防御率とは、野球における投手成績のひとつ。英語ではEarned Run Averageを略してERAと表記する。
簡単に言えば、「その投手が9イニング投げたら何点取られるか」という数値。
概要
という計算式で求めることになっている。
計算に使われるのは「失点」ではなく「自責点」であるため、失策絡みの失点は防御率に影響しない。また、イニング途中から登板した際に、前の投手が塁上に残した走者を生還させてしまっても自分の防御率は悪化しない。逆にイニング途中で降板し、残した走者を後続の投手が生還させてしまうと自分の防御率が悪化する。このへんに関しては「自責点」の項を参照。
投手の能力を評価する指標としては一般的に最も重要視される要素である。ただ、防御率は分母になる投球イニング数が少ないと大きく数字が上下するため、先発投手に比べてイニング数が少ないリリーフ投手の場合、シーズン途中まで良い防御率を残していても、疲れの出るシーズン終盤に炎上して防御率を大幅に悪化させてシーズンを終えたり、あるいは序盤に大きく炎上してから徐々に安定して防御率を改善した場合もあるので、シーズンを通して最終的な防御率通りの安定感だったとは限らない。また、イニング途中での登板・降板が多いワンポイントリリーフの投手は登板のタイミングや他の投手の能力に防御率が左右される部分が大きいので、防御率では能力を量るのが難しい部分がある。
防御率を表示する場合は、小数点以下2桁まで四捨五入で表示する(3.24など)のが通例。防御率ランキングにおいてその数字で見かけ上並んだ場合(例えば3.242と3.238など)は、並んだ投手の防御率のみ差のつく桁まで表示する。
なお、登板して1アウトも取れずに降板した場合、投球回数は0となるため、防御率は「計算不能」となる(0で割ることはできないため)。自責点がある場合は、防御率無限大とみなされる。ゲームなどでは「99.99」と表示されることが多いが、極端に少ないイニングで大量失点すると防御率が100以上になることもある(例えば1/3イニングで4失点すると防御率は108になる)。その場合も表示上99.99となるため区別が為されていなかったりする。
記録としての防御率
プロ野球においては、シーズンで最も防御率の良かった投手に贈られる「最優秀防御率」のタイトルがある。
シーズンでの防御率を公式記録として残す(防御率ランキングに入る)ためには、規定投球回数(所属球団の試合数×1イニング)に到達する必要がある。そのため、最優秀防御率のタイトルは先発投手のためのタイトルであり、リリーフ投手はどんなに優秀な数字を残しても、最優秀防御率を獲れることはまずあり得ない(過去にはリリーフのみで規定回数に到達した投手もいたが、現在ではほぼあり得ない)。
また、防御率の通算記録にランクインするには、通算2000投球回が必要である。
シーズン防御率や通算防御率の記録は、今より遥かに投高打低であった戦前から戦後すぐの頃の記録が大半を占めており、現在でその中に割って入るのは不可能ではないがかなり難しい。
防御率の評価の目安
先発投手とリリーフ投手で、防御率の評価の目安は変わってくる。リリーフ投手の中でも、あらゆる場面で投げる普通の中継ぎ投手と、試合の終盤を締めるセットアッパーや抑え投手では評価基準が変わってくる。
先発の場合
だいたい一般的に、先発投手の場合は、
1点台 | その年圧倒的に無双したエース |
2点代前半 | 最優秀防御率がほぼ狙える数字 |
2点代後半 | エースの数字 |
3点代前半 | 優秀な先発ローテーション投手 |
3点代後半 | 普通の先発ローテーション投手 |
4点代前半 | チーム事情などにもよるが、二軍落ちか一軍残留のライン |
4点代後半 | 改善の兆しがないなら二軍落ち |
5点台以上 | すぐに二軍に行け |
というところだが、ボールや球場の広さに左右されるほど、時代によって基準に違いが生まれることに留意されたい。なお、QS(クオリティ・スタート)の「6回3自責点」は防御率に直すと4.50であり、ローテーション投手としてはちょっと寂しい数字になるが、これは元々のコンセプトが先発が最低限「試合を作った」というものであり、安定感を示すものである。QS率が高い投手は、短いイニングでの降板や4点以上の炎上が少なく安定しているこということになる。中6日のローテーションを敷いており、尚且つ2011年以降は投手有利な環境が続いている日本なら、エース格など更に高レベルの結果を求められる投手については、「7回2失点」(HQS:ハイクオリティ・スタート)を基準にするのがよいかもしれない。
先発の防御率1点台という数字が頻繁に記録されていたのは1970年頃までで、1971年以降は村田兆治や大野豊、斎藤雅樹など数える程度しか記録されていなかった。1989年に斎藤雅樹が記録して以降は、2006年に黒田博樹と斉藤和巳が記録するまで、実に17年間、先発で規定投球回数に達して防御率1点台は記録されなかったのである(1992年の赤堀元之は大半がリリーフ登板)。その後はダルビッシュ有が5年連続1点台を記録したり、2011年・2012年の統一球(いわゆる違反球)の年には1点台がバーゲンセールのように生まれ、現在もわりとちょくちょく1点台が出ているためその凄みがやや薄れた感があるが、よほどの投手でなければ達成できない数字であることに変わりはない。
統一球が示したように、野球の各種成績は道具の質や球場などの外部要因に左右されることが多い。
戦後まもない時期のボールに至ってはゴム球と呼ぶのが相応しいほど劣悪なものであった。そんなボールを相手にしていた打者の成績は当然悲惨なことになり、一方で投手の成績は良くなるわけで…。
ちなみに規定回数に到達して防御率0点台は、戦後では1970年の村山実(阪神)ただひとりしかいない。
リリーフ投手の場合
ごく普通の、試合中盤に投げる中継ぎ投手の場合は、だいたい2点台であれば優秀な数字であり、3~4点台はどこにでもいる中継ぎ。5点台以上なら二軍落ちである。それより良い数字を残すようならば、よほどリリーフが充実しているチームでない限りはセットアッパーに配置転換される場合が多い。が、前述の通りリリーフ投手はイニング途中での登板・降板機会が先発よりも多く、投球イニング数も少ないため、防御率のみを見て安定感を測るのは難しい(よく言われる防御率詐欺など)。
セットアッパーは試合終盤の競った場面を任されるため、最低でも3点台前半、できれば2点台の防御率が求められる。最優秀中継ぎ投手のタイトルは防御率ではなくホールドポイントで決まるためリリーフの防御率はタイトルには結びつかないが、1点台の防御率を残すセットアッパーは、リーグを代表するリリーフエースと言っていい。逆に3点台や4点台の投手がセットアッパーをしているチームはリリーフ事情が苦しいと見ていいだろう。
失点が即敗戦に繋がる抑え投手の場合はさらにシビアで、2点台前半が標準ラインとなる。できれば1点台が望ましく、0点台なら球界を代表する最強守護神である(1997年・1998年の佐々木主浩や、2008年の藤川球児、2002年の豊田清ら)。抑えで防御率3点台は失格と言っていい(3試合に一度は失点するということになるため)。
その他の防御率
防御率に影響する失点、自責点には野手の守備が少なからず関係してくるため、堅守な野手が揃ったチームとザル守備な野手が揃ったチームとでは差が出やすいと誰かしら一度は考えるだろう。
そこでDIPS(Defense Independent Pitching Statistics)という指標がボロス・マクラッケンにより考案された。
これは【投手の責任は与四球・奪三振・被本塁打のみである】という考えに基づいたもので、前述の3つの項目から出た値(計算式はググってください)が真の防御率という考えである。
防御率が悪くてもDIPSが良い選手は一時的な成績が悪くともある程度改善が見込め、またシーズンオフに争奪戦になることが多い。
その後DIPSの計算式を修正してFIP、xFIP、tERA、SIERA等の新・防御率が考案されていった(詳細はググ(ry)。
xFIPは比較的精度が高いことがわかり、出た値に投手の防御率が収束しやすいため、シーズン成績予測に使われることが多い。xFIPはフライ打球あたりの本塁打の割合はほぼ一定の範囲に収束するという統計結果をFIP、DIPSに取り入れたものであり、球場の広さや風など環境に左右されることのない性質をもっている。
記録
NPB:2リーグ制前
日本プロ野球 | ||||
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順位 | 選手名 | 所属 | 防御率 | 年度 |
1 | 藤本英雄 | 東京巨人軍 | 0.73 | 1943 |
2 | 景浦將 | 大阪タイガース | 0.79 | 1936秋 |
3 | 沢村栄治 | 東京巨人軍 | 0.81 | 1937春 |
4 | 野村二郎 | 大洋軍 | 0.88 | 1941 |
5 | 林安夫 | 朝日軍 | 0.887 | 1943 |
6 | 森弘太郎 | 阪急軍 | 0.889 | 1941 |
7 | 野村二郎 | 翼軍 | 0.930 | 1940 |
8 | 景浦將 | 大阪タイガース | 0.931 | 1937春 |
9 | 須田博 | 東京巨人軍 | 0.97 | 1940 |
10 | 村松幸雄 | 名古屋軍 | 0.98 | 1941 |
シーズン記録(NPBは2リーグ制以後)
- (2023年終了時点)
- 太字は現役選手
日本プロ野球 | メジャーリーグベースボール | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
順 位 |
選 手 名 |
所 属 |
防 御 率 |
年 度 |
順 位 |
選 手 名 |
所 属 |
防 御 率 |
年 度 |
1 | 村山実 | 阪神 | 0.98 | 1970 | 1 | ダッチ・レナード | BOS | 0.96 | 1914 |
2 | 稲尾和久 | 西鉄 | 1.06 | 1956 | 2 | モーデカイ・ブラウン | CHC | 1.04 | 1906 |
3 | 村山実 | 大阪 | 1.19 | 1959 | 3 | ボブ・ギブソン | STL | 1.12 | 1968 |
4 | 村山実 | 阪神 | 1.20 | 1962 | 4 | クリスティー・マシューソン | NYG | 1.14 | 1909 |
5 | 田中将大 | 楽天 | 1.272 | 2011 | 5 | ウォルター・ジョンソン | WSH | 1913 | |
6 | 田中将大 | 楽天 | 1.273 | 2013 | 6 | ジャック・フィスター | CHC | 1.15 | 1907 |
7 | 金田正一 | 国鉄 | 1.30 | 1958 | 7 | アディ・ジョス | CLE | 1.16 | 1908 |
8 | 別所毅彦 | 巨人 | 1.33 | 1955 | 8 | カール・ラングレン | CHC | 1.17 | 1907 |
9 | 島原幸雄 | 西鉄 | 1.35 | 1956 | 9 | ピート・アレクサンダー | PHI | 1.22 | 1915 |
10 | 稲尾和久 | 西鉄 | 1.37 | 1962 | 10 | サイ・ヤング | BOS | 1.26 | 1908 |
通算記録
日本プロ野球 | メジャーリーグベースボール | ||||
---|---|---|---|---|---|
順位 | 選手名 | 防御率 | 順位 | 選手名 | 防御率 |
1 | 藤本英雄 | 1.90 | 1 | エド・ウォルシュ | 1.82 |
2 | 野村二郎 | 1.96 | 2 | アディ・ジョス | 1.89 |
3 | 稲尾和久 | 1.98 | 3 | モーデカイ・ブラウン | 2.06 |
4 | 若林忠志 | 1.99 | 4 | モンテ・ウォード | 2.10 |
5 | ヴィクトル・スタルヒン | 2.088 | 5 | クリスティ・マシューソン | 2.13 |
6 | 村山実 | 2.092 | 6 | アルバート・スポルティング | 2.14 |
7 | 別所毅彦 | 2.18 | 7 | ルーブ・ワッデル | 2.16 |
8 | 荒巻淳 | 2.230 | 8 | ウォルター・ジョンソン | 2.17 |
9 | 杉下茂 | 2.232 | 9 | ウィル・ホワイト | 2.276 |
10 | 金田正一 | 2.34 | 10 | エド・ロイルバック | 2.284 |
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