、サーキットから2kmしか離れていないこの場所にあるエルロイ油田が原因ではないかという説を述べている(記事)。「採掘業者が水圧破砕法でシェールオイルを取り出すことを繰り返して大量の水を地下に流し込んだ。その結果として地震を発生させて、サーキットの路面を歪ませてしまった」との推測である。
コース紹介(MotoGP)
概要
コース全長は5513mで、2019年時点でMotoGPが開催される19ヶ所のサーキットのなかで上から3番目の長さである。
コース全体の高低差は41mで、ビル13階分に相当する。F1のサーキット紹介動画で高低差を表示しているが、1コーナーが突出した高さだと分かる。
2コーナーから10コーナーまでは緩い角度の「へ」の字型コーナーが続き、13コーナーから最終20コーナーまではキツい角度でぐるっと回り込んだ「つ」の字コーナーが連続する。二面性を持つコースレイアウトになっている。
2014年はMotoGP、F1、FIA世界耐久選手権の3レースしか行われず、砂埃が溜まって汚いサーキットとして紹介されていた。
路面のグリップがあまり良くない。アスファルトの素材や品質については世界共通ではなく各国で分かれている。日本のアスファルトのグリップは非常に良く、ヨーロッパのアスファルトのグリップは日本より劣り、アメリカ合衆国のアスファルトはヨーロッパより劣る、と言われていて、サーキットオブジアメリカズのアスファルトもグリップがあまり良くない。
タイヤの右側に対して大きな負担がかかるサーキットとして有名である。2コーナーと16~18コーナーといった、深いバンク角で走る右コーナーでタイヤ右側が傷みやすい。ブリヂストンもミシュランも、左に柔らかめ右に硬めの左右非対称リアタイヤを持ち込んでいる。左コーナー11ヶ所・右コーナー9ヶ所なので普通なら左に硬め右に柔らかめのタイヤを持ち込むのだが、「タイヤに厳しい右コーナー」の存在が大きく、いつもと逆になっている。
2コーナーと18コーナーは鋭い急な下り坂であり、フロントタイヤ右側への攻撃性も高い。レース後にフロントタイヤ右側がボロボロになっている映像が見られる。
主なパッシングポイントはメインストレートエンドの1コーナー、11コーナー、バックストレートエンドの12コーナー、19コーナー。あとは7コーナーで抜くことができるかどうか、といったところ。
コーナー数が多い
コーナー数は20で、2019年時点でMotoGPが開催される19ヶ所のサーキットのなかで一番多い。
コーナー数が多いほど、最大排気量クラスにおける電子制御の手間が増える。最大排気量クラスの電子制御はコーナーごとに設定するからである。
また、コーナー数が多いほど、サスペンションの調整が難しくなる。「不向きなサスペンションの設定のままライディングテクニックを駆使して無理矢理走るコーナー」というものが増えて、ライダーの苦労が増える。
コーナー数がたった4つしかないアヴスというサーキットが過去に存在した。こういうサーキットなら、電子制御の設定の手間も少ないし、サスペンションの設定も行いやすくなってライダーの苦労も減る。
難易度が高い
大変にトリッキーで難しいサーキットとの評判が定着しつつある。
あるルーキーライダーに言わせると、「これまで経験したサーキットの中では1番難しいコース」となる(記事)。
Moto3クラスは最終ラップまで団子状態の混戦が続くのが恒例だが、本サーキットでは独走優勝が目立つ。2015年から2018年までのMoto3クラスでは4年連続で独走優勝が続いた。難易度が高いため、上手いライダーとそうでないライダーの差が出やすいのだろう。
マルク・マルケスの庭
マルク・マルケスが2013年の初開催から2017年まで5年連続で予選最速でポールポジションを獲得し、2013年の初開催から2018年まで6年連続で優勝している。
2018年はポールポジションを逃したが、一番時計を記録しつつもペナルティを課せられたからで、実質的には予選最速だった。
難易度が高い本サーキットでの6連覇はマルク・マルケスの能力を証明しているといえるだろう。
路面に凹凸がある
F1が開催されるサーキットである。F1のハイパワーマシンによって路面が削られ、路面に轍(わだち)やバンプ(隆起)やギャップ(割れ目)がある。特にブレーキングポイントにそうした凹凸が多い。路面の凹凸に対応するサスペンションセッティングに取り組まなければならない。
特に2017年は路面の凹凸が激しく、急な下りの10コーナー、急な下りの18コーナーでマシンが振られていた。乗り心地は最悪との声が聞かれた。
MotoGPクラスのバイクの根幹である電子制御は凹凸のある路面に弱い。路面に凹凸があってバイクがジャンプして接地を失いホイールが空転してしまうと、バイクは自動的にエンジン出力をカットしてしまう。そして、加速力が落ちてしまうのである。
このため2018年3月、MotoGP開催の直前に路面の補修工事が行われると発表された(記事)。総重量8~12トン程度のロードローラーで踏みつけて凹凸を減らす。
ところが実際はロードローラーで踏み潰すだけでは不足したので、グラインダーで路面を削った。こんな感じの砥石が付いた機械を使って路面の突き出た部分をガリガリ削った。
2018年4月の時点はサッカー場を建設中だった。そのため路面を再舗装するお金がなく、こうした簡易な方法でしのぐことになった。
結果はどうだったかというと、全くと言っていいほど路面の凹凸は解消されておらず、2017年より路面の凹凸がさらに悪化した状態になり、様々なコーナーでライダーが振られていた。
それに加えて、グラインダーで削った後に出る塵埃を全く掃除しなかったので路面が埃だらけになった。この金曜日の動画を見ていただきたい・・・一瞬、雨天の中を走行しているかのように見えるほどの、恐るべき塵埃の山となった。日曜日はだいぶ掃除されたが、それでもバックストレートに2ヶ所ある谷底部分の塵埃は残り、そこを通ると砂埃が大いに巻き上がっていた。また、路面に小石が残っており、先行車が跳ね上げた小石に高速走行している車両が衝突して車体に穴が開くという被害も多発していた(記事)。
2019年4月のMotoGPでも路面の凹凸がひどく、ライダーから猛批判を浴びていた(記事)。
2019年12月には路面の40%を再舗装する改修工事を行った(記事)。
V字コーナー
低速コーナーというとU字のヘアピンを思い浮かべる。ツインリンクもてぎの10コーナーがそういう形状である(航空写真)。
一方、サーキットオブジアメリカズの低速コーナーは、イン側のRが極端に小さくて鋭い刃物に見えてくるV字のコーナーになっている。そうしたV字コーナーは1コーナー、11コーナー、12コーナーに採用された。
Rが小さいのでマシンを超低速に減速せざるをえない。F1のため安全性を追求した設計なのだろう。
いずれのコーナーにおいても超低速に減速するのでギアを1速にまで落とす。
1速ギアを多用する珍しいサーキット
普通のサーキットにおいて1速ギアを使う回数は1周につきせいぜい0~2回である。
かつてヤマハがサテライトのTech3にシームレスミッションを供給したとき、最初に渡したものは2速~6速のもので、1速から2速にシフトアップするシームレス化は後回しにされていた(記事)。1速の使用頻度が少ないから優先順位が低かった。
2018年や2019年においてMotoGPが開催されるサーキットは19ヶ所あり、予選最速のポールポジションを獲得したライダーの走行動画が19ヶ存在する。その動画を見比べてみると、次のようになる。
1速ギアを1周につき0ヶ所使うサーキット | 6サーキット | テルマスデリオオンド、ヘレス、ムジェロ、ザクセンリンク、ブルノ、バレンシア |
1速ギアを1周につき1ヶ所使うサーキット | 7サーキット | ロサイル、アッセン、レッドブルリンク、アラゴン、チャーン、ツインリンクもてぎ、セパン |
1速ギアを1周につき2ヶ所使うサーキット | 4サーキット | ル・マン、カタルーニャ、シルバーストン、フィリップアイランド |
1速ギアを1周につき3ヶ所使うサーキット | 1サーキット | ミサノ |
1速ギアを1周につき4ヶ所使うサーキット | 0サーキット | |
1速ギアを1周につき5ヶ所使うサーキット | 0サーキット | |
1速ギアを1周につき6ヶ所使うサーキット | 0サーキット | |
1速ギアを1周につき7ヶ所使うサーキット | 1サーキット | サーキットオブジアメリカズ |
サーキットオブジアメリカズは1速ギアを1周につきなんと7ヶ所で使う。1速で走る場所は1コーナー、11コーナー、12~15コーナー、20コーナーとなっている。特に12コーナーから15コーナーまでは1速で走り続ける区間であり、世界的に見てもかなり珍しい。
1速ギアというのはエンジンに対して難しいギアである。1速ギアで走るときにちょっとミスすると回転数が過度に上がってしまい、エンジンを傷めてしまう。ピストンやバルブといった部品が損傷し、白煙を上げてエンジンが壊れる(画像)。エンジンが故障してリタイヤするライダーがMoto3クラスでもMoto2クラスでもMotoGPクラスでもちょくちょく出現する。
1コーナー
メインストレートは下り勾配で、リーダータワー(順位を表示する電光掲示板タワー)のあたりから極めて急な上り坂になっている。まさしく巨大な壁のようであり、本サーキットの名物。この坂だけで高低差が26m(30.9mとの説もある)もあり、9階建て~10階建てビルに相当する。
四輪車載動画、二輪車載動画、どちらでも坂の強烈さを感じ取れる。坂の下からの画像はこちらやこちらで、ライダーたちはアスファルトの壁に向かってアクセルを開ける。坂の上からの画像はこちらで、3階建ての建物がかなり下に見える。
アクセル全開で上り坂を登り始め、途中からブレーキを掛けながら坂上りする。完全なブラインドコーナーになっていて、先が全く見えず、ライダーは勘だけでラインを選択する。
坂を登り切った頂点が1コーナーで、いきなり路面が平坦になってリアタイヤの荷重が抜け、滑りやすい。
また、坂を登り切ったところは車速が落ちるのでタイヤが路面を押しつける力が弱まり、滑りやすい。(一般的に、車速が高い方がタイヤがグリップし、車速が低いとグリップしにくくなる)。こんな感じの転倒が多く見られる。
まともに走るだけで難しいが、後述の理由もあって、なんとしてでもここで前の遅いライダーを抜きたい。難しくてもパッシングに挑戦せざるを得ない。
1コーナーのコース幅は29.7mで、だだっ広い。日本の一般道で表現すると10車線分となる。
1コーナーの外側には仮設スタンドが設けられ、人で埋まる。
2コーナー
2コーナーは深くマシンを傾けつつ急な下りをハイスピードで下っていく右コーナーで(画像)、フロントタイヤ右側を痛めつける。
2コーナーのあと、上り勾配を駆け上がりながら観客が自由に行き来する歩道橋をくぐり、長いS字区間に突入していく。
歩道橋の付近の上り勾配は結構急激で、4~5コーナー方面から見るとこうなっている。
グイッと上って歩道橋をくぐってから、左にマシンを倒して3コーナーに入っていく。この車載動画を見ても、歩道橋まで急な上り勾配、歩道橋をくぐってから左に曲がって3コーナー、と分かる。
長いS字区間
S字区間はバタンバタンとマシンを左に右に倒す場所で、非常に忙しい。その忙しいS字区間は3コーナーから9コーナーまでずっと続き、ライダーたちは体力を消耗する。
3コーナーから9コーナーまでの長い切り返し連続区間に悪いリズムで入ってしまうと、悪いリズムを最後まで引きずってしまい、結果として長い切り返し連続区間の全てを遅く走ってしまう。途中からリズムが良くなっていく、とはいかないものであるらしい。
3コーナーから9コーナーまでの長いS字区間はパッシングポイントがほとんどない。相当に上手く操縦できるライダーが7コーナーで抜けるかどうか、といった程度でとにかく抜きづらい。ここで遅いライダーが前にいると、抜くに抜けないので蓋をされてしまい、どんどん遅れてしまう。先に「なんとしてでも遅いライダーを1コーナーで抜いておきたい」と書いた理由はこれである。
3コーナー(左)、4コーナー(右)、5コーナー(左)と緩いカーブが小刻みに3つ続く。これら3つのコーナーは平坦である。
6コーナー(右)は比較的に大きなカーブになり、上り勾配が激しくなる。途中でアーチ看板をくぐる。7コーナー(左)は比較的に小さなカーブで、上り勾配が薄くなって平坦になる。
アーチ看板で勾配が変化する。この車載動画を見ても、看板があるところまで上り勾配、看板を過ぎると平坦、と分かる。
3コーナー(左)、4コーナー(右)、5コーナー(左)と先行者の背後に付け、6コーナー(右)でもさらに背後に付けてスリップストリームの恩恵を受けて加速し、看板をくぐりつつ左に切り返し、7コーナー(左)で一気にコース左側のインに入ってパッシングする、これはマルク・マルケスが得意としている。2013年も披露した。この年はHertzの黄色い看板だった。
8コーナー(右)と9コーナー(左)は2つともかなりの急な上り勾配で、車速が伸びづらい。このためパッシングが起こりにくい。パッシングは車速を伸ばして一気に突っ込む行為だからである。2013年に7コーナー(左)で抜いたマルク・マルケスもなんとか8コーナー(右)で抜かれずに耐えている。
8コーナー(右)と9コーナー(左)の上り勾配S字を上から撮影するのは定番カメラアングルである(動画1、動画2、動画3)。各ライダーがグイッと力強く駆け上っている。
この車載動画を視聴すると7コーナーから9コーナーまでの勾配変化が分かる。7コーナー(左)は平坦なので静か、8コーナー(右)と9コーナー(左)は上りなのでエンジンがうなりを上げている。
F1への配慮のため、長いS字区間にはグラベル(砂)が少なく、アスファルトが広がっている。ここで転倒するとマシンが止まらずに滑っていき、他のライダーに向かっていって非常に危険である(動画)。この動画はさらにマシンの滑りっぷりが酷い。
S字区間に限らずこのサーキットはグラベル(砂)が少なく、アスファルトが続いたコース脇が多い。この動画を見ても転倒した後アスファルトの上を滑るライダーが多い。2輪ライダーにとって安全性に問題がある。
10コーナーからV字コーナー
10コーナーは豪快に下る左コーナーであり(画像)、 ここを格好良く駆け下るライダーと、遙か向こうの巨大なオブザベーション・タワーを一枚のアングルに収めることができる(画像)。
10コーナーは急な下り勾配なので先が全く見えないブラインドコーナーになっている。イン側(コース左側)にガードレールがあるのでなおさら先が見えない(画像)。アクセルの開けどころを探りにくいが、ここを速く走らないとバックストレートの加速に響いてしまう。
10コーナーを駆け下ったら底辺に達し、また上り勾配になって(画像)、11コーナーに突入する。
直線の前のコーナーではパッシングを仕掛けずに綺麗なラインを通りストレートでの加速に備える、というのが格言だが、11コーナーは超低速コーナーなのでパッシングを仕掛けるライダーも多い。
バックストレート
バックストレートは1,200mの長さになるが、意外にも最高速が伸びず、ムジェロサーキットやロサイル・インターナショナルサーキットの最高速には及ばない。バックストレートの前のコーナーが超低速コーナーだからだろう。
この長い直線で、ライダーたちは体を伏せ、長い切り返し区間で疲れた体を休めることができる。
11コーナー脱出でいったん大きく下って、底辺までズドンと落ちる。辿り着いた底辺で右に曲がり、上り勾配に転じる。
コース左に金網が出現するあたりで急な下り勾配になる。バックストレートエンドの12コーナーから見たこの動画を見ると、急に下り、辿り着いた底辺で右に曲がり、そしてバックストレートエンドの12コーナーに入っている。
バックストレートエンドの12コーナーから見た画像はこちらとなる(画像1、画像2)これはもう「直線ではなくて右コーナーを含んでいる」と表現したくなってくる。
二輪車載動画はこちらとなる。急な下り勾配が2ヶ所、右に曲がる場所が2ヶ所と分かる。
バックストレートエンドの12コーナー
僅かな下り勾配になりながらバックストレートエンドの12コーナーへ突入する。下り勾配なのでリアタイヤが僅かに浮くジャックナイフとなり、前輪に全ての荷重がかかる。
この12コーナーは難関のハードブレーキングポイントとなっている。最大排気量クラスなら6速ギアから1速ギアに落とし、時速340kmから時速65kmまで減速する。
こうしたハードブレーキングには高度なテクニックが必要となる。
Moto3では時速235km、Moto2では時速280km、最大排気量クラスでは時速340kmに達する。人間のまばたきは0.1秒だがその0.1秒でどれだけ進むかというと、Moto3なら65メートル、Moto2では77メートル、最大排気量クラスでは94メートル進む。まばたき1回分だけタイミングが遅れると完全にブレーキングを失敗、オーバーランしてしまう。
タイミングが遅れるのはまずいからと言ってブレーキを早めに掛けると、ブレーキングが上手い他のライダーにバンバン抜かれてしまう。
ブレーキングは早くても遅くてもダメで、精密にタイミングを取らなければならない。
ブレーキレバーの握り方も一工夫が必要で、グッと強く握るとこのように前転する。
最大排気量クラスにおいて12コーナーにおいて右手でブレーキレバーを握る力は8kg。2リットルペットボトル4つを右手の3~4本の指で釣り上げるのと同じ作業を行う。それに加えて常人なら吹き飛ばされてしまうレベルの強烈な減速Gが掛かり、マシンにしがみつくだけで一苦労となる。
そんな中でもマシンをしっかりコントロールしなければならない。先述のように本サーキットはF1が開催されるサーキットでブレーキングポイントに凹凸がある。ポンポンと跳ねたり揺れたりするマシンをしっかり押さえ込まねばならない。マシンのコントロールを失敗してマシンが横に揺れるとこのようにマシンが暴れる。
13コーナー~最終コーナー
13コーナーから最終20コーナーまではキツい角度でぐるっと回り込んだ「つ」の字コーナーが連続する。マシンが遅い速度でぐるっと旋回していれば「13コーナー以降の後半区間にいる」と即断して良い。ぐるっと回り込んだ「つ」の字コーナーはアクセルを開けるに開けられず、ストレスが溜まり、難しい。
13コーナーから18コーナーはカント(傾斜)がついておらずフラットであり、グリップが薄く感じられる場所である。カント(傾斜)がついていないフラットなコーナーというのは、リアタイヤが滑りやすい上にフロントタイヤもグリップしづらく、ライダーにとって難しい。
バックストレートエンドの12コーナーの次が久々の右コーナーである13コーナーで、転倒が多発する。
13コーナーの前の右コーナーは8コーナーで、42秒ほどの間隔が空いている。その42秒の中には22秒ほど直線を高速走行してタイヤが空気を浴びる時間があり、タイヤが冷える。22秒ほど扇風機を強風にしてタイヤを冷やすのと同じである。冷えているタイヤの右側を久々に使い、スリップしやすい。
13コーナーから12コーナーを向いた画像を見ると、13コーナーに向けて少し上っていると分かる。
先述の通り12コーナーから15コーナーまで24秒間もの長い間、1速ギアで走り続ける。1速ギアはエンジンへの負担が大きいギアなので、ライダーは繊細に気を遣ってアクセルを開ける。
こちらは15コーナーを外側から見た画像で、14コーナー~16コーナーがわりと平坦だと分かる。
16・17・18コーナーはぐるっと回り込んだ右コーナー3連発区間となっている。
16コーナーの上に歩道橋があり、観客達が自由に移動できる。
18コーナーは深くマシンを傾けつつ急な下りをハイスピードで下っていく右コーナーで、フロントタイヤ右側を痛めつける。フロントタイヤを滑らせてのスリップダウンが多い場所である。
18コーナーを曲がり終えたら、左にマシンを切り返して19コーナーに入っていく。18コーナーに引き続き、左への切り返しと19コーナーへの進入も下り勾配になっていて難しい。この動画を見ると18~19コーナーの下り勾配がよく分かる。
19コーナーは転倒多発地帯になっていて、毎年多くのライダーがフロントを滑らせる。この動画ではなんと8回も19コーナーの転倒が映し出されている。
下り勾配の19コーナーを脱出したら底辺となり、そこが本サーキットの最底辺となる。
最終20コーナーはぐいっと上り勾配になっている。最終20コーナーを立ち上がってすぐのところにチェッカーラインがある。
テキサス州
サーキットオブジアメリカズがあるテキサス州の気風についても書いておきたい。
テキサス人を一言で言い表すと「自信たっぷりな田舎者」となる。
人口は全米2位、面積は全米2位、州内総生産は全米2位。ジョンソン宇宙センターを抱え、米国が国策として最重要視している航空宇宙産業の中心地であり、それに付随してハイテク産業が集積している。さらには油田が多く、石油埋蔵量は全米の25%、天然ガスの生産量も全米の25%を占める。農場面積は全米1位、畜産業も全米有数、と食糧・エネルギーも万全となっている。
このためテキサス人は自信満々で
「アメリカはテキサス無しでは生きていけないが、テキサスはアメリカ無しで生きていける!」
と言い放ち、他の州の人を唖然とさせる。
「テキサスは独立してもおかしくないが、しょうがないからアメリカ合衆国に加盟してやっているのだ」
南北戦争では南部に付いたがテキサス州は戦場にならず、ジョージア州やサウスカロライナ州が受けたような徹底破壊を華麗に回避した幸運な歴史を持つ。だから、北部の連中がまるで怖くなく、好きなように自信に満ちた態度で言う。
1945年8月16日のテキサスの新聞には次のような見出しが躍った。(当時の米国は48州だった)
こういう論説がまかり通るのがテキサス州だったりする。
だからであろうか、「サーキットオブジアメリカズ」なんて凄い名前を堂々と名乗っているのは。
これを見ると「南北アメリカ大陸で一番のサーキット」という意味合いを自然と連想させられる。アメリカズのズは複数形のSなので、南北アメリカ大陸の両方を指していると解釈できる。
他の州の人ならそんなことを言い出さないのだが、テキサス州出身者なら
とシラフで言いかねないし実際言うのである。
テキサスなら仕方ない。
コース学習用動画
関連リンク
- サーキットオブジアメリカズ 公式ウェブサイト
- サーキットオブジアメリカズ 公式Twitter
- サーキットオブジアメリカズ 公式Instagram
- サーキットオブジアメリカズ 公式Facebook
- サーキットオブジアメリカズ 公式Youtube
関連項目
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