保護貿易(protective trade)とは経済学の用語であり、自由貿易の反対語である。
広義の保護貿易は次のように定義できる。
広義の保護貿易は4つの形態に分かれる。そして、それぞれの形態において様々な手段が使われている。
本記事の『広義の保護貿易の様々な手段』の項目で解説する。
輸出補助金という制度があり、政府が輸出業者に対して安価な輸出をさせながら値引きによって発生する損失の補填として補助金を支払うものである。
これは自国で新規に生産される財・サービスに対する政府購入である。「A国の輸出補助金とは、A国政府が自国で新規に生産される財・サービスを政府購入の一環として買い上げ、A国商品を買い取った外国業者に対してA国政府が財・サービスを無償で渡し、自国の輸出業者の価格競争力を高めるものである」と解釈してよい。
輸出補助金の制度を行うと、政府購入が増えるだけで輸出が増えない。ゆえに輸出補助金の制度は財政政策の一種であり、貿易政策の一種ではなく、保護貿易に該当しない。
輸出補助金という政策は、輸出先の国の産業にとって不当廉売であり、略奪的ダンピングであり、「過剰安売りをして競争相手を全滅させて市場占有率を高めてから好き放題やる作戦」と認識すべき行為であり、脅威である。このため、ある国が輸出補助金をするとその輸出先の国が輸入関税や輸入割当制度で対抗することが多い。ちなみに、輸出補助金によって安価に輸出された物品について輸入関税を掛けることを相殺関税という。
広義の保護貿易を行ったとしても、物価が変動する長期において純輸出が一定を保ち、貿易収支が一定を保つ。
詳しくは輸出の記事の『保護貿易と輸出』の項目や輸入の記事の『保護貿易と輸入』の項目を参照のこと。
狭義の保護貿易は次のように定義できる。
つまり、広義の保護貿易の中の4.が狭義の保護貿易となる。
狭義の保護貿易を支持する経済理論で最も有名なものは幼稚産業保護論である。
幼稚産業保護論とは、18世紀のアレクサンダー・ハミルトンや19世紀のフリードリッヒ・リストが提唱した考え方で、国際競争力がつくまで幼稚な国内産業を狭義の保護貿易で守りつつ育成すべきという主張である。
18世紀のアレクサンダー・ハミルトン、19世紀のフリードリッヒ・リストやトマス・ロバート・マルサスなどが狭義の保護貿易の提唱者として知られる。
17世紀のトーマス・マンやジャン=バティスト・コルベールなどが重商主義の提唱者の代表格であるが、重商主義は狭義の保護貿易の典型である。
16世紀から18世紀にかけてヨーロッパ諸国で重商主義という思想が重視された。重商主義は重金主義と貿易差額主義の2つに分かれるが、とくに後者の貿易差額主義は狭義の保護貿易を大いに支持する思想であった。
1945年に第二次世界大戦が終結し、1948年にGATTが発足した。GATTは自由貿易を推進した機関として認知されているが、実際は狭義の保護貿易を大いに認める機関だった。
GATTの体制では、農業・金融・電力・建設などの分野は貿易自由化の交渉から基本的に外されていた。貿易自由化の対象とされたのはもっぱら工業分野だったが、その工業分野においても様々な例外措置や緊急避難的措置(セーフガード)が設けられていた。例を挙げると、1956年から1981年の頃の日米両国はどちらもGATTに加入していたが、米国の要求により日本が綿製品・鉄鋼・繊維・カラーテレビ・自動車といった工業品の対米輸出を次々と自主規制することになった。GATTの体制における貿易は「管理された自由貿易」「マイルドな保護貿易」と言っていいようなものだった[1]。
GATTの時代において輸入代替工業化の政策を実行する発展途上国が多く現れた。輸入代替工業化は、高率の輸入関税を掛けて外国からの工業製品の流入を阻止し、自国で工業製品を生産することを奨励するものであり、狭義の保護貿易の典型例である。
アメリカ合衆国は世界最強の覇権国家であり、他の国への影響力が大きい。
19世紀から20世紀にかけ、アレクサンダー・ハミルトンの影響もあり、アメリカ合衆国は狭義の保護貿易の国だった。
1994年にNAFTAが発効してから2017年まではアメリカ合衆国でも自由貿易が支持される時代だった。
しかし2017年になってドナルド・トランプ共和党政権が始まり、それと同時にアメリカ合衆国は狭義の保護貿易の国になった。ドナルド・トランプ共和党政権はTPPを離脱し、2018年7月から多数の中国製品に高率の輸入関税を掛け、バイ・アメリカンと呼ばれるような大統領令を発して政府購入の際に自国製品を優先して選択するようになり、NAFTAを廃止してメキシコやカナダ経由で安価な外国製品が流入することを防いだ。そうした狭義の保護貿易の政策はすべてジョー・バイデン民主党政権に引き継がれた。
国際金融のトリレンマに従うと、世界中の国は①閉鎖経済の国と、②大国開放経済の国と、③固定相場制を採用する小国開放経済の国の3つに分類される。ただし、④変動相場制を採用する小国開放経済の国も存在しており、経済学において重要な分析対象になっている。
この①~④のなかで、国際的資本移動を制限していて狭義の保護貿易との相性が極めて良い国は①である。
狭義の保護貿易には長所と短所がある。
本記事の『狭義の保護貿易の長所』の項目と『狭義の保護貿易の短所』の項目で詳しく述べる。
自国産業を保護するために輸出を増やす保護貿易の手段として次のものを挙げることができる。
1.も2.も、A国政府がB国政府に圧力を掛け、B国におけるA国製品の輸入を増やさせ、A国の輸出を増やすものである。1.も2.も、B国において輸入型政府購入が増え、輸入と政府購入の両方が増える。
1.や2.を簡単な言葉で表現すると「政府による押し売り」となる。
2.の代表例は、2017年5月にアメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領がサウジアラビアを訪問した直後にサウジアラビア政府が米国製の兵器を輸入する計画を発表したことである(記事
)。これによりサウジアラビアの輸入(政府購入)が増えてアメリカ合衆国の輸出が増え、アメリカ合衆国の防衛産業を保護することになった。
外国産業を保護するために輸出を減らす保護貿易の手段として次のものを挙げることができる。
1.の輸出関税(export tariff)は、輸出業者に対して特定の物品の輸出量や輸出金額に応じて政府が税金を課すものである。Aという商品を扱う輸出業者に対して政府が輸出関税を掛けると、輸出業者がAを輸出するときに輸出関税の分を価格転嫁するので、輸出先の国の市場においてAが高額になる。そうなると、輸出先の国でAの類似品を製造する業者が価格競争しやすくなり、輸出先の国の産業が保護される。また、Aという商品を扱う輸出業者に対して政府が輸出関税を掛けると、輸出業者がAを輸出するときに輸出関税の分を価格転嫁せずに価格を据え置きにすることもあるが、そのときは輸出業者にとってAの輸出が「利益の少ない事業」になり、「利益の少ない事業は縮小すべきである」という一般的な法則に基づいて輸出業者がAの輸出量や輸出金額を減らすので、輸出自主規制(輸出割当制度)と同じ結果になる。
2.の輸出自主規制(voluntary export restraint)は、輸出業者に対して政府が割り当てを与えて輸出する資格を認め、特定の物品に関して一定量または一定金額までの輸出をすることを許可し、それを超えた量または金額の輸出を禁止することをいう。輸出割当制度(export quota)ということもあるが、輸出自主規制という表現の方が広く使われている。
Aという商品を扱う輸出業者に対して政府が輸出自主規制を実施すると、輸出業者がAの輸出量や輸出金額を減らすので、輸出先の国でAの類似品を製造する業者が価格を維持しつつ生産量を増やすことが可能になり、輸出先の国の産業が保護される。
日本は米国からの外圧を受けて様々な輸出自主規制を行ってきた過去がある。1971年の繊維、1972年の鉄鋼、1977年のカラーテレビ、1981年の自動車などを挙げることができる。特に1971年における繊維の輸出自主規制は沖縄返還交渉の最中に行われたので「糸で縄を買う」と言われた。
3.の出国税は、外国人観光客に対して「あの国に入国したら出国するときに税金を払う羽目になる」と思わせて外国人観光客の流入を抑制するものである。外国人観光客がA国の中で財・サービスを購入する行為はA国にとっての輸出になる。外国人観光客の流入を減らし、外国人観光客が他の国の観光地に行くように促し、他の国の観光産業を保護する。
3.の出国税は2019年になって国際観光旅客税という名前で日本にも導入された。ただし日本の国際観光旅客税は、日本に居住する者にも外国人観光客にも等しく課税するので、「輸出を減らす保護貿易」と「輸入を減らす保護貿易」の両方の性質を持つ。
外国産業を保護するために輸入を増やす保護貿易の手段として次のものを挙げることができる。
1.も2.も、A国政府に圧力を掛けられたB国政府が、B国におけるA国製品の輸入を増やし、A国の輸出を増やすものである。1.も2.も、B国において輸入型政府購入が増え、輸入と政府購入の両方が増える。輸入補助金は使い道を指定してお金を給付しているので政府購入の一種になる。
2.の代表例は、1993年のGATTウルグアイラウンドのあとに日本政府がアメリカ合衆国やタイやオーストラリアやベトナムなどからコメを輸入する計画(ミニマムアクセス)を発表したことである。ミニマムアクセスによって輸入されたコメを輸入米と呼ぶ。これにより日本の輸入が増えてアメリカ合衆国やタイやオーストラリアやベトナムの輸出が増え、アメリカ合衆国のカリフォルニア州などに存在するコメ農家を保護することになった。
自国産業を保護するために輸入を減らす保護貿易の手段として次のものを挙げることができる。
1.の輸入関税(import tariff)は、輸入業者に対して特定の物品の輸入量や輸入金額に応じて政府が税金を課すものである。Aという商品を扱う輸入業者に対して政府が輸入関税を掛けると、輸入業者がAを輸入してから国内の業者に販売するときに輸入関税の分を価格転嫁するので、自国の市場においてAが高額になる。そうなると、自国でAの類似品を製造する業者が価格競争しやすくなり、自国の産業が保護される。また、Aという商品を扱う輸入業者に対して政府が輸入関税を掛けると、輸入業者がAを輸入してから国内の業者に販売するときに輸入関税の分を価格転嫁せずに価格を据え置きにすることもあるが、そのときは輸入業者にとってAの輸入が「利益の少ない事業」になり、「利益の少ない事業は縮小すべきである」という一般的な法則に基づいて輸入業者がAの輸入量や輸入金額を減らすので、輸入割当制度と同じ結果になる。
輸入が急激に増えたとき一時的に輸入関税を引き上げることを緊急輸入制限とかセーフガードという。
2.の輸入割当制度(import quota)は、輸入業者に対して政府が割り当てを与えて輸入する資格を認め、特定の物品に関して一定量または一定金額までの輸入をすることを許可し、それを超えた量または金額の輸入を禁止することをいう。
Aという商品を扱う輸入業者に対して政府が輸入割当制度を実施すると、輸入業者がAの輸入量や輸入金額を減らすので、自国でAの類似品を製造する業者が価格を維持しつつ生産量を増やすことが可能になり、自国の産業が保護される。
3.の出国税は、自国の居住者に対して「海外旅行をすると税金を払う羽目になる」と思わせて海外旅行を抑制するものである。自国の居住者が海外旅行をして財・サービスを購入する行為はA国にとっての輸入になる。海外旅行を減らし、自国の観光客が自国の観光地に行くように促し、自国の観光産業を保護する。
3.の出国税は2019年になって国際観光旅客税という名前で日本にも導入された。ただし日本の国際観光旅客税は、日本に居住する者にも外国人観光客にも等しく課税するので、「輸入を減らす保護貿易」と「輸入を減らす保護貿易」の両方の性質を持つ。
4.の「海外旅行の規制や、海外旅行の際に外貨を持ち出すことの規制」は、1960年代ごろまでの日本が盛んに行っていて、1963年3月31日まで自国民に対して観光目的の海外旅行を全く許可していなかった。1964年4月1日にやっと観光目的のパスポートの発行が許可されるようになったが、観光目的の海外旅行は1人につき1年に1回までに規制され、さらに外貨の持ち出しが500米ドルにまで制限されていた。このため1960年代ごろまでの日本において海外旅行は高嶺の花だった。
5.の自国製品優先購入制度はアメリカ合衆国が導入していて、バイ・アメリカン(Buy American)という名前で呼ばれている。1933年にバイ・アメリカン法が制定され、歴代の大統領がその法律を強化する大統領令を発し、政府が物資を調達するときにアメリカ合衆国で作られた物資を優先する制度が整えられた。
資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国において農林水産業の分野で保護貿易を実行すると、資本量が少なくて実質賃金の労働市場均衡水準が低い発展途上国からの輸出攻勢が弱まり、農林水産業の企業が国内市場において収益を増やしやすくなって存続しやすくなる。
農林水産業を主力産業にしている地方は製造業やサービス業が発展していないことが多い。このため、先進国において農林水産業の企業が存続しやすくなると、農林水産業を主力産業にしている地方が人口を維持しやすくなり、そうした地方で人口空白地帯が発生しにくくなる。
人口空白地域は草ぼうぼうの荒れ地になるので、凶悪犯罪者が凶悪犯罪の証拠品を隠滅するのに最適の場所である。人口空白地域が発生しにくくなるとと凶悪犯罪者が凶悪犯罪の証拠品を隠滅しにくくなり、凶悪犯罪者が凶悪犯罪を犯しにくくなり、治安が維持される。ちなみに、ここでいう凶悪犯罪とは、殺人のような暴力犯罪の行為も含むし、人体に有害な化学物質を含む廃棄物を大量に不法投棄して水源に害を与えるような知能犯罪の行為も含む。
凶悪犯罪が抑制されて治安が維持されると、人々は生命・身体・自由・名誉・財産に危害を加えられることにおびえずに生活するようになり、労働に集中できるようになる。労働者が職務専念義務を果たせるようになり、労働強化が起こり、同一の資本量や労働時間であっても生産が増え、国家全体の生産技術が向上する。国家全体の生産技術が向上すると実質GDPや実質賃金や実質資本レンタル料や労働生産性Y/Lや資本生産性Y/Kがすべて上昇するが、そのことはコブ=ダグラス生産関数で計算すれば明白である。
ちなみに、先進国において農林水産業の分野で保護貿易を実行すると、その国の地方に人が張り付けられ続け、その国が領域国家であることを維持するようになる。人類の歴史は、中国でもインドでもメソポタミアでも地中海沿岸でも、「点と線」を支配する都市国家から「面」を支配する領域国家へ発展していった点が共通している。このため、領域国家であることを維持する保護貿易は人類の歴史の流れに乗る政策と言える。
資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国において、ある産業分野で保護貿易を促進すると、資本量が少なくて実質賃金の労働市場均衡水準が低い発展途上国からの輸出攻勢が弱まる。そしてその産業分野に属する企業は、国内市場において収益を増やしやすくなるので、労働運動が活発化して賃金という費用が増えることをある程度までなら許容するようになる。
そのため労働者の賃金が労働市場で形成される均衡水準よりも高くなり、労働者の可処分所得が増えて労働者が消費に積極的になる。また、労働者は激しい消費を伴うことが予想される結婚に対して前向きに考えるようになり、結婚率が上昇する。結婚率が上昇すると人口が減少しにくくなる。
人口が減少しにくくなると、政府は移民の導入を大規模に行わなくなる。移民の大規模な流入によって国家における言語や文化の統一性が弱まることがなくなり、国民どうしが意思疎通を入念に行いやすい状態が維持され、国家において情報が十分に流通しやすい状態が維持され、消費者から生産者へ商品の善し悪しの情報を伝える機能が強いままになり、企業の内部で生産方法について情報を伝える機能が強いままになり、国家全体の生産技術が維持される。国家全体の生産技術が維持されると実質GDPや実質賃金や実質資本レンタル料や労働生産性Y/Lや資本生産性Y/Kがすべて維持されるが、そのことはコブ=ダグラス生産関数で計算すれば明白である。
資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国において、ある産業分野で保護貿易を促進すると、資本量が少なくて実質賃金の労働市場均衡水準が低い発展途上国からの輸出攻勢が弱まる。そしてその産業分野に属する企業は、国内市場において収益を増やしやすくなるので、労働運動が活発化して賃金という費用が増えることをある程度までなら許容するようになる。
労働運動が活発化すると労働組合が労働者に投票をしつこく呼びかけるようになり、選挙において投票率が上昇していく。
投票率が上がると、無党派層の浮動票の影響力が高まり、組織票だけで勝てなくなるので、立候補者は無党派層の浮動票を狙うようになり、「無党派層に嫌われるようなことをやめよう」と思うようになり、自浄作用を身につけていく。
資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国において、ある産業分野で保護貿易を促進すると、資本量が少なくて実質賃金の労働市場均衡水準が低い発展途上国からの輸出攻勢が弱まり、国内市場に安価な輸入品が流通しなくなる。そのため、その産業分野において、複数の企業が提携したり合併したりしてスケールメリットを生かして低価格の製品を生産することを目指すことが流行らなくなる。
企業の合併が進まず規模の小さい大企業が分立するようになると、その大企業は協力企業(下請企業)に対して価格交渉しにくくなり、協力企業からの値上げ交渉を断りにくくなる。A国が保護貿易を採用して大企業Xと大企業Yが分裂したままでいると、大企業Xに納入する協力企業が大企業Xに対して値上げを求めるときに「この値上げが断られたときの我々には大企業Yに納入するという選択肢がある」と強気でいられる。
保護貿易が促進されると大企業の巨大化が進まなくなるので、大企業の協力企業は大企業に対して価格交渉しやすくなり、価格転嫁しやすくなり、収益を上げやすくなり、労働者の賃金を増やしやすくなる。そしてごく一般的にいうと、大企業の協力企業は中小企業である。ゆえに保護貿易が進展すると、中小企業の労働者の賃金が増えやすくなり、大企業の労働者の賃金と中小企業の労働者の賃金の格差が小さくなり、平等社会や無階級社会に近づいていく。
平等社会や無階級社会になると、「あの人は自分とは出来が違うのでとても話しかけられない」と考える人が減り、人々が積極的情報提供権(表現の自由)を行使しやすくなり、社会の中で情報が流通しやすくなり、国家全体の生産技術が向上する。国家全体の生産技術が向上すると実質GDPや実質賃金や実質資本レンタル料や労働生産性Y/Lや資本生産性Y/Kがすべて上昇するが、そのことはコブ=ダグラス生産関数で計算すれば明白である。
資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国において、ある産業分野で保護貿易を促進すると、資本量が少なくて実質賃金の労働市場均衡水準が低い発展途上国からの輸出攻勢が弱まる。そのため、その産業分野において、資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国から資本量が少なくて実質賃金の労働市場均衡水準が低い発展途上国へ資本を移動させて工場などの事業所を移転させて逆輸入をすることが流行らなくなり、多国籍企業が出現しにくくなる。
企業の経営者は先進国の労働者と発展途上国の労働者を目で見て比較することが難しくなり、先進国の労働者に向かって「我々経営者は、君よりも安い賃金で君と同じ働きをする労働者を、発展途上国においていくらでも見つけることができる」とか「発展途上国の労働者に君たちと同じ賃金を支払うと、君たちよりもずっと活発に働いてくれる」と言うことが難しくなる。
こうして、先進国の労働者は罵倒の言葉を浴びせられずに済んで自信を維持する。自信を維持した人は自分以外の誰かを攻撃することで自信を取り戻す行動を行わなくなるのだが、保護貿易によって自信を維持した先進国の労働者たちもそのようになる。ネット上で、あるいは政治活動で、もしくは経済論議で、対立相手を過度に攻撃せず、おっとりした雰囲気で協調をするようになる。
資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国において、ある産業分野で保護貿易を促進すると、その産業分野で多国籍企業が生まれにくくなり、企業経営者が労働者を罵倒する現象が減り、労働者の自信が維持される。自信を維持した労働者は何かを攻撃して自信を取り戻すことをしなくなり、攻撃的言動を繰り返す政治家をあまり支持しなくなる。
保護貿易の国では労働者が政治家の攻撃的言動を支持しなくなるので、スラップ訴訟をして相手の「表現の自由」を攻撃する政治家が減り、「権力者というものはスラップ訴訟をすべきではない」などと自重する政治家が増える。
また、保護貿易の国では政党間の対立が緩やかなものとなり、党派政治の色が薄くなり、超党派の合意が行われやすくなり、党派を超えた交流が行われやすくなる。
A国が保護貿易を採用するとき、大抵の場合においてA国以外の国が報復処置として輸入関税を高めるなどの手段で保護貿易をするようになる。
このためA国の企業は海外の巨大な市場に商品を売り込みにくくなり、A国において企業の収益が増加しにくくなる。
資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国のA国において、ある産業分野で保護貿易を採用すると、資本量が少なくて実質賃金の労働市場均衡水準が低い発展途上国からの輸出攻勢が弱まり、国内市場に安価な輸入品が流通しなくなる。そのため、その産業分野において、複数の同業の企業が提携したり合併したりしてスケールメリットを生かして低価格の製品を大量に販売して収益を増やすことが流行らなくなる。その結果として、A国において企業の収益が増加しにくくなる。
保護貿易が進展すると、スケールメリットによって収益を増やす企業が出現しにくくなる。
A国において保護貿易が採用されると、企業の提携や合併が進まなくなる。企業の提携や合併が進まず大企業が分立すると、大企業は協力企業(下請企業)に対して価格交渉しにくくなり、外注費のような「協力企業に支払う費用」を増加させやすくなる。その結果として、A国において企業の費用が増加しやすくなる。
A国が自由貿易を採用して大企業Xと大企業Yが合併して巨大企業Zが誕生すると、巨大企業Zに納入する協力企業が巨大企業Zに対して値上げを求めるときに「この値上げが断られたときの我々には巨大企業Z以外の大企業に納入するという選択肢がある」と強気になることが難しくなる。
しかしA国が保護貿易を採用して大企業Xと大企業Yが分裂したままでいると、大企業Xに納入する協力企業が大企業Xに対して値上げを求めるときに「この値上げが断られたときの我々には大企業Yに納入するという選択肢がある」と強気でいられる。こうしてA国において企業の費用が増加しやすくなる。
保護貿易を採用すると海外の製品を安価に購入できなくなり、原材料費や消耗品費といった企業の費用が増加しやすくなる。
また、保護貿易を採用すると海外の製品を安価に購入できなくなり、食費などの家計の費用が増加しやすくなる。
保護貿易を採用すると、輸入関税や輸入割当制度を担当する公務員を雇用することになり、公務員の雇用という政府購入を増やすことになる。なぜなら輸入関税や輸入割当制度は簡単に実行できないものであり、十分な人的資源を必要とするからである。
政府購入を増やすとクラウディングアウトとなり、実質利子率が上がり、企業が資金を借り入れるときに支払う利払い費用が増加しやすくなる。
保護貿易を採用すると、自分たちの業界を輸入関税や輸入割当制度で保護してもらうために政党に献金をしたり役員を国会議員のところへ派遣して陳情させたりする企業が増える。つまり、レントシーキングに励む企業が増える。
このため保護貿易を採用すると企業の寄付金や交際費といった費用が増加しやすくなる。
資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国において、ある産業分野で保護貿易を促進すると、資本量が少なくて実質賃金の労働市場均衡水準が低い発展途上国からの輸出攻勢が弱まる。その産業分野に属する企業の役員(経営者)は、「発展途上国で生産された製品と価格競争するには、賃金を削減するしかない。さもないと企業が倒産する。労働運動をして賃金を労働市場で形成される均衡水準よりも上昇させている余裕などないのだ」と言って労働者の不安を煽って労働運動を沈静化させることができなくなる。その結果として、その産業分野に属する企業は、労働運動が活発化し、御用組合が戦闘的労働組合に変化していき、労働者の賃金が労働市場で形成される均衡水準よりも高くなりやすくなり、賃金という費用が増加しやすくなる。
資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国において、ある産業分野で保護貿易を促進すると、資本量が少なくて実質賃金の労働市場均衡水準が低い発展途上国からの輸出攻勢が弱まる。そのため、その産業分野において、資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国から資本量が少なくて実質賃金の労働市場均衡水準が低い発展途上国へ資本を移動させて工場などの事業所を移転させて逆輸入をすることが流行らなくなり、多国籍企業が出現しにくくなる。その産業分野に属する企業の役員(経営者)は、「君たちが労働運動をするのなら、我々は先進国で企業を廃業し、発展途上国で企業を創業する。先進国で工場などの事業所を閉鎖し、発展途上国で工場などの事業所を建設し、逆輸入をする」と言って労働者の不安を煽って労働運動を沈静化させることができなくなる。その結果として、その産業分野に属する企業は、労働運動が活発化し、御用組合が戦闘的労働組合に変化していき、労働者の賃金が労働市場で形成される均衡水準よりも高くなりやすくなり、賃金という費用が増加しやすくなる。
資本量が多くて実質賃金の労働市場均衡水準が高い先進国において農林水産業の分野で保護貿易を実行すると、資本量が少なくて実質賃金の労働市場均衡水準が低い発展途上国からの輸出攻勢が弱まり、農林水産業の企業が国内市場において収益を増やしやすくなって存続しやすくなる。
そうなると農林水産業に従事していた労働者が製造業・サービス業に流入しにくくなり、製造業・サービス業の企業において労働者の供給が増えにくくなる。その結果として、製造業・サービス業の企業の賃金という費用が増加しやすくなる。
ちなみに、農林水産業は都市化が進んでいない田舎で行われることが多く、製造業・サービス業は都市で行われることが多い。つまり農林水産業の保護貿易を進めると都市への人口流入が進まず、「点と線」を支配する都市国家へ変化せずに「面」を支配する領域国家であり続けることになる。
「保護貿易は戦争を生み出すという短所を持っている」と言われることがある。
「1930年代の世界恐慌によって主要国が保護貿易を重視してブロック経済を作り上げたので、日本やドイツが無謀な戦争に突入することになった」という主張がその典型例である。
それに対して「保護貿易の体制になったとしても必ず戦争が起こるわけではない」という反論が寄せられることがある。
たとえば太平洋戦争の直前の日本にはハル・ノートが突きつけられたが、それは「通貨基金を設立して米ドルと日本円の固定相場制を確立することを受け入れる代わりに日独伊三国同盟を破棄してフランス領インドシナや中華民国から撤兵せよ」という要求だった。このハル・ノートを受諾してアメリカ合衆国の経済的・軍事的な勢力圏に入っていれば戦争は起こっていない。
『孫子』の謀攻篇には「故に、用兵の法は、十なれば則ち之を囲む。五なれば則ち之を攻む。倍すれば則ち之を分かつ。敵すれば則ち能く之と戦う。少なければ則ち能く之を逃る。若かざれば則ち能く之を避く。故に、小敵の堅なるは大敵の擒なり」という文章があり、「自軍の兵力が敵軍の10倍なら敵軍を包囲し、自軍の兵力が敵軍の5倍なら敵軍に攻めかかり、自軍の兵力が敵軍の2倍なら敵軍を挟み撃ちし、自軍の兵力が敵軍と互角なら敵軍と頑張って戦い、自軍の兵力が敵軍よりも劣勢なら戦わずに必死に逃げ、自軍の兵力が敵軍に全く及ばないのなら戦わずに必死に隠れるべきである。少数の自軍が大敵に挑んでも蹂躙されるだけである」という意味とされる。歴史を振り返ると『孫子』が説くように強大な敵に対して戦わずに降伏した例はいくらでも見られ、1586年の徳川家康の豊臣秀吉に対する降伏が典型例である。
「強大な相手と戦うな」という初歩的な兵法を知らなかった暗愚さが日本を戦争に突入させた。そのことを重視するのなら「保護貿易が日本を戦争に突入させた」という主張はあまり説得力を持たなくなる。
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最終更新:2025/12/23(火) 11:00
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