メディーナスピリット(Medina Spirit)とは、2018年生まれのアメリカの競走馬である。
誰も顧みない場所から這い上がって栄光を掴んだ……はずだった馬。
父はプロトニコ、母はこの馬の活躍でノーザンファームが見初めてスイススカイダイバーのついでに買っちゃった☆ため現在日本にいる*モンゴリアンチャンガ、母父はブリリアントスピードという馬。
「誰?」感のある両親なので軽く説明するとプロトニコはジャイアンツコーズウェイ産駒で母父エーピーインディ、祖母はチリで年度代表馬を獲得したワイルドスピリットという良血である。が、プロトニコ自身は重賞4勝こそしたがGⅡまでの馬で、種牡馬入りはしたがほぼ人気のない泡沫種牡馬だった。
ちなみにカリフォルニア出身の二冠馬*カリフォルニアクロームやムラッ気逃げのBCクラシック馬バイエルン、悲運の世代最強セン馬シェアードビリーフと同い年でメディーナスピリットの世代が初年度である。
モンゴリアンチャンガはかなり前(8代母)にスピナウェイSを勝った馬がおり、そこにプリンスキロ、グロースターク、ニジンスキー、*フォーティナイナー、ホーリーブル、アンブライドルドと付けられておりそこそこ期待された牝系の生まれではあるが、この流れはあまり振るわない流れであった。本馬が初仔である。
ブリリアントスピードはダイナフォーマー産駒だがそこまで実績があるタイプではない。少なくともアンブライドルドより前の種牡馬と比べるとかなり見劣りする。
まあつまり、なんというか、ぱっとしない血統の馬であった。そのためか1歳時には1000ドルとプロトニコの種付け料の5000ドルすら下回る取引額で育成業者に売られた。しかし彼は天与の才があったのか育成されると2歳セリでは3万5000ドルで取引され、名伯楽ではあるが*シルバーチャームやリアルクワイエットのようなようわからん血統の馬も引き受けて名馬に仕上げたボブ・バファート厩舎からデビューすることとなった。
デビューは遅めで2歳の12月。ロスアラミトス競馬場の未勝利戦を勝ち見事初戦勝ちを決める。
これにはバファート師も気を良くしたか当時のケンタッキーダービー前売り1番人気だった厩舎のエースライフイズグッドが出走予定のGⅢシャムステークスに出走。逃げたライフイズグッドを追撃するも捉え損ね2着となるが、3着以下はぶっちぎっており、メディーナスピリット自身の実力も評価されるようになった。
続くGⅢロバート・B・ルイスステークスではハナを切って行くと追いすがってきたローマンセンチュリアンとホットロッドチャーリーとの叩き合いになるが退けて重賞初制覇を遂げる。
こうなると三冠競走に色気が出るもの。ここまでの主戦であったエイベル・セディロ騎手は降板となり、名手ジョン・ヴェラスケス騎手に乗り替わってGⅡサンフェリペステークスに出走。再び厩舎エースのライフイズグッドと相まみえる。
このレースも例によってまあ~ライフイズグッドがすんごい強く、8馬身ぶっちぎられた2着に敗れる。しかし好事魔多し、ライフイズグッドはこのレースのあと左後脚の球節を軽く骨折。骨片除去手術を受けて三冠路線から離脱となってしまった。
そうなると俄然エースの期待が集まったのがこの馬。西海岸のケンタッキーダービープレップとしては最高の格を誇るサンタアニタダービーにバファート厩舎のエースとして出走するが、ここでダート初戦を迎えたロックユアワールドに逃げ切られて4馬身と1/4ちぎられた2着に敗れてしまう。
そうして迎えたケンタッキーダービー。1番人気はここまで5戦無敗、BCジュヴェナイルやブルーグラスSを勝ってやってきた2歳チャンプ・エッセンシャルクオリティ、2番人気はサンタアニタダービーの鮮烈な勝ちっぷりが評価されたロックユアワールド、3番人気はルイジアナダービーを勝って来たホットロッドチャーリーであった。メディーナスピリットは6番人気。ちょっと軽視され過ぎな気はするが、血統背景が貧弱なのはあったのかもしれない。
ところがどっこい、スタートを決めると一度もハナを譲らないまま、追いすがるマンダルーン、ホットロッドチャーリー、エッセンシャルクオリティを抑え込んでの逃げ切りを決めてみせた。
1歳時には1000ドル、約10万円で投げ売られた馬が、アメリカ最大のレースで勝ってみせたのだからとてつもない。まあ最終的には35000ドルで取引されたんだけどそれにしたって約350万である。激安。
日本でも1歳時の投げ売り価格が良く取り沙汰され、「10万でダービー馬買えるんならワイも買えるわwwwwwwww」みたいな意見もあった。まあもちろん馬主資格とか預託料考えたら10万じゃ済まないしそもそも最終価格は350万なんだけどね!
……ここまでなら、日本でもアメリカでも好まれる物語の主人公であった。しかし、レース後のドーピング検査の結果が陽性となった瞬間に暗転することになった。
メディーナスピリットから検出されたのはベタメタゾン。ステロイド系の消炎剤で、治療にはよく使われるありふれた薬剤である。ステロイドと名前はついているが、筋肉に作用して競走馬の能力を上げるものではない。
チャーチルダウンズ競馬場のあるケンタッキー州はレース2週間前からベタメタゾン使用禁止となっていた。それがレース後に検出されたため大問題となった。「ん? なんでそれがアカンねん! 治療やんけ! なんでそんな厳しいんや!」ということになるが、これには「アニマルウェルネス」、福祉の概念が大きく関わってくる。
かいつまんで言うと、レース直前に炎症起こしてるのを無理に消炎剤で痛みを消して走らせた結果、重度の屈腱炎や繋靭帯炎になって競走生命を絶たれる……で済めばまだいい方、最悪の場合は重篤な骨折や腱の断裂を起こして予後不良になる事がありえる。例に出すのも憚られるが、サンエイサンキューのような酷使で痛みに喘いでいても消炎剤で痛みを消して走らせ、その果てに……という悲劇を防ごう! ということになってきており、特に致命的事態を招きやすい直前の使用を禁じる運営団体が米国においても増加しているのだ。
ケンタッキーダービーで1着からの失格となると長い歴史の中でも*ダンサーズイメージしか存在せず、メディーナスピリットが失格となると2例目となってしまうので再検査が行われたが、第2検体も陽性となった。これを受けチャーチルダウンズ競馬場はメディーナスピリットの失格及びバファート師の管理馬に対する2023年春までの出走禁止処分を課した。ルール上そうなる失格はともかく他の管理馬まで長期アウトは相当な厳罰であるが
バファート厩舎は前年にもケンタッキーオークスに出走したガミーン[1]が同じくベタメタゾン検出で一時失格となり3着を剥奪される、米国三冠を達成したジャスティファイからパフォーマンス向上薬物が検出された[2]など、よくこの手の黒いアレに巻き込まれていたため、常用してズルしてんのか…?という感じで怪しい目で見られていたのは大きかった。処分取り消しになったとは言えガミーンの件と2年連続だったし別の競馬場だけどシャーラタン[3]も失格食らっていたし。
これに対しバファート師は「皮膚感染症の治療薬[4]に含まれてたんですぅ~わざとじゃないですぅ~事故ですぅ~ジャスティファイのやつとおんなじ~」と反発し訴訟するぞ訴訟するぞ徹底的に訴訟するぞ(訴状は未提出)と言っていたが、2022年2月にケンタッキー競馬委員会は正式にメディーナスピリットの失格を発表。チャーチルダウンズ競馬場もそれを受け入れ2着マンダルーンのケンタッキーダービー馬昇格を決定。バファート師はすかさず異議申立てをしたがこれが通らなければ*ダンサーズイメージ以来2例目の薬物違反の失格例として汚名を残すことになる。
2021-22のロード・トゥ・ケンタッキーダービーシリーズからも除外となり、どこのレースに出走してもポイント対象外、かつケンタッキー州での2月から90日間の調教師資格停止処分で2022年のケンタッキーダービー出走は現状不可能となった。もう徹底的にやる宣言である。
開き直りも虚しくこの事件は更に延焼していくこととなってしまった。なんせバファート師は前述の通り2020年のガミーンに続いてのやらかしであり、東海岸最大の競馬団体NYRAも「おめぇみたいな奴の管理馬は排除だ排除! 公正になんねえ! 品位が下がんだよ!」とNYRA管轄のレースからの排除を宣言して出走禁止処置を取ったためメディーナスピリットのベルモントS出走が叶わなくなったり、それを受けてかクラシック路線でエースのはずであったライフイズグッドはトッド・プレッチャー厩舎に転厩したり、バファート師側の抗議を受けて裁判所からNYRAに7月に出走禁止措置差止命令が発されたり……
それに対しNYRAは「ふざけんな! 調教師じゃいられないようにしてやる!」と調教師資格停止処分を課そうとするなど未だに色々と揉めている。NYRAは敗訴して費用支払いとなってしまったが。もはや周囲の人間をめぐる関係は泥沼である。
とまあ、外はかしましく揉めていたわけだが彼が悪いわけではない。言葉もわかんないし意図してドーピングするわけでもないし。
何重もの検査で陰性を証明し、ピムリコ競馬場が許可したため出走した5/15開催のプリークネスステークスでは堂々1番人気を背負うが、2番人気のミッドナイトバーボンに4角でかわされながら粘るも後ろから来たロンバウアーにまとめて抜かされ3着に敗れた。なんかフランス語で稲みたいな馬もいたけどずっと後ろだった。その後、5/17にNYRAからバファート排斥宣言が発されてベルモントステークスへの道は絶たれたので休養。
夏になって準重賞シェアードビリーフステークスで復帰。ここにはサンタアニタダービーで苦杯をなめたロックユアワールドがいたが圧倒し勝利。その後BCクラシックに向けて西海岸の有力プレップとなるオーサムアゲインステークスも勢いのままに古馬相手もあっさりと克服し5馬身差付けて圧勝。
これにはバファート師もご機嫌で「私にとっても感慨深い勝利です。彼は素晴らしい馬。今日それを証明してくれました。」とコメント。あなたが普通に走らせてれば別に……こう……
そして向かったのはデルマー開催のBCクラシック。前述の通り転厩したかつてのバファート厩舎のエース・ライフイズグッドはBCダートマイルに向かった(逃げ切り勝ちした)ので相まみえることはなかったが、ケンタッキーダービーに敗れた後ベルモントステークス・ジムダンディステークス・トラヴァーズステークスを連勝してきたエッセンシャルクオリティ、KRAの遠大な計画を担う希望の星・古馬筆頭ニックスゴー、ホットロッドチャーリーらライバルは強力であった。
4番人気でレースを迎えたが、強気に逃げるのが身上の彼にとって良くないことに、クラシックの前のダートレースとなったBCディスタフでレトルースカ以下有力勢が超ハイペース特攻で見事に轟沈してマルシュロレーヌに大金星を献上したため、ニックスゴーに先手を取られた時点で鞍上ヴェラスケス騎手がやや消極的になってしまった。
それでも必死に逃げたニックスゴーを追撃するが、気分良くハナを切って行ったニックスゴーは捕まえられず2着に敗れた。しかしエッセンシャルクオリティやホットロッドチャーリーは抑え込んでおり、なんだかんだあったしケンタッキーダービーは残念ながらこのまま失格裁定でマンダルーンにダービー馬の座を譲ることになるだろうが、少なくとも世代筆頭の実力馬として今後捲土重来を果たしていくだろう。
……その未来も見ることは能わず、2021年12月6日の調教後に心臓発作を起こして倒れ、そのまま帰らぬ馬となった。あと1ヶ月もなく迎えるはずであった4歳にもなれず仕舞い。彼が一体何をしたというのだろうか。
恒常的なクスリの影響を言う向きもあるかもしれないが、BCでは相当厳重に検査されその上で出走が許可されているので少なくとも恒常的な濫用は証拠がなく、そもそもサラブレッドという生き物は身体もメンタルも弱いので特に何もなくても調教後にいきなりびっくらこいたとか疲れから拍動がおかしくなって心臓発作は有り得る話である。だから牧場はなっとらん見学者を嫌うわけで。因果関係は解剖でもしなけりゃわからないし、実際に検死解剖が行われた結果薬物反応はなく、心臓発作による死である可能性が高いことが発表された。解剖が行われたカリフォルニア州はバファート師がホームにしている地域ではあるが。
ともかく、競走馬の運命を一番強く握る人、調教師によって汚された名誉を取り返すことは叶わなかった。その事実のみがただただ虚しく残ってしまった。
ようやく心ある関係者の尽力で成立した競馬の健全性と安全性に関する法律(Horseracing Integrity and Safety Act)の早期施行によって、このような汚名を背負う馬が減ることを祈りたい。なんか担当部局が早速USADA(アメリカアンチドーピング委員会)と折衝がうまく行ってないらしいが……
| Protonico 2011 黒鹿毛 |
Giant's Causeway 1997 栗毛 |
Storm Cat | Storm Bird |
| Terlingua | |||
| Mariah's Storm | Rahy | ||
| *イメンス | |||
| Alpha Spirit 2006 黒鹿毛 |
A.P. Indy | Seattle Siew | |
| Weekend Surprise | |||
| Wild Spirit | Hussonet | ||
| Wild Princess | |||
| *モンゴリアンチャンガ 2014 鹿毛 FNo.2-n |
Brilliant Speed 2008 黒鹿毛 |
Dynaformer | Roberto |
| Andover Way | |||
| Speed Succeeds | Gone West | ||
| Daijin | |||
| Bridled 2001 鹿毛 |
Unbridled | Fappiano | |
| Gana Facil | |||
| Holy Niner | Holy Bull | ||
| Scoop the Gold |
クロス:Roberto 4×5(9.38%)、Mr.Prospector 5×5×5(9.38%)、Secretariat 5×5(6.25%)
「2代前まではジャイアンツコーズウェイ以外よくわからんが、3代前からは分かる」という諸兄も多いと思うが、まあそういう血統である。
父プロトニコの同期にあたる*カリフォルニアクロームも同じような感じ。
掲示板
8 ななしのよっしん
2022/02/24(木) 08:36:55 ID: kqKBE3g9rj
>>5
一応BCの時点でニックスゴーが筆頭という世論だったから、だいたいメディーナスピリットvsマキシマムセキュリティが対抗候補議論で収まったのが不幸中の幸いだなあ
それにしてもこの時期に90日停止はKYダービー不参加と同じだから割りと大きいけど、正直これまでの分も含めて永久追放処分されても妥当だと思われそう
9 ななしのよっしん
2022/02/24(木) 22:13:46 ID: VdA8/EHQAC
ケンタッキーダービー優勝はマンダルーンで正式決定
https://
しかしマンダルーン、GI勝利がどっちも繰り上がりという
10 ななしのよっしん
2022/03/03(木) 09:20:47 ID: 1M6NT8C7gX
>>9
厩舎からしたらやるせないよな・・・ウチの馬が絶対強い!!と太鼓判推して送り出して真剣勝負の果てが相手の傷薬で棚ぼたってのは
急上昇ワード改
最終更新:2026/01/05(月) 08:00
最終更新:2026/01/05(月) 08:00
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