バーミリオン星域会戦 単語

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バーミリオンセイイキカイセン

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バーミリオン星域会戦とは、「銀河英雄伝説」の戦闘の一つである。

概要

宇宙799年/帝国490年、ゴールデンバウム朝銀河帝国軍と自由惑星同盟軍との間に生起した戦闘帝国軍による“神々の黄昏”作戦における最終決戦であり、最終的に帝国軍の勝利に終わった。

いつの時点をもって「バーミリオン星域会戦」の開始とするかは確定していないが、最広義においては同盟軍ヤン艦隊による帝国軍三個艦隊の連続撃破をその緒戦として同年2月バーミリオン域での最終的な戦闘にむけた帝国軍による作戦の発動が4月4日、これに対する同盟軍ヤン艦隊側の出動命4月6日であり、バーミリオン域における最終的な戦闘の開始、すなわち最も狭義のバーミリオン星域会戦の開始は4月24日のこととなる。

当記事では、同盟軍ヤン艦隊による帝国軍三個艦隊の連続撃破(ライガール、トリプラ両星系間の戦いタッシリ星域付近における戦闘)に始まる一連の戦闘最広義のバーミリオン星域会戦)を総括して記述するとともに、バーミリオン域において行われた最終戦最狭義のバーミリオン星域会戦)についても別項を立てて詳述する。


バーミリオン星域会戦(総括)

銀河英雄伝説戦闘
“神々の黄昏”作戦
バーミリオン星域会戦
基本情報
作戦 “神々の黄昏”作戦
時期 宇宙799年/帝国490年 3月5月5日
地点 自由惑星同盟全域
結果 ゴールデンバウム朝銀河帝国軍の勝利
詳細情報
交戦勢
ゴールデンバウム朝銀河帝国 自由惑星同盟
指揮官
帝国軍最高
ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥
イゼルローン要塞駐留艦隊
ヤン・ウェンリー元帥
ローエンラム直属部隊
ロイエンタール艦隊
ミッターマイヤー艦隊
黒色騎兵艦隊
シュタインメッツ艦隊
ワーレン艦隊
レンネンカンプ艦隊
ファーレンハイト艦隊
ミュラー艦隊
イゼルローン要塞駐留艦隊
(ヤン艦隊)
“神々の黄昏”作戦
第九次イゼルローン要塞攻防戦 - フェザーン侵攻
ランテマリオ星域会戦 - 帝国軍輸送団の壊滅 - 
バーミリオン星域会戦
ライガール、トリプラ両星系間の戦い
タッシリ星域付近における戦闘 -
バーミリオン星域会戦 - バーラト攻略
前の戦闘 次の戦闘
帝国軍輸送団の壊滅 キュンメル事件

宇宙799年/帝国490年3月から5月5日にかけて行われた、自由惑星同盟全域を戦域とするゴールデンバウム朝銀河帝国軍と自由惑星同盟軍の交戦。

この戦闘の結果、160年間に渡って銀河帝国抵抗を続けた自由惑星同盟敗北し、バーラトの和約によって事実帝国の属下におかれることとなる。

経緯

この年2月上旬に行われたランテマリオ星域会戦ののち、戦況は半月ほどのあいだ小康状態を保つこととなった。

当時、ガンダルヴァ恒星系の第二惑星ウルヴァシー軍事拠点として駐留していた帝国軍は、中期的戦略の立案において、全をもって同盟首都ハイネセンに進撃する積極論をとるか、帝国本土からの補給ルート確立しつつ同盟領全体の制圧にとりかかる持久論をとるべきか結論に至らず、活動を停滞させていた。遠征の本義である同盟の征を一挙に片付けてしまうべきという意見の一方で、ハイネセンの攻略が同盟の瓦解に繋がるのか、瓦解したとして地域的に抵抗運動が発生し統治を困難にするのではないかといった懸念もあり、容易に判断を下せずにいたのである。

これに対し、同盟軍はイゼルローン要塞駐留艦隊ヤン・ウェンリー元帥に実質的な艦隊運用の全権を委ね、帝国軍の迎撃にあたらせることとなった。そして2月末、戦略的なフリーハンドを得たヤン元帥と同盟軍ヤン艦隊は、政府と軍部の全面協のもと、同盟領全域を舞台に活動を開始する。

同盟軍の作戦

麗な戦術的成功において著名であり、戦略構想においても画期的であることから”軍事活動上の芸術”と称される同盟軍総指揮官ヤン・ウェンリー元帥作戦の本来の的は、圧倒的に優勢な戦を有する帝国軍に対抗するにあたって、その導者である帝国宰相・帝国軍最高ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥戦場において打倒することによって帝国軍の統一揮を瓦解させ、防体制再のための時間を稼ぎ出すことにあった。

つまり、帝国軍諸艦隊の各個撃破はあくまで最終的達成のための陽動作戦にすぎず、もってヤン元帥ローエンラム元帥を精的に刺し、可な限り同盟軍に有利な条件でヤン元帥との直接対決を志向するように誘導しようとしたのである。

戦闘経過

緒戦

同盟軍による第一撃は、帝国本土からの輸送団への襲撃であった。これを受けて帝国ローエンラム元帥は、同盟の征永久確実のものとするべく、同盟の持つ組織的戦全に排除することを優先する戦略を策定。同盟軍ヤン艦隊を捜索・捕捉し撃滅すべく、カール・ロベルト・シュタインメッツ大将の率いる艦隊を派遣した。

3月1日シュタインメッツ艦隊はライガー系とトリプラ系の中間宙域でヤン艦隊を捕捉、交戦に突入したが、ブラック・ホールを利用した陥穽により壊滅的な損を受け敗北通報を受けて急されたヘルムート・レンネンカンプ大将の艦隊も続けて撃破される(ライガール、トリプラ両星系間の戦い)。さらに物資接収のためタッシリ域の同盟軍補給基地へと向かったアウグスト・ザムエル・ワーレン大将の艦隊もその途上でヤン艦隊に遭遇し、敗退を余儀なくされた(タッシリ星域付近における戦闘)。

バーミリオン星域会戦へ

部下の立て続け三度敗北により、ローエンラム元帥帝国軍の体面は大きく傷つくこととなった。ここに至って、ローエンラム元帥は自身が直接出してのヤン元帥との直接対決を決意。自身の持つ戦を一個艦隊相当の直属部隊帝国軍本隊)にまで手薄にすることでのヤン艦隊を誘出することを企図し、麾下の艦隊に対しそれぞれ各方面へと進発するよう命を下した。むろんローエンラム元帥ももとより同等の戦による直接対決の場を作り出させるのがヤン元帥の意図であることを洞察しており、その上でヤン艦隊を確実に撃滅するため、各方面に分散した各艦隊は時期を図って一挙反転戦場に駆けつけヤン艦隊を包囲殲滅することとされていた。

かくして4月4日ミッターマイヤー艦隊がエリューセラ域へと進発。ロイエンタール艦隊(リオヴェル域)、ミュラー艦隊(リューカス域)など諸艦隊もそれに続いた。いっぽう同盟軍のヤン元帥も、帝国軍進発の通報を受けて4月6日にはガンダルヴァ域への出撃を下する。

しかし、帝国軍が本隊の孤立を偽装したを仕掛けてくることをすでに予測し、分散した帝国軍諸艦隊が本隊からもっとも離れたタイミングで本隊との戦闘に突入、反転した諸艦隊の到着までに撃破するプランを組んでいたヤン元帥ですら、ローエンラム元帥の率いる直属部隊までもがガンダルヴァを出撃して同盟首都ハイネセンの位置するバーラト系をすことは想定のうちになかった。そしてその進撃コースは、諸艦隊と本隊との距離が最大になるその時にハイネセンを呼の間に捉えるよう計算されていたのである。このためヤン元帥は、首都周辺宙域での戦闘を避けるため、本来の想定にべより帝国軍本隊と接触し、より速く撃破せねばならないことになった。

4月12日、ヤン艦隊は最後の根拠地としていた小惑星ルドミラを進発、同盟首都ハイネセンより3.6光年距離に位置するバーミリオン域を決戦地として移動を開始した。いっぽう帝国軍本隊もバーミリオン域を決戦の地と予測して進撃を続け、4月24日14時20分、バーミリオン星域会戦の本戦が開始される。

ハイネセンへの進攻

いっぽう、エリューセラ域へと派遣されていたミッターマイヤー艦隊は、バーミリオン域へと反転するのではなく、ロイエンタール艦隊と共同で同盟首都ハイネセンへと向かっていた(バーラト攻略)。戦闘開始を受けて独断で急行した帝国宰相首席秘書ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ伯爵令嬢による、エリューセラ域からバーミリオン域へと向かうより約48時間はやく到着できるバーラト系に進攻して同盟政府を降させ、ヤン元帥および同盟軍へと停戦を命させるべきであるという提案を容れてのものであった。

5月4日、両艦隊はバーラト系に進入、翌日にはハイネセンの衛星に入った。ミッターマイヤー上級大将差別攻撃を示唆して同盟政府を恫するとともに、統合作戦本部ビルの地上部分を全破壊した。これを受けた同盟最高評議会議長ヨブ・トリューニヒト委員長ウォルター・アイランズ宇宙艦隊長官アレクサンドル・ビュコック元帥などの反対を押し切って全面講和を受け入れ、無条件停戦を命した。

当時バーミリオン域では、幾度とない突の末、圧倒的に同盟軍が優位な戦況にあった。帝国軍にもミュラー艦隊が急行軍で数を半減させながらも増援に駆けつけていたが、幾度も戦況が変転する戦の末、ヤン艦隊はローエンラム元帥の座乗する帝国総旗艦ブリュンヒルト>を破壊する直前にまで到達していた。しかし、そのさなかの5月5日22時40分、無条件停戦命バーミリオン域のヤン艦隊部に届く。ヤン元帥はこれに従い、バーミリオン星域会戦はこの時点で終結した。

戦後

自由惑星同盟の全面講和受け入れによるバーミリオン星域会戦の終結をもって、帝国による“神々の黄昏”作戦事実上終了した。5月12日にはローエンラム元帥惑星ハイネセンに到着、25日のバーラトの和約締結により、両者の戦争状態は全に終結した。


バーミリオン星域会戦(本戦)

銀河英雄伝説戦闘
バーミリオン星域会戦
バーミリオン星域会戦(本戦)
基本情報
作戦 “神々の黄昏”作戦
時期 宇宙799年/帝国490年
4月24日14時20分~5月5日22時40分
地点 自由惑星同盟バーミリオン
詳細情報
交戦勢
ゴールデンバウム朝銀河帝国 自由惑星同盟
銀河帝国正統政府
指揮官
帝国軍最高
ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥
イゼルローン要塞駐留艦隊
ヤン・ウェンリー元帥
ローエンラム直属部隊
(艦艇1万8860隻、
兵員229万5400名)
ミュラー艦隊
(艦艇8080隻、
兵員96万7700名)

艦艇総数2万6940隻
兵員総数3263100名
イゼルローン要塞駐留艦隊
(ヤン艦隊)
モートン艦隊
カールセン艦隊

艦艇総数1万6420隻
兵員190万7600名
艦艇損傷率87.2%
全破壊1万4820隻、
損傷8660隻)
兵員死傷率72.0
(戦死159万4400名、
戦傷75万3700名)
艦艇損傷率81.6
全破壊7140隻、
損傷6260隻)
兵員死傷率73.7
(戦死89万8200名、
戦傷50万6900名)
“神々の黄昏”作戦 - バーミリオン星域会戦
第九次イゼルローン要塞攻防戦 - フェザーン侵攻
ランテマリオ星域会戦 - 帝国軍輸送団の壊滅 - 
バーミリオン星域会戦
ライガール、トリプラ両星系間の戦い
タッシリ星域付近における戦闘 -
バーミリオン星域会戦 - バーラト攻略
前の戦闘 次の戦闘
タッシリ星域付近における戦闘 バーラト攻略

宇宙799年/帝国490年4月24日5月5日、同盟領バーミリオン域においてゴールデンバウム朝銀河帝国軍と自由惑星同盟軍とのあいだで発生した戦闘

戦場においては同盟軍がほぼ全に帝国軍を撃破したものの、決着寸前に同盟首都ハイネセンより無条件停戦命を受信したため、その時点で戦闘が終結した。

常勝天才ラインハルト・フォン・ローエングラムと、”不敗の魔術師ヤン・ウェンリーが同格の立場において対決した最初の戦いであり、同等の戦によって対決した一の戦いである。その決着は、後世に多くの議論を呼ぶこととなった。

両軍の戦力

戦闘開始時における帝国軍の戦帝国軍最高ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥揮する直属部隊によって構成され、総参謀長にパウル・フォン・オーベルシュタイン上級大将、中級指揮官としてイザーク・フェルナンド・フォン・トゥルナイゼン中将ロルフ・オットー・ブラウヒッチ中将、ウェルナー・アルトリンゲン中将カルナップ中将グリューネマン中将を配置。麾下の艦艇は帝国総旗艦ブリュンヒルト>以下1万8860隻、将兵229万5400名にのぼった。

いっぽう同盟軍は、イゼルローン要塞駐留艦隊ヤン・ウェンリー元帥(旗艦<ヒューベリオン>)の揮するイゼルローン要塞駐留艦隊(ヤン艦隊)を中核とし、ランテマリオ星域会戦において消耗した第14艦隊(ライオネル・モートン中将)および第15艦隊(ラルフ・カールセン中将)の残存部隊がそれぞれ再編の上で合流。さらにはヤン元帥の招請を受け顧問として加わった銀河帝国正統政府軍務尚書ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ以下、正統政府軍将兵総数7名がその麾下に入っている。以上、ヤン元帥揮下にある兵は艦艇総数にして1万6420隻、将兵190万7600名を擁した。これは同盟軍が当時動員できる最大戦であり、他の機動戦がもはや払底している以上、自由惑星同盟を守護する一最後のであった。

経緯

4月下旬、バーミリオン域での決戦を予期して前進していた両軍は、ともに偵察戦を展開して相手の捕捉を試みた。同盟軍は参謀長ムライ中将揮により2000組の先遣偵察隊を展開して情報を収集・分析した一方、帝国軍も先行偵察衛星小集団からなる索敵網によって進路の偵察を実施した。

両軍の索敵行動が30時間に及んだころ、同盟軍FO2先遣偵察隊(指揮官チェイス大尉)が帝国力部隊を発見。帝国軍も時を同じくしてFO2先遣偵察隊を探知し、回航路をとって帰投するFO2先遣偵察隊の進路から同盟軍の位置を解析。対応にあたったブラウヒッチ艦隊部を通じて総旗艦通報された。

両軍はそのまま接近を続け、ついに正面決戦に突入する。

帝国軍の作戦

この会戦において、帝国軍の勝利は、同盟軍を包囲殲滅すべく反転した帝国軍諸艦隊が到着するまでの間、ヤン艦隊の攻勢を帝国軍本隊が迎え撃ち戦線を維持し続けることができるかどうかにかかっていた。そのためにローエンラム元帥が発案した戦術が、”機動的縦深防御”と称される、戦史上にも類例のない遅滞防御戦法である。

その内容は、部隊分割して複数の横列を形成し、本隊の前方左右に展開するもの。これによって前面の戦況を直接把握しつつ、必要に応じて左右の横列をスライドさせ迎撃として運用、迎撃との交戦を繰り返させることで攻勢に出る同盟軍に物的・心理的に圧を加えてその勢いと戦を次第に減衰させ、帝国軍諸艦隊の到着までその鋭鋒を押しとどめることを的としていた。加えて、突破された迎撃が統率を保ったまま帝国軍両の外側を回し、形を再編しつつ横列の最後尾につくことで再度迎撃として運用することができるようになっており、用意された迎撃24段に留まらない数の迎撃が同盟軍ヤン艦隊の前に立ちはだかることとなった。

戦闘経過

戦闘序盤

4月24日14時20分、同盟軍による一斉射撃をその幕開けとして両軍は戦闘を開始した。開始時点では両軍の官はともに相手に先制させてその出方を見るという方針で一致しており、開戦は極めて正統的な形のものとなった。しかし、開戦後30分程度のうちに前線は両官どちらにとっても不本意な形で秩序な戦へと崩込み、両軍はその収拾に精を傾けざるをえなくなってゆく。

戦が続いた後、帝国軍では揮の不底から第一の突出に第二トゥルナイゼン艦隊が後続する形となり、秩序を失った両部隊には大きな混乱が生じた。帝国ローエンラム元帥揮統制の再復に努めたが、これに乗じたヤン元帥は巧妙な揮によって焦点トゥルナイゼン艦隊以外の帝国軍前方部隊を誘引、一斉撃をくわえて大打撃を与えた。しかし最終的には、なし崩し的に消耗戦へと落ち込むことを避けるため、両者ともに戦線の収拾に努めることとなった。

4月27日にはいると、同盟軍は混沌としていた前線を整理して艦隊を再編成し、円錐をもって正面からの速攻に打って出た。迎撃の命を受けた帝国前線部隊はヤン艦隊が得意とする火力の一点集中により一挙に撃ち崩され、帝国前線は同盟軍によって全に突破されることとなった。しかし、前述したように帝国軍は複層的な防御を用意しており、突進する同盟軍は30分足らずの間に帝国軍第二の迎撃を受けた。同盟軍はマリノ准将部隊を最先として突破に成功したが、間をおかずして帝国軍第三が出現。以後、帝国軍防御の出現と同盟軍による突破が繰り返され、4月29日には第九の迎撃を受けることとなった。

これら帝国軍の重層的な防御の厚みと深みは、帝国軍の縦深を予測していたヤン元帥さえ賞賛するほどのもので、同盟軍はいまだ全容の見えない帝国軍防御への対応に苦慮せざるをえなかった。同盟軍は帝国第九をも突破したが、このとき航空戦においては同盟軍スパルタニア部隊艦砲と連携した帝国ワルキューレ部隊の前に編成以来の大損を受けている。そして突破の直後、ヤン元帥ユリアン・ミンツ中尉による摘をもとに、さらなる前進を避けるため作戦を変更する。

同盟軍の作戦変更

4月30日、同盟軍は進撃を中止し、そのまま80万km後退して小惑星群の蔭に入ると、隕石を牽引した2000隻程度の兵を自軍右翼方向へと振り向けた。帝国軍艦艇のレーダーは牽引されている隕石のためにこの部隊を1万隻弱の艦艇と誤認したため、帝国軍はこの兵であるか囮であるかを確定できず困惑することとなった。しかし最終的にローエンラム元帥はこれを囮と見せかけた実兵であると判断した。

帝国軍は、戦の分散を避けつつこの兵を撃滅するため、本営直属を除く力部隊を再編成し左翼方向へと前進を開始。同盟軍はその隙をみて小惑星群を出て突撃を開始し、帝国の後方を帝国軍本営めがけて猛進する。一方接近したことで囮に気づいた帝国も、本営を護るべく同盟軍囮部隊からの攻撃を無視して急遽反転し、同盟軍右側面に迫った。これを予測していたヤン元帥は、帝国軍の攻撃に合わせて同盟軍中央部を左側に湾曲させることで艦列の崩壊を擬装、同盟軍を横撃したという帝国軍諸提督錯覚を利用し、変形を形成して帝国をその内側へと引きずり込んだ。

この結果、帝国は囮部隊と合流した同盟軍の全な包囲下に置かれて本営から切り離され、全方位からの攻撃により掃滅の危機することとなった。帝国軍本営にも同盟軍の火が迫り、5月2日にはローエンラム元帥に旗艦<ブリュンヒルト>からの退艦が進言されるほどの危機的な戦況に至ったが、そこに帝国軍にミュラー艦隊が来援して同盟軍横面に猛撃を加えたため、帝国軍本営は一度危地を脱することができた。

ミュラー艦隊の来援

この増援は、バーミリオン域に近いリューカス域の物流基地の占領に派遣されていたミュラー艦隊が、民需物資への損を避けた基地責任オーブリー・コクラン大佐抵抗により予定よりく駆けつけることが出来たものであった。しかしミュラー艦隊は強行軍によって多くの戦を脱落させており、当時ナイトハルト・ミュラー大将揮下にあったのは一個艦隊に大きく足りない8000隻前後(最終的なミュラー艦隊の戦闘参加艦艇は8080隻、兵員96万7700名)に過ぎなかった。

ヤン元帥の予測では、最初に来援するのは”疾風ウォルフ”の異名をとるミッターマイヤー上級大将の艦隊であり、それまでにローエンラム元帥を打倒する計算であった。それよりミュラー艦隊が来援することはヤン元帥にとって計算外のことであり、同盟軍は作戦の再編を余儀なくされることとなる。加えて、長く続く戦によりビームエネルギーミサイルの残存量にも限界が見えつつあった。

いっぽう帝国軍は、ミュラー艦隊の来援に勢いを得て解囲攻勢へと打って出た。同盟軍モートン艦隊(残存兵3690隻)がミュラー艦隊の苛な攻勢の矢面に立ったが、わずか一時間の交戦で2130隻(57.7)の艦艇を失う凄な損耗にさらされモートン中将は戦死。残存兵はかろうじてヤン元帥の直属部隊へ合流している。

帝国軍本営と同盟軍のあいだに割り入ったミュラー艦隊の攻勢は勢いを増し、同盟軍に対し明らかに優位に立ちつつあった。しかし依然同盟軍による包囲下にある帝国の戦況は対照的で、まる一日以上の包囲攻撃により全に潰乱しつつあった。ブラウヒッチ中将アルトリンゲン中将部隊はもはや原をほとんど留めず、かろうじて戦線を維持していたトゥルナイゼン中将カルナップ中将グリューネマン中将(負傷のため参謀長が揮を代行)の部隊ミュラー艦隊の攻勢に呼応するだけの余を失っていた。

最終局面

この状況下で、カルナップ中将が一点集中攻勢によって内側から包囲網突破の賭けに出る。これを感知したヤン元帥は、一挙に戦局を転回させるべく、包囲網の内外から圧を受ける一にあえてけさせた。そして、これを脱出の機と欣喜躍して解囲部に殺到した帝国と、包囲下にある味方を救援すべく解囲部への突入を図るミュラー艦隊が集中したところに、同盟軍による一点集中火が襲い掛かったのである。

帝国軍の戦線は同盟軍の驚異的なまでに強大苛火力を前にしてく間に崩壊し、カルナップ中将は戦死した。ミュラー大将戦のさなかで被弾した旗艦の放棄を余儀なくされる状況となり、直近の戦艦<ノイシュタット>へと移乗。直後に<ノイシュタット>も航行不能となると戦艦<オッフェンブルフ>に移り、さらに二時間後には戦艦ヘルテン>へと揮座を移しながらも、総旗艦ブリュンヒルト>のとして勇猛果敢に戦闘揮し続けた。

しかし、このようなミュラー大将の勇戦をもってしても戦況はもはや覆しようのない段階にあった。こうした状況下の5月5日22時40分、<ブリュンヒルト>を射程におさめる直近にまで迫った同盟軍は、ヨブ・トリューニヒト最高評議会議長からの無条件停戦命を受信する。ヤン元帥はこれを受けて全軍に後退をし、ここに12日間にわたってつづいたバーミリオン星域会戦は終結した。

損害

12日間に及んだバーミリオン星域会戦における両軍の損は、一個から一個半艦隊程度の戦同士による交戦にすぎないにもかかわらず、軍事上の常識越する極めて凄惨なものとなった。

帝国軍は総数2万6940隻を数えた艦艇のうち半数以上となる1万4820隻を喪失、損傷艦艇も8660隻におよび、あわせた艦艇損傷率は87.2%に達した。参加兵員ベースでも総数3263100名に対して半数近い159万4400名の戦死者を出しており、戦傷者も75万3700名、死傷率72.0という有様であった。一方、戦場では較的優位を保っていた同盟軍も、四割強にのぼる7140隻の艦艇を喪い、損傷艦艇6240隻とあわせた艦艇損傷率は81.6、参加兵員ベースの死傷率では帝国軍のそれを越える73.7(戦死者89万8200名、負傷者50万6900名)に達している。

高級士官では、帝国軍はカルナップ中将が戦死し、グリューネマン中将瀕死の重傷を負った。同盟軍ではライオネル・モートン中将スパルタニアン隊の戦隊長のひとりイワン・コーネフ中佐が戦死している。また、ヤン元帥示により戦場を離脱(後述)したウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツや、それに帯同した「薔薇騎士」連隊長カスパー・リンツ大佐戦隊オリビエ・ポプラン中佐らも、公式には戦死として報告された。

戦後

5月4日22時40分の戦闘終結後、翌5日までに、ミッターマイヤー艦隊、ロイエンタール艦隊をのぞく帝国軍諸艦隊は続々とバーミリオン域に駆けつけ、19時時点で4万隻におよぶ傷の帝国軍艦艇が同盟軍ヤン艦隊を取り囲むに至った。同日23時ヤン・ウェンリー元帥帝国総旗艦ブリュンヒルト>を訪問し、ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥と会見した。この会見は、同時代最高とされる名将ふたりの、最初にして最後の対面となった。

これに先んじて、同盟軍より艦艇60隻からなる一隊がウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ揮のもと戦場を離脱し、帝国軍に気取られることく姿を消している。メルカッツ独立艦隊と称されるこの一隊は、銀河帝国正統政府の閣僚であるメルカッツ軍務尚書が帝国軍の追捕を受けることを避けるとともに、将来的に帝国に対しふたたび反抗することを想定し、その核とするべく一部の艦艇と軍人とを隠匿することを的として編成されたもので、ロビン・フッド伝説にちなみ”動くシャーウッド”とたとえられる一団であった。この部隊は、のちにヤン・ウェンリーが同盟政府と袂を分かった際に合流し、エル・ファシル革命予備軍の中核を成している。

戦後帝国軍ではローエンラム元帥麾下の大将10名がって上級大将に昇進したが、なかでもナイトハルト・ミュラー大将が、バーミリオン星域会戦中盤の危急に駆けつけ最終局面においては僅かな時間に三度乗艦をうつしながらも戦奮闘して戦線を支え続けた功により、最年少ながら同格中の首席たるの栄誉に浴している。ミュラー大将はこの戦いぶりから鉄壁ミュラー(ミユラー・デア・エイゼルン・ウオンド)異名を受け、堅固にしてり強い戦いぶりを見せる帝国軍随一の守勢の良将と讃えられることとなった。喪った旗艦についても、のちにローエンラム成立後はじめて建造された戦艦である<パーツィバル>の下賜を受けている。

評価

本戦前半における両司令官の指揮

4月27日戦闘において、ヤン元帥はきわめて積極的な正面攻撃を選択し、艦隊に円錐をとらせて帝国軍の防御を次々と打ち破った。いっぽうで、相対する帝国ローエンラム元帥は大きく動くことく、予定通り何重にも防御を重ねた縦深を一段ずつ同盟軍に対抗させる、消極的・受動的な迎撃にした。

これは、本来、会戦後半に示したような相手の動きに対応した巧妙な艦隊運動や奇策奇襲による柔軟な戦術揮を得意とするヤン・ウェンリーにはしく、またアスターテ会戦のようにダイナミックで積極的な用兵を特長とするラインハルト・フォン・ローエングラムらしくない揮であったといえる。これは、バーミリオン星域会戦の特殊な戦略的事情、つまり同盟軍が可な限り速く帝国軍を撃破することが一の勝利条件であるのに対し、帝国軍は味方の艦隊が駆けつけるまで持久することさえできれば実質的に勝利である、という方向性の違いによるものが大きかった。

会戦の勝者

「バーミリオン星域会戦」において、勝利したのは帝国軍だったのか、同盟軍だったのか――あるいはラインハルト・フォン・ローエングラムであるか、ヤン・ウェンリーであるか――は、とても明確とはいえないものであった。両軍の損はどちらも「極めて甚大」という点で同等といってよく、その差は艦艇損傷率で5.6、兵員死傷率に至っては1.7という程度でしかなかったため、損をして勝敗を判断する秤とするのはあまりに意味である。

この点については、しばしば戦史しい議論焦点となるところであり、数の著作物によって様々な見解が展開されている。同盟軍勝利は、会戦中盤以降の導権は常に同盟軍が握り、帝国軍に脅迫された政府からの停戦命がなければ全な勝利をおさめていたであろうことを理由とするものであるが、これに対し、帝国軍の勝利とする立場では、バーミリオン域での戦闘戦略的には一局面にすぎないとし、帝国軍が戦争的を達成した点を重視する。さらにそのどちらとも異なる視点として、戦場では同盟軍の勝利・それ以外では帝国軍の勝利、あるいは戦略面での勝者は帝国軍・戦術面での勝者は同盟軍、といったような折衷的も存在する。そしていずれのにせよ、同等の説得を有する反論が存在し得たため、議論の決着はついていない。

当事者であるラインハルト・フォン・ローエングラム元帥ヤン・ウェンリー元帥にしても、前者から見れば勝利は譲られたか盗んだものにすぎず、後者から見れば戦術的な勝利など戦略勝利べれば軽視されるものでしかなかった。つまり、両者とも自分が勝利したとはまったく考えていなかったのである。

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