イーロン・リーヴ・マスク(Elon Reeve Musk)とは、アメリカ合衆国の実業家、経営者である。
概要
現代のアメリカを代表する実業家の一人。宇宙開発の「スペースX」、電気自動車の「テスラ」など野心的な事業を数々行うとともに、歯に衣着せぬ性格から、何かと世間を賑わす人物として知られる。
2024年現在、資産は約2440億ドル(35兆円)で世界で最も裕福な人物。
1971年6月28日、エンジニアの父親エロル・マスクとモデルの母親メイ・マスクとの間に南アフリカ共和国にて生まれる。マスクの父方の家族は祖父の世代に北米から南アフリカに移住していた。父親母親ともにカナダ系。
10歳でPCを入手すると、プログラミングを覚え、12歳のときにはビデオゲーム「Blaster」を開発、販売も行っていた。
カナダのクイーンズ大学を卒業後、ペンシルバニア大学で経済学、物理学を学ぶ。1995年、スタンフォード大学の大学院に入学するが、わずか2日で中退する。
退学後、弟のキンバル・マスクとともにソフトウェア企業「Zip2」を設立。ニューヨーク・タイムズ紙のオンライン化事業などを手掛け成長すると、その後、事業を3億ドルで売却した。
1999年にネット決済事業の「X.com」を設立。同業のPayPalを展開するコンフィニティ社と競争を繰り広げるが、最終的に合併。その後内紛が勃発し、一時期CEOに就任するものの、すぐにピーター・ティールが取って代わり、最終的に会社を去る事となった。
これ以降もさまざまな事業を立ち上げている。
事業等
- スペースX - 2002年に設立。莫大な資金が必要になる宇宙開発事業であり、資金調達に苦戦するも、NASAとロケット打ち上げで提携、またgoogleなどから資金の出資を受け、経営を軌道に乗せることに成功した。2010年には民間企業として初めて国際宇宙ステーションへの物資輸送に成功した。2015年以降はロケット「ファルコン9」により世界で初めてロケットの商業的な再利用を実現させ、打ち上げコストの低下と打ち上げ回数の急増をもたらした。2020年には衛星インターネットサービス「Starlink」が開始された。
- テスラ - 2003年に設立。EVや太陽光発電及び蓄電システムを開発している。テスラ車の電池はパナソニックと合弁で設立した工場にて製造されている。リチウムイオン電池工場の「ギガファクトリー」を世界各地に設立し、量産体制を目指している。2020年にはトヨタ自動車の時価総額を超えたことで大きな注目を集めた。近年は自動運転の時代を見据えAI(人工知能)の研究にも積極的に取り組むほか、人型ロボットの開発も行う。
- ニューラリンク - 2016年に設立。様々な大学から著名な神経学者を集め、人間の脳に電極を埋め込み、思考だけで外部と情報をやり取りするブレイン・マシン・インターフェース(BMI)を本気で研究している。その中でも外科手術が必要となる侵襲式BMIを研究しており、当初は猿での実験を行っていたが、2024年には人間での臨床試験も開始された。
- ボーリング・カンパニー - 2018年にスペースXから分離独立したトンネル掘削・インフラ企業。地上の交通渋滞等の問題を解決するために地下にトンネルを掘り、テスラ車を使用したシャトル輸送サービスを展開する。後述するハイパーループの研究はここで行われている。
- Twitter - 2022年10月に買収。後にサービスのブランド名を「X」に変更している。イーロン・マスクはXを、いわゆる「スーパーアプリ」に変身させる計画を持っている。マスクは2023年に「xAI」という企業を設立しており、Xの投稿データがAIの学習に使用されるようになった。
- トランプ政権 - 2025年にアメリカの大統領に就任したドナルド・トランプのもとで政府効率化省(DOGE)なる部署の責任者に収まっている。本来なら政府で働く以上利益相反を問われるので事業からは手を引く必要があるが、マスクは「特別政府職員」という無給のポジションに就くことで利益相反の批判を躱すつもりのようだ。
エピソード
- 2008年の映画「アイアンマン」の主人公トニー・スタークは大手企業の社長でありながらヒーローを務める存在として有名であるが、映画製作に当たりイーロン・マスクからインスピレーションを得たという。2010年に公開された続編ではカメオ出演を果たしている。
- 2018年、開発中の宇宙船BFRを使用した世界初の月周回旅行に、乗客第1号として日本の実業家である前澤友作と契約したことを発表した。マスク本人は旅行には参加しない見込み。
- 2018年、スペースXの大型ロケット「ファルコン・ヘビー」の初打ち上げの際、自身の愛車であった赤色のテスラ・ロードスターが載せられた。打ち上げは成功し、世界初の宇宙空間を移動する自動車となった。
- 2021年、米国のテレビ番組で、自身がアスペルガー症候群と診断されていることを公表した。
- マスクには3人のパートナーとの間に子供が12人いる。うち双子が2組(4人)と3つ子が1組(3人)いるほか、2020年に生まれた子供には「X AE A-XII」と名付けられた。色々と桁外れの家族である。
将来の構想について
- イーロン・マスクの最終目標は人類を火星に移住させることである。マスクはSF作品から多くのインスピレーションを得ており、2016年に自身が発表した論文の中で人類を「多惑星種族」(Multi-Planetary Species)にすることで人類滅亡のリスクに備える必要があると主張している。自分たちが生きている間に火星への移住は可能であると語っており、「2050年までに火星に100万人が生活する都市を建設」という壮大な計画を発表している。
- スペースXの宇宙開発とテスラのEV・エネルギー事業は一見繋がりが薄そうに思えるが、「人類の持続可能性」を高める取り組みという観点では一致している。またニューラリンクの短期目標は医療への活用だが、長期目標は将来訪れる「シンギュラリティ」の危機を回避するために人間の能力を拡張し「AIとの共生を達成すること」であるとマスクは語っている。
- ハイパーループと呼ばれる次世代の移動システム構想を発表している。真空状態のトンネル内を磁力で移動し、リニアモーターカーよりも圧倒的に高速な交通手段として研究が進められている。
- マスクが愛読するSF作品には『ファウンデーション』(アイザック・アシモフ)、『銀河ヒッチハイク・ガイド』(ダグラス・アダムス)、『月は無慈悲な夜の女王』(ロバート・A・ハインライン)などがある。これらの作品がマスクの思想に影響を与えたといわれる。
経営について
- 従業員をクビにしやすいアメリカの企業においても、クビにするハードルの極めて低い経営者として有名。ただしその基準は極めて明確で、①物理法則に反する以外の理由で「それはできません」と口にした従業員は即クビ、②その従業員が担当する業務において1つでもマスクのほうが詳しい事柄があったら即クビ、の2つ。日本の自動車メーカーからも複数のエンジニアがテスラに転職しているが、上記の理由であっという間にクビになったとか。
- もっともこれは「宇宙産業」「自動車産業」というそれぞれ圧倒的で巨大な先行同業他社のいる分野で相手とどう対抗するか、ということを考え抜いたゆえの結論。そのためにマスクは「社内の問題を最速で正しく解決するためには部署に関わらず誰が誰に対して働きかけてもいい。ヒラ社員がマスクに訴えるのも自由」という方針を貫徹している。部下に枠にとらわれない大きな権限を与えている以上、自分より優れている要素がなければ即クビ、という方針は厳しいが明確でもある。
暗号資産について
- ビットコインを始めとする暗号資産(仮想通貨)に対してポジティブな見方を持っており、自身もビットコインを保有しているほか、特に柴犬をモチーフにした暗号資産である「ドージコイン」を支持している。ドージコインは元々ジョークとして開発された暗号資産であるが、Twitterでのマスクの支持ツイートなども要因となり、2020年から2021年にかけて主要な暗号資産に迫る時価総額まで急成長した。
- 2021年2月、テスラ車のビットコインによる支払いの受け入れを開始した。しかし、わずか3ヶ月後の2021年5月に受け入れを停止することを発表。理由として、「ビットコインのマイニングによる環境への負荷」を挙げ、マイニングにおける再生可能エネルギーの割合が上昇すれば受け入れを再開すると述べた。
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関連項目
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