サンライズペガサス

「不治の病を乗り越えて、翼を与えられた不死鳥が最後の戦いに歩を進める。サンライズペガサス」

（2005年有馬記念本馬場入場by三宅正治アナ）

サンライズペガサスとは、1998年生まれの日本の元競走馬・種牡馬である。

主な勝ち鞍は2002年産経大阪杯（GⅡ）・2005年産経大阪杯・毎日王冠（GⅡ）
最強世代と謳われた世代に産まれ、幾度もの故障・不運に見舞われつつも、その度に復活を果たした不屈の精神を持つ馬。

概要

最強世代の上がり馬

父サンデーサイレンス、母ヒガシブライアン、母父ブライアンズタイムという血統。
意外にもSS×母父BTの組み合わせは十数頭しかいないという少なさで、重賞勝ちはこのサンライズペガサスのみ。

馬主は松岡隆雄氏。調教師は安田伊佐夫厩舎→石坂正厩舎。
生産元のヤナガワ牧場は中小規模ながら、後にコパノリッキー・キタサンブラック・テーオーケインズといった大物を輩出する名牧場となる。
祖母アリーウィンはアメリカの名種牡馬アリダーの子で、繁殖牝馬としてヤナガワ牧場が購入。
サンライズペガサスの活躍もあってかこのアリーウィンの牝系は牧場で繋げられていき、ヒガシブライアンの姉のウェディングブーケの三代孫からコパノリッキーが誕生した。
母は出産直後に急死し、サンライズペガサスは乳母に育てられ、そのこともあってか人によく懐き、サンデーサイレンスらしい気性のうるささは少ない性格に育ったという。

この世代はアグネスタキオン・ジャングルポケット・クロフネ・マンハッタンカフェなどを擁し、当時最強世代と呼ばれたほどの世代。
そんな粒ぞろいの世代に産まれたサンライズペガサス、デビューは3歳になってからだが、2戦目を難なく勝ち上がりクラシックに向けて上々のスタート。
しかし京都で行われた条件戦で惨敗、次の京都新聞杯でも惨敗し、ダービーへの挑戦は絶たれる。この頃はゲート内で暴れるなど気性の悪さが目立ち、後の成績から見てもどうも京都コースが苦手だったようだ
その後2戦を経て菊花賞のステップレース神戸新聞杯へ。このレースはクロフネ・ダンツフレーム・アグネスゴールド・エアエミネムといった当時の有力3歳馬が勢揃いし、その中で重賞未勝利のサンライズペガサスは7番人気とほぼ無名の存在だった。
しかし直線で鋭い切れ味を見せ抜け出し、当時連勝街道を歩んでいたエアエミネムのクビ差2着に入るという善戦をし、菊花賞への優先権を獲得。
本番の菊ではジャングルポケット・ダンツフレーム・エアエミネムに継ぐ4番人気に推されるも、やはり距離が原因かコースが原因か見せ場なく敗退。

飛翔と落日

素質の片鱗を見せつつも中々勝てずにいたものの、翌2002年になり鞍上に地方の雄・安藤勝己Jを迎えると、OP戦の大阪城Sを勝利すると次走の産経大阪杯では1番人気に支持される。
これまでのレースでコーナーで一気にまくる走り方をしていたサンライズペガサスだが、大阪城Sでは最後に甘くなりクビ差まで迫られる冷や汗ものの勝ち方になっていた。

そのため鞍上の安藤Jはサンライズペガサスの切れ味に目をつけ、直線に入るギリギリまで追い出しを我慢するスタイルに変更する。
果たして直線で素晴らしい瞬発力を発揮し他馬をごぼう抜き、並んでスパートをかけた二冠馬エアシャカールも切って捨てて圧勝、重賞初勝利を挙げると共に古馬の代表格として名を挙げた。
当初は気性面で課題があり、前述のゲート難が原因で大阪杯前も再審査を受けているが、上手く折り合いをつけて溜めれば上述の切れ味を発揮する。
特に中距離では無類の強さを発揮し、当時のアンカツをして「それまで乗ってきた馬（2003年時点）の中で、瞬発力ということに関しては間違いなくナンバーワン」と言わしめたほど。

しかしここで再び暗雲が立ち込める、再び4番人気で迎えた天皇賞（春）ではやはり直線まで仕掛けを我慢し、上がり最速の脚で追い込むも上位人気3頭には届かず、ボーンキングもギリギリ差しそこねて5着。菊花賞のことを思えば善戦と思えるのだが、なんとここでの激走の疲労で絶好のG1チャンスである宝塚記念を回避する羽目になってしまう。
この宝塚記念、春天で掲示板に乗った馬のうちマンハッタンカフェ・ナリタトップロードが早々に回避。
そのため三強の一角ジャングルポケットと並び、既に阪神中距離で好成績を残していたサンライズペガサスは本命として目されていたようだが、2頭とも直前で脚部不安で回避することになり、なんとも物寂しいレースとなってしまった。（ちなみに春天4着のボーンキングも回避しており春天掲示板組は全滅）
同期のダンツフレームが悲願のG1初制覇を果たしたものの、後から見ればこの時の宝塚での多数の回避が、01世代の衰えを示していたのかもしれない…。

ならばと迎えた秋戦線、鞍上は柴田善臣Jに交代し、毎日王冠は1番人気に推されるものの出遅れに合わせて展開が合わなかったか4着。
そしてまたも4番人気の本番の天皇賞（秋）、早めに仕掛ける競馬をし直線では一瞬先頭に立つも、シンボリクリスエスに躱され、更にゴール前に一杯になりナリタトップロードもに差されて惜敗の3着。
切れ味では上位2頭にも勝るものを持っている馬なだけに、柴田Jもレース後に「ちょっと仕掛けが早かった」とコメントしたらしく、悔いの残るレースになってしまった。
更にレース後にサンライズペガサスを襲った悲劇は……屈腱炎。同期のアグネスタキオン・クロフネ・マンハッタンカフェらを早期引退に追い込んだサラブレッドにとっての不治の病である。

幸いにしてまだ浅いものだったために現役を続行し、翌2003年の秋に復帰、天皇賞（秋）では6着と病み上がりのぶっつけを考えればまずまずの結果を出し、ジャパンカップでは重馬場が相性が悪かったか11着。
しかし再びの脚部不安再発、復帰には一年以上掛かり、最早サンライズペガサスは他の故障した同期と同じく、終わった馬として消えていくのかと思われた。

だが彼は、そして関係者はまだ諦めていなかった。

2度の屈腱炎ともなれば本来なら引退してもおかしくなかったが、サンライズペガサスのポテンシャルを信じるスタッフは懸命なケアを行い、石坂厩舎の日迫助手は毎日脚元を冷やし続けた。

不撓不屈で日はまた昇る

2005年、7歳になって復帰した京都記念は京都なので惨敗するが、続く中京記念では外を回って激走、3/4馬身差の2着に滑り込んだ。
この時の1着は1歳下のメガスターダム。彼もラジオたんぱ杯を制し菊花賞で3着に入るなど将来を期待されていたが、屈腱炎で長期離脱を余儀なくされていた馬であり、不屈の復活をした馬のワン・ツーは密かに話題となったようだ。

そして3年ぶりの大阪杯、エリザベス女王杯ニ連覇のアドマイヤグルーヴ、芝に再挑戦のアドマイヤドンといった中々のメンツが揃っていたが、混戦模様のオッズの中それらを抑えサンライズペガサスは1番人気で迎える。
鞍上は幸英明Jに変わっており、道中で4・5番手につけたサンライズペガサスは3年前のその時のように直線で一気にスパート、全盛期を思わせる切れ味を見せ、後方から猛然と突っ込んでくるハーツクライの追撃を凌ぎきり完勝。見事復活劇を見せた。
（ちなみに2023年現在、G1昇格後を含めて大阪杯を2勝した馬はサンライズペガサスのみである）
なお京都記念・中京記念・大阪杯の3戦を共に走った戦友メガスターダムは再び屈腱炎を再発し引退に追い込まれてしまうが、サンライズペガサスはいつ破裂するかもわからない爆弾を抱えて走り続ける。

迎えたG1戦線、まず天皇賞（春）はやはりこの条件は苦手か見せ場なく敗れるが（2着で大穴を開けたのは同期のビッグゴールド）、無事に戻ってくれば良しといった感じで、得意の阪神コースの宝塚記念に初めて挑む。
…なのだが、鞍上の松永幹夫Jも「位置取りがまずかった。もったいなかった」と反省している通り、直線に入って挟まれるわ前が壁になるわの致命的な不利を受け、脚を余して5着。
一時は直線で11・12番手ほどに後退してしまってから、猛然と追い込んで掲示板に入ったので、まともに走れてさえいれば……とファンにとって歯がゆいレースとなってしまった。

最大のチャンスだったであろう阪神G1を逃し最早見せ場はこれまでか……という空気になっていたが、再び日は昇る。
秋の毎日王冠、スーパーG2の名に恥じずこの年のグランプリホーススイープトウショウを始め、ノド鳴りから復活した皐月賞馬ダイワメジャー、地方の星コスモバルクに、バランスオブゲーム・テレグノシス・カンパニー・メイショウカイドウ・ハットトリックらの名脇役も備えたメンツが集まる。
彼らに押されサンライズペガサスは左回りでの勝ち鞍がなかったこともあり期待されない9番人気。
しかし、後藤浩輝Jのスローペースと見てこれまでと違い好位につけ先行抜け出しを図る騎乗が功を奏し、直線で先頭に立つとそのまま後続に2馬身ほどつけて、テレグノシスの追撃をものともせず完勝。
とうにジャングルポケット・マンハッタンカフェらは引退し種牡馬となり、ダンツフレームはこの年8月に早逝していたこの時期に、01世代の維持を見せつけた。

しかしG1ではどうにも持ってないのがこの馬、天皇賞（秋）では超スローペースの中で大外を引いたのが災いし、前走のように好位につけず12着（一着とは0.6秒差なので順位ほどの惨敗ではないが）。
後藤J負傷で蛯名正義Jに乗り代わったジャパンカップでは、一転超ハイペースとなり距離も長めの中で6着（日本馬の中では4着）とここは出し切っての結果。
引退試合のなった有馬記念、無敗の三冠馬ディープインパクトが注目を集める大一番だが、内枠を引き調教でも好調であり、勝てずとも上手く走れば上位に……と期待される中、なんと当日に蛯名Jが負傷、乗り代わったのは負春田中勝春J。
当日のテン乗りでは仕方のないことだが、出遅れから4コーナー不利のコンボをかましてしまい、またしても直線で後方に置いていかれた状態から懸命に追い込むも7着。まともにレースをしてれば負けても悔いは無かったものの……。

当時のアンカツ曰く「テイエムオペラオーのようにいつもいつも勝ち負けになる安定感があるかというとちょっぴり物足りないが、持ち味をうまく活かし切れた時はあっさりとG1を勝つ力がある」とのこと。
実際、勝ったレースで見せる鮮やかな切れ味は、これをG1でも発揮できれば…と期待させるもの。
しかし持ち味を活かせそうな大舞台となると尽く怪我・展開の不利・騎乗ミスなどに見舞われてしまった印象がある。競馬にたらればは禁物ではあるが…。
アンカツ評はいかなる展開でも勝てる馬ではないという裏返しであり、不利を跳ね返せるほどの図抜けた力はなかった故かもしれないが、パッと見の着順ほどG1で通用しない馬では無かったと思う。というか大阪杯がG1の今の時代なら……。
いずれにせよ、何度も屈腱炎を患った7歳馬が、京都記念→中京記念→大阪杯→春天→宝塚→毎日王冠→秋天→JC→有馬の王道ローテを全力で走り切り、G2を2勝したことは賞賛に値するのではないだろうか。

その後

引退後は無事種牡馬となり、産駒は中央では重賞馬を出していないものの少ない種付数でオープン馬を2頭輩出、ダートで好走する傾向があったようだ。
種牡馬引退後は故郷のヤナガワ牧場で余生を送り、2019年8月22日にこの世を去った。
ヤナガワ牧場の馬にも種付けを行っており、そのうちの一頭が同じく松岡氏の所有馬だったシュガーハート。
サンライズペガサスの種付けは初年度のみだったが、形の良い仔を出したため（中央では未勝利）、牧場側も手応えを感じて以降SS系の配合を行う。
そしてブラックタイドとの間に生まれたのがかのキタサンブラックである。

ヤナガワ牧場代表の梁川正普氏は「今まで育てた馬の中で馬体が印象に残っているのがサンライズペガサス。トモから何までバランスが良かった」と語り、
創業時から勤めるスタッフの岩倉千年氏は「牧場に勢いを与えてくれた、一番思い出深い馬」と延べ、
石坂調教師の子の石坂公一調教師は、「サンライズペガサスが二度の屈腱炎を克服して勝ったのを見てこの世界を志しました」と述べている。
G1での好走に恵まれなかったため、知名度では同時期の名だたる馬と比べると劣る印象があるが、少なくない人の心にサンライズペガサスの奮闘は深く刻まれているようだ。

血統表

*サンデーサイレンス 1986　青鹿毛	Halo 1969　黒鹿毛	Hail to Reason	Turn-to
			Nothirdchance
		Cosmah	Cosmic Bomb
			Almahmoud
	Wishing Well 1975　鹿毛	Understanding	Promised Land
			Pretty Ways
		Mountain Flower	Montparnasse
			Edelweiss
ヒガシブライアン 1991　栗毛 FNo.1-o	*ブライアンズタイム 1985　黒鹿毛	Roberto	Hail to Reason
			Bramalea
		Kelley's Day	Graustark
			Golden Trail
	*アリーウィン 1984　栗毛	Alydar	Raise a Native
			Sweet Tooth
		Fleet Victress	King of the Tudors
			Countess Fleet

関連動画

関連項目

• 競馬
• 競走馬の一覧
• ジャングルポケット
• マンハッタンカフェ
• ダンツフレーム
• エアエミネム・アグネスゴールド（同期のG1級と囁かれながらも遂に手が届かなかった馬たち）
• メガスターダム（屈腱炎からの復活仲間）